LOGINそして、時は瞬く間に流れた。
|接続者選抜戦《リンカーズセレクション》の開催当日。夜明けとともに、壮麗なファンファーレがベルノ王国の空へ放たれる。重厚でありながら高らかなその響きは、城壁を越え、石畳を伝い、街の隅々にまで染み渡っていった。 それはもはや、ただの開幕の合図ではない。 この国に生きる者にとって、その音は祝福であり、号砲であり、心の奥に眠る熱を無理やり引きずり起こす何かだった。耳にした瞬間、血が騒ぎ、名を上げたいという衝動が胸の内で膨らんでいく。長い年月をかけて繰り返されてきた祭典の熱が、民の気質そのものとして根づいているのだと、そう思えるほどだった。 (この音を聞くと、不思議と……私まで熱くなるんだよね) 聖女見習いであるエレナでさえ、そう感じる。 ならば、剣を握る者たちにとってはなおさらだろう。胸の高鳴りを自覚したエレナは、軽く首を振ってその余韻を追い払い、受付の列へと向き直った。 「はい。これで参加受付は完了です。どうか、力を存分に振るってくださいね」 書類を返された屈強な戦士は、思わずといった様子で背筋を伸ばした。 「あ、ありがとうございます。エレナ様にそう言っていただけると、身が引き締まりますなぁ」 「ふふ。ええ、応援していますよ」 やわらかな笑みで送り出しながら、エレナは心の中で小さく苦笑する。 (なんて言ってるけど……私の体は、参加する側なんだよね……) わずかに芽生えた後ろめたさは、しかし今さらどうこうできるものでもなかった。表では聖堂の務めを果たし、舞台に立つのはその内に宿るもう一人。二人で一つの現実を、今さら切り分けられるはずもない。 そうして次々と参加者を送り出していると、不意に背後から穏やかな声がかかった。 「さて、エレナくん」 振り向いた先に立っていたのは、ベルノ大聖堂の頂に座す人物――教皇だった。 「はい、教皇様」 「もう、あとは私とマリアンで何とかなるだろう。君には君の準備がある。行ってくるといい」 その言葉に、エレナは一瞬だけ目を見開いた。 教皇。 この国において、国王と並ぶほどの権威を持つ大いなる信仰の象徴。その信仰心は深く、敬虔さにおいて並ぶ者はいない。エレナですら、その在り方には憧れに近いものを抱いている。 けれど同時に、この人物は特別だった。 エレナとエレン――二つの魂が一つの身体を共有している事実を知る、ほとんど唯一の存在でもある。 だからこそ、その言葉の本当の意味は明白だった。 行ってくるといい。 すなわち、エレンと代わってきなさい――と。 「感謝いたします。今回もきっと、エレンがベルノ大聖堂に栄光をもたらしてくれるはずです」 エレナがそう答えると、教皇は肩をすくめるように微笑んだ。 「……我々は本来、血も争いも唾棄する立場だ。だが、信仰というものは時に柔軟さを持たねばならない。私としても思うところがないわけではないが……」 そこでわずかに声音を和らげる。 「エレンに負けたら承知しない、と伝えておいてくれるかい」 茶目っ気を含んだその言葉とともに、教皇は片目をつぶった。 厳格さだけでは、この場所は成り立たない。 教義を守りながら、現実とも向き合う。その懐の深さがあるからこそ、ベルノ大聖堂は他国から羨望すら向けられる柔軟さを保っていられるのだろう。 「ええ。しっかりと伝えておきます」 エレナがそう答えると、教皇は満足げに微笑んだ。その眼差しには、聖女見習いへ向ける温かさと、これから戦場へ送り出す相手への静かな期待が同居している。 『教皇め。わざとらしい演技を……。だがまあ、その信頼には応えなくてはな』 『そうだよ、エレン。私も応援してるからね』 『おうとも』 内側で交わされる声は短い。けれど、その温度だけで十分だった。 エレナはあらためて教皇へ深々と一礼する。そして裾を乱さぬよう静かに身を返すと、用意された控え室へと足を向けた。 回廊の向こうからは、なおも選抜戦の熱気が流れ込んでくる。歓声、ざわめき、遠くで打ち鳴らされる鐘の音。そのすべてが今日という特別な日を告げていた。 この先、舞台に立つのはエレンだ。 けれど、その場へ向かうための一歩を踏み出しているのは、まぎれもなくエレナ自身だった。 