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Author: 美桜
last update Last Updated: 2025-06-17 08:49:11

その頃、社内ではー

「ねぇ聞いて!私たち、凄いこと聞いちゃった!」

「今応接室の前通りかかったら〜、さっき受付で『悠一呼んで』て言ってた美女がいたじゃない?彼女が入っててさ〜」

今朝出勤した時から女子社員ほぼ全員の話題になっていた噂の美女が関係した話しだとわかると、皆が仕事の手を止めて振り返った。

「何々?私の推しを呼びつけた女の話!?」

「私の推しの腕に手を掛けようとして振られた女の話?」

口々に、悠一と真木のファンを自称する社員たちが身を乗り出して来る。

口火を切った彼女は、その勢いを借りて益々声高に語った。

「そう!あの女、大した女みたいよ〜。なんと!社長との間に子供がいるみたいなの!!」

その発言の後、部屋にはえぇぇぇぇっ!?と叫び声が上がり、もう誰もが仕事どころではなかった。

「なんですって!?何かの間違いよ!社長は女に興味がないのよ!!!」

「でも、あの女がそう言ってたのよっ『子供だけ取り上げるなんて』って!」

「………」

決定的なその言葉に、部屋の中は先ほどまでの騒々しさが嘘のようにシーン…と静まり返った。

「まさか社長…クズ男なの……?」

誰かが呟くと、皆気不味そうに視線を逸らした。そしてハッと何かに気づいたように咳払いをした。

「そ、そろそろ仕事再開しましょう…か」

「そうねっ…か、確信のないことは言わない方がいい…わよね……」

尻すぼみにそれぞれが口にしながら自分の席へと戻ろうとした時、それまで腕を組んで、黙って部屋の入り口に寄り掛かっていた悠一が静かに口を開いた。

「気にせず喋って?」

その言葉の重みに、その場にいた者たちは心の中で悲鳴を上げていた。

誰も口を開かない状況を見て、悠一は厳かに告げた。

「この部署にいる者たち、全員3ヶ月給与2割カット」

「かしこまりました」

真木の声も平坦で、周りを見回す視線は極氷だった。

その日ー。

誰もが話題にしたくてもできないもやもやを胸に抱えて過ごし、だが確実にそれは噂という形で広まっていった。

「もう隠せません」

一度たった噂は何をしても消すことはできない。

それがわかっているから悠一は仕方ないな…と一つ息を吐き、そして決意をした。

「ひとまず本家に行く。春奈は俺の目につかない所にでも閉じ込めておけ。携帯を取り上げる事を忘れるなよ」

「罰を与えますか?」

その問いに、彼はハンッと嗤った。

「必要ない。
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もちむぎ玄米
主人公が苦しめられながら辛い日々を過ごすドロドロ話が長〜く続く展開ではなくて、この小説は主人公の雪乃が奇跡のように回帰し過去に戻り、新たな心で人生をやり直すという、そんな痛快な展開が早々に始まり、正直、読み進めながら心が重く沈み続ける事がなくて良かったです。 今後、雪乃が2度目の人生をどのように生きていくのか?? 悠一がどう対応対処しながら悔い改めるのか?? クズ女の春奈が、どう絡むのか?? とにかく、雪乃に幸あれ!!です。 今後の展開を楽しみにしています。
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  • もう一度あなたと   ⑳

    その頃、社内ではー「ねぇ聞いて!私たち、凄いこと聞いちゃった!」「今応接室の前通りかかったら〜、さっき受付で『悠一呼んで』て言ってた美女がいたじゃない?彼女が入っててさ〜」今朝出勤した時から女子社員ほぼ全員の話題になっていた噂の美女が関係した話しだとわかると、皆が仕事の手を止めて振り返った。「何々?私の推しを呼びつけた女の話!?」「私の推しの腕に手を掛けようとして振られた女の話?」口々に、悠一と真木のファンを自称する社員たちが身を乗り出して来る。口火を切った彼女は、その勢いを借りて益々声高に語った。「そう!あの女、大した女みたいよ〜。なんと!社長との間に子供がいるみたいなの!!」その発言の後、部屋にはえぇぇぇぇっ!?と叫び声が上がり、もう誰もが仕事どころではなかった。「なんですって!?何かの間違いよ!社長は女に興味がないのよ!!!」「でも、あの女がそう言ってたのよっ『子供だけ取り上げるなんて』って!」「………」決定的なその言葉に、部屋の中は先ほどまでの騒々しさが嘘のようにシーン…と静まり返った。「まさか社長…クズ男なの……?」誰かが呟くと、皆気不味そうに視線を逸らした。そしてハッと何かに気づいたように咳払いをした。「そ、そろそろ仕事再開しましょう…か」「そうねっ…か、確信のないことは言わない方がいい…わよね……」尻すぼみにそれぞれが口にしながら自分の席へと戻ろうとした時、それまで腕を組んで、黙って部屋の入り口に寄り掛かっていた悠一が静かに口を開いた。「気にせず喋って?」その言葉の重みに、その場にいた者たちは心の中で悲鳴を上げていた。誰も口を開かない状況を見て、悠一は厳かに告げた。「この部署にいる者たち、全員3ヶ月給与2割カット」「かしこまりました」真木の声も平坦で、周りを見回す視線は極氷だった。その日ー。誰もが話題にしたくてもできないもやもやを胸に抱えて過ごし、だが確実にそれは噂という形で広まっていった。「もう隠せません」一度たった噂は何をしても消すことはできない。それがわかっているから悠一は仕方ないな…と一つ息を吐き、そして決意をした。「ひとまず本家に行く。春奈は俺の目につかない所にでも閉じ込めておけ。携帯を取り上げる事を忘れるなよ」「罰を与えますか?」その問いに、彼はハンッと嗤った。「必要ない。

