LOGIN午後五時。RE:CODE MODE CONTEST。第二ラウンド。照明が。ランウェイへ落ちた。十六人のモデルが。一人ずつ。歩き始める。アレッサンドロ・ノルディは。審査員席から。黙って見ていた。一時間。十万円。スタッフ一人。何を選び。何を残したのか。その答えまで。見る。*御堂玲奈。名前が呼ばれる。一歩目から。崩れない。使い慣れた衣装も。いつもの道具もない。スタッフも一人。それでも。御堂玲奈だった。服。髪。顔。歩き。全部が。同じ完成形を向いている。条件が変わっても。本人も。チームも。何をすれば玲奈が最も良く見えるかを知っている。ターン。光を受ける。戻る。ノルディは。最後まで見た。それで。十分だった。*真壁ミラ。第一ラウンドより。強かった。派手になったのではない。本人が。前へ出ている。同行したのは。桐島誠司。彼に作られているのではない。ミラが。必要なものを選び。桐島を使っている。自分が。何を見せたいのか。それが。はっきりしていた。ノルディの口元が。わずかに上がる。「……good」ミラは。最後まで。自分のまま。ランウェイを戻っていった。*そして。歌原彩。名前が呼ばれる。白いノーカラーシャツ。ストレートジーンズ。アクセサリーなし。最低限の顔。十六人の中でも。明らかに。地味だった。観客席から。小さな声が漏れる。「……ユニクロ?」「たぶん」「私、それ持ってるかも」彩が。歩く。一歩。白いシャツが。身体についてくる。二歩。デニムが。脚の動きをそのまま出す。配信のコメントが。流れ始める。《え、ユニクロ?》《同じの持ってる》《なんでこんな違うの》《服がかっこいい?》《いや》《モデルだろ》《この子誰?》テレビの前でも。娘が画面を見た。「これ、私持ってる」母親が笑う。「じゃあ同じじゃない」娘は。彩から目を離さない。「全然違う」高価でも。珍しくもない。誰かが。明日。店で買える服。だからこそ。違いが分かる。服が。彩を強く見せているのではない。彩が。服を成立させている。ノルディの目が。少し細くなる。なるほど。目立つ服を。選ばなかったのではない。誰も
午後四時五十二分。 RE:CODE MODE CONTEST。 第二ラウンド。 制限時間終了まで。 残り八分。 アレッサンドロ・ノルディは。 審査員席から。 戻ってきたモデルたちを見ていた。 御堂玲奈。 真壁ミラ。 そして。 歌原彩。 一時間。 十万円。 第一ラウンドまでに使用した衣装、アクセサリー、メイク用品。 すべて使用不可。 同行できるスタッフは。 一人だけ。 条件を削れば。 モデルと。 その一人が。 何を優先するのかが見える。 そのために。 ノルディ自身が追加した。 第二ラウンド。 御堂玲奈は。 すでに戻っている。 条件が変わっても。 姿に乱れがない。 真壁ミラも。 戻った。 第一ラウンドより。 本人の意志が。 強く前に出ている。 そして。 歌原彩。 ノルディの視線が。 止まった。 白いノーカラーシャツ。 ストレートジーンズ。 アクセサリーはない。 髪も。 最低限。 顔も。 ほとんど作っていない。 ノルディは。 少しだけ目を細めた。 十万円。 一時間。 その条件で。 もっと目立つものは買えた。 もっと。 分かりやすく強い服も。 選べたはずだった。 でも。 選ばなかった。 ノルディは。 彩ではなく。 その隣を見る。 与那嶺良太。 昨日まで。 名前すら知らなかった男。 けれど。 今は。 気になって仕方がない。 * 第一ラウンド。 ノルディは。 何度も良太を見た。 歩き方。 立ち方。 人の話を聞く時の角度。 モデルを見る順番。 決断する前の。 ほんの短い間。 必要のないものを。 すぐには足さない。 まず見る。 待つ。 それから選ぶ。 すべてが。 妙に。 懐かしかった。 そして。 第二ラウンド。 良太が。 彩と一緒に持ち帰った答え。 白いシャツ。 デニム。 モデルを。 隠さない服。 ノルディは。 無意識に考える。 もし。 歌原レイラが。 この条件で。 十六歳のモデルを預かったなら。 何をする。 豪華な服を探すか。 一時間で。 無理に完成度を上げるか。 違う。 ノルディの中で。 答えは。 すぐに出た。 彼女なら。 モデルを見る。 今ある身体。 今ある顔。
