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黄金の隧道(トンネル)

Author: みゃー
last update Last Updated: 2025-07-23 19:45:14

 クロがアビをずっと探していたなんて、理久には思いもよらない事実だった。

「ウソ?なんで?なんで、クロがアビさんを?」

 理久は、緩めたとはいえアビの黒マントの胸元を掴んだまま、興奮気味に返事を迫った。

「それは……理久さんも見たでしょう?この世界と理久さんの世界を結んでいる魔法の紋様、魔法陣を……」

 アビは、少し苦笑いして言った。

 理久は頭の中に、クロの城の中で見たアレを虚ろながら思い浮かべた。

「魔法の……紋様……って……なんか……丸が一杯描いてあって、なんか他にも分かんない模様とか字とかもあるやつ?」

「ええ……そうです。実は、アレを描いて魔法陣を完成させたのは、僕の祖父でして……」

 理久は、ポカンとしてしまう。

「理久さん……その魔法陣、一部消えかかってませんでした?」

 アビは、眼光を光らせた。

「そ、それは……確かに少し薄い部分があったような……」

「そうですか……人ずてに聞いたんですよ。祖父のどこかにある魔法陣が消えかかってて、直す為にアレクサンドル陛下が臣下を使って顔も知らない孫の僕を探していると」

「え!……」

 理久は、驚きながら、だから……クロの様子がおかしかったのかと気付く。

「僕の方は、祖父の日記を読んで城に魔法陣があるのは知ってはいたんですが……でも、僕はこの通り、祖父と違いポンコツの魔法使いで……偉大な祖父の魔法陣は直せません。ですが、僕以外でも、あの魔法陣を直せる程の魔法使いも今はどこにもいないでしょう」

「えっ……」

「それに、僕は魔法使いは引退してまして……もう、魔法にはあまり関わりたくは無かったんです。兄も、魔法使いの素質は一切受け継いでませんし」

 理久は、ただ唖然としながら黙って聞くしか無かった。

「でも、なんかこう、どうにも気になって……こっそり事情を探ってたんですが、今日もたまたま陛下と理久さんの後を付けていたら、たまたまイヤな奴らにぶつかってしまって……理久さん達に助けて貰ったんですよ。これは、本当です」

 理久は、アビから手を離す。

「理久さん……本当にありがとうございました。助けてもらわなければ、今頃僕はどうなってたか……」

「それは……俺は何もしてないよ……クロが全部やってくれたんだ……それに、事情は深くまで分からないけど、クロなら、アビさんがちゃんと話せば絶対に分かってくれるよ。今すぐクロに話そう……」
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