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一万メートルの空に囚われた愛

一万メートルの空に囚われた愛

에:  道草の旅人참여
언어: Japanese
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飛行機事故の時、夫の田村純一(たむら じゅんいち)は彼の幼馴染の大野翠(おおの みどり)と指をからめあっていた。 来世こそ夫婦になろう、と。そう誓い合って、二人は一緒に死のうとしていた。 飛行機は雪山に墜落して、私と翠は同じ場所に投げ出された。でも彼女は、私を殴って気絶させると、私の体から肉をえぐり取った。 私の肉を食べて、翠は雪山で生き延びた。そして私の死体を隠して、顔もぐちゃぐちゃにしたんだ。 その後、純一と翠は恋人になった。そして翠は、私の息子・田村樹(たむら いつき)の継母になり、私の両親にも実の娘同然に扱われ、私の全てを奪っていった。 一年後、私の遺体が発見された。それを解剖したのは、なんと夫の純一だった。でも彼は、それが私だとは最後まで気づかなかった。

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1화

第1話

浴室からシャワーの音が聞こえてくる。

森川拓海(もりかわ たくみ)がシャワーを浴びているのだ。

午前3時。

さっき帰宅したばかりだった。

森川知佳(もりかわ ちか)は浴室の扉の前に立っていた。話したいことがあったのだ。

これから相談しようとしていることを、彼が聞いてくれるだろうか。少し不安になった。

どう話しかけようかと迷っていると、中から妙な音が聞こえてきた。

耳を澄ませて、やっと理解した。拓海が一人でしていることの音だった……

荒い息づかいと押し殺したうめき声。胸を重いハンマーで叩かれたような衝撃が走った。苦しみが波のように押し寄せてくる。その痛みに息が詰まった。

今日は二人の結婚記念日で、結婚して5年が経つ。それなのに夫婦として一度も……

結局、自分で済ませることを選んでも、私には触れたくないということなのか?

彼の息づかいがさらに荒くなる中、限界まで我慢したような低い声で果てた。「結衣……」

この一言が、心を完全に砕いた。

頭の中で何かが音を立てて崩れ、すべてが粉々になった。

必死に口を押さえ、声を漏らさないよう振り返った瞬間、よろめいた。洗面台にぶつかって床に倒れてしまった。

「知佳?」中から拓海の声がした。まだ息が整わず、必死に抑えようとしているのが分かったが、呼吸は荒いままだった。

「あ……お手洗いに行こうと思って、シャワー中だなんて知らなくて……」苦しい言い訳をしながら、慌てて洗面台につかまって立ち上がろうとした。

でも焦れば焦るほど、みじめになっていく。床も洗面台も水で濡れていた。やっとの思いで立ち上がったとき、拓海が出てきた。白いバスローブを慌てて羽織って乱れていたが、腰の紐だけはしっかりと結ばれていた。

