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第57話:窮地

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-12 11:59:42

──────

エレンの視点

──────

「どうにか、封じ込めたみたいですね????」

「ふぅ……夜の街では、この牢獄が一度破られているからな。正直、ハラハラしたぞ」

シイナが、緊張の糸を緩めずに、そう呟いた。

「まあ、捕まえられたなら、結果オーライじゃねぇか!」

まるで、太陽のように、グレンが笑う。

「皆さん……ありがとうございました」

シオンが、パーティの皆に深く頭を下げて、感謝を伝えた。

だが、仲間たちの安堵の空気に反して、俺の魂が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。

静かすぎるのだ。

本来、魔物が捕らえられれば、暴れ狂うだろう。

ミストの水があったとしても、いくらなんでも、静かすぎる。

それに、奴の中には、ラムザスの狡猾な知性もあるはずだ。

俺が、そう口を開こうとした、その時だった。

ミストが、不意に、鉄の牢獄へと近づいていった。

「馬鹿者!!! 迂闊に寄るな!!!」

「えっ!??」

俺の警告は、正しかった。

ミストが傍に寄った、その直後。

鉄の牢獄が、内側から、ベコッ、と不気味に膨れ上がった。

俺は、即座にミストを抱え、後方へと跳躍する。

だが、

こいつは……甘くなかった。

さっきの初速を、遥かに上回る速度で、俺たちの頭上へと、それは現れた。

「っ……!!!!!!」

俺は、空中でミストの身体を、シイナの方へと投げ飛ばす。

だが、そのせいで、俺自身の防御が、コンマ一秒、遅れた。

「がっ……!!」

アイナの背中から生えた異形の拳が、俺の全身を、撃ち抜いた。

勢いよく吹き飛んだ俺の身体は、壁を突き破り、地面へとめり込む。

「エ、エレン!!!」

「私の薬が、全く効いていないなんて!?」

……いや、正確には、効いている。

これで奴に、薬の効果がなかったら……

俺は、即死だった。

「げほっ……ごほっ……!」

口から、鉄の味のする、熱い血が溢れ出す。

「エレン様……! すみません……! 私を、助けたばかりに……!!」

「馬鹿者め…!……迂闊……に、近……付くな……!」

まずい。

俺の意識が、朦朧とし始める。

あまりに強烈な攻撃に、この身は打ち砕かれた。

「はい……! はい……! 私が……私が、愚かでした……! ですから、どうか、死なないで下さい……!!」

俺は、虚ろな目で、アイナの方を見やる。

すると、シオンが、トンファーを構え、応戦していた。

だが、いくら仲間を庇ったからと言えど、俺でさえ、この有様なのだ。

ここにいる全員が、このままでは、勝ち目がない。

俺は……意識の奥底にいる、エレナに語りかける。

(エレナ……エレナ……! 仲間が……仲間が、危うい……! 目を……覚ましてくれ……!)

「ぐぁ!!!」

グレンの叫び声が響くと、俺のすぐ横へと、グレンの身体が弾き飛ばされてきた。

「エ、エレン……! 頼むから、死ぬなよ!? あんたは、俺の憧れなんだ!! 見ててくれ!! 俺が、アイツを……!!」

そう言って、ボロボロの身体で、再び駆け出すグレン。

いかん……いよいよ、目も開けていられなくなってきた。

このまま……俺は、死ぬのか……?

エレナ……君の身体を、復帰不可能になるまで、傷つけてしまった……。

すまない……。

俺の意識は、深く、冷たい、海の底へと沈んでいった。

***

意識の底は、どこまでも続く、静かな白の世界だった。

物理的な痛みはない。だが、繰り広げられた死闘の記憶が、まだ生々しい気配として、この白い空間に澱んでいる。

全身を苛んだ、鉛のような倦怠感。鞭で打たれた灼けるような痛み。

だが、それすらも些事だ。

この胸の奥で、未だ燻り続ける怒りに比べれば。

その、静寂を破ったのは、魂の奥底から浮かび上がってくる、あの気配だった。

エレナの意識が、浮上してくる。

(私に、無茶しすぎだって言ったくせに!!)

