これは、オレとお前だけの秘密だ」
そんな意味ありげな甘い言葉。
「オレと契約しない?」
それは甘い契約?
それとも……。
<これは社長とあたしのおいしい契約恋愛>
◇ ◇ ◇「ねぇ~見て~桜子~」
「ん~また、依那(えな)の推しのルイルイ?」 「そ~! 今日更新されたこの写真。もうこの写り最高すぎる~」 「相変わらず飽きないね~」会社の昼休み。
ランチをするため会社の食堂に向かいながら、愛する推し琉偉(るい)がSNSにUPした写真を同僚の桜子(さくらこ)に見せる。 そんなあたしは逢沢 依那(あいざわ えな) 24歳。 カフェやレストランなどをコンサルティングやプロデュースする〈K dream〉という会社に勤めている。 カフェ好きな自分としては結構楽しい仕事。 まぁでも仕事の立場では中途半端な位置だから失敗して落ち込むこともあったりしたりもするけれど。 でも、そんな時は推しのアイドル琉偉に癒してもらう日々。 時にはSNSで時には実際ライブなどに会いに行って癒しや幸せをチャージしている。 琉偉はまだ20歳になったばっかりで同年代の男の子たちと5人グループで頑張っていて。 可愛いモノや可愛い人に目がないあたしはなんといっても可愛いという言葉がピッタリの琉偉ことルイルイを推せるのが何より幸せ。 今みたいに普段から琉偉がSNSに載せてくれる写真や公式でアップしてくれる動画などを観ては興奮して桜子に共有して休みの日にそんな推しの予定が合うとライブやイベントに足を運んでその時の推し活報告を翌日に桜子にするというのがいつもの日課だ。「確かにこのルイルイ可愛いね~」
「でっしょ~。ルイルイはマジで天使」 「まぁ可愛いモノに目がない依那ならハマっても仕方ないかもね~」 「うん。ルイルイはドンピシャの可愛さ♪」 「あっ、そういえばうちの社長またいろいろ雑誌やテレビ出てたの観た?」 「へ~。また出てたんだ~。うちの社長ムダにイケメンだもんね~」 「いや、別にムダじゃないけど(笑) そんな風に言うのあんたくらいだよ(笑)」 「え~だってあの社長あたしの好きな可愛いの正反対に住んでる人間だよ?」 「確かに、ルイルイが可愛さの最上級なら、うちの社長はカッコよさの最上級?」 「一般的にはそんな感じだけど、あたしん中では最上級の天使と悪魔だから」 「また出た(笑) 依那のその天使と悪魔(笑)」 「いや、これあたしの中で最上級の誉め言葉だから」 「まぁうちの社員や世間ではあのクールなところやデキる男って感じが全面的に出てるのがいいって絶賛だしね」それがまさにルイルイと別世界の人なんだよ。
「それに加えてビジュアルもそこらのモデルやアイドル顔負けのスタイルと顔面! なのにいまだ独身の神城 慧(かみしろ けい)社長33歳! どこ行ってもその有望株に飛びつく女性がわんさかだもん。うちの会社入社してる女性社員ほとんどが社長狙いだし気に入られたくて必死だからね」
「確かにうちの社長いつの間にかそういう感じになっちゃってるよね~。でもあたしはそういう意味でいうと可愛いが優先だから正反対の社長は全然そういう感覚で考えたこともない」 「まぁ依那の基準そこだよね~」「ってか元々うちらみたいな社員は社長に近づくことも早々ないしそもそも社長に恋愛対象とかそんなの持つレベルじゃないのよ」
「確かに。結局狙えるのはそれなりの位置にいる先輩とか秘書の人とかだし」 「そうそうルイルイみたいに年下の可愛い子推せればそれだけで♪」 「でもそのルイルイも依那にとってはガチ恋ではないんでしょ?」 「あ~。うん。そう……だと思ってる」 「自信なさげ(笑)」 「だって現実の男……ろくなのいない……」 「あぁ~。そうだった~。依那昔からそんな感じだったもんね」 「まぁいいなぁって思った人はいたけど琉偉好きな気持ちに比べたら好きなんてレベルじゃなかったわ。琉偉ほど夢中になる人いなかったもん」 「まぁ依那はそれで、ある意味幸せか」 「そう。ルイルイ好きなら直接傷つけられることもないし、自分がダメなのかな~とかそういうのも悩まないで幸せな気持ちだけでいられるじゃん」 「まぁね」 「その点、桜子はいいな~。ラブラブの彼氏いて」 「ま~大(だい)ちゃんは幼馴染で気が知れてるとこあるからね~」 「いいな~。幼馴染で小さい時から知ってて付き合うなんて、それこそ理想だよ~」 「でも今は依那は琉偉くん一筋だから他に見向きもしないしね~。まぁ現実もいい男ばっかとは限んないしそれなら傷つくことなく瑠偉くん好きでいる方が依那は幸せかもね~」 「桜子はそういうとこ理解してくれてるの有難い」「今はそれが依那だしね~」