「転んだのか?俺が手伝うよ」彼女を抱き上げようとした。

痛みで涙が溢れそうになったが、それでも彼の手を振り払った。そして意地を張って、「大丈夫、一人でできるから」と言った。

そして再び滑りそうになりながら、足を引きずって寝室へと逃げ帰った。

「逃げる」という表現は決して大げさではない。

拓海と結婚したこの5年間、知佳はずっと逃げ続けていた。

外の世界から逃げ、周囲の視線から逃げ、そして拓海の憐憫の視線からも逃げていた――拓海の妻が足の不自由な人だなんて。

足の不自由な人が、端正で事業も成功している拓海と釣り合うはずがない。

でも彼女にも以前は健康で美しい脚があったのに……

拓海もすぐに出てきて、やさしい口調で心配そうに尋ねた。「痛くないか?見せてくれ」

「大丈夫」知佳は布団を引き寄せ、自分のみじめさと一緒に布団の中に身を隠した。

「本当に大丈夫か?」彼は本当に心配していた。

「うん」彼女は背中を向けて、強くうなずいた。

「じゃあもう寝るか?お手洗いに行きたかったんじゃなかったのか?」

「もう行きたくない。寝ましょうか?」知佳は小さく言った。

「わかった。そうそう、今日は俺たちの記念日だから、君にプレゼントを買ったんだ。明日開けて、気に入るかどうか見てくれ」

「うん」知佳は答えた。プレゼントはベッドサイドに置かれており、もう見ていた。ただ、開けなくても中身がわかる。

毎年同じ大きさの箱で、中には全く同じ時計が入っている。

知佳の引き出しには、誕生日プレゼントと合わせて、すでに9個の同じ時計が眠っており、これが10個目だった。

会話はそこで途切れ、彼は電気を消して横になった。空気中にボディソープの湿った香りが漂っていた。でもベッドの沈み込みをほとんど感じなかった。2メートルの大きなベッドで、彼女がこちら側に寝て、彼は向こう側の端に横になっている。二人の間にはまだ3人が寝られるほどの距離があった。

二人とも結衣という名前を口にすることはなく、ましてや彼が浴室でしていたことについても触れなかった。まるで、何も起こらなかったかのように。

知佳は固まったまま仰向けに横たわり、ただ目の奥がヒリヒリと痛むのを感じていた。

結衣、立花結衣(たちばな ゆい)は彼の大学の同級生で、初恋であり、憧れの人だった。

大学卒業のとき、結衣は海外に行き、二人は別れた。拓海は一時期立ち直れず、毎日酒に溺れていた。

知佳と拓海は中学の同級生だった。

中学時代からひそかに彼を好きだった。

その頃、拓海は学校一のイケメンで、クールな優等生だった。一方知佳は芸術系の生徒だった。美しくはあったが、美しい女の子は大勢いた。成績がすべてだった学生生活において、芸術系の生徒はそれほど目立たず、偏見を持たれることさえあった。

だから、それは彼女だけの片思いで、いつか彼の前に立てる日が来るなんて思ったこともなかった。

芸術大学のダンス学科を卒業して夏休みに実家に帰っていた時、落ち込んでいる拓海と再会するまでは。

その夜も拓海は酔っぱらっており、ふらふらと歩いていた。横断歩道を渡るとき信号を見ておらず、一台の車がブレーキも間に合わず突っ込んできた。彼を突き飛ばしたのは彼女だった。心配で彼の後をついていた知佳が、彼を押しのけて自分が車にはねられたのだった。

知佳はダンス専攻で、大学院への推薦も決まっていた。

しかし、この交通事故で、足は不自由になった。

もう二度と踊ることができなくなった。

その後、拓海は酒をやめ、知佳と結婚した。

知佳に対して罪悪感を抱き続け、感謝し続け、優しい言葉をかけ続けた。でも同時に冷淡で水のように冷たく、そしてたくさんのプレゼントをくれ、たくさんのお金をくれた。

ただ一つだけ、愛してはくれなかった。

知佳は、時間がすべてを癒してくれると思っていたし、時間がすべてを薄れさせてくれるとも思っていた。

しかし想像もしなかったのは、5年が過ぎても、彼は「結衣」という名前をこれほど深く心に刻んでいるということだった。さらには、自分で処理するときでさえ、呟いているのはその名前だということだった。

結局は私があまりにも愚かで世間知らずだったのだ……

一睡もできず、スマホの中のそのメールを、この夜100回は見返した。

海外のある大学からの大学院入学許可通知で、今夜彼と相談するつもりだったこと――私が海外の大学院に行くことは可能かどうか?

