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#6:属性の外側

مؤلف: 渡瀬藍兵
last update تاريخ النشر: 2025-05-19 20:12:01

「本当にありがとうございました……!!」

 ギルドの受付嬢は、カウンター越しに深々と頭を下げた。声音には安堵と恐縮が入り混じっていて、上げた肩がわずかに震えている。まるで、自分たちの見立てがどれほど危ういものだったのか、今になってようやく実感したようだった。

「いえ。お礼は、無事に討伐を果たしたエレンにお願いします。きっと、喜びますから」

 エレナがやわらかく返すと、受付嬢は慌てたように顔を上げ、それでもすぐには表情を整えきれなかった。

「それはもちろんです……! ですが、その……私どもとしては、まさか本当にあれほどの特異個体のグールが存在するとは夢にも思わず……。しかも、街の中で発見されるなんて……」

「……そうでしょうね。私もエレンから聞いた時は、すぐには信じられませんでした。しかも、かなり強力な個体だったと報告を受けています」

 エレナの言葉に、受付嬢は小さく息を呑んだのち、机上に用意していた書類へ視線を落とした。

「ええ。ですので、まずは解剖結果を共有させていただきます。昨夜、エレン様が討伐したグールですが……その血液から、極めて特異な細胞が確認されました」

「特異な細胞、ですか?」

「はい。解析の結果、あの個体には――我々が持つ属性の力が、通じない可能性があったのです」

 その一言に、エレナの碧眼がわずかに揺れた。

 属性。

 万象神がこの世へと撒き散らした魂の粒子であり、人が世界の理へ触れるための鍵。一人につきひとつだけ宿るその力は、炎、水、雷、風、氷、土、鉄、闇、そして聖――この世に満ちる現象そのものを引き起こす源でもあった。

 そして、その力と接続した人間は、この大陸エクリプシアにおいて《接続者》と呼ばれている。

「属性が……通じない?」

 思わず問い返した声は、かすかに低い。

「でも確かに……エレンも言っていました。切ったことのないような弾力があった、と」

『ああ。あれはなかなかに切りごたえがあった』

 不意に内側から届いた声音は、いつも通り落ち着いているのに、その内容だけはまるで獲物の感想でも述べるようだった。

 エレナはほんの少しだけ目を細める。緊迫した報告の最中でなければ、もう少し呆れた返しもできたのだろうが、今はそれどころではない。

 属性が効かないグール。

 それが意味するものの重さは、受付嬢の青ざめた顔が何より雄弁に物語っていた。普通の討伐報告では済まない。昨夜エレンが斬り伏せたのは、ただの魔物ではなく、この街の常識そのものを脅かしかねない異物だったのだ。

「……ともかく、解剖結果はもう――」

 エレナが言いかけると、受付嬢はすぐに頷いた。こうした報告だけは滞らせていないらしい。

「もちろん、騎士団にも王立マギア研究所にも共有済みです。騎士団の方は、属性だけでなく剣技や槍術にも秀でた方々が多いものですから、“腕が鳴る”といった反応でしたが……研究所の方は……」

 そこで一度、彼女は言葉を切った。

 反応は、容易に想像がつく。

 彼らは科学を用いて、接続者に宿るマギアを解析し、属性の可能性を探り続けている集団だ。属性は彼らにとって研究対象であると同時に、この世界における大きな優位でもある。その前提を揺るがす魔物が現れたとなれば、穏やかでいられるはずがなかった。

