Masuk「これは……!」
村へ足を踏み入れた瞬間、エレナの声が細くこぼれた。 視界に飛び込んできたのは、暮らしの気配を失いかけた村の姿だった。土の道の脇には顔色を悪くしたまま倒れている者があり、石段には力なく腰を下ろした者がいる。家の戸口に寄りかかる老人も、井戸のそばで膝をついた若者も、みな等しく血の気が薄い。 人の声はある。けれど、活気ではない。呻きと、浅い呼吸と、誰かを呼ぶかすれた声が、低く村全体に沈んでいた。 「なんだぁ……こりゃあ……!」 グレンが眉をひそめ、言葉を失ったように周囲を見回す。 「これは、酷いですね……!」 ミストの声からも、いつもの跳ねるような明るさは消えていた。 二人の呟きが落ちたあと、シイナとエレナはしばらく何も言わなかった。石畳の上に倒れた影。壁に手をついたまま動けない村人。案内してきた男たちでさえ、その光景を前に肩を強張らせている。 「……一体、いつ頃からこのような事態に?」 エレナは静かに問いかけた。 「ひと月ほど前からですかね。俺たちは別の場所に仕事に出ていたので、どうしてこんなことになっているのかも分からなくて……」 「なるほど。となると……」 シイナがそこで言葉を切った。村を一望するその目だけが、忙しなく動いている。倒れた者、座り込んだ者、家々の様子、男たちの反応。ひとつずつ拾い上げるような視線だった。 何かが、噛み合っていない。 けれど、それを口にするより先に、エレナが一歩前へ出た。 「……ひとまず、私が皆さんに治癒を施します」 「ほ、本当ですか!? こ、この状況から、元に戻るんですか?」 男の声が裏返った。 エレナはすぐには答えなかった。瞼を閉じ、数秒だけその場に立ち尽くす。男たちの視線が、祈るように彼女へ集まった。誰も急かさない。ただ、息を詰めて待っている。 やがて、エレナは目を開いた。 「ええ。私はまだ聖女見習いです。それでも、未来の聖女として――この村の惨状を、必ず救ってみせます」 言葉は穏やかだった。だが、揺らぎはない。 「あ、ありがとうございます……」 「感謝は、この村を救ったあとに。いまは、彼らを救うことに専念しましょう」 静かな声だった。 けれど、その場にいた誰もが足を止めた。倒れ伏す村人たちを前にして、エレナの背筋だけがまっすぐに伸びている。純白の聖衣が、病んだ村の土埃の中でひどく眩しく見えた。 その決意に引き寄せられるように、仲間たちが彼女のそばへ集まってくる。 「エレナ様、俺たちは何をしたらいいでしょうか」 「私たちにもやれることがあるなら、お手伝いしますっ!」 シイナが短く問い、ミストが一歩前に出る。グレンは何も言わず親指を立て、シオンもまた、静かに頷いた。 「皆さん……ありがとうございます」 エレナは小さく頭を下げると、もう一度、村の中へ視線を巡らせた。 家屋は多くない。広場を中心に、古びた木造の家が十数軒ほど寄り添うように並んでいる。倒れている者、座り込んでいる者、壁にもたれて呼吸を整えている者。数はおよそ二十人前後。村としては小さい。だからこそ、ひとりでも取りこぼせば目立つ。 (幸い、村の規模は小さい……。二十人ほどなら、私の治癒でも順番に診られるはず) エレナの視線が、家の煙突へ向かった。 煙は上がっていない。火の気がない家も多いのだろう。病人を寝かせる場所はあっても、身体を温め続けるだけの備えが足りているようには見えなかった。 (でも、私が症状を抑えたとしても、温まる場所がない……) 村人たちの顔色は一様に悪い。血の気が失せ、唇の色も薄い。外傷ではない。何かが内側から体力を削っている。 (これが呪いであれ、病であれ……まずは体を温めないと) 決めた瞬間、エレナはグレンへ振り向いた。 「グレンさん。まず、近くの森で木を調達してきていただけますか? できるだけ長く、皆さんの身体を温めたいので……その……」 「へへ、分かったぜ!」 グレンは最後まで聞く前に笑った。握った拳を胸の前で鳴らし、村の外へ向かって身を翻す。 「木をまるまる一本、持ってきてやらぁ!」 言うが早いか、グレンは土を蹴って駆け出した。重い足音が、病に沈んだ村の空気を強引に割っていく。 エレナは次に、シオンへ向き直った。 「シオンさん。あなたには申し訳ないのですが、お使いを頼んでもよろしいですか?」 「もちろんです」 シオンは一切迷わず答えた。 