しかし今となっては、拓海と相談する必要はなさそうだった。

5年間の結婚生活、数え切れない眠れぬ夜。それがついにこの瞬間から終わりに向かって歩み始めるのだ。

拓海が起きたとき、知佳はまだ寝たふりをしていた。外で家政婦の中村さんと話している声が聞こえた。「今夜は接待があるから、彼女には待たずに休むよう伝えて」

言い終えると、彼はまた部屋に戻ってきて様子を見た。知佳は布団をかぶっており、涙で枕が濡れていた。

普段拓海が会社に行くときは、知佳が彼の着る服をコーディネートして脇に置いておき、彼はそれを着るだけだった。

しかし今日はそれをしなかった。

拓海は自分でクローゼットに行って着替え、会社に向かった。

知佳はそのとき目を開け、ただ目がひどく腫れぼったいのを感じた。

スマホのアラームが鳴った。

それは自分で設定した時間で、起きて英語を読む時間だった。

結婚後の知佳は、足のことで9割の時間を家に閉じこもっていた。もう外出することはない。一日の時間を区切って、それぞれに何かすることを見つけて時間を潰すしかなかった。

スマホを手に取ってアラームを止め、それからさまざまなアプリを目的もなく見始めた。

頭の中はぼんやりと混乱していて、何も頭に入らなかった。

それが、ある動画アプリで突然一つの動画を見つけるまでは。

画面の中の人があまりにも見覚えがある……

もう一度アカウント名を見ると――結衣CC。

このおすすめ機能は……

投稿時間は、昨夜だった。

知佳が動画をタップすると、すぐに賑やかな音楽が響き、それから誰かが叫んでいる声が聞こえた。「いち、に、さん、結衣おかえり!乾杯!」

この声は、なんと拓海だった。

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第1話
飛行機事故の時、夫の田村純一(たむら じゅんいち)は彼の幼馴染の大野翠(おおの みどり)と指をからめあっていた。来世こそ夫婦になろう、と。そう誓い合って、二人は一緒に死のうとしていた。飛行機は雪山に墜落して、私と翠は同じ場所に投げ出された。でも彼女は、私を殴って気絶させると、私の体から肉をえぐり取った。私の肉を食べて、翠は雪山で生き延びた。そして私の死体を隠して、顔もぐちゃぐちゃにしたんだ。その後、純一と翠は恋人になった。そして翠は、私の息子・田村樹(たむら いつき)の継母になり、私の両親にも実の娘同然に扱われ、私の全てを奪っていった。一年後、私の遺体が発見された。それを解剖したのは、なんと夫の純一だった。でも彼は、それが私だとは最後まで気づかなかった。私の遺体が見つかった時、そのあまりのひどさに、救助隊員たちは何人もトラウマになってしまったそうだ。顔中が切り傷だらけで、元の顔なんて分からない。骨がのぞいているところもあった。夫の純一が現場に来たとき、周りの人たちはまた吐き始めた。「田村さん、遺体は洞窟で見つかりました。事故の犠牲者じゃないかもしれません。誰かに殺されたハイカーみたいです」純一の部下である山下健二(やました けんじ)の話では、遺体が見つかった場所は飛行ルートから外れているとのことだった。普通ならあんな場所まで飛ばされるはずはない。自分で歩いた可能性もあるが、遺体の痕跡はどれも、私が誰かに殺されたことを示していた。今日をもって、あの飛行機事故から丸一年が経った。純一は遺体の前で眉をひそめ、体をぶるぶると震わせていた。「田村さん、ここは私たちに任せてください。田村さんもあの事故に遭われたんですから……これはあんまりにも酷いですよ」「平気だ」純一は無理に自分を落ち着かせた。プロとして、情に流される姿を見せたくなかった。しかし、そばにいた健二はぽつりと言った。「まだ28人も見つかってないんですよね。奥さんも、行方不明のままですし……」「しっ」純一は、私のことを話すのを許さなかった。私は純一のそばに漂いながら、彼が遺体を調べていくのをじっと見ていた。私の服は、とっくに純一の幼馴染である翠にはぎ取られていたので、お腹にぽっかりとあいた二つの穴が、ひどく目立っていた。「二か所、明らかにお肉がえ
