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第31話:認められた者が聖女

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-06-09 19:02:59

「うっ……」

(どれくらい……寝てしまっていたんだろう)

まぶたの奥がじんわりと重くて、体の芯に心地よいだるさが残っていた。窓の向こうに、うっすらと朝の光が差している。まだ夜の静けさが、わずかに空気に漂っている時間だ。

(あれ……そういえば私、椅子で寝てたよね……?)

でも今、私は簡素なベッドの布団の上で眠っている。誰かが、丁寧に運んでくれたんだ。

(……目が覚めたか、エレナ)

エレンの声が、頭の中にふわりと響いた。

(あっ、おはよう……ごめん、私……どれくらい寝てたの?)

(ざっと、一日半ほどだ)

「えっ!?」

思わず声が漏れた。

(……余程疲れたんだろう。無理もない。あの規模の呪いだからな)

(そっか……そんなに寝ちゃってたんだね……)

(ああ。だが、エレナ──君は本当によくやった)

(……えっ?)

不意にかけられたその言葉に、心がぽかんとする。嬉しくて、でも照れくさくて、うまく返せない。

(あの呪いを祓った実績……君は、もう“聖女”と呼ばれるに足る存在だ)

(そ、そんな……! 私なんて、まだまだだよ!)

(ふふ。君がどう思おうと──助けられた人々は、もう君を“聖女様”と呼ぶだろう。私は……君のことが、誇らしいよ)

エレンが、いつもよりずっと、あたたかな言葉をくれる。胸の奥が、じんわりと熱くなった。

(さあ、エレナ。自分の目で見てごらん。君が成し遂げたことを)

(……うん、分かった)

私は、少し重たい体を起こして、扉の前へと歩き出した。

そして──キィ……と小さな音とともに、扉を開ける。

目の前に広がっていたのは──焚き火の炎に照らされた、あたたかな光の世界だった。

子どもたちが笑いながら走り回り、おじいさんやおばあさんたちは火のそばでお茶を啜っている。若者たちは焚き火を囲んで、手を叩きながら踊っていた。

平和と、笑顔と、あたたかさに満ちた光景。

その中で、誰よりも先に私を見つけたのは──

「おう!! エレナ!! 目が覚めたか!」

グレンさんだった。

「すみません……寝すぎてしまったみたいで……」

「気にすんなって。これはお前が作った光景だ。……誇れよ?」

言われて、私は思わず彼の顔をまっすぐ見つめてしまった。

「おはようございます」

今度は、シオンさんがゆっくりと歩いてくる。「体の具合は?」

その穏やかな声に、私は小さく笑って返した。

「少し重い……くらいです。それ以外は、なんとも」

「おっ、起きたな」「ようやくお目覚めですね~!」

後ろから、シイナさんとミストさんの声が飛んでくる。

「はい! 元気そうです!!」「これで俺たちも、ようやく肩の荷が降りたな」

明るく笑う二人の姿が、あまりに日常で……心がふっと和らいだ。

そのとき、子どもたちが四人、ぱたぱたと走ってきて──

「聖女様~!! この村を助けてくれてありがとう~~!!」

声をそろえて叫んでくれた。

「そ、そんな……私は、やるべきことをやっただけで……」

(そう謙遜することはない、エレナ)

エレンの声が、優しく響く。

(君は本当によくやった。この光景を生んだのは、間違いなく君……そして、君の仲間たちだ。私は、彼らが君を大切にしてくれていることを、とても嬉しく思う)

胸が、ぎゅっと締めつけられた。

誇らしくて、嬉しくて、くすぐったくて……でも、なにより泣きそうで。

(今は、思いきりその感情を味わえばいい。本当に──君は、よくやった)

その言葉に、私の頬を伝って涙がひとすじ、こぼれ落ちた。

***

私は、村の中央で揺れる焚き火のそばに座り、静かに体を温めていた。

そこへ──「エレナ。少し話がある」

シイナさんが近づいてくる。表情は真剣で、私にもなんとなく分かっていた。

(……あの“呪いの原因”のことだ)

私はうなずき、彼の言葉に耳を傾けた。

「君が寝ている間に、俺たちは“呪いの元”について調べてきた」

「……呪いの原因は、何だったのですか?」

「井戸の水だ。水そのものが呪いに侵されていた。俺が気づいて、ミストと協力して薬剤を作り、呪い自体は中和できた。だが……奇妙なことに、呪いそのものはそこまで強力ではなかったんだ。その微弱な呪いを、村人たちが毎日飲み続けた。それが積み重なって、あんな酷い状態になっていた……」

(……そんな……ほんの少しずつの積み重ねが、あんなにも強い呪いになってしまったなんて……)

胸の奥が、ずしんと重くなる。

「けど、エレナ。俺にはどうしても腑に落ちない点がある」

シイナさんの瞳が、夜の焚き火に照らされて、ゆらりと光った。

「なぜ、井戸に呪いが現れたのか。偶然じゃない……俺はそう思ってる。これは“人の悪意”が絡んでいる。そう考えるのが自然だろう」

(……そんな……)

私は思う。仲間たちがくれたあの優しさ、この温かな世界の真逆にある、“悪意”。それが、この村に潜んでいたなんて……私は、どうしてもそれを認めたくなかった。

「まぁ、一先ずは大丈夫だろう。また何か起きてもいいように、村長に薬剤を渡しておいた」

さすが、シイナさん。私たちが去った後まで、ちゃんと考えてくれている。

「目覚めてすぐに重い話をしてすまなかったな」

「い、いえ! 私も気になっていましたから……」

そうやって話していると──若い村人たちが、急に私の周りを囲むように集まってきた。

(えっ……!? な、なに……!?)

シイナさんは、ふっと笑ってその場を離れていった。

「アンタ、実は“聖女見習い”だったんだってな!」

「それなのに、私たちを安心させるために“聖女”って名乗ってくれて……」

「でも! 俺たちにとっては、もう誰よりも“聖女様”だ!!」

その言葉を、私が否定するより早く、みんなが口々に叫んでくれる。

(エレン……私、本当に“聖女”って、名乗ってもいいのかな……)

みんながそう呼んでくれている。でも、どこかで私は、まだ自分に自信が持てなかった。

(そうだな、エレナ。自ら“聖女”と名乗ることに違和感があるのは分かる。だが──あの時の君は、彼らを救うためにその名を背負った。その行動こそ、“聖女”そのものだったはずだ)

(…………。)

(“聖女”とは、自分で名乗るものではない。人々の心の中で、そう認められる存在になるものだ。君はその第一歩を、確かに踏み出した)

(エレン……)

そう。エレンがそう言ってくれて。村の人たちが、仲間たちが、そう呼んでくれる。

ほんの少しだけ。ほんの少しだけだけど──

私は“聖女”としての自信を、心の奥に灯すことができたのだった。

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