「とにかくルイルイもいるし社長はあたしにとってそういう対象じゃないっていうか」
「まぁ確かに依那のタイプからいうとそういうんじゃないよね」 「可愛いもん好きのあたしからしたら社長はそもそもタイプじゃないっていうのもあるんだけど。でも仕事に関しても女性関係に関しても怖いって噂聞くしさ。もうまともに接するのも無理」部署まで続く廊下を歩きながら、桜子とそんなことを言いながら歩いてると。
「あぁ~わかってる。それはもう先に進めていい。あぁ。オレが責任取る」
ん? すぐ近くで電話してるっぽい人がなんだかどこかで聞いたことあるような声……。
「本村(もとむら)。さっきの話、やっぱり先方に連絡取って進めておいてくれ」
「わかりました。社長」 ん……? え……、社長……って聞こえましたけど……? いやいや、まさか、まさか。「ちょっと、依那……」
「ねぇ……桜子さん。後ろにいるのって、まさかのまさかだったりする……?」 ことの重大さに気付き、桜子がこっそり声をかけてきたあとに、あたしの言葉を聞いて後ろをそっと確認する。 「え~っと……。その、まさかだね……」 「あ~。やっぱりですか~」マズいマズい! やっぱり後ろにいるの社長じゃん!!
えっ、いつからいた!? どこから話聞いてた!? てか、悪魔とか言ったの自分だってまさか気付いたりしちゃってる!? どうしよ、どうしよ。 ただの平社員の小娘の分際でそんな恐れ多いことまさか本人に聞かれてるかもしれないとは……! 悪魔って言ったの本音じゃないし実際そんなの言えるほどまったく絡みもしたことないのに! ただただ話のノリでつい言っちゃっただけなんで! なんて、心で言い訳したところで当の本人に伝わるはずもないけど。あまりの状況の恐ろしさに、さすがにあたしは後ろを振り向けなくて、思わず早足になる。うん、ここは気付かないフリして顔見せずにそのままここはさらっと立ち去ろう。
このまま存在わからなければ、こんないっぱい社員いるのに誰だかわかんないし、後々覚えてもいないはず。 よし、それでいこう。 そして、そのまま早足で歩いて行こうとすると。「おい。ちょっと待て」
背後から低い冷静な声で、呼び止められる声がした。すると。「逢沢。顔上げろ」静かにあたしに声をかける社長。「……はい」どうしよう。社長怒ってたら。あたしみたいなヤツにこんな勝手なこと言われて絶対ムカついたよね。だけど、契約……解消したくないよ……。そのまま俯いたまま、ちょっと泣きそうな寸前になっていたら……。「フッ。お前、なんて顔してんだよ?」すると、社長はあたしを見てなぜか優しく笑う。「……えっ?」「わかったから。もうそんな顔すんな」「わかったって……」「オレが余計な気回しすぎただけだったみたいだな。悪かった」「いえ! 社長は全然悪くないです! あたしが勝手に……! 勝手に……ちょっと悲しくなっちゃっただけです……」「うん。別にお前をそんな風にさせたかった訳じゃないから」「わかってます。全部社長の優しさで言ってくれたことも全部。だけど。社長がご迷惑じゃなければ、まだあたしは契約続けたいです……」「迷惑なことあるはずないだろ。オレ的には助かってるんだし。だけど、まぁお前的に特に問題がないなら、もちろんオレ的にはまだこのまま続けてほしいと思ってる」「はい! 喜んで!」「フッ。喜んでって(笑) 居酒屋かよ(笑)」「あっ、つい」「っていうか。そうやって言いたいこと言ってくれても全然構わないから」「え?」「オレにムカついてることとかあったら、今みたいに声荒げて怒りぶつけてくれていいぞ」「はっ!? そんなの出来る訳ないじゃないですか!」