エレナは腰のポーチを外し、両手で差し出す。中では金貨と銀貨がかすかに触れ合い、硬い音を立てた。 「こちらの金貨や銀貨は、使っていただいて構いません。新鮮なお肉とミルク……それから、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、香草を。もし手に入るなら、バターと小麦粉もお願いします」 「シチューですね」 「はい。皆さんの身体を、内側から温めたいんです」 シオンはポーチを受け取り、丁寧に胸元へ収めた。 「分かりました。すぐ戻ります」 次の瞬間、足元に風が巻いた。 土埃が円を描き、シオンの身体がふわりと浮き上がる。風は刃のように鋭く、しかし彼の姿勢は少しも乱れない。そのまま空へ滑り出すように加速し、近くの町の方角へ飛んでいった。 残されたエレナは、シイナとミストを見る。 「シイナさんとミストさんは、動ける方から順に、私のところまで誘導をお願いします。倒れている方は無理に起こさず、私がそちらへ向かいます」 「了解!」 「任せてくださいっ!」 二人が同時に動き出そうとした、その時だった。 「あ、あの! 俺たちは何をしたら……!」 案内してきた男たちが声を上げる。 エレナは思わず彼らを見た。つい先ほどまで追い詰められ、顔を隠し、他人の記憶を奪おうとしていた四人。その彼らが、いまは逃げずにこちらを見ている。 「あなた方まで……」 「こ、この村は俺たちの村だ!」 男のひとりが、震える声で言った。握った拳が、汚れた衣服の横で強く固まっている。 「エレナ様に助けてもらうのに、俺たちが何もしないでいいわけがねぇ!」 エレナは数秒、彼らを見つめた。 そして、柔らかく頷く。 「……そうですね。そのお気持ちは、しっかりと受け取らせていただきます」 男たちの表情が、わずかに変わった。 「それでしたら、あなた方はこの村の出身ですよね。厨房を用意していただけますか?」 「ちゅ、厨房ですかい?」 別の男が目を丸くする。村の惨状と、厨房という言葉が結びつかなかったのだろう。他の男たちも、互いの顔を見合わせていた。 「はい。私が料理を振る舞います」 エレナは、倒れている村人たちへ視線を戻した。 「拙い腕ではありますが、この症状が呪いなのか、病なのか。まだ私には分かりません。ですが、グレンさんに木をお願いしたのは、焚き火を用意するためです」 村の中央にある広場。そこなら、火を焚けば多くの者を集められる。 「焚き火による外からの熱と、料理による内側からの熱」 エレナの声が、静かに村へ通っていく。 「それらを用いて、この村を救います」 「……!! わ、分かりました! すぐに用意してきます!」 男たちは弾かれたように動き出した。ひとりは村の奥へ、ひとりは家々の方へ。残る二人も顔を見合わせるなり、慌ただしく走り出す。さっきまで沈みきっていた村の空気に、ほんのわずか、音が戻った。 エレナはその背中を見送ると、胸元に手を添えた。 いつも大事に着ているコートの留め具を外し、肩からそっと滑らせる。現れたのは、白いノースリーブの衣。細い腕が外気に触れ、薄い布が風に揺れた。 畳んだコートを近くの柵へ預ける。その所作は丁寧だったが、迷いはない。 『……見事な采配だ。未来の聖女らしく、しっかりと皆を束ねているな』 内側から届いた声は、いつもより少しだけ穏やかだった。 『でも、正直不安だよ。一人、二人なら問題ないとしても、今回は二十人近く……。私は、この村を救えるのかな』 エレナは村を見渡した。 倒れている者。支え合って歩く者。遠くからこちらを見つめる、疲れ切った瞳。ひとつの決断で全員を救えるほど、目の前の惨状は軽くない。 『心配することなど、何もない。君は必ずやり遂げる。戦いに向いていなくとも、こと救いに関しては、君に勝る者などいないのだから』 エレンの声は、断言だった。 励ましではない。慰めでもない。ただ、揺らがぬ事実を告げるように響く。 『そして、それこそが、私が君を“主”と認めた最大の理由だ』 エレナは一度、深く息を吸った。 伏せていた睫毛が上がる。碧い瞳が、まっすぐ村の中心を捉えた。 『……ありがとう。見てて。必ず救ってみせる』────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







