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この命とともに去っていく愛する人
この命とともに去っていく愛する人
Author: 冨貴

第1話

Author: 冨貴
黒沢南枝(くろさわ なみえ)は自分が法曹界で最も名を馳せていたあの年、雨宮舟(あめみや しゅう)と誰にも知られず入籍した。

舟との秘密の結婚も、今や五年目に入る。

舟は口元にかすかな笑みを浮かべたまま、スマホを彼女の前に滑らせるように差し出した。

画面のなかでは、南枝の実の妹、黒沢蛍(くろさわ ほたる)が頬を紅潮させている。

犯人の山田剛(やまだ つよし)は、口移しで蛍にワインを飲ませていた。蛍は身を引こうとしているのに、その仕草はどこか拒みきれていないようにも、誘っているようにも見える。

「やめて……お願い……」

男は拒もうとする彼女の手を掴み、いやらしい笑みを浮かべてボトルを揺らす。

「いい子だな。なかなかいい飲みっぷりじゃないか」

舟は南枝の真正面に座り、彼女の顔色が土気色に変わっていくのをじっと見つめていた。それでも彼は、身なりひとつ乱さず、落ち着き払っている。

骨ばった指で、こと、とテーブルを叩く。

「南枝、誰が見たって、これは強姦なんかじゃない。ただの合意の上の愉しみだろ?

考える時間はあと三分だ。証拠を出すか、それとも蛍を世間に晒すか。

トップの女性弁護士は一人でいい。糸緒のキャリアに黒星はつけられない。だから南枝、お前は法曹界から身を引け。これからは俺が養う」

「舟……」彼女の声は震えていた。「蛍は私の実の妹よ。私にとって、一番大事な人なの……あの子は薬を盛られたのよ……」

彼は何でもないことのように、カードを一枚、投げて寄越した。

「大事?ただの遊びだろ。それより、糸緒のほうがずっと大事だ。あの子は気が強いからな。裁判に負けたら、きっと泣く」

南枝は彼をじっと見据えた。そして、ふと、自分がひどく滑稽に思えた。

――ただの遊び、だって?

「実の妹が踏みにじられて、家族も壊れかけている。それが、ただの遊び?

人でなしが許せない罪を犯して、のうのうと外を歩いている。それが、大事ない?

あなたにとっては、三輪糸緒が裁判に負けて泣くかどうかのほうが、そんなに大事なの?トップ弁護士の肩書のほうが、そんなに重要なわけ?」

舟は不快そうに眉をひそめ、わずかに身を乗り出し、苛立ちをあらわにした声で言い放った。

「じゃあ、なんだって言うんだ?はっきり言っておく。糸緒は俺に恩がある。俺の中では、誰もあの子には敵わない。

このカードには一億が入ってる。蛍に渡してやれ。バッグでも車でも、好きなものを買えばいい。若い連中だから、ちょっと羽目を外したのも、別に珍しい話じゃない」

南枝は怒りのあまり体が震え、涙が止めどなくテーブルの上に落ちていく。

どうして舟が、こんな人間になってしまったのか、彼女にはわからなかった。

かつて、南枝は法曹界でその名を轟かせ、誰もが憧れる高嶺の花だった。

名門・雨宮家の御曹司である舟は、南枝を妻に迎えるため、身分さえも顧みず跪き、彼女を支える存在になると誓った。

彼は言っていた。南枝の仕事を誰よりも尊重する。いつだって彼女の後ろに立ち、正式に立場を与えられるその日を待っていると。

そして、こうも誓った。南枝を世界で一番幸せな女にしてみせる。生涯、ただ彼女だけを愛し抜くと。

結婚して五年。

舟はその誓いを一度たりとも違えなかった。五年もの間、変わらずに南枝を深く愛し、この上なく甘やかしてきた。

いつだって彼は、彼女を掌中の珠のように大切に扱ってきた。

家庭のこともよく気にかけ、彼女のために面倒ごとを引き受け、社交の場にも必ず寄り添った。

彼女が調査や証拠集めに奔走し、危険も厭わず闇へと踏み込んでいくときには、彼は自ら車を駆り、誰よりも頼れる後ろ盾になってくれた。

彼女が正義を守ろうとし、幾度となく世論の渦中に叩き込まれたときも、彼は彼女の優しさを誉め称え、決して揺るがない支えであり続けてくれたのだ。

だから、南枝は思っていた――私の人生、舟さえいてくれれば、それでいいんだ。

――なのに今、糸緒はこの案件を引き受け、南枝の妹、蛍を辱めた犯人の弁護士として、彼女の前に立ちはだかっている。

そして、舟は――糸緒のために、鷺を烏と言い、南枝と蛍の尊厳を平気で踏みにじた。

「雨宮……舟……」南枝の声は、ひどく震えていた。「もし、私が折れなかったら、本当に私たちを壊すつもり?」

「なら、試してみればいい」
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