「いや、なんかお前にそういうなの言われても別に大丈夫だっていうかさ」「まぁそりゃあたしごときに社長が何言われたところで、何も動じないとは思いますけど」「あぁ、いや、そうじゃなくて」「ん?」「なんかさ。お前の言葉って、なんか逆に素直に響くっていうかさ」「えっ!? どういう意味ですか!?」「いや、オレもなんかよくはわかんないんだけど。でも、なんかお前に言われる言葉ってさ。オレにとったら、なんか嫌な気分にならないというか、それより、そういう考えがあるんだなとか、そんな風に思ってるんだなって、他のヤツとは違う感覚になるんだよね」「なんですか……それ……」あたしはそう言葉を返したけれど、だけど、社長のその言葉がすごく嬉しく感じたのは確かで。どういう意味でそういう言葉を言ってくれたのかはわからないけど、でも、社長があたしのことをそんな
「オレはお前に恋人のフリしてもらうことで助かるけど、お前はそうじゃないかもだもんな。ついお前が困ってるかと思って、咄嗟に同じようにオレもそんな彼氏みたいなフリしちまったけど、もしなんか都合悪かったら適当にまた言い訳しとけよ」だから……なんで勝手にそう話進めてっちゃうかな……。「もし住むところも適当に見つけたら、いつでも契約解消してくれたらいいから」なんで、そう勝手に、あたしの気持ちを無視して……。「違いますから……」「……え?」「全然都合悪くなんかないですから! 好きな人もいませんし、住むところも追い出さたれら困るんです!」あたしはつい声を荒げて、社長につっかかるような言い方をしてしまう。だって、この人はこんな時まで、あたしを思いやって、あたしの気持ちを優先しようとする。自分のことは気になんてかけなくてもいいと言わんばかりに。それが、社長は簡単にこのあたしとの契約も関係も解消しても平気なんだと言われているようで……。それがすごく悲しくて……。せっかく少しずつ社長との距離が近づいてきたような気がしたのに……。こんな簡単にこの契約もなかったことになるなんて嫌だ……。「だから、社長は一切そういうことは気にしないでください! あたしがこの関係を続けたくて続けてるんです! あたし、社長からこの家出てけって言われるまでは絶対出ていかないですから!」だから、ついムキになって、そんなことを社長に口走っていた。すると、いきなりあたしがキレたように返したからか、少し唖然としていて……。あっ……、やっちゃった……。つい興奮して言いたいこと言っちゃった……。だけど、なんか黙ってられなかった。時に社長の優しさは、あたしを傷つける。あたしを思ってしてくれることが、逆に悲しくなる。なんであたしもこんなにムキになってるのかわかんないけど。なんで適当に受け流せないのかわかんないけど。 だからといって、こんな自分勝手に感情社長にぶつけて言い訳じゃないよね。 社長は優しさで言ってくれたのに……。あーもうあたしのバカー!つい感情的になるの絶対直さなきゃ、社長に迷惑かかっちゃう!「すいません! つい感情的になっちゃいました! 社長に向かってあたしごときが偉そうに! だけど、ホントにそういうのじゃなくて、社長に気遣ってもらう必要とかホントまったくないん
「多分姉的にはこんなイケメンな彼氏があたしにいる訳ないって思い込んでるからだと思います」「じゃあ……あの……ルイってヤツは……? どういう感じだったの?」「えっ? ルイ?」ん? えっと。ルイとは、あのルイルイ?あっ、もしかしてお姉ちゃんがあの時名前出したから!?「前付き合ってた男?」「え!? まさか!?」「なんかずっと一筋だとか言ってたし」「いや……まぁ一筋といえば一筋ですが……」ずっと推しはルイルイだけだったしな。ファンになってから、ずっとルイルイ一筋だったのは確か。「そういうやついたんだ?」「えっ?」「だよな。確かにそういう可能性もあるよな。なら……契約、無理に続けなくていいぞ」「えっ? どういう意味ですか?」「やっぱお前には負担だったんじゃない?」「だから何がですか?」「いくら金のためとはいえ、契約で嘘の恋愛してくれなんて提案。ホントはオレが社長だから断れなかっただけだったんなら……」「いやいや! ちょっと待ってください。