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Author: 美桜
last update Last Updated: 2025-06-11 09:28:38

「さっきから〜なんのぅ話しをぅしてるんですか〜ぁ?」

突然背後から割り込んできた声に、悠一も直也も、電話越しの雪乃も黙り込んだ。

「廉、大事な話をしてるんだ。あっち行ってろ」

「えぇ~?大事な話ってぇ、なんですかぁ?」

酔ってるな…。

普段チャラけたキャラで場の雰囲気を楽しませる廉だったが、今夜は自分の敬愛する兄貴分である悠一の結婚祝いということで、ずいぶんと酒が過ぎたようだった。

「ていうかぁ、な〜んで、呼んでくんなかったんすかぁ?結婚式ぃ〜」

「……」

「あ、わぁかった〜。したくなかったんでしょ〜?結婚〜」

「おい…」

いい加減絡まれるのに苛ついてきた悠一が、低い声で威圧した。

「死にたいのか…?」

ヒッ…ク……

その瞬間、並木廉は覚醒したかのように目をパチパチさせてぴっと姿勢を正した。

「す、すみませんっしたぁ!!」

バッと頭を下げてすぐさま2人から離れた。

「…たく。飲み過ぎだ、あいつ…」

直也は仕方ないな…とでもいうように苦笑いをして悠一を見た。

悠一は切れた雪乃との通話を惜しむように、スマホをじっと見つめていた。

「かけ直すか?」

「…いや」

おそらく出ないだろう…。でもー

そして画面に表示された時計を見て、外した眼鏡をかけた。

グラスに残った酒をまた一口飲み、唇を潤した。

トゥルルルル…

「雪乃?」

まるでかかってくるのがわかっていたかのような速さでスピーカーボタンを押し、応えた。

『早く帰って来て。そろそろお風呂の時間よ』

「わかった。今から出る」

『うん』

通話を終えた悠一がスツールから立ち上がり、2人の会話に驚いて固まっている直也に向かって言った。

「先に帰る。後は適当にして」

「あ…わかった。……て、待てっ」

脱いだ上着に手を通していた悠一が目線を寄越す。

「風呂って、子供の?」

「そうだ」

「お前が入れてるのか?」

「そうだ」

「……」

淡々と答える親友の姿に、直也は言葉を継ぐことができなかった。

嘘だろ…。悠一が子供の風呂とか……世話してる??あり得ない………。

今も直也が目にする悠一の姿はいつもと同じ、一分の隙もないもので、つい今しがたの会話を聞いていなければとても信じる事ができなかった。

だがー

「直也、また」

片手を上げてそう言い、背を向けた彼の足取りはどこか余裕がなく、そのくせ目元が僅かに緩んでいることに気が付いた直也は内心少し嬉
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