Share

#8:奇跡のような魔法

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-05-19 20:13:52

『勝者は――エレンだァァァ!! 圧倒的! 魔法を使わぬ剣士、初陣を見事勝利で飾りましたァァァ!!』

地鳴りのような大歓声が、巨大な闘技場の石壁を揺るがし、エレンの鼓膜を激しく震わせる。

先ほどまで鳴り響いていた、鋭い剣戟の金属音はもう聞こえない。

ただ、人の作り出す熱狂の渦だけが、圧倒的な質量を持ってそこにあった。

(……ふぅ。エレン、お疲れ様。すごい戦いだったね。……ちゃんと、満足できた?)

試合の興奮冷めやらぬエレンの意識の奥で、労うようにエレナが静かに問いかける。

その声には、怪我なく終わったことへの心からの安堵が混じっていた。

(ああ。初戦の相手としては申し分なかった。久々に血が騒ぐ、ヒリつくような感覚を味わえた。……実に楽しかった)

エレンは内心の昂ぶりを隠すことなく答える。

その声は、獲物を仕留めた獅子のように満足げだ。

(なんだか……最後の方、ちょっとお師匠様みたいだったよ? グレンさんのこと、すごく見定めるような目で見てたから)

エレナがくすくすと楽しそうに笑うと、エレンの気配が少しだけバツが悪そうに揺らいだ。

(……ふん。磨けば光る原石だったからな)

(ふふ、そういうところもエレンらしいね)

(……さて、エレナ。名残惜しいが、そろそろ代わろうか。長居は無用だ)

(うん。わかった。ありがとう、エレン)

エレナはゆっくりと意識の主導権を受け取る。

視界が一度、真っ白に染まり──次に色が戻った時。

身体に感じる重みや、肺を満たす空気の匂いが、先ほどまでの「戦場のそれ」とは少し違って感じられた。

〜*〜*〜*〜

(よし、っと。私の身体、ただいま)

手足を軽く動かし、感覚を確かめる。

闘技場の喧騒が、一枚の薄い膜を隔てたかのように、少しだけ遠くに聞こえる。

(ねえ、エレン。せっかくだから、他の選手の試合も少し観ていかない? 他にも面白そうな魔法を使う人がいるかもしれないし……)

(ふむ、それも一興だが……。確か君は今日、昼過ぎから教会で外せない『務め』があったはずだ。忘れたわけではあるまいな?)

エレンの、少し呆れたような、それでいて冷静な声が脳裏に響く。

(あ"っ……!!)

(──そうだった!!)

すっかり、綺麗さっぱり、記憶の彼方へ吹き飛んでいた。

闘技場の熱気に当てられて、午後に予定していた「民衆への祈りの時間」のことが、頭から完全に抜け落ちていたのだ。

(わ、わぁぁ! ありがとうエレン!! 教えてくれなかったら、大変なことになるところだったよ!)

(やれやれ……。急げよ、聖女様)

エレナは心の中でエレンに感謝しつつ、慌てて選手控室を飛び出した。

興奮冷めやらぬ闘技場の出口を抜け、石畳を蹴る。

一路、教会へと向かって、スカートの裾を翻しながら全力で走り出した。

〜*〜*〜*〜

息を切らしながら教会へと戻ると、聖堂にはすでに、エレナを待つ多くの人々が集まっていた。

ステンドグラス越しの光が落ちる堂内。

皆、それぞれの表情に、切実な悩みや不安、そしてエレナという存在へのわずかな希望を滲ませている。

聖堂に満ちる蝋燭と、磨かれた古い木の香り。

その静謐な空気に触れ、エレナの心臓の早鐘も少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「エレナ様、お待ちしておりました……。病気の妻を、どうか助けてはいただけないでしょうか……」

「聖女様……。戦地で死んだ私の息子は、今頃、どうなってしまったのでしょう……」

「あ、あの、エレナ様! 私の、その……意中の彼との恋の行方は……!」

皆、それぞれに深刻な悩みや、心の重荷を抱えている。

(恋の相談は……神様というより、ご本人の勇気次第かな? なんて思っちゃうけど)

それでも、話を聞いて、背中を押し、少しでも前向きになれるように祈ることはできる。

エレンが剣で守る命があるように。

エレナには、その祈りでしか救えない心があるのだ。

エレナは、そう強く信じていた。

その中でも──。

一際痩せこけた頬で、震える手でエレナの袖を掴んできた老人の瞳は、痛々しいほどに切実だった。

「お爺さん。……奥様は、どのような経緯で、そのようなお辛い状態に?」

エレナはお爺さんの前にそっと跪き、視線の高さを合わせ、努めて穏やかな声で問いかけた。

不安を取り除くように、その手を包み込む。

「あ、ああ……それが、数日前に森へ薪を取りに入った際に、なにやら得体の知れない魔物の瘴気に当てられてしまったらしくての……。それ以来、日に日に弱っていって……」

(魔物の瘴気……! それも、森で直接なんて、一番厄介なパターンだ。下手したら魂まで汚染されてしまう。一刻も早く浄化しないと!)