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第2話
ハッと我に返ると、純一が車を買い替えていることに気づいた。車の中は翠の好きなぬいぐるみだらけで、助手席には【翠専用】と書かれたステッカーまで貼ってある。「樹を迎えに行こう。もうすぐお迎えの時間でしょ」「うん」純一は翠に優しくシートベルトをつけてあげて、頭をなでた。もう何も考えなくていいよ、とでも言うように。二人は運転している時でさえ、手を握り合っている。昔、私が信号待ちの時に手をつないで写真を撮ろうとしたら、純一にひどく怒られたのを思い出した。「危ないだろ!事故にでもなったらどうするんだ!」って。胸がずきりと痛んだ。車が停まると、息子である樹がこっちに走ってくるのが見えた。私は手を伸ばし、愛しい我が子を抱きしめようとした。でも樹は私をすり抜けて、翠の胸に飛び込んでいった。「パパじゃやだ!翠姉ちゃんに抱っこしてほしい!」樹は、翠にものすごく懐いていた。翠は樹の鼻を優しくつついて、「学校で、先生のお話ちゃんと聞いた?」と尋ねた。私は息が詰まりそうだった。私を死に追いやった人殺しに、私の息子まで奪われてしまった。今すぐ翠に飛びかかって、八つ裂きにしてやりたい衝動に駆られた。でも、私にはもうどうすることもできなかった。樹は翠の肩に甘えるように寄りかかると、こくりと頷いた。「うん、それにね、先生に褒められたよ。僕はこんないい子にしてるから、翠姉ちゃんは、いつ僕のママになってくれるの?」私は衝撃を受けた。この子が、翠に母親になってほしいって?本当に気が狂いそうだった。私を死に追いやったこの女が、純一を奪い、今度は樹まで奪おうとしている。なんて皮肉なの。「パパもがんばらないと、翠姉ちゃんは誰かにとられちゃうよ」死んでまだ一年しか経っていないのに。周りの人はもう私のことをすっかり忘れてしまったの?三人は笑いながら、私の実家へ帰っていった。明日は週末だから、純一は樹を私の両親に預けるつもりらしい。父が樹を遊びに連れて行ってくれた後、母が真剣な顔で純一に向き直った。「またご遺体が見つかったって聞いたけど、美羽じゃなかったの?」母が尋ねると、純一は翠を気遣うようにちらりと見て、静かに首を振った。あれは美羽のはずがない、どうやら事故で亡くなったハイカーのようだ、と純一は言った。母はため息をついた。「
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第3話
純一は私の両親の家に行ったその日の夜、翠にプロポーズした。何万人もいるコンサートで、彼はゲストとしてステージに招かれ、カメラに向けて翠への愛を宣言した。私は、幸せそうにキスを交わす二人を、ただ見つめていた。私の魂まで、きりきりと痛みだした。そうか、これが純一が人を本気で愛するときの姿なんだ。情熱的で、気持ちをまったく隠さない。私に対しては、こんなじゃなかったのに。翠は純一にネックレスを贈った。なんと、そのネックレスには、私が純一にあげた結婚指輪がつけられていたのだ。「美羽さんにも、私たちの幸せをちゃんと見届けてほしいから」翠は笑いながら、純一にそのネックレスをつけてあげた。彼女の思い通りだ。死んで魂だけになった私は、今まさにこの光景を見せつけられている。純一はやさしく翠を抱きしめて言った。「やっぱりお前は気が利くな」「私と結婚するんだから、過去とはちゃんと、さよならしないとね」……飛行機が落ちて、意識を取り戻した時のことを思い出した。あの頃の私は、翠が一緒だったことに、むしろ安心していた。一人じゃなかったから、きっと助かるって信じてたんだ。私は翠に聞いたんだ。