三日ほどかけて、魔神の住まう古城が見える所まで移動した。
かなり牛歩な進軍だったが、魔神側は戦力を、温存しているのか道中魔物が襲ってくることはなかった。
それはそれで不気味なものだ。
ただ。そのお陰もあって冒険者や騎士達の体力は一切消耗していない。
全力でぶつかる事ができると一部の冒険者は息巻いているほどだ。
「ふむ、あれが魔神のいる城かな?」
僕らは一旦歩みを止めて遠くから観察する。
古城の周りには魔物がこれでもかというほどに集まっており、魔族の姿もチラホラと見える。
「すご……リヴァルみたいな人多いね」
「魔族だからな」
うっすい感想を姉さんが口にするとリヴァルさんはそれに相槌を打つ。
「リヴァル、あの中に爵位級魔族はどれくらいいるか分かるかい?」
アレンさんが近寄ってきたと思うとリヴァルさんへと話しかけた。
リヴァルさんも答えない、という事もなく返答する。
「俺が分かる限り爵位級は約百人。その中でも公爵位は五人しかおらん。……どうやら全ての魔族を従える事は間に合わなかったらしい」
「公爵位もいるのかぁ……結構大変かもしれないね」
結構大変というレベルかと言わんばかりの目でリヴァルさんはアレンさんを見つめる。
公爵位なんて僕からしてみれば魔神と変わらない強さなんじゃないかな。
四天王と呼ばれていた魔族よりは弱いのかな。
アレンさんも僕と同じ気持ちを抱いていたようでその質問を投げ掛けていた。
「四天王と公爵位魔族、どっちが強い?」
「そんな分かり切ったことを聞くな。四天王に決まっているだろう」
リヴァルさんの話では公爵位の魔族の中でも突出した力を持つ者が
僕らは現在古城が見える位置で待機している。それには理由があった。三百人もの冒険者や騎士を指揮するのはなかなか難しい。一番大きな天幕でアレンさんやクロウリーさんといった主力メンバーで作戦会議を行っていた。「ロルフ騎士団長、貴方は百人を率いて左翼から攻撃して欲しい」「な、なぜだ。私は確かに騎士団長という肩書きを持ってはいるがアレン殿と比べれば天地の差。アレン殿が一番多くの戦力を指揮した方が良いのでは?」ロルフさんの意見は最もだ。アレンさんの考えた作戦というのはロルフ騎士団長が百人、"黄金の旅団"副長レイさんが五十人、"破滅の灯火"団長セルさんが百人、副長リリーさんが五十人を率いるというものだった。残った少数が僕や姉さんを守る手勢という事だったが、ロルフさんは自分が百人も率いるのは自信がないのか眉をへの字に曲げている。「ロルフ団長、貴方は別に弱いことなんてないさ。何よりボクよりも指揮能力に優れている。ボクはどちらかというと切り札的な存在でね。ボクを含めた三人は兵を率いないと決めたんだ」「た、確かに魔神との戦いでは貴殿のような力が必要になる。しかし……私が百人も率いるのか」「おいおい情けねぇ顔してんじゃねぇよ。俺だって百人も率いて戦場に立つのは初めてだぜ?アンタは今までも多数の騎士を率いて戦ってきたんだろ?」ロルフさんの肩を叩きながら喝をいれるのはセルさんだ。ガハハと笑う豪快な人だがその実力は折り紙付き。アレンさんの話では、帝国二大クランといえば"黄金の旅団"と"破滅の灯火"だそうだ。その団長を務める男が弱いはずがない。「セル殿、我々騎士団は確かに大人数で動く事が多い。しかし今回のように騎士だけでなく冒険者も入り混じっての混合部隊を率いるのは自信がないのだ」「安心しろって。冒険者共も従順なもんさ。特にアンタみ
