เข้าสู่ระบบ「相沢! 漫研の部長さんが来てるよ!」
教室の後ろの方から聞こえてきた。 そちらを見ると、入り口付近の女子生徒が相沢を呼んでいた。 教室のすぐ外に、メガネをかけた上級生の男子生徒が教室の中を伺っていた。 「三ツ屋先輩が? わかった」 先程まで上機嫌に話をしていた相沢だが、先輩の急な訪問に少しだけ緊張したのか、急いで廊下へと出ていった。 話の中心にいた相沢がいなくなったことで、工藤は教室の真ん中辺り、倉本は窓側一番後ろのそれぞれの席へと戻っていった。 そしてちょうどそのタイミングで―― 「お喋りはそこまでだ、ホームルーム始めるぞ」 担任の榊原 一誠(さかきばらいっせい)先生が、冊子だろうか、なにやら両手に抱えて教室の中へと入ってきた。 身長180センチ超えのがっしり体型に、猫背気味の姿勢。無精ひげにゆるんだネクタイ、そしてシャツの袖は例によって適当にまくり上げられている。 見た目は完全に“やる気のないサラリーマン”だが、ちゃんと教員免許を持ってるというのだから驚きだ。 「茉莉花、そろそろエリカから離れて自分の席につくんだ」 未だにエリカにくっついている茉莉花に視線を向けてから、そう言って促す。 「へーい」 やや不満げな様子で茉莉花は自分の席へと戻ったのを見届ける。 「相沢! 中入ってこい! 三ツ屋もホームルームまだだろ? 自分のクラスへ戻れ!」 そのタイミングで、榊原先生の声が聞こえてきて、そちらに振り返る。 「よいせっと」 廊下にいる相沢に声をかけ直した後、榊原先生は冊子の束を重たそうにしながら持ち直し、教卓へと運び出していた。 あわてて帰ってきた相沢が自身の席へついたが、机の下や中を覗き込んだかと思うと、鞄の中を焦った様子で確認していた。 榊原先生は教卓の横に冊子の束をどさりと置き、ネクタイを緩めながら話し始めた。 「よーし、んじゃこいつを配っとくぞ」 束を軽く叩きながら言う榊原先生の声に、相沢はしぶしぶと身体を起こして、座り直したように見えた。 「新しく刷り上がった学校案内パンフレットだ。来月、中学生向けの学校説明会で使うやつなんだが、在校生にも配ることになった。……まあ、保護者に見せろってやつだな」 「えー、“いっちー“それ要るの?」 エリカが不満を言うと、榊原先生はため息をつきながらぼやく。 「誰がいっちーだこら。エリカ、学校では榊原先生って呼べって何度言ったら分かる」 「はーい、榊原先生」 実は俺たちと榊原先生は、彼が学生の頃からの昔馴染みで、エリカは昔から“いっちー“と呼んでいたため、それが未だに抜けきれていない。 「たく……お前らにとっちゃ進路の参考にもなる。行事予定や模試のスケジュールも載ってるんだぞ。 それに、教頭のハゲが運ぶ前にパンフレットをまとめていた帯を外すもんだから、バラバラにならねーように運ぶの大変だったから、ありがたーく見ろよ」 「いっちー先生いいのかよ、教頭先生のことそんな風に言って」 「誰がいっちー先生……はぁ、もういいめんどくせぇ。いいからさっさと回せ」 榊原先生は束を廊下側の列から順に二、三部まとめて前列の生徒に気だるげな様子で雑に渡した。 パンフレットは列ごとに次々と後ろへと回され、束が減っていくごとに机に小さな音を立てていく。ざらりとした紙の感触、刷りたて特有のインクの匂いが教室に漂った。 最後に受け取った生徒たちが鞄へしまい終えると、榊原先生は手をパンと打った。 「はい、配布終わり。説明は以上。……職員会議が控えてるから、今日のホームルームはここまでな。忘れ物すんなよ」 それだけ言うと、教卓の上の書類を片づけ始める。 チャイムが鳴り響き、椅子を引く音、クラスメイトの会話に包まれ、教室は一斉に帰り支度のざわめきに包まれた。 このまま穏やかに各々放課後の予定へと移っていくのだろうと思っていたが、次の一言でその空気は霧散し、静まり返ることとなった。 「誰だよ! 俺のファイルを取ったやつは!」綿貫先輩の話を聞いたあと、俺たちは例の「空き教室」へとやってきた。 何があるのか、何が起きているのか。俺はさすがに胸のざわつきを抑えられない。 「よーし、直央くん!開けて確かめよう!」 