私たちの隣にいたはずの純一はいないかって。だって、席は隣同士だったから。周りは亡骸だらけで、中には見るも無残な人もいた。翠はほとんど怪我もしてなくて、むくりと体を起こすと、「何か食べるものを探してくるね」と言ってくれたんだ。まさか、その後、翠が石を抱えて、私の頭に思いっきり振り下ろすなんて、私は死ぬまで思いもしなかった。鬼のような形相で、彼女は怒鳴った。「なんであなたが生きてるのよ!手間かけさせないで!愛されてない方が邪魔者なの!あなたが死ねば……純一は完全に私のものになるんだから!」私は翠に殴られて血まみれになった。彼女は私の薬指にはまった結婚指輪をにらみつけると、今度は狂ったように私の手を殴りつけた。私の指は、ぐちゃぐちゃにつぶれてしまった。私はすぐには死ななかった。ただ気を失ってただけ。でも、体中がすごく、すごく痛かった。意識が戻ると、お腹をすかせた翠が、じっと私を見ていた。そして彼女は、私の体から肉を二切れ……切り取った。……夜、翠は悪夢にうなされて目を覚ました。隣にいた純一が、すぐに彼女を抱きしめた。「また怖い夢でも見
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第5話
私は純一の目の前までふわっと浮かんで、彼の表情をたしかめようとした。私が死んで、さぞかし安心してることでしょうね。だって、もう私は二度と帰ってこられないんだから。これで心おきなく、翠と一緒にいられるんだもんね。「どうしたの、純一?仕事のことなの?」翠の声は、相変わらずやさしかった。でも、今の純一はどこかおかしかった。彼はうなずいて、「ああ、ちょっと用事ができた。誰かに送らせるから、先に帰っててくれ」と言った。「わかったわ。じゃあ、気をつけてね」翠はそう言うと、純一にキスをしようとしたけど、彼はさっと身をかわした。翠の顔が曇り、その表情は険しかった。私が純一について彼の職場に戻ると、彼は感情が爆発寸前みたいで、健二の前に歩み寄った。「報告書はどこだ!」と、純一はヒステリックに叫んだ。まるで一番大事な人を亡くしたかのようだった。でも、私にはわかる。純一は私のことなんて何とも思ってない。ただ世間に向けて、愛情深い夫を演じているだけ。純一は報告書を握りつぶさんばかりに睨みつけた。その時、健二が口を開いた。「すでに事件として捜査を開始しています。現場をもう一度しらみつぶしに調べたところ、警察は、他の生存者による犯行の可能性が高いと見ています」純一の声は、ひどく震えていた。「なんで、美羽なんだ?」純一は絶望したように泣き叫ぶ。健二はそんな彼の横で、遺体から肉が二切れなくなっていたのは、誰かが意図的に切り取ったからだと、冷静に告げていた。「あの状況で生き延びるには、人間性を捨てるしかなかったのかもしれません」健二の言葉が何を指しているのかは明らかだった。純一は、握りしめていた拳を再びゆるめた。「じゃあ、右手の薬指がないのは?これにはどんな意図がある?」純一はまた遺体のそばまで歩み寄り、変わり果てた姿のおそろしい形相になった私を見つめた。彼は膝から崩れ落ちそうになった。ぽろぽろと涙を流し、低い声でつぶやく。「美羽、すごく痛かっただろう」純一はただの事故だと思っていたのに、私が誰かに殺されたと知って衝撃を受けていた。「安心してくれ。必ず犯人を見つけて、お前のかたきを討つから」偽善ぶるのはもうやめてよ、純一。こうして私の遺体が見つかって、死亡が確定した。これであなたもようやく、心おきなく翠と結婚でき
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第6話