  • もう一度あなたと   ⑲

    悠一が記憶にある雪乃の笑顔を思い浮かべてその目元を緩めた時、彼の目の前からすん…っと鼻をすする音がした。ちらりと視線を向けると、そこには目に涙を浮かべて悲しそうに肩を震わせている春奈がいた。「……」それを見た悠一の顔にはまたか…といううんざりした表情が浮かび、彼は嫌そうに口を開いた。「泣けば解決するとでも?」冷たい声音には、一切の容赦がなかった。「うぅぅ…酷いわ…私はただ、あなたと子供たちとで幸せになりたかっただけなのに……うぅっ…子供たちだけ取り上げるなんてっ…うぅぅ…」一体なんの芝居だ?彼女の急な訴えに悠一は眉を顰めただけだったが、後ろに控えていた真木はハッと応接室のドアを開けて外を確認した。そして渋い顔をして戻ってきた彼は、春奈に怒りの眼差しを向けた。「どうした?」悠一が問うと、彼は深刻な表情で答えた。「やられました。何名かの者に聞かれたようです」そう言って彼は部屋の中を見回し、ある一点、換気の為に開けられるようになっているいくつかの小窓の一つが、小さく開いている事に気が付いた。それに気が付いた真木を見て視線を逸らす春奈に、悠一も気が付いた。真木は小走りで去って行く背中を思い出して、悔しそうに春奈を睨みつけた。春奈は申し訳なさそうに眉を寄せて「わざとじゃないの。ごめんなさい…」と言ったが、それが彼女の策略であることは明白だった。那須川家の後継者である悠一の結婚は業界でも最大の関心事であり、年頃の娘や孫娘のいる者たちは皆こぞって彼へと接触を謀り、売り込みに勤しんでいた。そこへこんな話が流れたら、とんだスキャンダルだ。春奈の狙いは正しくそれで、彼女はこの機会に名実ともに彼の妻となろうと企んでいた。「なるほど?」だが彼女の予想に反して悠一は慌てることなく一言だけ呟くと、冷ややかに軽蔑の眼差しを送ってきた。「つまり、違約金も払う覚悟があるということだな?ずいぶん大きく出たな」「え……」なにそれ?違約金?今まで貰ったお金返すだけじゃないの??「秘密厳守の条項があったろう?お前はそれに違反したんだ」「……」知らない。聞いてない。春奈は思った。でもそんなの、悠一兄さんの妻だって認められたら、払わなくてよくない?「偶然秘密が漏れたのも、私のせいなの?」「偶然?」悠一は何か面白いことでも聞いたかのようにくくっ…と

