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第2話 やっと見つけた

ผู้เขียน: 暁万里
last update วันที่เผยแพร่: 2026-05-30 08:25:41

 温かかった。

 冷え切っていた体が、じんわりと熱を取り戻していく。

 雨の音が遠い。

 白石澪は、抱き締められていることに気付いてからも、しばらく動けなかった。

「……あの」

 震える声が漏れる。

 すると、男――神宮寺綾人じんぐうじあやとは、ようやく我に返ったように目を伏せた。

「……すまない」

 けれどその腕は、なかなか離れない。

 まるで、離したら消えてしまうものを抱えているみたいに。

「あ、あの……」

 澪がもう一度そう口を開くと、綾人はようやくゆっくりその腕を離した。

 黒い手袋越しの指先が、最後まで名残惜しそうに澪のブラウスの袖に触れていたことに、澪は気付かない。

「怪我は?」

「え?」

「怪我はしていないかと聞いている」

「あ……はい。大丈夫、です」

 澪の手を取って立ち上がった綾人は無言で澪を見下ろした。

 背が高い。

 近くで見ると、改めて息が止まりそうなくらい整った顔をしていることに気付く。

 なのに、その目はひどく冷たい。

 冷たいのに。

 どうしてか、その視線の奥に熱を帯びている気がして、澪は困惑した。

 綾人は地面に落ちた花を拾い上げる。

 雨に濡れ、落ちた衝撃で花びらが傷ついてしまった白いリンドウの花束。『誠実』という花言葉を気に入った拓真の好きな花だった。

 雨が降り出したせいか。店を出たときには開いていた花が、今はすっかり閉じている。

 太陽に向かって、真っ直ぐに花を咲かす健気な花。

 けれど、雨の日には花を閉ざしてしまう姿から『誠実』だなんて花言葉ついたと言われている。

 澪は、リンドウのその姿から、先程の拓真と美羽の姿を思い出して、唇をきつく引き結んだ。

「……こんなになるまで」

 掠れた声だった。綾人のその声に、澪は顔を上げる。

 哀れむように綾人がそっと傷ついたリンドウの花を撫でる。

「あ……ご、ごめんなさい」

 反射的に謝ると、綾人の眉がぴくりと動いた。そして、ゆっくりと澪へと視線を移す。

「どうして君が謝る」

「え……、あの、私が急にあなたの車の前に飛び出したから……」

「それでも謝る必要はない」

 綾人は断言した。

 その強い口調に、澪は目を瞬かせる。

 そんなふうに言われたこと、今まで一度もなかった。

 綾人は濡れた花束を見下ろし、それから運転席へ視線を向けた。

「俺に家まで車を回せ」

 運転席から顔を覗かせた男性は、困惑したように眉を下げる。

「ですが、綾人さま。この後の会食が……」

「キャンセルしろ」

 低い声に、有無を言わせない圧が滲む。

 運転席にいた男性は、一瞬で口を閉ざした。

 綾人は再び澪へ向き直る。

「乗れ」

「……え?」

「風邪を引く」

「い、いえっ、大丈夫です……!」

 知らない人……しかも、男性の車に乗るなんて。

 しかも、見るからに住む世界が違う。

 スーツも。

 車も。

 纏っている空気さえも。

 けれど綾人は、澪の拒絶など最初から聞いていなかったみたいに、静かに澪の頬へ触れた。

「冷えてる」

 びくりと肩が震える。

 男の指先は、雨で濡れているはずなのに手袋越しでも分かるくらい熱かった。

「……っ」

「そんな顔をするな」

「え?」

「泣きそうだ」

 その瞬間。

 張り詰めていたものが、ぐらりと揺れた。

 今日一日、ずっと我慢していた。

 美羽のことも。

 拓真のことも。

 自分が空っぽになったみたいな気持ちも。

 全部。

 なのに。

 どうしてこの人は、会ったばかりなのに見抜いてしまうんだろう。

「……泣くなんて……」

 声が震えた。

 綾人は数秒、澪を見つめる。

――そして。

「なら、泣く前に連れて帰る」

「……え?」

 澪が呆然としている間に、綾人は当然みたいに澪の手を取った。

 大きな手だった。

 逃がさないと言うみたいに、しっかりと包み込まれる。

「あ、あの……っ、そんな。初対面で名前も知らないのに……」

「神宮寺綾人。綾人でいい。ほら、これでもう名前も知らない他人じゃない」

「え?」

 ふっと、綾人の表情が緩む。

 意味がわからない。

 けれど綾人は、それ以上説明する気がないらしかった。

 手を引かれ、車の方へ連れていかれる。

後部座席のドアを開けた綾人は、澪に乗り込むように促して――。

「……澪?」

 その瞬間、聞き慣れた声が、背後から落ちる。

 澪の体がびくりと強張った。

 振り返った先に立っていたのは、息を切らせた拓真だった。

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