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦ そして今、ベルノ王国が誇る大闘技場――コロッセオの中央に、エレンは立っていた。 幾重にも積み上げられた観客席は、人、人、人で埋め尽くされている。石造りの円形闘技場を取り囲む熱気は、もはや陽炎のように揺らめいて見えた。空へ向かって開かれた巨大な空間に、歓声と興奮が渦を巻く。見上げれば、旗が風を受けてはためいていた。王国の紋章。大聖堂の旗印。そして、選ばれた戦士たちを称える色鮮やかな意匠の数々。 舞台は整っている。 あとは、戦うだけだった。 「さぁさぁ皆さん!! 今年も最も熱くなる時期がやってきたぞぉ!! 準備はいいかぁ!?」 魔道具で増幅された実況者の声が、闘技場全体を揺らす。 「おぉぉーーー!!」 観客席から返ってきたのは、腹の底から絞り出したような大合唱だった。石壁を打って反響し、そのまま天へ突き抜けていく。 「まだまだぁ!! そんなんじゃ足りないぞぉ!!! 準備はいいかぁ!?」 「おおおおおおおっ!!!!」 一度目より、明らかに大きい。 空気が震え、床の砂までわずかに跳ねたように感じられる。実況者はその反応に満足そうに両腕を広げ、まるでこの熱そのものを煽って煮え立たせる指揮者のように笑みを深めた。 「さて! 今回初めて|接続者選抜戦《リンカーズセレクション》に参加する者もいることだろう!! ここでルールを――」 説明を始めかけた、その瞬間だった。 「そんなもんはいい! さっさと始めろぉ!!」 観客席から飛んだ野次に、他の声が重なる。さらに、闘技場に残っていた参加者たちまで口々に乗っかった。 「早くやれ!!」 「待ちくたびれたぞ!」 「開幕戦だろうが!!」 見事なまでの大合唱だった。 実況者は一瞬だけ目を丸くし、それからけらけらと笑う。 「おっとぉ! これは予想外! いいだろう!! だが、これもルールだ! とはいえ、みんなの熱を奪うのも違う! だから短くいくぞ!」 歓声がさらに高まる。 「ルールは三つ! 気絶! 場外! そして――エレナ様によって授けられた祝福の鎧の破壊だ!! この三つ、どれか一つでも満たしたら負けとなる! 覚えておいてくれよぉ!!」 「おおおおぉ!!!」 簡潔で、十分だった。 この場にいる者たちの大半は、細かい規則など求めていない。欲しているのは、ただ一つ。強者と強者がぶつかり合う、その瞬間だけだ。 「よし!! それじゃあ早速第一試合といこう!! 第一回戦は――エレンとグレンだぁ!! それ以外の参加者は観客席に戻ってくれぇ!」 その名が響いた途端、観客席の熱がさらに一段跳ね上がった。 戦士たちや騎士たちが、ざわめきとともにぞろぞろと退いていく。砂を踏み、鎧を鳴らし、それぞれが次の出番を待つべく闘技場の外周へ散っていった。 そうして中央に残されたのは二人だけ。 エレンの正面に立っていたのは、燃え上がる焔をそのまま形にしたような青年だった。 鮮やかな赤毛。ぎらつくほど真っ直ぐな瞳。肩幅の広い体躯を包む装備の隙間からは、鍛え上げられた筋肉が見て取れる。剣の柄へ軽く手をかけた姿に気負いはない。むしろ、待ちきれないと言わんばかりの熱が全身から立ち上っていた。 グレン。 ただそこに立っているだけで、火の気が一歩こちらへ踏み込んできたように感じる男だった。 対するエレンは、静かにその姿を見据える。 歓声はなおも止まない。観客たちは開幕戦からこの組み合わせを引き当てたことに沸き立ち、誰も彼もが身を乗り出していた。無理もない。片や属性を持たぬままS級にまで駆け上がった異端。片や炎を纏い、正面から敵を叩き潰すことに一切の迷いを持たない騎士。 静と動。 理と熱。 開幕戦からぶつけるには、あまりにも見栄えのいい取り合わせだった。 グレンがにやりと口元を吊り上げる。獲物を前にした獣のような笑みでありながら、どこか清々しさすら滲んでいた。 エレンもまた、わずかに肩の力を抜く。 初戦としては、悪くない。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