بيت / SF / アンビリカルワールド / 消えた国民、隠された事実

مشاركة

消えた国民、隠された事実

مؤلف: kumotake
last update تاريخ النشر: 2025-07-19 09:10:24

 事務室に入り、午後の業務のためにPCを起動する。

 そして隣に座っている新人も、業務を行うために、同じ動きでPCの電源を入れて、さっきと同じ様な口調で、しかしさっきとはまるで別の話題を「あっ、そういえば新堂さん」という言葉を皮切りに、俺に促す。

 そしてそこからは、本当にただの雑談だ。

 休日に昔ながらのカフェやバーに行くことを趣味にしているこの新人は、そこで食べた料理や飲み物、その店の雰囲気や、そこで会った初対面の女性ヒトと過ごした一夜なんかも、よく話題にして俺に話す。

 まったく......

 無駄に顔が良い新人のその話題は、後半の方は特に、危うい気もするのだが......

 休日は家に居ることが多い俺にとっては、週初めの月曜日に話されるその話題が、些か鬱陶しいと思う反面、自分だとそういう所には出向かないし、もちろん初対面の女性ヒトなんかとも、そういうことになることはない。

 だから彼のそんな話は、聞いている分には、まるでチープな深夜ドラマでも見ている様な、そういう感覚になって、少しだけ面白かったりする。

 だからまぁ飽きもせず、毎週そんな話を、俺は彼から聞いている。

 矛盾していると、自分でも思いながら。

「さぁ、そろそろ仕事をしよう」

 そう言うと、新人は少しだけ、不満そうな表情をする。

 どうせまた明日も、同じ話をする癖に。

 そんな風に思いながら、PCの画面を確認して、そして午後の業務を行う。

「......えっ?」

「ん?どうしたんですか、新堂さん」

 そう言いながら、新人は俺のPCの画面を覗き込む。

 そしてその画面を見て、新人も俺と同じような、表情になる。

「これ......どういう、状態ですか......?」

「いや、俺もわからん......」

 そう......そこに映されているのは、モニタリングされたデータと、そのデータの対象とされている国民の顔写真と名前が、細かく列記されていた。

 ある数名を除いて......

