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5.訪問者

Author: 涙乃
last update publish date: 2026-07-31 07:11:45

リィーンは、洗濯物を干し、掃除を終えると、あのビラを探すことにした。

確か、捨てずに取ってあったと思うのだけど……。

ゴミ捨て場は、家の裏にある。ゴミはいつの間にかなくなっている。おそらくこれも魔道具なのだろう。まぁ、ゴミ捨てと言っても、普段は掃除して出たほこりくらいだ。

ゴミ捨て場より先に進めるか試したけれど、こちらも罠が仕掛けられていた。前回のこともあるから、強行突破は諦めた。

「あった!」

リィーンは、引き出しの奥に目的のビラを発見して思わず声を上げる。

ビラを取り出し皺を伸ばすと、改めて記事の内容を確認する。

「えっと……、兼ねてより愛を育んでいたレオン殿下とマリア嬢……」

記事には、二人の婚約発表について書かれていた。

無事にシナリオ通りに婚約したのね。このビラを発見してから、どれくらい経ったのだろう。よく覚えていない。

う~ん……。ゲームのシナリオ通りなら、これからマリア嬢が、私を見つけてくれるのよね?

ん?待って。

そもそも、どうやってこの家に辿り着くの?

家の周囲には、罠があるのに……。近づけなくない?

ヒロインには、罠が発動しない……とか?

ヒロイン補正というやつね。きっと、そうよ。

でも、もしも……万が一ヒロイン補正が発動しなかったら?

マリア嬢が罠で怪我をしてしまう。もちろん罠を仕掛けたのは、私ではないけれど。家の周囲にあるのだもの。必然的に私が犯人だと疑われるよね……。もしそうなったら、マリア嬢を溺愛するレオン殿下から、私、殺されるかも……。

それは困る!そんなのは嫌。それに、あの天使のようなマリアちゃんが怪我するかもしれないなんて、耐えられない。

「どうしたらいい?」

リィーンは悩んだ末に、マリア嬢が来ないか、外に立ち監視することにした。それこそ、まるでかかしのように、ひたすら立っていた。

マリア嬢がやって来たら、罠があることを伝えるべく。

他に妙案が浮かばなかったのだ。家の中にいては、気づかないかもしれないから。

それからは、天候に関係なく外に立つのが日課になった。おかげで、日焼けして肌が荒れた。ただでさえ、そばかすが気になるのに……。肉体はまだ若いのに。

「はぁ……。誰もいないから、独り言が増えるんだよね」

リィーンは、記事の内容を思い返していた。記事には、レオン殿下とマリア嬢の姿絵も描かれていた。

整った顔立ちのレオン殿下と、遠慮がちに微笑むマリア嬢。まさにお似合いの二人だった。うらやましい……。

「はぁ……」

何度目か分からないため息が漏れる。

じっと立っているなんて、どんな苦行よ。

もう少ししたら、かかしの気持ちが分かるかも。

結局、誰の訪れもないまま、また一日が過ぎてしまった。

翌日。朝食にパンを少し食べると、リィーンは今日も庭に立つ。

段々と日差しが強くなり、暑い季節になってきた。外に立つのも体力がいる。

リィーンは、何気なく日焼けした腕に目を向ける。

「ガリガリだね……。痩せ過ぎだよ」

直射日光に照らされて、滝のように汗が吹き出してくる。

無駄に動かないようにして、体力の消耗は極力抑えるようにしている。けれど、容赦なく照りつける太陽によって、何もしなくても体力はどんどん奪われていく。

「なんか、やばいかも……」

そう思った時には、すでに遅かった。

頭がクラクラしてきて、視界がボヤけ始める。地面が波打っているように感じる。

だめだ……立っていられない。

リィーンは、家に戻ろうと思った。しかし、足を踏み出すことができずに、そのまま意識を失い、バタンと地面に倒れてしまった。

朦朧とした意識の中で、必死に呼びかける声が聞こえてくる。

幻聴かな……。

「おい!大丈夫か?

これを飲んで、さぁ、口を開けて」

誰?夢?もしかして、お迎えが来たのかな。

「ゴホッゴホッ」

口の中に冷たい水が急に流れてきて、思わず咳き込む。

「大丈夫か?焦らずゆっくり飲んで」

リィーンは、口の中に水が注がれて、生き返る気持ちだった。喉もカラカラだったから。優しい声色で声をかけてくれるのも心地よい。

誰が飲ませてくれているの?

乾き切った口内が、潤されていく。

今まで生きてきた中で、一番美味しい水だ。夢なら覚めないで。もう少し……。

リィーンは、ふわりと抱き上げられた浮遊感を感じた。そして、ぷつりと意識が途絶えた。

「んん……」

どのくらい気を失っていたのだろう。

リィーンは、例えようのない不快感に襲われて意識を取り戻した。身体中が火照ったように暑い。倦怠感がひどく気持ち悪い。

鉛のように重い瞼を、ゆっくりと持ち上げる。

ここは……?

見慣れた天井が見える。リィーンは、自室のベッドに寝かされていた。

私、確か外にいたはずなのに……。いつの間にここまで戻ってきたのだろう?

不思議に思いつつも、上体を起こして立ち上がろうと試みる。

きつい、やばい……だめかも……。

顔から一気に血の気が引くような感覚に襲われた。

リィーンは、バランスを崩して、ベッドから転げ落ち床へと倒れ込む。

「痛っ」

床に落ちた衝撃による痛みと、言いようのないきつさと、気分の悪さから、起き上がることもできないでいた。

しばらくこのまま休もう。

少し休めば回復するかもしれないと思ったリィーンは、そのまま目を閉じて眠ろうとする。

けれど、眠りを妨げるように、ドタドタと誰かが急いで駆けてくる足音が聞こえてくる。その足音は、どんどん近づいてくる。

何の音?

「大丈夫か?どこか痛むか?」

優しい男性の声が聞こえる。誰かがいるはずなんてないのに。

声の主は、床に倒れているリィーンを抱き上げると、ベッドに丁寧に寝かせる。

怪訝に思い、重い瞼を持ち上げると、目の前には男性の姿があった。

「は⁉︎」

だ、だれ??

「顔色が悪い。ベッドから落ちないようにここにいる。ゆっくり休むといい」

男性は、水に濡らしたタオルで顔を拭いてくれた。

あぁ、まだ夢を見てるのか。

冷たいタオルの感触は、火照った顔にはとても気持ち良かった。

心地よいタオルの感触に安心して、そのまま気を失うように深い眠りについた。

 

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