134.解放

架純は広い邸宅の、豪奢なリビングでただじっと座っていた。

周りでは使用人たちが主を迎える為に忙しく働き、誰も彼女のことなど気にしていなかった。

時々彼らの口からチッという舌打ちが聞こえたけれど、架純は我関せずで窓の外に目を向けた。

「……」

陽射しの強いこの国で彼女のような白い肌は珍しいのか、当初はジロジロと見られることが我慢ならなかった。

夫に言っても「気にするな」の一言で片付けられ、架純はそれ以上何も言うことができなかった。

３年前、結婚式を終えてその足でプライベートジェットに乗り込み、この国に来た。

確かに夫となった男は威圧的で怖かった。だが、その経済力とカリスマ性には満足していた。

自分は間違ってない。この男を選んだことは、自分の人生を良い方向にきっと変えてくれる。

いくら女性の地位が低いとは言っても、自分は闇社会のボスだと知らされたこの男の正式な妻なのだから、扱いが悪いわけがない。

そう思うことで、架純は胸の中の不安を抑えつけていた。

だが、３年経った今ー

自分はなんの期待もしていなかった。

「架純、久しぶりだな」

「……ええ」

彼女は淡く微笑んだ。

薄く開いた唇の隙間から、小さな石がきらりと光った。

男は満足気に頷くと架純の隣に座り、その薄い肩を抱き寄せ、尖った顎を指先一つで固定した。

「っ…」

無理矢理上向かされて、その痛みに一瞬眉を顰めそうになったが、グッと堪えた。

今の彼女は当時よりも痩せ細り、抵抗する力などなかった。あったとしても、しようとは思わなかった。

「架純、口を開けて」

「……」

素直に唇を開いた。

男はそっとその上唇を指で持ち上げて、彼女の前歯にチャームのように着けられた小さなダイヤに口づけた。

架純は拳を握ることでどうにか震えを抑え込み、その顔には嬉しそうな微笑みを浮かべた。

「今日は？一緒にいてくれるの？」

尋ねると、この国での名前をRelly（レリー）という夫は頷いた。

「ああ。久しぶりにゆっくりするよ」

「そう…」

微笑みながらも、心の中ではがっかりしていた。

せっかく落ち着いていたのに…。

密かにため息をつくと、途端に夫の目が凄んだ。

「なんだ？嬉しくなさそうだな？」

「うっ…」

ガシッと髪の毛を掴まれて、仰け反った。

「やめて…誤解よっ…」

軽く腕を叩くと、レリーはフンッと鼻を鳴らして解放してくれた。

コホッ、コホッ…と咳き