だが、隣でエリカは、いつも通りの笑顔でウキウキしていた。まるで宝探しにでも来たかのように。 俺はごくりと息をのむ。意を決して鍵を開けようとした、そのとき―― ガタン! 教室の中から何かが倒れるような音が響いた。 (今の、絶対誰かいる……!) 思わず開ける手が止まる。だが隣を見ると、エリカが「早く開けて!」と言わんばかりに目をキラキラさせている。……いや、もう顔に書いてあるレベルで「ワクワク!」が漏れてる。 俺は覚悟を決めた。開ける手とは反対の手で、エリカをそっと自分の背中へとかばうように回す。 何があっても、この子だけは守らないと。 カチャ。 慎重に鍵を開けて、警戒しながらドアをゆっくりと押し開ける。 ……だが。 「……誰も、いない?」 拍子抜けした声が漏れる。教室は、静まり返っていた。 「ええっ!? 絶対いたよね今の音!?」 俺の脇からひょっこり顔を出したエリカが、目をまんまるにして中を見回す。 たしかに、音はした。絶対に誰かがいたはずなのに。 俺たちは中に入る。空気の流れが妙に生々しく感じられる。 棚や備品には薄くホコリが積もっているのに、椅子やテーブル、扇風機にはそれがない。しかもテーブルには、ついさっきついたような水滴の跡。そして扇風機のコードは、まだコンセントに差ささったままだった。 「誰か、いたんだね……」 「うん、絶対間違いないって!こんなの、動かしてなきゃできないもん!」 俺は窓へと視線を向ける。昔ながらの引き違い窓。内側には半月型のクレセント錠が付いていて──ちゃんと鍵はかかっていた。 よく見ると、鍵のあたりに青っぽい繊維のようなものが絡んでいた。 窓の外には、白いメッシュフェンスと住宅街の通りが見えるだけで、特に変わった点はなかった。 「窓の鍵、ちゃんと閉まってるね」 「えーでも……教室の中に隠れる場所なんて、ないよね?」 エリカが教室の中を見回す。確かに物は多いけど、どれも人が隠れられるようなものじゃない。 「つまり……この教室は、俺たちが鍵を開けるまでは完全な
「えっ、私のこと……知ってるんですか?」 「もちろんよ~。金髪で青い目の美少女っていえば、うちの学校じゃちょっとした有名人だもの~。それに、理事長のお嬢さんでしょ? 海堂グループの~」 「は、はい……」 エリカがなんともいえない表情をうかべる。 美少女といわれるのは嬉しいが、理事長の娘だと特別視されるのは嫌なのだろう。 「だとしたら、そっちの彼は……雨宮直央くんかな~?」 「お、俺も……ですか?」 「うん。私の学年の男子たち、よく噂してるもの~。お昼休みにね、パン食べながら話してるのよ~。“あんなかわいい彼女ねたましい”って」 「……」 「で、そのあとにね、“でも正直うらやましすぎてしんどい”とか、“あれは罪だよな”っていう嘆きタイムが始まるの~。ふふっ、青春ねぇ~」 「……その話は、聞かなかったことにします」 俺はそっと目をそらす。エリカはなぜかもじもじしつつ嬉しそうだった。 「ふふっ。私は綿貫日和(わたぬき・ひより)です~。手芸部の部長をしてるの。で、今日はどういうご用件かしら~?」 「あのですね! 実は、隣の空き教室についてお聞きしたいことがあって!」 「ああ~……もしかして、調べてくれてるの? あのこと~」 綿貫先輩は、ひと針、刺繍の手を止めてこちらを向いた。ほんの少しだけ、迷うそぶりをみせたあと。 「そうだね~……ちょうど先月くらい、だったかな? ふとしたときに、隣から物音が聞こえたの」 「物音……ですか?」 「うん。使われてないはずの空き教室なのに、不思議よね~。最初は気のせいかなって思ったんだけど」 綿貫先輩は、小首をかしげながら続けた。 「一度気づくとね、ほとん
