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第10話《守る者》

last update publish date: 2026-03-11 05:27:21
一枚の写真は、静かに世界を動かした。

けれど、本当の問題はそこから始まる。

*

朝。

UTAHARA OFFICEの会議室には、同じ雑誌が何冊も積まれていた。

レイラが独立して立ち上げた小さな個人事務所。規模こそ大きくないが、その名はすでに業界の中で知られている。

開かれているのは、どの雑誌も同じページだった。

中央に立つ少女。

歌原彩。

白い光の中で、派手なポーズを取っているわけでも、カメラへ媚びているわけでもない。

それなのに、写真を見ると最初に服へ目が行く。

パーカーの布が肩から自然に落ち、スカートの線が身体の中央をまっすぐ通っていた。静かに立っているだけなのに、服そのものが形を持っている。

会議室では、何人ものスタッフがスマートフォンを確認していた。

「また増えてます」

「トレンド、まだ落ちてません」

別のスタッフが画面を見たまま読み上げる。

「『このモデル誰?』『この服こんな良かった?』『イヴァ・ルシア完売』……投稿、止まらないです」

「通販は全部売り切れたそうです」

「店舗在庫も、朝の時点でほぼゼロです」

「ブランド側、追加生産に入るっ
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  • 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』   第100話《一人だけ》

    午後四時。 RE:CODE MODE CONTEST。 第二ラウンド開始。 その宣言と同時に。 各チームへ封筒が配られた。 中身は。 十万円。 一時間。 持ち込み禁止。 そして。 モデル一人につき、連れていけるスタッフは一人だけ。 会場の空気は。 第一ラウンドまでとは。 明らかに違っていた。 「本当に今から?」 「聞いてないんだけど」 「一時間で?」 「これ、ルール変更じゃない?」 当然だった。 五時間かけて。 全員が。 自分たちなりの最高を作った。 そこから。 結果発表へ進むはずだった。 なのに。 突然。 もう一度作れと言われた。 しかも。 今度は。 一時間。 一人。 十万円。 不満が出ない方がおかしい。 良太も。 身体の内側で。 同じことを思っていた。 《身勝手すぎるだろ》 良太の身体を動かしているレイラは。 答えなかった。 周囲を見る。 御堂玲奈のチーム。 真壁ミラのチーム。 他のモデルたち。 文句を言う者。 すぐに動き始める者。 スタッフ同士で相談する者。 誰を連れていくかで。 すでに時間を使い始めている。 その中央。 ノルディは。 静かに立っていた。 自分が。 この混乱を起こした張本人なのに。 何も言わない。 レイラは。 その顔を見る。 そして。 ふと。 思った。 今日。 何度も。 ノルディの視線を感じていた。 彩ではない。 自分。 いや。 与那嶺良太へ。 審査席にいる時も。 フロアを見ている時も。 妙に長く。 良太を見ていた。 《……まさか》 良太が反応する。 《何》 レイラは答えない。 ノルディ。 世界中で。 何度も自分を見てきた男。 歩き方。 立ち方。 人を見る順番。 判断の癖。 もし。 良太の身体の中にいる自分を。 何かの形で。 感じ取っているとしたら。 ありえない。 幽霊。 憑依。 そんなものまで。 分かるはずがない。 それでも。 《……気づいた?》 完全にではない。 ただ。 何かが。 引っかかっているのかもしれない。 その確認のために。 第二ラウンド。 そんな考えが。 一瞬だけ。 頭をよぎった。 《レイラ》 良太が呼ぶ。 《考えてる時間がも

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  • 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』   第98話《見ていない》

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  • 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』   第96話《残すもの》

