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434話

Auteur: 籘裏美馬
last update Date de publication: 2026-06-10 21:07:51

「ちょっと電話に出ますね、待っててください」

苓さんにそう言われた私は、こくりと頷く。

私が頷いたのを見て、苓さんは電話に出た。

「──もしもし、谷島?」

〈小鳥遊か?こんな時間にすまないな〉

「大丈夫だ。今から茉莉花と一緒に警察署に行こうと思っていた」

苓さんがスピーカーにしてくれたお陰で、谷島さんの声が私にも聞こえる。

苓さんの言葉を聞いて、谷島さんが驚いたように声を発した。

〈藤堂さんと?今からって事は、今そこに藤堂さんも居るのか?〉

「ああ、一緒に居るよ」

「谷島さん、おはようございます。藤堂です」

苓さんの言葉の後に私が続けると、電話の向こうに居た谷島さんが「おはようございます」と柔らかく挨拶を返してくれた。

〈一緒なら丁度いい。警察署には来なくて大丈夫だ。昨日、スタッフの女性が速水 涼子からの依頼だった、としっかり供述したよ。今警察は、速水を追う事に忙しい。今回の事件については、また後日改めてそちらに伺う〉

「──そうなのか?今日は行かなくて大丈夫だと?」

〈ああ。なるべく家を出ないでくれ。1人歩きは避けて欲しい。特に藤堂さんは〉

「……速
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  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   435話

    翌週。 私は苓さんが運転してくれる車で会社に出社した。 「茉莉花、仕事が終わったらそっちに行きます。そんなに遅くならないと思うので、本部長室で待っていてください」 「分かりました、苓さん。運転、気を付けてくださいね」 「ええ、大丈夫です。茉莉花も来客などには気を付けて」 「はい」 運転席の窓を開けてくれた苓さんと話をする。 苓さんはさっと確認をすると、ちょいちょいと私を手招きした。 どうしたんだろう?と思い、私が腰を屈めると、苓さんが窓から自分の腕を出し、私の後頭部を優しく覆った。 ぐっ、と優しく引き寄せられ、そのまま苓さんに口付けられる。 「──んっ」 時間にしたら、数秒だけ。 すぐに唇を離した苓さんは、私の頬を軽く撫でて微笑んだ。 「また後で、茉莉花」 「はい……、苓さん」 私は頬を赤く染めたまま、駐車場から社員用のエレベーターに向かった。 エレベーターに乗り込んだ所で、苓さんの車が走り去って行くのを見送った。 「おはようございます、藤堂本部長!」 「おはようございます矢田主任」 本部長室に入ってきた矢田主任が元気よく挨拶をしてくれる。 私も笑顔で挨拶を返すと、矢田主任がバインダーを手渡してくれた。 「本部長、決済書類です。お願いします」 「ありがとうございます。すぐに確認しますね」 バインダーを開き、すぐ内容に目を通す。 署名をしながら、私は矢田主任に向かって問いかけた。 「そう言えば矢田主任。最近チームの皆の残業時間は大丈夫そうですね。家に持ち帰ってお仕事をしているような人もいませんか?」 「はい!大丈夫です!藤堂本部長が本部長になられてから、仕事の質も上がってますし、残業時間も減りましたし!仕事後は、自分の時間が出来たって皆喜んでますよ」 「ふふっ、それなら良かった。やっぱりオンとオフ、公私は分けないと」 「ありがとうございます。私も……その、彼との時間が以前より増えて凄く嬉しいんです。本部長のお陰です」 「──まあ!それは嬉しいです」 恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑う矢田主任。 そんな矢田主任を見ていると、私まで嬉しくなってしまって。 私は笑顔で矢田主任を見送った。 パタン、と扉が閉まった瞬間、私は今まで浮かべていた笑みをすっと消す。 「……残業時間は、減った。それに、持ち帰りの