三日ほどかけて、魔神の住まう古城が見える所まで移動した。かなり牛歩な進軍だったが、魔神側は戦力を、温存しているのか道中魔物が襲ってくることはなかった。それはそれで不気味なものだ。ただ。そのお陰もあって冒険者や騎士達の体力は一切消耗していない。全力でぶつかる事ができると一部の冒険者は息巻いているほどだ。「ふむ、あれが魔神のいる城かな?」僕らは一旦歩みを止めて遠くから観察する。古城の周りには魔物がこれでもかというほどに集まっており、魔族の姿もチラホラと見える。「すご……リヴァルみたいな人多いね」「魔族だからな」うっすい感想を姉さんが口にするとリヴァルさんはそれに相槌を打つ。「リヴァル、あの中に爵位級魔族はどれくらいいるか分かるかい?」アレンさんが近寄ってきたと思うとリヴァルさんへと話しかけた。リヴァルさんも答えない、という事もなく返答する。「俺が分かる限り爵位級は約百人。その中でも公爵位は五人しかおらん。……どうやら全ての魔族を従える事は間に合わなかったらしい」「公爵位もいるのかぁ……結構大変かもしれないね」結構大変というレベルかと言わんばかりの目でリヴァルさんはアレンさんを見つめる。公爵位なんて僕からしてみれば魔神と変わらない強さなんじゃないかな。四天王と呼ばれていた魔族よりは弱いのかな。アレンさんも僕と同じ気持ちを抱いていたようでその質問を投げ掛けていた。「四天王と公爵位魔族、どっちが強い?」「そんな分かり切ったことを聞くな。四天王に決まっているだろう」リヴァルさんの話では公爵位の魔族の中でも突出した力を持つ者が
リヴァルさんを仲間に引き入れて僕らはまた進軍を開始した。かなり焦らしたせいで魔神も苛立っていることだろう。「ねぇねぇ、カナタ。あの強そうな女の人ってなんて名前?」「ん?ああ、あの人はテスタロッサさんだよ」ふと姉さんが真横を走る馬車の窓を指差した。僕らは今リヴァルさんの馬車に乗っていてアレンさんやテスタロッサさんとは別の馬車だ。「へーテスタロッサさんっていうのね。カッコいい人だね」「強いし口調といい男らしい人ではあるかな」僕ら相手にはそこまでキツくないが多分弟子であるレオンハルトさんにだけはかなりキツイ。僕は前にボコられてたのを見ている。「でも本当にここが異世界なんだね。なんだか夢の中にいるみたいかも」「僕も最初はそうだったよ。魔法なんてファンタジーの作り話っていう先入観があったから」原理を解明したいのは研究者としてのさがなのだろう。そんな暇はないけど。「これだけの人がいて勝率はどれくらいなの?」「うーん……どうだろう?アレンさんやテスタロッサさん、それにクロウリーさんもいるしこれで負けるようなら人間側に勝ち目はないかもしれない」事実上人間陣営の最強が集まっているんだ。これで勝てないのならもはや魔神討伐など叶わぬ夢だろう。「……リンドール様は我々の想像がつかぬ力をお持ちだ。人間最強と言われているあの白帝ですら苦戦はまのがれん」「そうなの?リヴァルも結構強いんでしょ?」「紫音。俺は確かに強い。その辺の魔族に比べればな。だが、リンドール様は格が違う……強さの次元が違うぞ」伯爵位のリヴァルさんでもそれほど恐れる存在なんだな。"黄金の旅団"の方々も沢山犠牲になった。彼らとて弱いわけではなか
「ん?どうだった?紫音はいたかい?……ってカナタのその表情見れば分かったよ」僕が馬車から降りてアレンさんに駆け寄るとすぐに気づいたのかアレンさんはにっこり笑う。続いて姉さんが恐る恐る馬車から降りてくると、沢山いる人達を見回しておおーっと声を漏らして驚いていた。「っと……その馬車はどうしたんだい?」「実はある魔族が貸してくれまして」「ふむ、魔族か。人間に味方する魔族なんて珍しいね」僕はアレンさんに姉さんとリヴァルさんの事を話した。最初は驚いていたが、姉さんとリヴァルさんを見てなんだか納得したように頷いていた。「なるほど……ね。魔族も人並みの感情を持っているようだね」「というと?」「ふふ、気づいているんだろう?カナタ。あれは明らかに恋に落ちた顔だよ」そう言いながらアレンさんは視線を一人の魔族へと向ける。姉さんに惚れた、んだろうなリヴァルさん。じゃないと人間を助けようだなんて思わないだろうし。