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Auteur: 美桜
last update Dernière mise à jour: 2025-06-13 19:58:01

とあるマンションの一室。

藤堂雪乃は手元のスケッチブックに描いた子供服のデザイン画を見て、「うん」と満足そうに頷いた。

前世、子供たちの世話に日々明け暮れ、外に出かけることすら容易にできなかった時、ただなんとなく始めたベビー服のリメイクにいつの間にか楽しみを見出していた。

ここ、こういう風になってたら着替えやすいのに…とか襟にはこの生地使った方が柔らかいし、スタイとしても使えるように取り外しとかできると便利よね〜とか。

色々考えて、暇を見つけてはチクチク縫ってリメイクしていた。

おかげで裁縫の腕も上がって、そのうち子供も大きくなって手が離れたら1からデザインして子供服作るのもいいな…なんて思って、いそいそとデザイン画なんてものまで自分流だけど描いていた。

まぁ、結局作れなかったんだけど。

雪乃はその頃の事を思い出しながらスケッチブックを埋めていき、その経験が今世で役立つ事を皮肉に思った。

「わぁ〜、沢山描いたのね!」

声の主は親友の白川麻衣(しらかわまい)で、もう一人、3人で起ち上げたこの小さな事務所の、経理等全般を任せている原友香(はらともか)も驚いて目を見開いていた。

2人は雪乃が夢中になってデザインを描いているのを邪魔しないようそっと昼食を買いに出て、たった今戻ったところだった。

「どうかな?」

買ってきた食事を側のテーブルに置いて広げ始めた2人に、デザイン画を差し出しながら尋ねた。

2人は顔を見合わせて、すぐさま彼女の描いた様々な子供服のデザインに目を通した。

「いいですね!私、これ好きですっ」

友香が満面の笑みで褒め称える。

「うん」

麻衣も満足そうに頷いた。

「明日、早速うちに行こう!これならイケるよ」

そう言って、彼女もニコリと笑った。

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