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   434話

    「ちょっと電話に出ますね、待っててください」 苓さんにそう言われた私は、こくりと頷く。 私が頷いたのを見て、苓さんは電話に出た。 「──もしもし、谷島?」 〈小鳥遊か?こんな時間にすまないな〉 「大丈夫だ。今から茉莉花と一緒に警察署に行こうと思っていた」 苓さんがスピーカーにしてくれたお陰で、谷島さんの声が私にも聞こえる。 苓さんの言葉を聞いて、谷島さんが驚いたように声を発した。 〈藤堂さんと?今からって事は、今そこに藤堂さんも居るのか?〉 「ああ、一緒に居るよ」 「谷島さん、おはようございます。藤堂です」 苓さんの言葉の後に私が続けると、電話の向こうに居た谷島さんが「おはようございます」と柔らかく挨拶を返してくれた。 〈一緒なら丁度いい。警察署には来なくて大丈夫だ。昨日、スタッフの女性が速水 涼子からの依頼だった、としっかり供述したよ。今警察は、速水を追う事に忙しい。今回の事件については、また後日改めてそちらに伺う〉 「──そうなのか?今日は行かなくて大丈夫だと?」 〈ああ。なるべく家を出ないでくれ。1人歩きは避けて欲しい。特に藤堂さんは〉 「……速水 涼子は、茉莉花を狙っているから?」 〈その通りだ。捜査が大規模になって来ている。追い詰められた速水が何をしでかすか分からないからな〉 「……速水家は?どうしてる」 〈速水家にもしっかり警察を配置しているよ。母親は今のところ怪しい動きは無しだ〉 谷島さんの言葉を聞き、私と苓さんは顔を見合わせた。 速水家に怪しい動きは無い。 それならば、やっぱり──。 「分かった。進捗があればまた教えてくれ」 〈ああ、勿論だ〉 「じゃあ、切るよ」 〈ああ〉 苓さんと谷島さんは言葉少なに挨拶を終えると、電話を切った。 電話を切った苓さんが私に顔を向ける。 「……速水家が動いていないなら、やっぱり……」 「ええ。涼子は別の人間から情報を得ているんでしょうね」 苓さんと話した通り、藤堂の会社か、小鳥遊建設に情報を流している人がいるのだろう。 多分、苓さんの会社じゃなくて、藤堂の会社に。 悔しさでぐっと唇を噛み締めると、苓さんの指がふと優しく触れた。 びっくりして私が顔を上げると、苓さんは私を気遣うような優しい笑みを浮かべてくれている。 「唇を噛んだら痕になってしまいます

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    ◇ ドタドタ、と廊下を走る足音が聞こえてきて、私はキッチンからふと顔を覗かせた。 一緒に朝食を作っていたお母様がくすくすと笑いながら告げる。 「ふふ、苓くんが起きたみたいね。話に聞いていた通り、本当に朝に弱いのね」 お母様に振り返り、私は笑いながら頷く。 「ええ、そうなんです。今日は寝坊してしまったみたいですね」 「でもまだ寝坊って時間帯じゃないわ。お父様やお祖父様に比べれば全然早い方よ」 「えっ、お父様やお祖父様も朝が苦手だったんですか?」 いつもお父様はピシッとしていて、朝が苦手なんて知らなかった。 私が驚いて聞くと、お母様はくすくすと笑いつつ頷く。 「ええ、そうよ。茉莉花が産まれてから、大分直ったけど……昔は酷かったんだから。今でも時々寝坊してしまう事もあるのよ?」 「──それはきっと、お母様が目覚められて、安心したからだと思いますよ」 「そうかしら?怠けているだけよ、きっと」 私とお母様が笑いながら話していると、慌てた様子で苓さんが食堂にやって来た。 「す、すみません……!寝過ごしました……!」 髪の毛を乱している苓さんが珍しくて、私が驚いているとお母様が私の背中をトン、と押した。 「後は大丈夫よ。手伝ってくれてありがとう、茉莉花。苓くんにお水を持って行ってあげて」 「ありがとうございます、お母様」 私はお母様からお水の入ったグラスを受け取り、キッチンを出て食堂に向かう。 「苓さん、おはようございます」 「おはようございます、茉莉花」 苓さんにグラスを手渡しつつ、乱れてしまった苓さんの髪の毛を直す。 そのまま苓さんの隣に座ると、喉を潤した苓さんがこそっと耳打ちしてきた。 「──茉莉花、体は?大丈夫ですか?」 「──っ!?」 「昨日は、すみません……。我慢が出来なくて……」 「れっ、苓さん……っ!」 こんな所でやめてください、と言う意味を込めて苓さんを睨む。 すると、苓さんは私の視線を受けてふにゃりと様相を崩した。 「良かった……無理をさせたと思ってたので……」 「も、もういいです、その話は……!」 「さあ、茉莉花に苓くん。朝食が出来たわ、食べましょう」 こそこそと苓さんと言い合っていると、キッチンから出てきたお母様が食事をトレーに乗せて運んでくれる。 私たちは慌てて椅子から立ち上がると、お