翠の目から、一瞬で涙があふれ出た。「遺体が見つかるまでは、まだ希望があった。でも、もう……」彼女は声を詰まらせた。「誰かに助けられて、一生見つからなくてもいいから、世界のどこかで生きていてほしかった」と、翠は言った。「目が覚めた時、美羽はそばにいなかったのか?」純一が尋ねた。翠は立ち上がる。「ええ、あなたもいなかったわ。私が目を覚ました時、周りは亡くなった人たちばかりだったもの」翠は頭を抱えて、とても苦しそうにしている。でも、純一は彼女を慰めようと近づかなかった。代わりに、私の息子の樹がしゃがみこんで、優しく翠をなだめる。「翠姉ちゃん、もう終わったことだよ。考えすぎちゃだめ。ママが死んだのは事故なんだから、自分を責めないで。パパ、翠姉ちゃんがすごくつらそうだよ。こっちに来て、なぐさめてあげてよ」樹は本当に「やさしい子」だ。翠のために、純一を呼んであげようとしている。でも、今夜の純一はなんだか変だった。テーブルに並んだ料理に、一口も手をつけなかった。翠は樹を抱きしめて言った。「大丈夫よ。あなたのパパがつらいのも当たり前だわ。だって、死んだのは彼の妻だったんだもの」「うん、わかってる。僕のママでもあるから」樹は、彼が死ときちんと向き合えるから、純一にも早く立ち直ってほしいと言った。まったく、なんて「いい子」なんでしょうね。こんな時だっていうのに、必死に翠を慰めるなんて。完全にあっちの味方じゃないか。その夜、純一は泊まらずに、また職場へ戻っていった。数々の罪悪感に苛まれ、翠は眠りにつけなかった。彼女は鏡の中の自分をじっと見つめた。「もう死んだくせに、どうしていつまでもつきまとうの!このクソ女、なんでまた現れるのよ!」翠の思惑では、私が白骨化するまで待つつもりだったのでしょ。そうなれば、たとえ見つかっても、誰も不審に思わないはずだから。でも、たった一年で、私は見つかってしまった。そして、雪山に隠されていた秘密も、一緒に掘り起こされた。その夜はひどい雨だった。翠は傘をさして純一を職場に探しに行ったが、​見つからなかった。彼女は狂ったように何度も純一に電話をかけた。そして二人の家に戻ると、純一がずぶ濡れでリビングに座っていた。純一は、ドアのほうから聞こえてくる物音に気づいた。翠が純一
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第7話
母は、私が死んだあとも、こんなふうにネットで色々書かれるのが可哀想だって言っていた。もともと純一が私たちのことをおおっぴらにしていたせいで、ネットでは彼を不倫男だと叩き、翠もその相手としてさんざん悪く言われていた。なかには、翠が私を殺した犯人なんじゃないかと疑う人までいた。だから母は、もうこの話を終わりにしよう、と言った。「ネットであんなに翠が叩かれてるのを見ると、私も胸が痛むの。みんな可哀想な子よ。美羽はもういない。これ以上、翠まで失うわけにはいかない」さすが、私の「やさしい」母だね。私は誰かに殺されたのよ。真犯人を探すこともしないで、現実から逃げてどうするの?すると、そばにいた翠は首を横に振った。「いいえ、美羽さんは殺されたんですから。絶対に彼女の為に真犯人を見つけなければなりません」「でも、ネットであなたがあんなにひどいこと言われて……家に嫌がらせに来る人もいるじゃない。何されるか心配で……」「大丈夫です」翠は首を横に振って、そんなことは気にしていないと言った。これを聞いて、両親はますます彼女を不憫に思った。両親は、結婚式は予定通り行うと言った。死んだ者は安らかに眠らせて、生きている者は前に進まないと、って。母は言い聞かせるように言った。「樹くんのためにも、ちゃんとした幸せな家庭が大事なのよ」目の前の光景に、私は言葉を失った。自分の娘のことも少しは見てよ。あんなに無残な姿で見つかったのに、なんとも思わないの?両親はずっと泣いていて、もう二度と誰かを失う痛みは味わいたくない、と言った。なにそれ。まさか、翠が死ぬとでも言うの?そんなに翠が傷つくのが怖いの?私はふと、純一と喧嘩した時のことを思い出した。彼と翠の怪しい関係が気になって仕方がなかった。純一は私を無視し続け、妊婦健診にだって一人で行かせた。私は実家に帰って、そのことを両親に話した。母はいつも「我慢して」って。結婚生活なんて、嫌なことがあって当たり前だって言ってた。純一みたいな人に見初められたんだから幸運だって。お金さえ握っていればいいのよ、とも。それに、別に浮気されたわけでもないでしょう、って言った。私は何度も離婚したいと思った。でも、そのたびに母から「樹くんのために、もう少しだけ我慢して」って止められた。そして、その我慢