「とても慌てたでしょうね」

 エレナが静かに言うと、受付嬢は疲れきったような顔で息をついた。

「それはもう、凄まじい形相でしたよ。副所長さんなど完全に取り乱していまして……。今も所長と緊急会議の真っ最中だそうです」

「なるほど……」

 短い相槌のあと、場にひとときの沈黙が落ちた。

 受付嬢はこめかみを押さえ、小さく肩を落とす。

「はぁ……頭痛がします。本当に、エレン様が討伐してくださって助かりました……」

『感謝はいいが、エレナ。わかっているな?』

『もちろんだよ、エレン』

 内側で交わされる声音は短い。それでも、何を求められているのかは十分すぎるほど伝わっていた。

 今回の件は、結果として最悪を免れたに過ぎない。たまたまエレンがいた。たまたま対処できた。それで終わらせていい話ではない。

 だからこそ、ここで言葉を残させる必要がある。

「今回は、私自身も認識が甘かったと判断せざるを得ません。民の安全のためにも、より一層精進してまいります」

 エレナが真っ直ぐに告げると、受付嬢は目を丸くしたあと、慌てて首を横に振った。

「そ、そんな……! エレナ様に動いていただいてしまったのですから、それを言うべきは私たちの方です。今後は十分に注意いたします……!」

 その返答に、エレナはやわらかく微笑む。

 これでいい。

 責任の所在を責めたいわけではない。ただ、次に同じ見落としが起きないよう、ギルド側に危機感を根づかせる。それが今この場で必要なことだった。さすがに、こうした事態が何度も続くとは考えにくい。だが、一度起きた以上、二度目がないとは言い切れない。

 受付嬢もまた、その重さを理解したのか、先ほどまでの恐縮だけではない、引き締まった色を表情に宿していた。

 そんな空気を切り替えるように、ふと思い出したように彼女が顔を上げる。

「そういえばエレナ様、もうすぐあの時期が来ますよ!」

「ふふ、ええ。もちろん理解しておりますよ。|接続者選抜戦《リンカーズセレクション》……ですね」

 その名を口にした途端、どこか張り詰めていた場の空気が少しだけ明るさを取り戻した。

 周囲を見渡せば、ギルドの壁や掲示板には既に大きなポスターが何枚も貼られている。鮮やかな意匠で飾られたそれは、否応なく人目を引いた。

 接続者選抜戦。

 国を挙げて開催される、ベルノ王国最大級の催し。優勝者には莫大な報酬と名誉、そして次代を担う接続者としての栄誉が与えられる。そのため、この国に生きる者であれば、一度は憧れ、一度は目指す舞台でもあった。

「ええ! 今回もエレン様は出場されるんですよね?」

「はい。こういう催しに参加しない理由がない、なんて言っていましたよ。私が少し呆れたら、逆に叱られてしまいました」

 エレナが苦笑混じりに返すと、受付嬢の顔がぱっと華やぐ。

 けれど、その事実は傍から見ればやはり異質だった。

 エレンには属性がない。彼はエレナの肉体に宿る、後から加わった魂だ。ゆえに、彼自身は接続者ではなく、エレナの持つ聖属性を自在に振るうこともできない。

 本来、接続者選抜戦はその名の通り、属性を扱う者だけが立てる舞台だ。資格そのものが、属性との接続を前提としている。

 それでもなお、エレンだけは例外だった。

 属性を持たぬまま、純粋な戦闘技術と実績だけでギルド最高位のS級へと上り詰めた存在。だからこそ彼には、毎年特別に招待状が届く。

 それは制度の綻びではない。例外を認めざるを得ないほど、彼の強さが明白だという証明だった。

「早くエレン様の戦いが見たいです……!」

 期待を隠しきれない声に、エレナは少しだけ目を細める。

「ええ。本人も張り切っていますから、ぜひ楽しみにしていてくださいね」

 内側では、当の本人が満更でもなさそうに気配を揺らしていた。

 街を騒がせた特異個体の一件は、まだ尾を引くだろう。騎士団も、研究所も、しばらくは慌ただしく動くはずだ。

 それでも王都の時は止まらない。人々の視線は次の熱へ向かい、闘技場には新たな喧騒が満ちていく。

 近づいていた。

 エレンが剣を振るい、国中の視線を一身に集める季節が。

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أحدث فصل

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第115話:立ちはだかる二人

    ────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第114話:行動開始

    **────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第113話:助けたい心は皆同じ

    **────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第112話:リディアの交渉

    **────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第111話:届いた悲報

    (この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第110話:二人の目覚め

    **────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ

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