「こんなの、はじめて見ましたよ。モニタリングされたデータだけが、綺麗に空白にされているなんて......何かのバグ......ですかね......?」

 そう言いながら、俺の方を見る新人に、言葉を返す。

「どうなんだろうな......もしバグなら、お前の方でも、同じことが起きているんじゃないのか......?」

「それは......いや、ありえなくはないですよね......確認します」

 そう言いながら新人は、自分が担当している国民のバイタルデータをチェックするために、PCを操作する。

 しかし新人には、俺と同じようなことは、起きていなかったそうだ。

 新人よりも幾分、俺に年齢が近い上司が言う。

「国民のバイタルデータが一斉に消えるなんて......これは一体どういうことなんでしょうね、新堂さん?」

 そしてその上司の言葉に、俺はありのままをそのまま、言葉にする。

「......っと言われましても、私にも何がなんだかわからない状態ですので......」

 緊急の面談を行うための会議室で、向かい合いながら座っている俺と上司。

 年齢が五つ程下の者に対して敬語を使うこと自体に、俺自身まったく抵抗がない......わけではないが......仕事上仕方がないと割り切れる。

 しかしこうもあからさまな声色と態度だと、普段は気にしない程度のことでも、引っ掛かってしまいそうになる。

 しかしながら、そんな俺の心境は、きっと向こうは知る由もないのだろう。

 いいや、こんなちっぽけな心境は問題ではないのだから、知らなくていい。

 それに、むしろ可哀想なのはこの上司の方だ。

 ただでさえ扱い辛いであろう俺の立場に気を遣いながら、普段は誰よりも仕事をしており、今もなお、本当はこんな面談をするよりも、通常業務に時間を割きたい筈である。

 だからだろうか、ため息交じりの声で、上司が言う。

「わからないじゃ、困るんですけれどね......」

「......」

「まぁ、起きてしまったことをどうこう言っても仕方がないです......しかしそれでも、何も手を打たないという訳にもいかないんですよ、新堂さん」

「たしかに、そうですね......」

 そう言いながら、俺は視線を少しだけ、その上司の目から外す。

 人間誰しも、同じところを寸分違わずに見続けることなど出来ない。

 そしてそれは、目の前にいる上司も同じことだ。

 俺の力のない返答を聞いた後、彼は手元にあるタブレットに視線を落として、操作する。

「そこで、新堂さん......貴方には暫くの間、外部調査をお願いしたいと思っております」

「......外部調査......ですか?」

 聞き馴染みがない言葉を訊き返すと、目の前の上司はそれを「はい」と肯定した。

 だから俺は、その肯定した内容について、勘違いがない様に、詳細を確認した。

「......それは、今回バイタルデータがなくなった者達の所へ、直接足を運ぶということでしょうか?」

「えぇ、まさしくその通りです」

「あまりにも、直接的ですね......それに危険です......」

 そう言いながら、再び彼の瞳に視線を向けると、既に彼の視線は、俺の方を向いていた。

 そしてそのまま、表情を変えずに彼は言う。

「えぇ、そうでしょうね......だから貴方に適任なんですよ、新堂さん。なんて言っても、貴方は元々、調査局のエースじゃないですか?」

 目の前に座る上司に対して、俺は視線を向けながら、言葉を紡ぐ。

「......ずいぶんとまぁ、古い話を持ち出すんですね......私が調査局に居たのは、もう十年以上前のことですよ......もう、ただの一般人です......」

 そう言いながら、どうすれば彼との会話を、この話題からは関係のない所に持って行くことが出来るのか、それだけを俺は、考えていた。

 しかしながらその目論みは、意図も簡単に打ち砕かれた。

「それでもやはり、今回のこの件に関しては、貴方以上の適任者は居ないんですよ。だって、そうじゃないですか......」

「......」

「あの事件は、もう十年以上前の話になりますよね?」

 そう言いながら上司は、机の脇に置いてある、俺の経歴が書かれている書類に視線を落とす。

 そしてそのまま、わざとらしく、俺に語り掛ける。

「そういえばあの事件も、最初は十人の国民のバイタルデータが、一斉に消えたことから始まったんですよね?まるで......今回の様に......」

「......なにが、言いたいんですか?」

 そう言いながら俺は、目の前に座る上司を見つめる。

 しかしその視線は、恐らく最初のそれとは、意味合いがまったく違うのだ。

 到底、部下が上司に対してする様な目では、なかったのだろう。

 それだけは......

 たとえ鏡がなくともそれくらいは、なんとなく理解できるのだ。

「......怖い顔をしますね。しかしそんな顔をするということは、あながち見当違いなこと......というわけでもないのでしょう」

「......模倣犯がいると......そういうことですか?」

 そう俺が口にすると、その重々しい俺の声色と同じくらいの重さで、彼は頷いた。

 そしてそのままの流れで、彼は続けた。

「当時の犯人はたしか、自殺でしたっけ。確保する直前に、調査局員の目の前で......ですよね?」

「......えぇ、そうです」

「そうなるとやはり、模倣犯の存在を疑うのは、容易なことでしょう」

「......そうでしょうか?」

「......」

「......」

 疑問符の俺の言葉を最後に、無音が会議室を包み込む。

 その空気はまるで、部屋の酸素を全て吸い込んでしまいそうになっている様な、そういうモノだった。

 そしてその空気に、どうやら耐え切れなくなったのは、俺だけではなかったらしい。

 寸分早く、目の前に座る上司は徐に、立ち上がった。

「話は以上です。業務内容の詳細は追って連絡します」

「あぁ、そういえば、言い忘れるところでした......最近、調子はどうですか?」

 そう言いながら、会議室の扉に手を掛けた上司は、俺の方を振り返り、書類を持ったもう片方の手を使って、自分の耳元を指差す。

 そして言われた俺は、この上司が何のことを話しているのか、その仕草と言葉で、すぐに理解できた。

 だからその彼の言葉に、俺は静かに、言葉を返す。

「......えぇ、おかげさまで......」

 そう言いながら自分も立ち上がり、使っていた椅子に手を掛ける。

 無意識に視線を落としている俺に対して、続けてその上司は口にする。

「白木先生が、心配していましたよ?」

「......そう......ですか......」

「ちゃんと、診察の方も行ってくださいね......」

 そう言葉を残して、上司は会議室を後にした。

 その後はいつも通りだった。

 削除されたバイタルデータについての業務は、別日に詳細な連絡があるということなので、今日残っている業務は、いつもとほとんど変わらない。

 午前中に分析課へ提出した書類についての返信があれば、それらについての対応を行う。

 まぁ大半は、分析課の承認印が押された書類を参考にしながら、そのバイタルデータの持ち主である国民一人一人に対して『通知書』を作成し、PCでそれらの送信を行えば、一通りの業務が終了する。

 なお『通知書』の送信先は、その国民本人に対してではなく、府内メールを用いて、通達課に送信されるのだ。

 そして今度はその通知書を、通達課が各都道府県に通達をし、そこから各自治体に送られた後、ようやく国民本人へと通知書が送られる。

 ほんとうに、面倒な仕組みだよな......