旧校舎に向かおうと、職員室を出て廊下を少し歩いた、そのときだった。 新校舎と体育館をつなぐ通路の先、校門のほうへと駆けていく人影がちらりと見えた。 「んじゃ、茉莉花先輩。私、外周行ってきます!」 ポニーテールを揺らして走っていくのは──昨日、水族館で偶然会ったばかりの花守さんだった。 「ちょっと、また外周? 琴音、体力も大事だけど、ちゃんとボールも触りなさいよ~」 体育館のドアから顔を出して、茉莉花が叫んでいた。 「いまの……琴音ちゃん?」 「ああ。髪型は違うけど。部活中はまとめてるみたいだ」 そんな会話をしている俺たちに気づいたのか、茉莉花がこっちへ顔を向ける。 「なにしてんのあんたたち、こんなとこで。部室はもらえたの?」 「んー、ちょっと訳アリでね。今から旧校舎」 「ふーん、そっか。また、詳しく聞かせてよねー」 と、体育館に戻ろうとする茉莉花にエリカが声をかけた。 「ねぇ、茉莉花ちゃん! その手首のリストバンドいいね! 部活中いつもつけてるの?」 茉莉花の手首には、ネイビーに白のラインが入ったリストバンドが巻かれていた。 「ああ、これね? うちの女子バスケ部のチームでお揃いのを頼んでいるの。 汗を拭うのにも、手首の保護にもいいから気に入ってるの、それじゃあね」 軽く手を振って、今度こそ彼女は体育館へと戻っていった。 その背中を見送りながら、俺とエリカは旧校舎に向けて、再び歩き出した。 まず訪れたのは、問題の空き教室の隣にある、手芸部の部室だった。 扉の前で軽くノックすると── 「ど~ぞ~」 ……と、やたらのんびりした声が返ってくる。 「失礼します」 俺はそう言って扉を開けると、手芸部の部室にいたのは一人だけだった。 スリッパの色をチラッと見れば、三年生を示す緑色。 俺たちの学校では、スリッパの色で学年がわかる。二年生は青、一年生は赤。そして──三年は、やさしさの色みたいな緑をしている。 窓際の机に向かって、のんびりと刺繍をしていたその人物は──まるで、たんぽぽの綿毛みたいな人だった。 ふわっとした空気をまとい、やわらかく微笑むその表情には、時間の流れすらゆるやかにしてしまいそうな穏やかさがあった。 肩までのゆるく巻かれた髪は淡い栗色で、ほんのり陽の光に透けている。制
「部室? んなもん、ねーよ」 放課後、同好会の設立申請を提出した俺とエリカに対して、榊原先生は、いつものぶっきらぼうな調子で言い放った。 「えぇー!?なんでなんで! いっちー!」 「誰がいっちーだコラ。学校では“榊原先生”って呼べっつーの」 「はーい、榊原先生~」 榊原先生は俺たちの家、母が営む喫茶店アンサンブルの常連さんだ。昔から俺たちとも母とも面識がある。 だから、学校外でエリカは榊原先生のことをいっちーと呼んでいる。 「……で、どうして部室がないんでしょうか?」 俺があらためて尋ねると、先生は面倒くさそうに頭をかいた。 「決まってんだろ。同好会なんぞに部室与えてたら、校舎がいくらあっても足りねーよ」 どうやら、部室ってのは“正式な部活”に昇格して初めて割り当てられるらしい。同好会に関しても割り当てられているものもあるが、それは前年に活動実績があって、生徒会の審査を通った場合だけ──って、なかなかハードル高くないか? 「だからよ。同好会作りました、ハイどうぞ部室、なんて話にはなんねーの。現実見ろや」 「けちヒゲ……」 「おい、今なんつったエリカ? せっかくいい話があるっつーのに」 「えっ、えへっ、ヒゲが素敵って意味だよ? で、いっちー? その“いい話”って何?」 いい話があると言った瞬間のエリカの手のひら返しは、俺には真似ようとしても真似できない見事なものだった。 「最後まで聞けっつーの、まあいい。ちょうど頼みたいことがあったんだわ。ひとつ、謎を解決してくれたら、空き部屋ひとつ貸してやるよ。“掃除と管理”って名目でな」 「おぉ~! 詳しく詳しく!」 エリカの目が、わかりやすく変わる。 「旧校舎の西の奥に、しばらく使われてねぇ教室があるんだよ。で、最近その隣の手芸部の連中から、『中から物音がする』っつー相談がきてな」 先生は腕を組んで、ため息交じりに続ける。 「だけど、その部屋の鍵はちゃんと閉まってて、職員室の鍵も使われた形跡がねぇんだよ。5月に一度生徒と一緒に探し物をしにいったくらいでな……まあ幽霊かイタズラか知らんけど、お前ら、ちょいと様子見てきてくれ」 「それって……先生が確認しに行くべきでは?」 「はあ? あんなとこ冷房ねぇし遠いしで行きたくねーわ。危なそうなら戻ってこいって。電話一本でいいか
