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6食目・馬車に乗って手続きへ

Penulis: 柊雪鐘
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-06 08:00:09

乗合い、とは言っていたけど屋根もある箱型の馬車に乗ってるのは私のエリザさんだけだった。

馬車は2頭の馬が車輪の付いた箱を引いて、ステップに足をかけて乗った私達はどれも壁に沿って中央を向く椅子の、最後尾に座る。

窓枠は大きく開放的で、どこからでも外を覗けるし、外からでも馬車に乗ってる人はわかりやすそう。

窓がないけど雨が降ったらどうするんだろう?

ふと天井を見上げると、窓枠の付近にラップの箱みたいなものが並んで見えた。

「ん……?」

「上の箱が気になる?あれはカーテン、雨が降ったら箱のひもを引っ張って、この窓枠の釘にかけるのよ」

私の疑問を察したように、エリザさんは颯爽と教えてくれた。

どうやら布製のブラインドが取り付けられているらしく、雨が降ったら自分で降ろしてね、ってことのようだ。

となると雨が当たるのは背中側、あ、椅子が内側向いてるのって雨対策か。

「ふふ、興味津々なのね。馬車って初めて?」

「そうですね。車っていうこういう箱を自分で運転するものが主流だったので。存在しても、他国だったし……」

「そうなの。いつかルシーちゃんの世界のお話も聞きたいわぁ」

そう言いながらエリザさんは「はい、これ」と手提げかばんに入れた巾着袋から銅色の硬貨を取り出した。

私の手のひらに乗せられた硬貨を見ると、磨かれた10円玉みたいにてらてらと鈍く光を反射している。

柄はお花で、数字は何も書かれていないけどとても綺麗だ。

「もうそろそろ役所に着くわよ。降りる時は入り口のベルを鳴らして、止まったら降りて御者さんに渡すのよ」

「分かりました」

とは言っても、馬車が動いているのに慣らしていいのだろうか?

あ、次の停留所に止まった時に鳴らすのかな?と思ったけど、停留所は見当たらない。

さっきもなんか立ち止まって馬車が来るのを待ってたような?

「ルシーちゃんどうしたの?そろそろベルを……――はっ、ごめんなさいね」

悩む私にエリザさんは何かに気づいて、謝りながら手を伸ばす。

すると『からんからん』とベルが揺れた。

誰も触ってないのに。

「!?」

「ルシーちゃんは魔法が使えないのね、失念していたわ……。次からあのベルの横の席にある、優先席に座るといいわよ」

魔法。

話には聞いていたけど、召喚術以外の魔法もある!

初めて直に見て、気にならないわけがない。

「い、今のは……?」

「まずは降りましょうか」

ドキドキと胸打つ心臓を押さえながら聞いてみるも、馬車は止まってしまった。

仕方なしに馬車を降りて、御者さんに銅貨を渡す。

すると少し遠くから走ってきた親子が行き先を告げて馬車に乗り込んで、馬車はあっという間に次のお客さんを連れて行ってしまった。

「急いてた……んですかね?今の」

「馬車は辺りをいっぱい走ってるし、馬車によってルートも決まってる。でも、決まった停留所ってないの。だから誰かが降りたところを待つか、さっきの私達みたいに馬車が来るまで待つかのどっちか。今の子達は私たちが降りて、目の前を去ってしまうのが不安だから急いで乗ったのねぇ」

「なるほど……。あ、それでさっきのベルは……?」

「ああ、そうだったわね」

エリザさんはにこりと微笑むと、両手のひらでお椀を作る。

「いくわよ」と声をかけると手のひらの上でぼっ、と小さな炎が突如現れた。

「わっ」

「私たちフォス=カタリナ人は皆、生活に使う程度の魔法を使えるのよ。こうして火を起こしたり、小さな風を吹かせたり、水を飲水に変えたり」

「すごい……!」

「でも、それだけよ。それに転生者のルシーちゃんにだって、スキルは与えられてるのだから十分にすごいと思うわ」

少し歩きながら、エリザさんは「ついたわよ」と微笑む。

エリザさんの背後に視線を向けると、目の前には石造りの大きな建物が|聳《そび》え立っていた……。

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