 そんなことを、仕事をしながら、俺は思う。

 けれどここまで面倒なステップを踏む理由は、できるだけ国民との直接的なやりとりを避けるためだ。

 なんせ俺等の仕事は、たとえ行政府の仕事だとしても、他人の健康状態を、勝手に覗き見て、それを基に様々な書類を作成し、本人に『通知書』として送付される。

 何の前触れもなく......だ。

 そんなの、良い思いをする奴の方が、本来少ないだろうに......

 そんな風に思いながら、俺はPCのキーボードを叩く。

 視線の先には、出来上がりつつある書類と、無作為に流れてくるネットニュースの記事がいくつかあって、その中の一つに、俺は視線を止めた。

『行政府によるバイタルデータ監視業務の反対運動』

 記事の見出しには、やはりこういうモノもあるのだ。

 そしてその記事を、どうやら隣に座る新人も見ていたようで、彼は一言、こう言った。

「ホント、いつ後ろから刺されるか、わかりませんよね?」

「あぁ、まったくだ......」

 次の日の休日、ある人の所を訪れることになっていたので、昼頃にゆったりと家を出て、その人の所へ向かうために、電車に乗る。

 会社へ向かう時に使うのと同じ乗り物に、休日も同じ様に揺られるのは、やはり些か思う所はあるけれど......

 しかし平日とは違い、逆方向へ進む電車に乗れることに、少しだけの高揚感を感じるのは、たしかなことなのだ。

 たとえその行き先が、病院だとしても......

「まったく......穏やかな休日の午後に、君の様な患者が来てしまうと、こちらとしてもダラダラと仕事をするわけにはいかなくなるなぁ......」

「ワーカーホリック気味な証拠ですよ、それは......精神科医の先生がそれでは、患者にあまり、示しがつかない様にも思えますが......」

「ハハッ、ほっとけ......いつものでいいかい?」

「えぇ、どうも......」

 そう言いながら、俺はその初老の医者  白木 昭三しらき しょうぞう から、淹れたてのコーヒーを受け取る。

 皮肉屋な医者だが、俺が調査局を辞める切っ掛けを与えてくれたのも、彼の診断があったからだ。

 そして今も、彼は俺の後遺症に、根気よく付き合ってくれている。

 毎月二回、この先生の所に訪れて、俺はカウンセリングを受けているのだ。

 毎回、このコーヒーを飲みながら......

「それで最近はどうなんだ?やっぱりまだ聞こえるのか、ノイズは?」

「......えぇ。それどころか最近は、夢にまで出てくるくらいで......」

「夢?なんだ、まるで恋でもしている様な物言いだな......」

「......笑えないジョークですよ。それは......」

 ため息混じりに返した後に、受け取ったコーヒーに口を付け、いつも通りのその味に、少しばかり安堵していると、目の前の初老の医者はゆったりとした口調で話し出す。

「いいや......べつに冗談で言っているわけではないさ。恋愛というのは、脳が活性化して、脳内物質が分泌されることで生じる、謂わば異常状態さ」

「PEA(フェチルアミン)......でしたっけ?けれどその結果、集中力の向上などは、残念ながら感じられませんでしたよ......」

「フフッ......そうそうドーパミンなんぞの快楽物資に頼るモノではないぞ、若僧よ......」

 そう言いながら一口、先生はコーヒーを口にする。

 そして一息ついた後に、彼は少しだけ考えて、またゆっくりと言葉を紡ぐ。

「しかしなぁ......もう十年も経つのだから、いい加減良くなっても良い様なモノだが......」

 その言葉に対して、俺ももう一度、コーヒーに口を付けてから言葉を返す。

「えぇ......まったくです......」

 事件のことを思い出すのは、簡単なことだ。

 十年前に起きたそれは、今回と同様、あまりにも唐突だった。

 約十名の国民のバイタルデータが突如として消去され、そしてそのデータ元となっていた国民は皆、数日後に行方を眩ませ、失踪者扱いとなったのだ。

 CORDの運用が疑問視されている最中に起きてしまった、この奇妙な失踪事件をマスメディアは大々的に取り上げ、それにより国民のCORDへの不信感はより一層強いモノとなった。