午後四時四十分。 RE:CODE MODE CONTEST。 第二ラウンド終了まで。 残り二十分。 会場には。 一人ずつ。 モデルたちが戻り始めていた。 一時間。 十万円。 第一ラウンドまでに用意した衣装、アクセサリー、メイク道具。 すべて使用不可。 同行できるスタッフは。 一人だけ。 第一ラウンドで積み上げたものを。 そのまま持ち込むことはできない。 それでも。 戻ってくる姿には。 それぞれのチームが出ていた。 * 御堂玲奈が戻ってきた。 同行しているのは。 長く玲奈を担当してきたスタイリスト。 買ってきた服。 靴。 最低限の道具。 第一ラウンドとは。 まったく違うもの。 けれど。 玲奈が着れば。 御堂玲奈になる。 残っていたスタッフたちが。 一斉に見る。 誰も手を出さない。 第二ラウンドは。 同行した一人とモデルだけで完成させる。 残された側が。 直すことはできない。 久我沙織が。 時計を見る。 「残り十九分」 玲奈が頷く。 「十分です」 それだけ。 選べる人間を。 一人まで減らされた。 使える物も。 取り上げられた。 それでも。 御堂玲奈には。 積み上げてきた経験がある。 チームが培った判断も。 玲奈の身体の中に残っている。 人数を削られても。 御堂玲奈は。 御堂玲奈だった。 * 数分後。 真壁ミラが戻った。 隣には。 桐島誠司。 ミラが選んだのは。 迷わず。 彼だった。 南条圭介が近づく。 「決まりました?」 「はい」 「なら、よかったです」 南条は。 それ以上聞かなかった。 ミラが少しだけ笑う。 「聞かないんですか?」 「何を?」 「どうして南条さんじゃなかったのか」 南条は。 少し考えた。 「今、俺を選ぶ理由ないでしょう」 ミラが黙る。 「今は作る時間です」 桐島を見る。 「なら、先生の仕事です」 一拍。 「見せるのは、そのあと」 ミラの口元が上がる。 「忘れてませんね」 「仕事なので」 「じゃあ」 ミラが前を見る。 「終わったら、お願いします」 「もちろん」 勝つ前から。 物語にはしない。 まず。 モデルとして勝つ。 ミラは。 そのための一人を選んだ。 南条も。
試着室の扉が開いた。彩が出てくる。白いノーカラーシャツ。ノンウォッシュのストレートジーンズ。それだけ。アクセサリーはない。メイクも。まだ会場を出た時のままだ。彩は。鏡の前へ立った。「……どうですか?」良太は。すぐには答えなかった。彩を見る。顔。肩。腰。足。最後に。服。その視線を。彩は見ていた。やっぱり。同じだった。昔。姉と服を買いに行った時。レイラも。服より先に。彩を見た。姿勢。立ち方。その日の顔。身体の調子。全部見てから。最後に服を見る。良太が言った。「一歩、歩いて」「ここで?」「いいから」彩は。店内の鏡の前で。一歩だけ進む。止まる。もう一歩。シャツが。身体についてくる。良太は。裾ではなく。彩の足を見る。次に。肩。そして。顔。「もう一回」彩は歩く。今度は。少しだけ歩幅を変える。良太の眉が。わずかに動いた。その表情まで。彩には。妙に見覚えがあった。「……良太さん」「何?」良太は。白いシャツの袖を見ている。「サイズ、分かってたんですか?」「だいたいね」また。その言い方。彩は。良太を見る。「だいたい?」「歩き方も見てたから」「歩き方で?」「全部は分からないわよ」一拍。「でも、必要なところは分かる」彩は。黙った。声は。良太だ。顔も。身体も。良太。なのに。今日は。何度も。お姉ちゃんと話している気がする。第一ラウンドでも。何度かそう思った。でも。今は。もっと近い。言葉遣いだけではない。見る場所。考える速さ。迷わないところ。そして。自分を見る時の目。良太が。デニムの裾を見る。一瞬。動きが止まる。何かを考えているように見えた。でも。それだけではない。誰かの返事を。待っているようにも見える。そして。小さく。「そうね」と呟いた。彩が。目を細める。「良太さん」「何?」「……誰かと、話してます?」良太が止まった。ほんの一瞬。それだけ。でも。彩は見逃さなかった。「さっきから」「何も言ってないのに返事したり」「急に黙ったり」「誰かに聞いてから決めてるみたいです」良太は。何も言わない。彩は続ける。「それに」少しだけ迷う。「今日」一
UNIQLO。店内へ入ると。良太は立ち止まらず、白いシャツが並ぶ一角へ向かった。彩も、その後ろをついていく。百円ショップで買った小さな袋は。彩が持っていた。中身は。コットン。綿棒。スポンジ。ヘアゴム。簡易ミラー。それだけ。第二ラウンド開始から。すでに十分ほどが過ぎている。残り。五十分。良太の身体を動かすレイラは。白いシャツを一枚手に取った。だが。視線は。服だけを見ていなかった。頭の中には。ずっと。別のものが残っている。ノルディ。そして。第二ラウンド。一時間。十万円。持ち込み禁止。チームから。一人だけ。《……やっぱり変》身体の内側で。良太が反応する。《何が?》レイラは。シャツの縫い目を見る。《このラウンド》《まだ考えてたのか》《当然でしょ》別のサイズを取る。肩幅を見る。戻す。《ノルディらしくない》良太は。少し黙った。《さっきも言ってたな》《ええ》レイラは。白いシャツを持ったまま。少しだけ視線を落とした。ノルディとは。何度も仕事をした。服を見る男だった。モデルを見る