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第8話
母は、たぶんネットの過激な人たちが、私の事件のせいでこんなことをしたんじゃないかって言っていた。正直、笑っちゃう。ネットの人たちなんて私とは赤の他人なんだから。せいぜいネットに書きこんで憂さ晴らしするくらいで、現実にこんなことするわけないのに。母は心配でたまらないみたいだったけど、純一は何も言わなかった。ただ、母に樹を連れて帰るよう促した。「俺が必ず翠を無事に連れて帰る」「ええ……」母は泣きながら言った。「もう娘を一人失ってるの。だから、翠だけは、絶対に連れ帰ってきて……」「ああ」母たちが帰った後、純一はすぐには犯人が指定した場所へ行かなかった。彼は家の中を、しばらく探し回っていた。本当は、純一にその気さえあれば、気づくのは難しくなかったはず。翠が助け出されてからの一年間、彼女の行動はおかしなことばかりだったんだから。翠はお肉を食べなかったし、見るとひどくおびえていた。それは、雪山でのトラウマのせいだった。彼女は、私を殺して生き延びたんだから。それから、翠がずっと大切に隠していた箱を、純一は部屋の隅っこから苦労して見つけ出した。彼はその箱をこじ開けた。そしてすぐに、変形した指輪を見つけたんだ。昔、プロポーズしてくれた時に彼が作ってくれた指輪……実は、私の指にはあんまり合ってなかったんだけどね。私は子供のころから純一に片思いしてたけど、言い出せなかった。だって彼は、ガリ勉は嫌いで、翠みたいに明るくて積極的な子が好きだって言っていたから。翠は男の子たちみんなと仲が良くて、純一ともそうだった。二人は一緒に泊まったり、同じプリンを分け合ったり、一つのドリンクを回し飲みしたりできるくらいだった。でも翠はいつも純一をぞんざいに扱っていた。「クールで強引なタイプは嫌いなの」って言って。彼女の好みは、草食系かと思いきや、急に肉食系に変わるような男性だった。ある日、二人の部屋の前を通りかかったら、純一が翠にこう言っていた。「試してみなきゃわからないだろ。俺だってお前のタイプになれるかもしれないのに」翠は彼を突き放して、甘えた声で笑った。「美羽さんが起きちゃうでしょ。またヤキモチ妬かれちゃうよ」あの時、純一は「冗談だよ」って言った。過去の出来事が一つ一つ、頭の中でどんどん鮮明になっていく。純一に告白
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第9話
「助けて……純一。あなたの子どもを、妊娠してるの」その言葉を聞いた純一の顔は、血の気が引いて、すごくこわばっていた。そばにいた拉致の犯人が冷たく鼻で笑った。「さっさと金を出せ。さもないと、お前の女と腹の中の子どもは、もうおしまいだ」ここへ来る前、純一は私にけじめをつけると言っていた。でもこの瞬間、彼は迷って、動揺した。翠のお腹には、彼の子どもがいるんだ。純一はお金を犯人たちに渡し、翠を傷つけないように頼んだ。犯人たちは金を受け取ると、倉庫に火をつけた。そして、純一をあざ笑う声が聞こえてきた。「まったく、バカな男だよな。自分からわざわざ金を持ってくるんだから。でも、あの女の言った通りだ。もっとふっかけておけばよかったぜ」純一に助け出された翠は、彼に抱きつこうとした。でも、純一はさっと身をかわした。「私、純一との赤ちゃんができたのよ、うれしくないの?」