 そのためより早期の解決を、政府は求めたのだろう。

 当時調査局に勤めていた俺を含めて、通常では考えられない程の数の人員が、その事件の捜査に動員されることになった。

「結果......事件はかなりの速度で解決した」

 コーヒーを両手に抱えたまま、先生は俺が思い出している事柄に、わざとらしく割り込んでくる。

 そしてその先生の言葉に、俺も乗りかかる。

「えぇ......けれど、犠牲者が出てしまった......」

「仕方ないことだとは、思うがね......」

「そう言ってくれるのは、事情を知っている関係者と先生くらいですよ......政府はそんなことを許さない。ましてや当時の世論は、そんな事実が明るみになれば、CORDの運用停止は避けられなかった......」

「だからその事実は伏せられて、事件の解決のみが報じられたと......」

「......ほんと、酷い話です......失踪した被害者全員......それどころか事件の犯人すら、死んだというのに......」

 そう口にした後に、手に持っているコーヒーをもう一度、口にする。

 話したその事実が、あまりにも苦々しいそれだったからだろうか......

 それとも先生が淹れてくれたコーヒーが、いつもよりも美味いからか......

 口に含んだ苦みには、些か心地良さが含まれている様な、そんな気がした。

 だから僕は、目の前に座る先生に、顔を上げて尋ねてみた。

「ところで先生、また腕を上げましたか?いつもよりも美味しいです......」

「ハハッ......おいおい、今日のはインスタントだぜ。それだといつもが不味いみたいだ......」

「......失礼しました」

「構わんよ......それよりも、やはり気になるのはその犯人の素性だな。お前さんが十年も抱えている原因は、どう考えてもアイツなんだろ?」

「えぇ......そうですね......」

 そう言いながら、俺は自分の鞄から、当時の事件資料が保存されたタブレット端末を起動して、画面に移されたその人物を指差して、その名前を口にする。

砂城 文則すなしろ ふみのり

 砂城の名前を口にした途端、部屋の空気が冷たくなるのを、微かに感じた。

 けれどそんな空気を感じたのは、正面に座る先生も同じだったのだろうか、俺の方を見ながら言う。

「友人の名前を口にした割には、浮かない顔をするんだなぁ......」

 分かりきっている皮肉に対して、俺はため息混じの言葉を返す。

「......あれは悪友です。しかもかなりの凶悪な......失踪した被害者全員を殺した後に、俺の目の前で自殺する様な奴でしたから......」

「しかし奴が死んだ事実を知っているのは、やはりその事件を捜査した関係者だけ......報じられた情報には、砂城は逮捕された後、終身刑で獄中生活を送っていると......根も葉もないことを堂々と報じているわけだ......」

 そう言った後に、何かを思い出したかの様に立ち上がった先生は、手元にあったコーヒーを机に置いて、PCを操作する。

 その操作によって、PCの画面は、十年前のその失踪事件についての記事に切り替わる。

 その記事を俺に見せる様にして、先生はまた皮肉を口にする。

「......砂城が凶悪なら、それに引けを取らない程の邪悪を、この社会は孕んでるよ。この記事を書いたのは俺の知り合いだが、行政府からの指図の入り方が異常だと......そう言っていたなぁ......」

 それを......行政府に勤めている俺に言うのか......っと思いながら、しかし先生がこんな話を、わざわざ俺にするあたり、何かしらの意図があると、そんな風に考える。

「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている......そういう話ですか?」

「フフッ......深淵に住むのが悪以外の何者でもないのなら、そうなのかもしれないなぁ......だがどうやら、そういうわけでもないらしい......」

「......どういう意味ですか......?」

「それは......自分で考えることだな......」

 言いながら、口元に何かを忍ばせる様に、不気味に笑う彼の表情は、その一瞬だけ、何故だか砂城を彷彿とさせる様な、そういう表情だった。

「......っ」

「......ん?どうした?」

「......いいえ、なんでもありません......」

 初老の白木先生の顔が、どうして自分と大して年が変わらない、凶悪犯の表情を思い出させたのか、この時の俺は深く考えなかった。

 いや......そうではなくてきっと、考えようとしなかっただけなのだ。

 目を逸らすことでしか、それに対しての逃げ方を、知らなかったから。

 平日になり、仕事に向かう支度の途中、一件のメールが届いた。

 普段なら仕事のメールなど、家に居る時は考えたくもないので、あまり視界に入れない様にしていたのだが......