午後四時。 RE:CODE MODE CONTEST。 第二ラウンド開始。 その宣言と同時に。 各チームへ封筒が配られた。 中身は。 十万円。 一時間。 持ち込み禁止。 そして。 モデル一人につき、連れていけるスタッフは一人だけ。 会場の空気は。 第一ラウンドまでとは。 明らかに違っていた。 「本当に今から?」 「聞いてないんだけど」 「一時間で?」 「これ、ルール変更じゃない?」 当然だった。 五時間かけて。 全員が。 自分たちなりの最高を作った。 そこから。 結果発表へ進むはずだった。 なのに。 突然。 もう一度作れと言われた。 しかも。 今度は。 一時間。 一人。 十万円。 不満が出ない方がおかしい。 良太も。 身体の内側で。 同じことを思っていた。 《身勝手すぎるだろ》 良太の身体を動かしているレイラは。 答えなかった。 周囲を見る。 御堂玲奈のチーム。 真壁ミラのチーム。 他のモデルたち。 文句を言う者。 すぐに動き始める者。 スタッフ同士で相談する者。 誰を連れていくかで。 すでに時間を使い始めている。 その中央。 ノルディは。 静かに立っていた。 自分が。 この混乱を起こした張本人なのに。 何も言わない。 レイラは。 その顔を見る。 そして。 ふと。 思った。 今日。 何度も。 ノルディの視線を感じていた。 彩ではない。 自分。 いや。 与那嶺良太へ。 審査席にいる時も。 フロアを見ている時も。 妙に長く。 良太を見ていた。 《……まさか》 良太が反応する。 《何》 レイラは答えない。 ノルディ。 世界中で。 何度も自分を見てきた男。 歩き方。 立ち方。 人を見る順番。 判断の癖。 もし。 良太の身体の中にいる自分を。 何かの形で。 感じ取っているとしたら。 ありえない。 幽霊。 憑依。 そんなものまで。 分かるはずがない。 それでも。 《……気づいた?》 完全にではない。 ただ。 何かが。 引っかかっているのかもしれない。 その確認のために。 第二ラウンド。 そんな考えが。 一瞬だけ。 頭をよぎった。 《レイラ》 良太が呼ぶ。 《考えてる時間がも
──守るべきものと、切り捨てるもの──歌原レイラ(24歳)――死まで、あと四年。その夜、彼女は初めて「家族」という言葉を、判断の外に置いた。1 歌原家・居間(夜)古びた照明が、テーブルの天板だけを白く照らしている。壁には色あせた家族写真。新聞、空き瓶、使われなくなった家電の箱。片づけられないままの生活の痕跡が、居間を占拠していた。テーブルを挟んで、父・和人と母・陽子。向かいに、歌原レイラ。彩は、廊下の影に身を寄せ、息を潜めて様子をうかがっている。壁掛けテレビには、消音のままランウェイを歩くレイラの姿。世界に向けて流れる映像と、この家の空気は、噛み合っていなかった。
歌原レイラ(24歳)―― 死まで、あと四年。 その春、日本を揺るがした会見の余波は、 妹・彩の未来にも、確かに刻まれていった。 1. レイラのマンション ――アレッサンドロ・ノルディ(49歳)。 イタリアの至宝。 ファッション界の帝王にして、 沈黙そのものが声明と同義の存在。 私は、策を巡らせていた。 二年連続で、 ノルディ・コレクションのクロージングを務めた私が、 その舞台を辞退すれば―― 彼は、きっと何かしらの反応を示す。 たとえ沈黙であっても、 それは私を肯定する証になるはずだった。 しかし――。 まさか、来日し、 首相の隣に立って、 私について語る
歌原レイラ(24歳)――死まで、あと四年。その春、日本の空気は、一人の来日によって揺れ動いていた。1. メディアの熱狂民放のワイドショー。新聞の号外。ラジオのニュース。そして、SNS。すべてが、ただひとりの来日を報じていた。画面に、テロップが並ぶ。『ファッション界の帝王、 アレッサンドロ・ノルディ来日』『天皇陛下ご拝謁、 首相官邸で会談へ』キャスターの声が重なる。「パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドン―― そして、《ノルディ・コレクション》。 五大コレクションの中で、 デザイナー自身の名を冠する、 唯一の存在です」羽田空港に到着する、黒塗りの車列。
春の光が、静かに窓辺を満たしていた。白いカーテン越しの光はやわらかく、だが逃げ場がない。彩は十二歳。中学一年生になったばかりだった。その傍らに立つ姉――歌原レイラ、二十四歳。死まで、あと四年。1. スキャンダルあれから六年。私はモデルとして、誰よりも強く、誰よりも美しく光ってきた。アジアの街角。空港の到着ロビー。巨大ビルボードに並ぶ、自分の顔。電車の車内広告にまで刷り込まれた姿は、いつの間にか「私」ではなく、消費されるための“記号”になっていた。それでも構わなかった。彩を守れるなら、それでいい。だが今――その歩みを、大きく揺るがす出来事が起きていた。ロ