「俺に、何か打ち明けることはないのか?」純一はタバコに火をつけて、冷たい表情でそう言った。彼は翠に何度もチャンスをあげていた。真相を知ってからも、すぐには警察に通報しなかったんだ。純一が私に対して抱いているという罪悪感なんて、いったいどれだけが本物だったんだろう。翠は何か言いかけて、口をつぐんだ。彼女の目はみるみるうちに潤んで、ふるふると首を横に振った。「あなたが何を言ってるのか、わからないわ」純一はあの箱を取り出した。中には、変形した指輪が入っている。「美羽を殺したのは、お前なんだろ?」「違う、私じゃない」翠の顔は真っ青だった。いつかこの日が来るとは思っていた。でも、まさかこんなに早いなんて。あの指輪、残しておくんじゃなかった、と彼女は後悔した。「言い訳はもういい。あの洞窟でお前の痕跡も見つかってる。認めないのはわかってるけど、どうして美羽を殺したんだ?」翠は泣きじゃくりながら、突然その場にひざまずいた。彼女はきっと、この何年もずっと、純一にばれる場面を頭の中で何度も繰り返してきたんだろう。じゃなきゃ、あんなにすぐ言い訳が出てくるはずがない。「目が覚めたら、彼女がもう目の前にいて、手を出そうとしてきたんだ!私は自分の身を守っただけよ」翠は嘘をついた。私が彼女を殺そうとして、返り討ちにあったんだって。そういうことにしたんだ。純一は目
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第10話
翠の目が、一瞬で冷たくなった。「じゃあ、私を警察に突き出すってわけ?」「自分の犯した間違いには、自分で責任をとるべきだ」純一は心を決めた。スマホを取り出して警察に電話しようとする。でも、翠は笑い、突然さっきの犯人たちが現れた。木のバットが、純一の頭に振り下ろされた。翠は笑いながら言った。「チャンスはあげたのに、あなたがそれを無駄にしたのよ。私、美羽を殺した時、目をパチクリすることも無かったわ。彼女はずっと私に命ごいしてたのよ」純一は血の海に倒れながら、あの狂った女が逃げる相談をしているのを見ていた。彼は必死にもがいていた。本当に、愚かな人。私は宙に浮かびながら、苦しみもだえる純一の姿を見て、なんだか笑えてきた。たしかに私も愚かだった。翠を警戒しなかったんだから。でも、純一はもっと愚かじゃない?相手が殺人犯だと知ってるのに、わざわざ殺されに来るなんて。本当に笑える。私はそこにしゃがんで、純一が苦しむ様子を眺めていた。彼は手を伸ばして這い出そうとするけど、もうどうにもできなかった。幸い、純一の部下である健二がこの件を把握していて、警察が駆けつけた時にはまだ間に合った。純一は死なずに済んだのだ。翠は、その場で取り押さえられた。まったく、純一のそばに賢い人がいてくれてよかった。健二はため息をついた。「田村さん、どうしてそこまで人間を信じようとするんですか。奥さんのご遺体を見つけた時から、もっと用心するべきだったんですよ」健二が言うには、あんな残酷なことができる相手は、人間らしい心なんて持っていない。ほんの少しの愛情で、そんな相手が改心するなんてありえない、と。純一は何も言わなかった。ただ病院のベッドに横たわって、口の中で、「ごめん、美羽」と呟くだけだった。私の両親が、樹を連れてお見舞いに来た。母は泣き崩れていた。「人殺しを娘みたいにかわいがってたなんて……美羽は天国で、きっと私にがっかりしてるわ」「パパ、ごめん」樹は、自分が間違っていたと謝った。純一はうつろに天井を指さした。「お前が謝る相手は、ママだろう」みんなが今さら反省している姿を、私は絶望的な気持ちで見ていた。樹を身ごもっていた時のつらい日々も乗り越えてきたのに。自分の産んだ子だから、きっと私を大事にしてくれると信じていた。それな
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