「……医者も匙を投げる有様で……。もう、神にすがるしか……」

彼は途切れ途切れに、肩を震わせながら、ぽつりとそう答える。

その声は、今にも泣き出しそうにか細い。

助けられる命なら、必ず助けてみせる。

「わかりました。状況は理解いたしました。──今すぐ、奥様の元へ参りましょう」

エレナが一切の迷いを見せず即答すると、お爺さんは驚きに枯れた目を見開いた。

「そ、そんな……! エレナ様自ら、わしのような者の汚い家へお呼びするなど……」

「目の前に助けられるかもしれない命があるのなら、そこに迷う理由なんて、ひとつもありませんから」

エレナはきっぱりと言い切り、安心させるように優しく微笑んだ。

すると、背後から司祭が穏やかな表情で歩み寄ってきた。

「そうだね、エレナ君。君がそう言うのなら、それが神の御心であり、最善なのだろう。ここは他の者に任せ、すぐにお爺様の奥様の元へ行って差し上げなさい」

「司祭様……! ありがとうございます」

エレナは司祭に深く頭を下げ、老人の震える手をそっと引いて立ち上がらせた。

そして彼と共に、午後の日差しの中、教会を後にした。

〜*〜*〜*〜

案内されたのは、王都の喧騒から少し離れた下町。

その路地裏にある、古びた木造の小さな家だった。

軋む扉を開けると、湿った土と、鼻を突く薬草の匂いが充満していた。

「お邪魔いたします」

薄暗い室内に入ると、部屋の奥、簡素なベッドに痩せ細ったお婆さんが苦しそうに横たわっている。

顔色は土気色で、呼吸も「ヒュー、ヒュー」と浅く、苦しげだ。

肌の表面には、薄っすらと紫色の痣のような文様が浮き出ている。瘴気がかなり進行している証拠だ。

エレナは静かに彼女の枕元へ腰掛け、その氷のように冷たくなった手を、両手でそっと包み込むように握った。

(……冷たい。でも、まだ魂の灯火は消えていない)

深く息を吸い込み、意識を集中させる。

この小さな命の灯火が、理不尽な闇に飲み込まれてしまわぬように。

澄んだ声で、祈りの言霊を紡ぐ。

「──聖なる光よ。我らを清め給え。そしてこの傷つきし魂を、あるべき安寧へと導き給え」

その言葉が空気に溶けた瞬間。

エレナの両手から、まるで溶かした黄金のような、温かく清浄な光がふわりと溢れ出した。

陽だまりのようなその光は、お婆さんの身体を優しく包み込んでいく。

彼女の内に巣食う邪悪な瘴気を、まるで朝靄を払う陽光のように、静かに、しかし確実に溶かしていく。

紫色の不吉な文様が、光に焼かれて蒸発して消えていく。

「おお……おおお……!」

背後で、お爺さんが言葉にならない感動の声を漏らした。

すう……すう……。

お婆さんの口から、先ほどまでの苦悶の喘鳴とは比べ物にならないほど、安らかな寝息が聞こえ始める。

苦痛に歪んでいた眉間のしわが解け、穏やかな表情に戻り始めた。

土気色だった頬に、薄っすらと赤みが差していた。

「もう、大丈夫ですよ。瘴気は完全に祓われましたから。数日後には、きっと元気に目を覚まされるでしょう」

「……本当に、ありがとうございます……! エレナ様……このご恩は、一生忘れませぬ……!」

お爺さんはその場に泣き崩れ、震える声で何度も何度も感謝の言葉を口にした。

その姿に、エレナの胸の奥も熱くなる。

「どうか、顔を上げてください。お二人がこれからも健やかであることを、私も祈っております」

気になさらないで下さい、と微笑みかける。

剣を持たないエレナに許された、たった一つの戦いなのだから。

窓から差し込む西日が、安らかに眠るお婆さんの顔と、涙を拭うお爺さんの横顔を優しく照らしていた。

(……うん。ここが、私の戦場。──これが、私の戦い方なんだ)

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第115話:立ちはだかる二人

    ────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第114話:行動開始

    **────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第113話:助けたい心は皆同じ

    **────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第112話:リディアの交渉

    **────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第111話:届いた悲報

    (この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第110話:二人の目覚め

    **────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status