  • もう一度あなたと   ⑱

    どうしよう……。どうしたらいいの…?チッ泣きそうになりながら震える彼女に、春奈は小さく舌打ちした。その時ー。「どうしました?」救いの主は社長秘書の真木宗太だった。「ま、真木さん。この方が、社長との面会をご希望されてまして……」「……」受付前で騒いでいる人物がいると連絡を受けて来てみれば、まさかこの女だったとは…。真木は朝から頭痛の種に遭遇した事を不運に思った。だがここで彼女に好き勝手な事を言われたらダメージが大きい…。そう判断した真木は悠一に連絡を取り、とりあえず応接室に案内する事にした。彼に連れられながら、春奈はフフンッと周りを見渡した。見てみなさいよ。社長秘書が直接出迎えに来るのよ、私は。「真木さん」彼女は得意満面な表情で先を歩く真木に追いつき、その腕に触れた。彼はそれをそっと外し、ニッコリ笑うと言った。「誤解を招くような言動は慎んでください」「はい。真木さん、ごめんなさい。でも悠一兄さんにはきちんと説明しますから大丈夫ですよ?」「???」真木は彼女の意味不明な返事に首を傾げたが、あまり相手にすると気があると思われるかもしれない…という恐怖に口を閉ざした。「悠一兄さんっ」通された応接室でお茶を飲みながら時間を潰していた春奈は、やがて現れた悠一に飛びつかんばかりの勢いで立ち上がった。「座れ」それに対し、悠一の声は暗く、平坦だった。彼の後ろには真木宗太もいて、彼女を冷ややかに見ていた。「離婚届にサインしたのか?」なんの前触れも気遣いもなくそう言われて、春奈は一瞬にして不機嫌になった。「あーもうっ。朝から離婚届ばっかり見せられて、もううんざりよ!」「サインすれば見なくて済む」「……」イライラとしながら足を組み替え、春奈はふんっと、横を向いた。彼女には、なぜ悠一が自分を受け入れてくれないのか分からなかった。子供の為だけど籍だって入れてくれたじゃないっ。春奈は唇を噛み締めた。悠一はそれを見て真木から書類を受け取り、彼女の目の前に広げた。「見ろ」春奈がちらりと目をやると、それは1年前、彼女が悠一と交わした契約書の写しだった。「もう一度読んで理解しろ」「……」彼女が無視していると、悠一はその目を眇めて冷たく言い放った。「仕方ないな。お前への支援は打ち切る。今日までの支援金も契約違反で返還して貰

  • もう一度あなたと   ⑰

    「春奈さま、これを…」騒ぎ疲れた春奈が自分の朝食が準備されるのを目にして、やっと静かに席に着いた。ロールパンを2つ、スクランブルエッグにソーセージを2本。サラダとスープ。割としっかり目の朝食を完食し、食後のコーヒーを口にした時、小高がそっと1枚の紙を差し出した。離婚届ーそれを見た途端、彼女の眉間はギュッと顰められ、そしてそれを2つに裂き、ぽいっと捨てた。小高は黙ってそれを拾い、次の物を差し出した。それも裂いて捨て、拾って次を出しー。そんな事を何度か繰り返し、とうとう彼女の怒りが爆発した。「どちらへ?」「悠一兄さんの会社よ!」そう怒鳴って彼女は足音も荒く部屋に戻り、しばらくして美しく着飾って出て行った。残された使用人たちは皆その変わりように目を瞬いて、そしてそれぞれに複雑な表情をした。変わりすぎでしょ…。小野真里は思った。結局男はこういう女に騙される。旦那さまも例外じゃなかったのね…。昨夜見た雪乃の寂しそうな姿を思い出し、彼女は胸を痛めた。その頃ー。那須川グループ本社の正面入り口にタクシーを乗り付け、春奈はできるだけ視線を集めるよう勿体ぶって優雅に降り立った。丁度、社員たちの出勤時間と重なったからか、彼女の姿にその場はヒソヒソと囁きあう人々が足を止め、一時混雑を極めた。「誰?なんか超〜ゴージャスなんですけど〜?」「知らないわよ。でもグループの関係者じゃない?こんな真正面に車停めるんだから。邪魔だってわかんないのかな?」「うんうん。そうかもね。でもさ、タクシーだよ?運転手付きの高級車で送迎…て感じじゃないし、どこの誰〜て感じ」そう口々に言ってくすくすと嘲笑う様子に、春奈は恥ずかしさと怒りで顔を赤くした。見てらっしゃい!!彼女たちを睨みつけたいのをグッと堪え、無理やりその顔に微笑みを浮かべて、彼女はカツカツとヒールの音も高らかに受付へと向かって歩いて行った。「おはようございます。お約束ですか?」受付のまだ若い社員が春奈を見てニッコリと微笑み、尋ねた。「悠一を呼んでくださる?」「え…」聞き間違いだろうか…。そんな彼女の逡巡を見て取って、春奈は丁寧に、だがその目に威圧を込めてもう一度言った。「那須川悠一を呼んでいただけるかしら?」「は、はい!…あ、いえ、お約束はー」「ないわよ」「は…」まだ新人の彼女には、

