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Author: 美桜
last update Huling Na-update: 2025-06-17 08:48:56

どうしよう……。どうしたらいいの…?

チッ

泣きそうになりながら震える彼女に、春奈は小さく舌打ちした。

その時ー。

「どうしました?」

救いの主は社長秘書の真木宗太だった。

「ま、真木さん。この方が、社長との面会をご希望されてまして……」

「……」

受付前で騒いでいる人物がいると連絡を受けて来てみれば、まさかこの女だったとは…。

真木は朝から頭痛の種に遭遇した事を不運に思った。

だがここで彼女に好き勝手な事を言われたらダメージが大きい…。

そう判断した真木は悠一に連絡を取り、とりあえず応接室に案内する事にした。

彼に連れられながら、春奈はフフンッと周りを見渡した。

見てみなさいよ。社長秘書が直接出迎えに来るのよ、私は。

「真木さん」

彼女は得意満面な表情で先を歩く真木に追いつき、その腕に触れた。

彼はそれをそっと外し、ニッコリ笑うと言った。

「誤解を招くような言動は慎んでください」

「はい。真木さん、ごめんなさい。でも悠一兄さんにはきちんと説明しますから大丈夫ですよ?」

「???」

真木は彼女の意味不明な返事に首を傾げたが、あまり相手にすると気があると思われるかもしれない…という恐怖に口を閉ざした。

「悠一兄さんっ」

通された応接室でお茶を飲みながら時間を潰していた春奈は、やがて現れた悠一に飛びつかんばかりの勢いで立ち上がった。

「座れ」

それに対し、悠一の声は暗く、平坦だった。

彼の後ろには真木宗太もいて、彼女を冷ややかに見ていた。

「離婚届にサインしたのか?」

なんの前触れも気遣いもなくそう言われて、春奈は一瞬にして不機嫌になった。

「あーもうっ。朝から離婚届ばっかり見せられて、もううんざりよ!」

「サインすれば見なくて済む」

「……」

イライラとしながら足を組み替え、春奈はふんっと、横を向いた。

彼女には、なぜ悠一が自分を受け入れてくれないのか分からなかった。

子供の為だけど籍だって入れてくれたじゃないっ。

春奈は唇を噛み締めた。

悠一はそれを見て真木から書類を受け取り、彼女の目の前に広げた。

「見ろ」

春奈がちらりと目をやると、それは1年前、彼女が悠一と交わした契約書の写しだった。

「もう一度読んで理解しろ」

「……」

彼女が無視していると、悠一はその目を眇めて冷たく言い放った。

「仕方ないな。お前への支援は打ち切る。今日までの支援金も契約違反で返還して貰
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