さっきから意味がわかんないんですが」「だから。好きなヤツがいるんなら無理に続けなくていいぞって話」「えっ? 好きなヤツって? あたしそんなこと別に言ってな……」え……もしかしてお姉ちゃんのあの言葉で、あたしにそういう相手がいるって勘違いしてる!?いや、確かにルイルイ一筋なのは確かだし、ルイルイがいたから現実に彼氏作ろうとかまったく思わなかったけども。実際琉偉以上に魅力的な人いなかったし。だからといって、それはあたしが全身全霊で追いかけてる推しです、とはさすがに言いづらい……。てか、そういう世界、社長はきっと無縁だろうし。絶対そういうの理解出来ない気がする……。それに、もっと社長を知らない時だったら……、そう最初に言葉を交わしたあの時なら、逆にどれだけルイルイが天使で可愛くて最高の推しかをプレゼンしたいくらいだったと思うけど、なぜか今はそういう感情になれなくて。それよりも今は社長といる時間の方を大切にしたいというか……。だからといってルイルイをないがしろにするとか気持ちが冷めたとか、まったくそういうのでもないけれど。社長と一緒にこれから暮らしていく以上、どこかのタイミングできっとルイルイの推し活してることは伝えなきゃいけない時がくるとは思う。だけど。社長に誤解されたままで、この関
「っていうか依那。もうこんな素敵な人がいるんならちゃんと言ってくれたらいいのに~」するとお姉ちゃんが今度は当然あたしに声をかけてくる。「あぁ~、うん。いつか言おうとは思ってたんだけど~。ハハ」そして明らかにちょっと不自然に答えるあたし。「いや、依那はもう琉偉くん一筋だと思ってたからさ~。まさかこんな大人でイケメンの彼氏と一緒にもう住んでるとか、ちょっと今でもビックリしてるんだけど」ええ、あたしも未だに自分でもビックリしてます。今でもまだ非現実的です。あっ、実際彼氏じゃないし。ちょっと今感覚バグってた。「ルイ……?」すると、その名前になぜか反応する社長。「あぁ~琉偉くんは~」「あ~ぁぁぁ!!!! お姉ちゃん! それは今は言わなくていいかな~ハハハハ!」いや、今琉偉のこと話そうとしたよね!?別に隠してる訳でもないし自分の自慢の推しなのだけど、なんか今はなぜか社長に知られたくないような……。なんか無意識にあたし今隠したくなってる……。なんだ、このちょっと浮気してるのを隠したい感……。ルイルイも社長も、両方ある意味あたしには崇める存在の位置づけのはずなのに。あーなにあたしは勝手にそんな厚かましい感情を……!うん。なんか正直社長とどんどん距離が近づいてきてしまってることで、あたし自身どちらに対しても感情がちょっとよくわからなくなってきてる……。「えーっと、あの、車ってもう荷物積めたりしますか?」そしてこの話題を変えたくて、あたしは社長に確認する。「あぁ……うん」「もう全部荷物まとめられたんで、これ運んじゃっていいですか?」「あっ、じゃあ重いのオレ持つから。そっちの軽そうなの持ってきて」「はい!」それから前に停めてもらってた車に準備してた荷物を全部積みこむ。そして全部運んだあと、また社長の車でまた社長宅へと戻る。「社長。わざわざありがとうございました」「いや。全然。にしても思ったより結構荷物あったからやっぱ車出してよかった」「はい。ホント助かりました」「あれ自分で全部運ぼうと思ってたの?」「はい。まぁ何回かに分ければいけるかなぁと」「いや、どんだけ往復すんだよ」「でもさっきお姉ちゃんに聞いたら、あと一週間後にはもうあの部屋出ていくみたいなんで、実際あたしが往復するのは確実に不可能でした」「マジか。ならやっぱ