週明けのこと。夕暮れとまではいかないが、太陽が傾きはじめた校舎の廊下を進み、目的の部屋の前で立ち止まった。 学校内にある他の扉とは違い、重厚な雰囲気を漂わせた扉。その上には「理事長室」と書かれている。 小さく息を吐き、ゆっくりとノックする。 コン、コン―― 決して強く叩いたわけではないのに、思ったよりも大きな音が響き、一瞬たじろぐ。「入りなさい」 扉越しに届いた声は大きくない。だが低く通るその声は、はっきりと耳に届いた。「失礼します」 ゆっくりと扉を開けて中に入る。 そこには、中年の男性がデスクに積まれた大量の書類と、険しい表情のまま向き合っていた。 彼は書類から視線を上げ、険しいままの表情で口を開く。「久しぶりだな直央。元気にしていたかね?」「はい。理事長先生は相変わらずお忙しそうですね」 そう答えると、彼は「やめろ」と言わんばかりに手をひらひらとさせ、ため息をつく。「今は私たち二人だけだ。よそよそしい呼び方はやめてくれ」「わかりました、正隆さん」 苦笑しながらそう呼ぶ。 海堂正隆(かいどう・まさたか)さん――この学校の理事長であり、エリカの実の父親でもある。 常に険しい表情を浮かべているが、俺やエリカのことを何より気にかけてくれる、頼りになる温かい人だ。 しかしその雰囲気から、話すときは自然と緊張してしまう。「すまないな、エリカのことを任せきりにしてしまって」「いえ。信頼して預けてもらえるのは、むしろ嬉しいです」 俺の言葉に、彼は表情を崩さぬまま「そうか」とだけ呟き、席を立った。「いつも通りコーヒーでいいかね?」「はい、ありがとうございます」 正隆さんは軽く肩をすくめる。 二人のときはもっと砕けた口調でいいと言われているのに、どうしても改まった話し方になってしまう。 雰囲気もそうだが、学校の理事長であり、しかも好きな相手の父親だと思うと、自然と固くなるのだ。 最近はもう諦めたのか、苦笑しながら「やれやれ」といった様子を見せるだけになっていた。 ソファに座って待っていると、コーヒーを二つ運んできた正隆さんが正面に腰を下ろし、さっそく本題に入った。「さて、その様子だとやはりエリカの状態は変わっていないようだな」「はい。ただ、ちょっと新しい取り組みをしてみようと思って」 俺は、二人で謎や悩みを解決する
エリカのお母さんが亡くなった瞬間──その光景を、彼女は見てしまった。 絶望と混乱に凍りついたまま、泣き声も上げられずに。 そして、その悲惨な光景により、エリカの精神は限界だった。 心は、もう壊れかけていた。 だけど、俺は思った。 たとえ、母を失った痛みが彼女を苦しめても…… “その瞬間の映像”さえ脳裏から消すことができれば、彼女は、きっと支えの中で生きていける。 そう信じて、俺は「記憶を消す方法」を探し始めた。 いくつもの論文を読みあさり、 PTSD治療に使われるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)や、 バイノーラル・ビート、トラウマ記憶の再構築などを試した。 けれど、どれも“あの光景”をピンポイントで消し去ることはできなかった。 そんなときだった。 藁にもすがる想いで、俺はエリカのお父さんに、すべてを話した。 エリカがどれほど限界であるか。 俺が何をしようとしているか。 そして、彼女を救うには、“あの記憶”だけを消すしかないこと。 沈黙の末、彼は静かに頷いた。「……紹介できる者がいる。責任は、私も背負う」 彼が連絡を取ってくれたのは、心理学の臨床分野で知られる大学教授だった。 現在は大学を離れ、個人的に「記憶処理に関する非公式の研究」を続けている人物らしい。「特定の映像記憶を“選択的に上書き”できる方法がある」 その教授はそう言った。 深い催眠状態に誘導し、対象の記憶を再生させる。 そして“想起の瞬間”に、記憶映像を光で覆い、意識に定着させることなく焼き切る。 まるで、古いフィルムを白く塗りつぶすように。 危うい手法だとは分かっていた。 失敗すれば、記憶全体に障害が残る可能性もあるという警告も受けた。 それでも、俺と彼女の父さんは、同じ選択をした。 施術の日。 柔らかな照明の下、エリカは静かに横たわり、 教授