上流って、私のことでしょう？

夫・浅野惟人（あさの　ゆいと）の面目を立てるため、私は自らを上流社会の女性へと磨き上げた。

五年もの間、昼夜を問わず勉強に励み、話し方さえ練習した。

私の支えで彼は重要なプロジェクトを勝ち取り、一躍業界の新星となった。

私は胸を膨らませ、待ち望んだ幸せな日々がついに訪れたと思った。

しかしある時、偶然耳にした彼の友人への愚痴が、私の希望を打ち砕いた。

「悠香（ゆうか）って今めっちゃ気取ってるよな。純粋な清美と比べたら、比べものにならないくらい違う。

生まれも育ちも悪い醜いアヒルの子が、毎日派手に着飾れば誰かが注目してくれるとでも？

結局は俺の面子を立ててるだけだろ？俺みたいないいやつ以外、誰が彼女を相手にするんだ？」

私がこの家のために尽くした努力は、彼の目には見せかけに映っていたとは。

五年もの夫婦生活。ついに片方だけ先に裏切ったのだ。

彼の友人の声が聞こえてきた。

「でもさ、彼女、惟人さんと一緒に立ってると、本当に名門みたいに見えるぜ」

惟人はその言葉を聞いて、思わず嘲笑して言った。

「見た目だけさ。実際はブランド物の真偽さえ見分けがつかないんだ。

前に俺が彼女にあげた偽物のネックレスだって、見破れなかった。むしろブランド品だって大喜びしてたよ。

そこまで金に目がくらむと、もう救いようがない」

それを聞いて、私の胸は鈍器で殴られたように痛んだ。

あのネックレスは、惟人がくれた誕生日プレゼントだった。

当時は私たちの生活も不安定で、彼が節約のためにそうしたのだと思い、あえて何も言わなかった。

むしろ嬉しそうに振る舞い、インスタに写真まで上げた。

まさか、彼は最初から意図的にそうしたとは思わなかった。

わざとそんな方法で私への不満を表現し、わざと私の嬉しそうな姿を冷ややかに見つめ、心の中で嘲笑っていたとは。

ふと、彼の友人の声が再び響いた。

「いや待てよ？

あの時プレゼント選びに俺も一緒に行ったんだけど、ネックレスは本物だったのに……」

途中で彼は突然、意味深に「ああ」と声を漏らした。

「本物のネックレスは清美にあげたんだろう？

そう考えると、悠香さんって本当に笑えるほど単純だな。

今だってまだ清美が惟人さんのいとこだと思い込んでるんだろうな、ハハハ……」

「清美といる時は、何も考えずに、思う存分話せるんだ。

でも悠香は、口を開けば金融や仕事の話ばかりで、もう彼女と話す気すら失せたよ」

林清美（はやし　きよみ）の名を口にすると、惟人の声は幾分か柔らかくなった。

その時、惟人の携帯が鳴った。ドアの隙間から、彼の瞳に浮かぶ優しい笑みが垣間見えた。

「惟人さん、いつ帰るの？ご飯作ったから待ってるよ」

それを聞くと、惟人の仲間たちがすぐに騒ぎ出した。

清美は照れくさそうに続く。

「惟人さん、そっちは賑やかそうだから邪魔しないように切るね。

おばさんと楽しくおしゃべりできたよ」

電話が切れると、また別の友人が声を張り上げた。

「惟人さんが清美にネックレスを贈った時、彼女が何て言ったか知ってる？

『高価なネックレスなんていらない。惟人さんが私を愛してくれるだけで十分』だって。

惟人さん、清美はあんたのこと本気で惚れてるぜ！」

惟人は眉を上げ、瞳の笑みをさらに深めた。

「これが清美だ。

彼女に比べたら、悠香はまったくダメだ」

私の下唇はいつの間にか血が出るほど自分に噛みしめられていた。

私はうつむき、一分前に惟人から届いたメッセージを見つめた。

【悠香、君に会いたいよ。今すぐにでも君のそばにいてほしい】

サプライズを仕掛けるため、私はわざわざ出張を早めて彼のもとへ飛んできた。

しかし今、彼のほうからとんでもない「サプライズ」を用意してきたそうだ。