  • あなたの「愛してる」なんてもういらない   432話

    ◇ 「──ん」 朝、眩しい光がカーテンの隙間から射し込んでいて、私は目を覚ました。 起き上がろうとしたけど、私の体にガッチリと逞しい腕が回っていて、動く事が出来ない。 「──〜っ」 その腕の持ち主が苓さんだと分かった瞬間、私の頭の中に昨夜の出来事が一気に蘇った。 顔がぼわっ、と熱を持ったように熱くなり、私は自分の顔を両手で覆った。 あ、あんな事を……!お風呂で……っ! はしたない!はしたないわ……! 私が1人で悶えていると、私を抱きしめる腕に力が籠った。 「茉莉花……?」 「れっ、苓さん……!?起きたんですか!?」 「──んん、まだ、眠い……。もう少し寝ましょう……」 寝起きだからか、普段より掠れて低い声。 それに、どこか気怠さを含んでいる声はどこか色気を孕んでいて。 昨夜の事を思い出した私のお腹がずくり、と疼く。 「──っ」 昨日は、お風呂場であんな事をした後、それだけでは収まらず、結局このベッドの上で何度も求め合ってしまったのだ。 苓さんの怪我に響くから、だからお風呂場で欲を解消して欲しかったのに。 けれど、苓さんの欲は益々昂ってしまって──。 最後は、意識を失うようにして眠りについたのだ。 だから、私と苓さんは未だに何も衣服を身に付けておらず、素肌のまま。 温かな苓さんの体温が凄く心地よくて。 このまま眠ってしまいたい気持ちになるけれど、いつまでも幸せに浸っている場合じゃない。 私は、朝に弱い苓さんを起こしてしまわないように慎重に腕から抜け出す。 動いた瞬間、体のあちこちがぴきり、と痛んだけどそれには気が付かない振りをして服を身に付けていく。 もしかしたら、今日警察が来るかもしれないのだ。 事件の事を聞きにくるかもしれない。 それに、谷島さんが涼子の件でやって来るかもしれないから。 その準備をしておかないと。 私は、すやすやと眠る苓さんを起こさないようにそっと部屋を出た。 ◇ 「──んん、茉莉花?」 ふ、と目が覚めた。 隣にいるはずの茉莉花の温もりを求めて腕を動かしたけど、掴んだのは冷たいシーツだ。 「──っ!?」 俺は、一瞬で目が覚めてがばりと起き上がった。 背中にビリッとした痛みが走ったが、そんな事に構っている暇は無い。 「茉莉花……?」 シーツに、茉莉花の体温は残っていない

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    「れっ、苓さ──」 「ちょっと待って、待ってください茉莉花……っ」 ばくばく、と心臓がけたたましい音を立てている。 それは、私の心臓かそれとも苓さんの心臓か──。 どちらの心臓の音なのか分からないくらい、私たちは近くて。 「お、落ち着き、ます……、だから、お願いですから、動かないでください……っ」 苓さんの切実な声が聞こえる。 私は、そろそろと顔を上げて苓さんを見た。 すると苓さんはぎゅっと目を強く瞑り、真っ赤な顔で何かに耐えるようにぶるぶると震えていた。 私を抱きしめる苓さんの腕の力が強くて、身動ぎが出来ない。 私のお腹にある、苓さんのそれ、が……どくどくと脈打っているのが分かって。 どうしよう、どうしたら、と頭の中にはその言葉だけがぐるぐる巡っている。 ぎゃ、逆に、苓さんに欲を発散してもらった方が落ち着くのではないだろうか。 む、無理に耐えなくても。 私はそう思い、そろそろ、と自分の腕を下げて行く。 私が腕を動かしたからだろうか。 私の手が、苓さんの腰を掠ってしまった。 「──ぅあっ」 「──っ!?」 瞬間、苓さんの体がびくっ、と跳ねる。 苓さんの、掠れた低く、色っぽい声が私の耳元で聞こえた。 そして、抱きしめていた体勢から少しだけ体を離した苓さんが、真っ赤な顔で信じられない、と言うように私を唖然と見つめた。 「な、何を……、」 苓さんが真っ赤な顔のままぱくぱくと口を開けているのを見て、私は頭の中がパニックになりつつ、慌てて口を開いた。 「ちっ、違っ、その……っ、苓さんが無理に耐える必要はないと、思って……!そのっ、えっと……っ、お手伝いをした方がいいかと……!」 パニック状態になっている私の口からは、とんでもない言葉が紡がれてしまって。 私の言葉を聞いた苓さんの顔が益々真っ赤になって、その赤みが体にまで現れている。 唖然としていた苓さんだったけど、私がわたわたと視線を彷徨わせている間に何か吹っ切れたのだろう。 「──分かりました」 そう、低く呟いた苓さんの声が聞こえた。 「──え?……んむっ!?」 私が苓さんの低い声にびっくりしていると、苓さんが私の後頭部をガシっと掴んで強い力で引き寄せた。 驚いた私をそのまま引き寄せ、苓さんの唇が私の唇に重なる。 驚いた拍子に開いていた私の唇の隙間から、苓

