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第十四話:牙(きば)・前編

作者: 新城凪
last update 公開日: 2026-04-15 12:00:47

アスイェが目を覚ましたとき、最初に耳に入ったのは、衣擦れが石の床に触れるかすかな音だった。
何かがそっと近づいてくる。

彼は本を読みながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
目を開けずに、指先で静かにページを閉じる。

――とてとて、と。
小さな足音が続いていた。
その足取りはどこか急いているようで、次の瞬間には腕の中に飛び込んできてもおかしくない気配さえあった。

アスイェは動かず、ただ待った。
子供のわがままかもしれない、そう思いながら。

やがてセラフィナは、彼の傍らで足を止めた。
大きすぎる服を羽織り、膝には赤い痕が残っている。
何かを堪え、あがきながら、ようやくここに辿り着いたのだろう。

顔に表情はなく、ただ瞳の奥に一瞬、どこか怪しい赤が揺らいだ。

その輝きは、澄んだ柘榴石《ガーネット》にも似ていた。

セラフィナは音も立てず、ただアスイェを見つめる。
涙はとめどなくあふれ落ち、止まる気配さえなかった。

牙《きば》がのぞいていた。
まだ生えそろってはいないが、痛みは確かに伴う。

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