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11食目・夕方の景色

Author: 柊雪鐘
last update Last Updated: 2025-11-28 08:00:51

窓の外に投げられた書類は紙飛行機のように飛んで、外の喧騒の中に消えていく。

まさか、あれも魔法?

飛んでいく紙を見届けたサミーさんはゆっくりとこっちに戻ってきた。

「お待たせ。万来堂からのお返事は多分早くて3日、遅くても一週間ってところね。返事が来たらまず面接があると思うから、その時はこちらから連絡させていただくわね。だめでも他のお仕事紹介させて頂くけど」

「分かりました。よろしくお願いします」

「それまでは観光気分で街をゆっくり回って、少しでもこの世界について知ってくれたら嬉しいわね。今日はお疲れ様!どうせ転生して、家が決まってからここまで休みなしでしょ?ゆっくり休んで頂戴ね」

「いえ、こちらこそ何から何までありがとうございます」

にこりと微笑むサミーさんはまるで女神のような人で、とても優しい人だと思う。

すごくフレンドリーで、エリザさんもそういう感じの人だし、今日であったクリステフさんや義政さんもそう。

この世界の人はいい人だなぁ、とついつい思ってしまう。

何より転生してきたこっちの人への気配りがとてもされている気がする。

そういえば、今日はもう休むだけなんだと思ったら……どっと体に疲れが現れた。

「ふわぁ……はっ、すみません!」

「ふふ、いいのよ。だって疲れたでしょう?さ、帰ってご飯食べてお眠りなさい」

「そうします。ありがとうございました」

くすくすと笑うサミーさんに恥ずかしくなって、私はエリザさんの許へ向かう。

エリザさんは待機用のベンチに腰掛けながら目を瞑って休んでいるようで、声をかけようか迷った。

迷ったけど、すぐに気付いたようにその目は開いた。

薄い黄緑色の瞳がじっと私を見て、エリザさんは「まあ」と嬉しそうな声でにこりと微笑む。

「お疲れ様、ルシーちゃん。もう終わったの?」

「はい、終わりました」

「じゃあ帰りましょうか。夜ご飯は……折角だから、このままお外で食べない?」

「じゃあ、そうします」

おっとりしたエリザさんだから、この柔らかさがとても有難いように感じる。

自分で事故を起こして巻き込まれてから、何も知らない場所に突然飛ばされて、何も知らない場所で突然の生活。

そこで出会った人が優しくなかったら、寧ろここまで献身的な人達はどれほどなのだろう?

そう思うと、改めてこの世界に流れてきて良かったとさえ思ってしまう。

「あらあら、私の顔をじっと見て、何かあった?」

私はどれほどの時間、エリザさんの顔を覗いていたのだろう。

一瞬だと感じていたのだけど、エリザさんの言葉に心臓がドキリと跳ねてしまった。

確かに相手の顔をじろじろと見てしまうのは失礼だ。

「いえ、なんでもないです」

「そう?ああそうだ、ご飯の場所が決まったら、中でのことを是非教えて欲しいわぁ」

「もちろんです。行きましょっか」

「ええ」

それから二人で役所を出ると、明るかった外は夕焼けの色に染まっていた。

遠くの空は黄色から強い橙色へ、見上げればうっすらとピンクがかって薄紫、真上から先は紫から紺色の空へと続いている。

その中には白く輝く星々が散りばめられていて、なんて綺麗な空だろう。と、息を漏らしたくなった。

「お空に何かあった?」

「いえ、空や星が綺麗だなーと思って」

「ルシーちゃんの町は、そんなに綺麗じゃなかった?」

「なんていうか……町が明るすぎて、星が見えなくなってました。こんなに敷き詰められてるものなんですね」

「……ふふっ」

「?」

つい思ったことを呟いた。

でも私は変な事を言ったつもりが無くて。

だからエリザさんがここで噴き出したことに、疑問が沸く。

そんな私を察したのか、エリザさんは「ごめんなさいね」と一言置いた。

「私たちにとってはなーんの変哲もない、普通の景色。でも、この景色が貴女の特別になるのなら、悪くはないわね」

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