  • もう一度あなたと   ⑯

    「疲れてるでしょう?少し寝てきていいわよ。私が見てるから」そう言うと、小野は何度か遠慮して断ったが、雪乃に促されて「それじゃあ、少しだけ…」と隣の彼女の部屋に戻って行った。雪乃は眠る双子を見て、愛おしげに目を細めた。「陽斗…。咲良…。あなたたちにまた会えて嬉しかったわ…」じわりと滲んだ涙を指で拭い、雪乃は彼らの額に軽くキスをした。「さようなら」そう囁くと、彼女はもう子供たちの顔を見なかった。しばらくしてー小野真里が仮眠を取り終えて子供部屋に戻ると、雪乃は窓辺に椅子を置き、静かに外を眺めていた。その顔は何処か寂し気で、辛そうだった。声をかけるのを躊躇っていると、彼女に気が付いた雪乃がニコリと微笑み、「じゃあね」と言って部屋を出て行った。その後ろ姿に、小野真里はなぜか嫌な予感がしたのを次の日思い出したのだった。翌朝ー朝食を摂る為階下に降りた悠一は、雪乃の姿がないことに気が付いた。「雪乃は?まだ寝てるのか?」昨夜の騒動を思い出しそう問うと、執事の小高は気不味そうに側に寄って来た。「なんだ?」「奥さまは、今朝早く出て行かれました」「なに!?」ガタンッと椅子を倒す勢いで立ち上がり、悠一は彼女が使っていた客室に向かった。バタンッと勢いのままにドアを開けると、そこは既に初めから誰もいなかったかのように綺麗に片付けられていた。「何処に行った?」「……申し訳ありません」「訊いてないのか!?」「……」悠一は頭を下げ続ける小高を鋭く睨みつけ、一言「捜せ」と命じた。そしてそのままくるりと背を向け、朝食もそのままに邸を出て行った。小高は不機嫌なまま車に乗り込んで出て行く悠一を見送って、静かに息を吐いた。実は彼は雪乃から居場所を聞いていた。だがそれを教える条件が〝悠一には秘密にする〟というものだった為、口を噤んでいたのだ。主を裏切る行為だとは分かっていたが、いずれこれが彼ら2人の為になるのなら、と胸に収めたのだった。ダイニングに戻ると、そこには春奈の姿があった。「皆もう出かけたの?」言いながら、テーブルの上のサラダを指で摘んで口に入れた。彼女は昨夜、結局もう一つの客室に泊まり、我が物顔で今も振る舞っていた。家政婦の中川朋美はそんな彼女に眉を顰め、彼女の朝食を準備する為そそくさとキッチンに引っ込んで行った。「これでいいのに

  • もう一度あなたと   ⑮

    「私はあなたの妻よ!」「ふざけるな!!」階下で言い争う声にうんざりして、眠りを妨げられた雪乃はとうとう起き出して来た。「うるさいんだけど」「……」悠一はそれを聞いて苦味走った顔になり、春奈はギリギリと歯軋りしながら睨みつけてきた。可愛い子ぶりっ子はやめたのかしら…?そう疑問に思いながらも「なに?」2人のそんな表情に少し苛ついて、雪乃もつい喧嘩腰で問いかけた。「何も言う事はないのか?」「だから、うるさいってー」「違う!」悠一の鋭い声に雪乃はびっくりして、思わず口を噤んでしまった。なによ。八つ当たりしないでよねっ。「子供たちには会ったの?」気を取り直して尋ねた。「会ったわよ!泣いてばっかり!全然可愛くない!!」癇癪を起こしてそう叫ぶ春奈に、悠一は冷笑した。「世話もしないで母親づらするな」「!」「というか、お前は何の為に帰って来たか忘れたのか?」「離婚なんかしないわ」「じゃあ、お前への支援は今後一切しない。今までの分も返してもらう」「そんな…っ」「そういう契約だったはずだ」「……」雪乃は階上から、この2人のやり取りを冷めた目で見ていた。オギャー…オギャー…子供部屋から双子の泣き声が響いてきた。もしかして、ずっと泣いてるの…?そう思うと少し胸が痛んだが、自分が手を出すべきではないと我慢した。だから「泣いてるわよ」そう言うと、悠一は眉根を寄せた。春奈は、自分とは関係ないとばかりに知らん顔をしている。雪乃はただじっと2人を見ていた。がー子供たちの泣き声は徐々に大きくなっていき、やっぱり我慢の限界に達した雪乃が踵を返して部屋に向かったのだった。ドアを開けると子守りの小野真里が泣きそうな顔で子供たちをあやしていた。彼女は保育士の資格を持ち、ここに来るまでは保育園で働いていた。いろんな子供を見てきたし、もちろん時には赤ん坊も預けられる為そのお世話もしてきた。だからここでの仕事も楽勝だと高を括っていたのだった。だがそれが間違いだったと気づいた時にはもう遅く、彼女はここの高いお給金を捨てる勇気がなかった。捨てられないなら頑張るしかない!そう思いながらも双子は本当に扱いづらい子で、彼女のメンタルはもう限界に近かった。「奥さま……うぅっ…」雪乃の顔を見て安心したのか、小野真里の目から涙が溢れてきた。

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