灰になった恋

十年間の極秘交際を続けてきた恋人は、世界チャンピオンになれば私と結婚すると言っていた。しかし、彼は表彰台の上で別の女性にプロポーズした。

私が目を赤くして理由を問いただすと、彼は少しも悪びれる様子なくこう言った。

「紬の幼い頃からの願いが、盛大なプロポーズをされることだったんだ。俺はあいつの兄貴分だぞ、願いを叶えてやって何が悪い？お前、人間として自分勝手すぎるぞ」

私は悔しさのあまり、その夜、SNSで私たちの十年間の軌跡を公表した。

美山紬は炎上し、ネットリンチに耐えきれず、二日後に薬を飲んで自殺した。

誰もが、恋人は私を恨むだろうと思った。

しかし、彼は私に深情けな様子でこう言った。「凛、俺は目が覚めたよ。お前に最高に盛大な結婚式を挙げて、この十年を償いたい」

私は驚きと喜びで、彼がついに振り向いてくれたのだと思った。

だが結婚式当日、彼は十数人の新郎介添人に私のウェディングドレスを引き裂かせ、私の体を辱めさせた。

私を助けようと飛び込んできた七十近い祖母にさえ、彼らは容赦しなかった。

恋人は命乞いをする私の惨めな姿を冷ややかに見下ろし、顔を歪めて笑った。「これが、お前が紬を死に追いやった代償だ」

私は恨みを抱いて死に、再び目を開けると、あの表彰式の日に戻っていた。

今回、私は彼らの望み通りにしてやることにした。

……

「結婚して！結婚して！」

波のような拍手が次々と押し寄せ、歓声と祝福の声が入り混じる。

瀬名奏多（せな かなた）は片膝をつき、ダイヤの指輪を掲げた手を微かに震わせていた。

美山紬は彼の隣に立ち、口元を押さえて咽び泣いた。

「はい、喜んで」

次の瞬間、彼女は屈み込んで彼の首に抱きつき、口づけをした。

ただ触れるだけのキスではない。人目も憚らない激しい口づけだ。

私、橘凛（たちばな りん）は舞台裏に立ち、イアモニからは昨日の彼の音声がまだ聞こえていた。

『優勝したら公表しよう、な？』

前世でこの光景を見た後、私はその場で泣き崩れ、奏多を問い詰めた。

だが彼には微塵も罪悪感がなかった。

「俺が小さい頃から紬を可愛がってたのは知ってるだろ？あいつ、病室で熱痙攣を起こしながらも、プロポーズされるのが夢だってうわ言を言ってたんだ。聞こえないフリなんてできるわけない。

だから俺たちのことは少し先延ばしにしよう。あいつの体調が良くなってからだ」

私は震えながら、いつまで待てばいいのかと尋ねた。

彼は冷ややかな視線を私に向けた。

「お前は紬が喜んでるのがそんなに気に入らないのか？凛、どうしてそんなに心が狭いんだ？」

そうして私は追い出され、スクリーンの中の彼らが愛を育む様子をただ見ていることしかできなかった。

悔しさのあまり長文で奏多との十年の関係を暴露したが、彼に狂ったように報復され、自分と祖母の命を失うことになった。

今世、再びこの光景を前にして、私はただ無表情に拍手を送った。

祝賀会は奏多のプライベートクラブで開かれた。

奏多に電話で酒を持ってくるよう呼び出され、私が到着した時、紬は彼の膝の上に跨り、頬を紅潮させていた。

私が入ってきたのを見ると、彼は手招きしたが、紬の腰に回した手を離そうとはしなかった。

「凛、さっきのステージのことだけど、わかってるよな。俺と紬は幼馴染で、こいつのたった一つの願いだったんだ。兄貴分として放っておけなかった」

私は彼を見つめ、言った。

「説明しなくていいわ。全部わかってるから」

彼は一瞬呆気にとられ、すぐに笑った。

「やっぱりお前は俺をわかってるな。

どうせ俺たちは十年も一緒だったんだ、今更一年や二年待つのも変わらないだろ。紬の夢を叶えてやっただけだ……その後は今まで通りだ。わかるな？」

私は静かにグラスを掲げ、彼のグラスに軽く当てた。

「あなたの言う通りにするわ」

私があまりにあっさりと承諾したので、彼はかえって言葉に詰まっているようだった。

なにしろ以前の私は、誰よりも不安がりな女だったからだ。

宴もたけなわになった頃、紬が突然グラスを持って近づいてきて、ニコニコと私を見つめた。

「凛さん、この一杯はあなたに。奏多さんが今回優勝できたのは、あなたの功績が大きいもの」

私は座ったまま動かず、冷淡に答えた。

「胃が悪いの。飲めないわ」

しかし次の瞬間、紬は瞬きをして言った。

「これは胃にやさしいよ。さっき私が一口飲んでみたけど、すごく甘かった」