「仲間には言い含めておこう。彼をこっちまで連れてきてくれるかい?」今リヴァルさんと姉さんは馬車の近くにいる。あまり不用意に近づいて攻撃されたらと思い、ある程度距離を置いて停車していた。僕が手招きすると姉さん達がこちらへと歩いてくる。魔族が徐々に近づいてくるにつれて冒険者達は身構えていたが、それをアレンさんが手で制す。「いきなり攻撃してくるなよ?俺も殲滅王とはやり合いたくない」リヴァルさんは腕を組み顔を背けた。よほどアレンさんと戦いたくないんだな。「ほう?伯爵位の魔族かの?儂も
リヴァルさんと姉さんが合流し、僕らは本隊に戻ることとなった。また歩きかと思っているとリヴァルさんが所有している馬車を出してきてくれた。「お前達の本隊がどこにいるのかは知っている。歩けばそれなりに遠いぞ」「なに?アンタが馬車を出してくれるってわけ?」「……何度も言わせるな」いや、言ってない。何度どころか一度も出してくれるとは口にしていないよリヴァルさん。ここまで手を貸してくれるとなれば、普通怪しむものだ。フェリスさんはやはり信じ切れないようでリヴァルさんを睨んでいた。「……なんだ」「アンタがそこまでしてくれる理由が分からないのよ」「……紫音だ。奴は何の力もないくせにこの世界へと飛び込んだ。ただ弟のために、とな。そんな純粋で勇敢な女を俺は見たことがなかった。……そういうことだ」全然意味が分からなかったが、とりあえずリヴァルさんは姉さんの為に手を貸してくれると言っているようであった。また僕としても姉さんを守ってくれるならそれに越したことはない。僕らはリヴァルさんの馬車で本隊へと急いだ。あまり待たせてしまうのも申し訳ない。問題はリヴァルさんの事をどうやって紹介するかだ。いきなり僕らが魔族を引き連れて帰ってこれば警戒するだろうし。「そういえばカナタ、魔神を倒すって言ってたけど勝てるの?」姉さんが純粋な疑問をぶつけてくる。当然の疑問と言えるだろう。だって日本で魔神を目にしているんだから。「勝てる勝てないじゃないんだ。やるしかないんだよ」「でも……あの怖い人でしょ?」
「――で今があるってわけ!リヴァルがいなかったら私もここにいなかったよ」姉さんが話し終わると僕はホッと一息ついた。嬉しいのは分かるが息継ぎもそこそこによくそこまで途切れず話ができるなと僕は呆れた。「でも本当に姉さんが無事で良かったよ。こっちの世界に飛び込んで来たのにはビックリしたけど」「だって……一人より二人の方がいいでしょ?その……なんだっけ、時間を戻すだっけ?」一応僕はある程度分かりやすく掻い摘んで目的を話したが姉さんはあまり理解ができていないようでフワッとした物言いをする。「紫音、この世界は日本ほど優しくない」「うん、アカリちゃん。それはもう嫌と言うほど理解したよ。でもそんな世界にカナタは行ったんだから姉である私も行くのが当然でしょ?」何が当然なのか理解できなかったであろうアカリは首をひねっていた。「だいたい!カナタ一人で解決できる問題じゃないでしょ!一人で背負わなくてもいいんだよ、私だっているんだから!」「でもこれは僕が始めた物語なんだ。だから僕が最後まで付き合う必要がある。……あんなものを作らなければ春斗も死ぬ事はなかったんだから」「それはそうだけど……でも……」納得していないのか姉さんは不満げな表情だ。そんな僕らのやり取りを黙って聞いていたであろうリヴァルさんが会話に割り込んできた。「貴様、紫音が手伝ってやると言っているのだ。黙って頷け」えぇ〜……なんか姉さん贔屓じゃないかなこの魔族。「どうせ貴様のようなちっぽけな力しかもたん人間一人ではできることもたかが知れている」「まあそうですけど……」「それになんだ?世界樹の精霊から出された課題は魔神の討伐だと?あの御方は貴様程度では傷一つつけられんぞ」リヴァルさ