思考の海に、彼女の魂の叫びが響き渡る。

怒っているのか、悲しいのか。その感情の奔流が、私の意識を揺さぶった。

(エレンの方が、よっぽど、よっぽど無茶してるじゃん……!)

……まずいな。これは、相当怒っているらしい。

(もう! こんなにボロボロになって……! 本当に、大丈夫なの!?)

その声に含まれた、純粋な、私への心配。

その事実に、私は、静かに、しかし確かな罪悪感を覚えていた。

「……すまない。君の身体を、傷つけてしまった」

私の謝罪に、しかし、彼女は、さらに強い言葉を返す。

(身体なんて、私が治せばいい! !そんなこと、どうだっていいの! そうじゃなくて……エレン自身の、魂の痛みを、もっと考えてって言ってるの!)

……ふふ。どうやら、手ひどく叱られてしまったらしいな。

まぁ、それはエレナにも言えた事だと思うのだが……

しかし、叱責が…不思議と心地良いとさえ感じてしまう。

(でもね……。ミストさんのこと、助けてくれて、ありがとう……!)

その、不意に投げかけられた感謝の言葉。

昔の私であれば、仲間を見捨ててでも、エレナ一人の安全を優先しただろう。

だが……。

「……私も、この仲間たちは好きだからな。気づけば、身体が勝手に動いてしまっていた」

その言葉に、嘘はなかった。

私の答えに、エレナの心が、ぱっと明るく輝くのが分かった。

(なら……! 私たち、やっぱり、最高の“相棒”だね!)

その、あまりに真っ直ぐな言葉に、私は、静かに、しかし、確かな同意を返す。

「……ああ」

その一言だけで、十分だった。

だからこそ、私は、彼女の次の言葉に、意表を突かれることになった。

(ねぇ、エレン)

「ん……?」

(皆に、この秘密のこと……打ち明けようと思うんだ)

……なに? 正気か?

私の思考回路に、瞬時に、氷の壁が築かれる。

「ま、待て、エレナ。それは、あまりにもリスクが高すぎる」

(ううん。私は、そうは思わない。むしろ、今のままの方が、リスクだと思うんだ。本当のことを話せば、もっとみんなと、ありのままの私たちで、連携できるようになるはずだから)

それも、一理ある。

だが、それでも尚、危険であることに変わりはない。

「やはり、危険だ……」

私が、そう反論しかけた、その時だった。

エレナが、まるで切り札を突きつけるかのように、自信に満ちた声を響かせた。

(エレン! !!どっちにしても、この身体を回復させた後、あなたの振るう剣に、私の聖属性の力を、纏わせるんだから!!)

……っ!

聖属性の付与。それは、魔法が使えない私にとって、これ以上ないほどの戦力強化に繋がる。

そして、それを使えば、私たちの秘密が露見するのは、時間の問題。

「……理解した」

私の納得を、彼女は、楽しそうに受け止めた。

(でしょ! もう、私たちのことがバレるのは、時間の問題なんだから! だったら、今、このタイミングで、全てを話すべきだって、私は思うんだ!)

「……エレナ。なんだか、やけに楽しそうではないか?」

(当たり前だよ! あなたが、ミストさんを、仲間を、守ってくれたんだよ? そして、もうみんなに隠し事をしなくて済むんだよ? 嬉しいに決まってるじゃない!)

……ふふ。確かに、そうだな。

彼女の言う通りだ。

私の心にあった氷の壁が、完全に溶けていくのを感じた。

「じゃあ、行くよ! エレン!」

「ああ。いつでも、君の望むままに」

私は、彼女の覚悟に、静かに、そして、力強く、応えた。

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