「お姉ちゃん、それはもういいじゃん。そんなのいきなり困っちゃうから」あたしはとりあえず今のピンチを逃れることに必死で。「大丈夫。依那。ちゃんと答えるから」すると、社長がそっとあたしに声をかける。「え……?」「素直で純粋で、仕事にも勉強熱心ですし、何より明るくて一緒にいて自分が楽しいんで。オレが一緒に住もうって誘いました」社長……。また自分が想像もしていなかった言葉が飛び出す。そんなあたしの中身に対して言ってくれるなんて思わなくて。もし何かを言うとしたら、家事をしてくれるだとか、そういう感じのことだと思ってたから。社長は、そんな風にあたしのことを思ってくれてるってこと……?別に好きとか言われた訳じゃないし、この追い詰められた状況で、どうにか好きっぽく納得出来る理由を探しだしただけかもしれないけど。だけど、例えその時の言葉だけだったとしても、そんな風に少しでも社長に思ってもらえてるのが、すごく嬉しい。ちゃんとあたし自身を見てもらえてるみたいで、胸がギュッとなる。「そう……なんですね。あなたは、ちゃんと依那を見てくれてるんですね」「はい」そしてまさかのお姉ちゃんの言葉。「この子、今まで家族の為にすごい頑張ってくれてて。あたしが家事とかあんまり出来ないんで、そういうの当たり前に自然にやっちゃう子で。だけど、この子いろいろなんにでも全力の子だから、もしあなたのところでも、そういう感じだったら、たまに息抜きさせてあげてください。自由に楽しむ時間あげてください」そう言って、社長に頭を下げるお姉ちゃん。え……ビックリなんだけど……。お姉ちゃんがそんなこと言うなんて思ってもなかったし、しかもあたしの為に頭下げてお願いするなんて……。「わかりました。ちゃんと彼女の意見や自由は尊重します。オレも彼女にはいつも楽しんでいてほしいので」そして社長までそんな……。半分は嘘が混じってるのに、どっちもこんなちゃんとしたやり取り、なんかちょっと胸にくるものがある……。にしても、社長、契約だけの嘘の関係なのに、こんな真面目に対応してくれるなんて、ホントなんていい人なんだろう……。あたしのお姉ちゃんにそこまでしなくていいのに……。なんかホントに、そんな風に大切にしてもらえてるような……そんな錯覚、起こしちゃいそうになるよ……。「妹のこと。よろしく
「しかも、この段ボールあんたどうやって運ぶの? 引っ越しの人取りに来るの?」「えーっと、それは~あの~」適当に誤魔化しながら段ボールを運びながら玄関へ移動すると。人の気配が……。って、社長だ!「あっ、もう着いてたんですね!」「あぁ。うん。なんか二人で話してたみたいだから、ちょっと待ってたんだけど」いつの間にか玄関に社長が到着していて。ん? ちょっと待ってた?ってことはルイルイのことでお姉ちゃんと話してたの、もしかして聞かれた!?いや、そこまでは聞こえないか。てか、聞かれても意味わかんないだろうし、別に社長にとっちゃ興味もないだろうけど。住んでるとこ問い詰められてたとこも、社長聞いちゃってたかな!?そこ聞かれてたらなんとなく気まずいな……。「え!? ちょ、誰! このイケメン!!」すると、社長と話してた様子に気付いてお姉ちゃんも玄関へ。だけど社長を見た瞬間、あまりの社長のイケメンっぷりに、思わず素直に反応してしまっている。いや、姉よ。社長見て最初の言葉がそれですか……。さすが妹と同じくイケメン好きな姉ではある……。まぁ確かにこんなイケメンがここにいること自体、姉としてはビックリだよな。ルイルイ言いまくってうるさかった妹が、現実でこんなイケメンと一緒にいるのを不思議がるのは仕方ない。うん。にしても、でもこの鉢合わせ、しかもこのタイミングでどう説明したらいいもんか……。ここはもういっそ社長と説明するか?いや、でも今までまったく社長の話をしなかったのに、ここにいること自体が謎だよな。あたしも未だに謎だしな。あー、なんて説明しにくい関係なんだー!「え、もしかしてまさかの彼氏じゃ……ないよね? 依那がまさかこんなイケメン相手にされる訳ないし……」いや、言い方。確かにお姉ちゃんはこういうの平気で言う人で慣れてはいるけどさ。「……はじめまして。妹さんと今お付き合いさせてもらってる神城 慧と申します」……え!!??今、社長なんて言った!!??「えっっ!!?? マジで!? ホントに依那の彼氏だったの!?」「今、依那さんは私のマンションで一緒に住んでいます」「え!? そうなんですか!?」いや、そりゃこんな人とあたしがいきなり住んでるとかビックリするよ。彼氏いるなんて一言も言ったことないし。っていうか今までそんなん