    第96話《残すもの》 午前十一時。 RE:CODE MODE CONTEST。 良太は。 いや。 良太の身体を借りたレイラは。 彩を歩かせていた。 白いTシャツ。 ジーンズ。 まだ本番用の衣装ではない。 メイクもしていない。 一往復。 二往復。 レイラは声をかけない。 ただ見る。 一歩目。 迷いはない。 歩幅も縮んでいない。 右肩は上がらない。 ターンの直前で足も止まらない。 呼吸。 浅くない。 視線。 周囲は見えている。 けれど。 周囲に引っ張られてはいない。 彩が戻ってきた。 「もう一回?」 「いや」 良太の口から答える。 「もういい」 彩が止まる。 レイラは、その顔を見る。 緊張していないわけではない。 観客。 カメラ。 御堂玲奈。 真壁ミラ。 自分より長くモデルを続けてきた人間ばかり。 怖くないはずがない。 それでも。 彩の身体は逃げていなかった。 「彩」 「はい」 「怖い?」 「怖いです」 返事は早い。 「何が?」 彩は少し考えた。 「失敗するのも」 一拍。 「見られるのも」 「帰りたい?」 今度は。 少しだけ笑った。 「それはないです」 レイラの口元も、わずかに上がる。 以前なら。 大丈夫です。 そう答えていただろう。 今は。 怖いものを怖いと言う。 そのうえで。 立っている。 身体の奥で、良太が聞いた。 《どう?》 レイラは彩から目を離さない。 《かなりいい》 《そんなに?》 《呼吸が乱れてない。肩も逃げてない。床も怖がってない》 一拍。 《それに》 彩は。 観客席のどこかを一度見た。 神谷章介がいる場所。 すぐに前へ戻る。 《揺れても、自分で戻ってくる》 良太は黙った。 レイラは思う。 今日の彩は。 整っている。 完璧ではない。 完成してもいない。 けれど。 本人が。 ちゃんとそこにいる。 だったら。 外から完成形を被せる必要はない。 * 「七瀬」 「何?」 「始めていい」 七瀬がメイク道具を手に取る。 「やっと?」 「でも、作りすぎないで」 七瀬の手が止まった。 「どういう意味?」 「今日の彩、調子いいから」 「それは見れば分かる」 「なら、消さないで

  • 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』   第95話《何を捨てるか》

    午前十時十五分。 RE:CODE MODE CONTEST。 チーム彩は、まだ会場を出ていなかった。 他のチームでは、すでに何人ものスタッフが街へ向かっている。 ブランドショップ。 化粧品売り場。 資材店。 今日の光、床、気温、湿度。 その条件に合わせて、より良い選択肢を増やすために。 けれど。 良太は佐久間博之の衣装ケースを見下ろしていた。 その身体を動かしているのは、レイラだ。 それを知っているのは、身体の内側にいる良太だけだった。 「全部出して」 佐久間が顔を上げる。 「全部ですか?」 「候補になってるもの」 佐久間がケースを開く。 本番用の衣装。 予備のパーツ。 素材違いの付属品。 奏も小物を並べる。 七瀬も、使う可能性のあるメイク道具を机へ置いた。 思っていた以上のものが、彩の前へ並んだ。 奏が聞く。 「ここから選ぶんですか?」 「ううん」 良太の口から、迷いのない声が出る。 「捨てるの」 三人が止まった。 「今日、使わないものを決める」 小物を一つ指す。 「これ、いらない」 奏が目を丸くする。 「昨日まで候補でした」 「昨日はね」 次。 「これも」 佐久間が聞く。 「理由は?」 「今日の光だと、服より先に目へ入る」 さらに七瀬の道具を見る。 「その色も使わない」 七瀬が眉を上げた。 「まだ顔を作ってないけど」 「だから分かる」 良太の視線が彩へ向く。 白いTシャツ。 ジーンズ。 ノーメイク。 何も足していない。 「今日は、足さない方が強い」 奏が並んだ小物を見る。 「でも、ノルディさんに見せるなら、もっと特徴を出した方が……」 「やめた方がいい」 答えは早かった。 「ノルディは、何を持ってきたかだけ見ない」 佐久間が顔を上げる。 「じゃあ、何を?」 「何を捨てたか」 一拍。 「そこも見る」 七瀬が良太を見る。 今日の社長は。 やはり言い切る。 しかも。 ノルディを知っている人間のように。 * 身体の内側で。 良太が聞いた。 《本当に?》 《何が》 《何を捨てたかまで見るって》 《見るわよ》 良太の視線が、審査員席へ一度だけ向く。 《完成したものだけ見てる人じゃない》 《じゃあ何を見るんだよ》 《選んだ

  • 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』   第4話 《最初の決意》

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  • 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』   第一章 最後の約束 第1話 《ランウェイとランドセル》

    春の夕暮れ。アスファルトに残る昼の熱が、まだ足元から立ちのぼっていた。小学一年になったばかりの彩は、背中に大きすぎるランドセルを揺らして歩いている。その隣を歩くのは、姉――十八歳の歌原レイラ。死まで、あと十年。1. 楽屋裏・ファッションショー会場(都内某所)制服のまま。大きすぎるランドセルが、背中をいっそう小さく見せる。彩は、控室の扉のすき間から中をのぞいていた。鏡台の前。一流のメイクアップアーティストたちが、迷いのない手さばきでレイラを仕上げていく。パウダーの匂い。ライトの熱。空気そのものが、張りつめている。彩は目を丸くし、夢中で見入った。――お姉ちゃんが、

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