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    私は、入ってきた苓さんを直視しないようそっと視線を外しながら、泡立てたボディーソープをボディタオルにつける。 そして、苓さんにバスチェアに座るように促した。 「苓さん、そこに座ってください。体を洗います」 「わ、分かりました……」 苓さんはぎこちなく歩いてくると、大人しく椅子に座ってくれる。 背中を私に向けて座った。 病院で手当を受けた、防水仕様の傷口を覆うシート。 その部分に触れてしまわないよう、そっと優しく苓さんの背中にボディタオルを当てた。 「力加減大丈夫ですか?」 「ん……大丈夫です」 「傷がある付近は洗わないでおきますね、刺激しちゃうと痛いと思いますから」 「ありがとうございます、茉莉花」 ごしごし、と苓さんの背中を洗う事に集中する。 苓さんの背中は広くて、逞しい。 しなやかな筋肉が隆起していて、私はいつもこの体に抱かれているのか──。 そう、場違いにもそんな事を思い出してしまって。 駄目だ、こんな事を考えていたら。 今は苓さんのお手伝いをしているんだから……! 背中を洗い終え、傷口に水が掛かってしまわないように気をつけながらシャワーで流す。 ボディーソープをタオルに足して、次は前を洗おうと、私は苓さんの前に回り込んだ。 「次は前面です、洗いますね」 「──えっ!?ちょ、ちょっと待ってください茉莉花……!前は自分で洗います……っ!」 苓さんが慌てたように声を上げ、私の手首を掴む。 だけど、私の手首は今しがた泡立てたボディーソープがついていて、苓さんが手首を掴んだ瞬間、ぬるりと滑った。 「──えっ、あっ、きゃあっ!」 「えっ、うわっ!」 苓さんに手首を掴まれたと同時に、引っ張られてしまった私は、足元のボディーソープに足を取られ、滑ってしまった。 私がバランスを崩した事に気が付いたのだろう。 苓さんが腕を広げ、私を抱き留めてくれた。 その瞬間、苓さんの素肌と、私の体が密着してしまう。 私の体には、タオルを巻いていたけれど、それも今の衝撃で外れてしまって──。 「──っ」 水分を吸ったタオルが、べちゃりと音を立てて床に落ちてしまった。 私の体が顕になり、それを至近距離で見てしまった苓さんの体がぎちり、と固まった。 「ごっ、ごめん

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    苓さんとキスを交わしながら、私はここ最近感じていた違和感を確かめるように、自然な流れで薄っすらと唇を開いた。 だけど、苓さんはそれに気付いているはずなのに、唇を重ね合わせるだけの可愛らしいキスばかりを私に贈ってくれる。 以前、一夜を共にしてしまった時の、情熱的な、まるで食べられてしまうんじゃないかと言うくらいのキスは、お付き合いを始めてから1度もされた事が無い。 苓さんがしてくれないなら、と私からしてみようとしたその時──。 「──っ、茉莉花さん……っ」 「んっ、苓さん……?」 私が何をしようとしているのかを察したのだろう。 苓さんはがばり、と私から体を起こして離れてしまった

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