 休日に先生と、あんな話をしてしまったからだろうか......

 タイミングよく......いや、最悪のタイミングで、その一件のメールに気付いてしまった。

 内容は、やはりというべきなのだろうか......

 先日上司と話をした仕事の詳細について、お偉いさん方も含めた会議を、今日の朝一で開くことになったらしく、その会議に俺も同席するようにと......そういう内容だった。

「......なんでまた......」

 そんな言葉が、不意に零れる。

 口から零れたそれは、言ってしまえば単なる不満に過ぎないことを、こんな時でも俺は、なんとなく客観的に、理解できた。

 仕事についての詳細を今日、上司から伝えられることに関しては、なんとなく予想出来ていたことだったけれど......

 わざわざそんな上司よりも、さらに忙しいであろうお偉いさん方まで、雁首揃えて朝一に会議とは......

 やはり今回の件が、十年前の事件に共通している所があると、そう考える人間が、上にも居たのだろうか......

 いや......それはむしろ当然か......

 事と次第によっては、下手をすれば今度こそ、CORDの運用そのものが、危なくなるのかもしれない事件だ。

 十年前とは、その普及率は雲泥の差で、無くなってもどうにかなる時期など、とっくの昔に過ぎ去ってしまったのだから......

 なんせ、もう十年だ......

 当時事件に関わっていた人間は、今はもうそれなりに出世しているだろうし、当時上に居た連中は、さらにもっと上に居るわけだ......

 当時の上の連中......

 砂城の死と失踪した国民達の情報を、世間から隠した人物。

 そういう人間が、おそらくこの会議にも、参加するのだろう。

 そう考えると、より一層仕事に対して、嫌悪感を覚えてしまう。

 しかしそれでも、今の生活を続けるためには、やはり仕事である以上、仕方のないことなのだろう。

 調査局に居た頃よりも何倍も楽な日常を、今は生きている。

 あんな事件に、あんな出来事に、もう遭遇しないために、俺はこの仕事を選んだ筈だった。

 しかしそこまで考えて、失笑してしまう。

「......やっぱり、過去からは逃れられないのかね......」

 そんな風に静かに言い聞かせて、俺は自分の部屋を出た。

 

استمر في قراءة هذا الكتاب مجانا
امسح الكود لتنزيل التطبيق

أحدث فصل

  • アンビリカルワールド   アンビリカルワールド

     この病院に配属されて、もうすぐ一年近くになる。 研修医として、目が回る様な思いをしながら熟す仕事に、少しずつ慣れてきた。 幸いなことに、同じ患者さんを担当する先輩は、仕事が出来て、その上性格もいい。 だから仕事のことで相談した内容に関しては、いつでも適格な助言をくれるのだ。 しかし今日に限っては、僕も先輩も、初めて対応するこの患者さん達に、やはり戸惑いは隠せない。 僕と先輩の目の前に居る患者さんたちは、様々だった。 明らかな未成年も居れば、若い青年、中年や老人。 それでいて男女関係なく、同じ病室のベットで横になっている。 その光景を見ながら、僕は横に立つ先輩に向けて、静かに口にする。「年齢はともかく、男女同じ病室なんて、初めて見ました......」 その光景を見ながら、先輩も同じように、口にする。「そうだな、この病院では俺も初めて見たよ」「えっ、前の所では普通だったんですか?」 そう俺が先輩に尋ねると、先輩は何かを言い掛けようとする。 しかしそのタイミングで後ろから、僕等二人に話し掛ける人がいた。「いや~ほんと、ヘルプ助かるよ。急に申し訳ないねぇ......」 声がする方向に振り向くと、立って居たのは、中年の医者だった。「お疲れさまです。あの先生、この患者さん方って......」 そう僕が言い掛けたところで、先生は僕が、一体何を訊きたいのかを察した様で、先生は言葉を返す。「あぁ、この人達は皆同じ症状だよ。どこにも異常はない。ただ眠っているだけだ。強いていうなら、ずっと長く夢を見ている」「えっ、それって......」 そう僕が言い掛けた所で、看護婦の方が先生を呼んでしまう。 そして先生は、ゆっくりとした足取りで、その看護婦の方へ行く。 その姿を見送りながら、僕は訊きたかったことを、飲み込んだ。 しかし隣の先輩は、そんな僕に向けて言う。「とりあえず、点滴チェックと体温だな。反対側から任せていいか?」「えっ、あぁ......はい」 どうやら先輩は、勝手を知っているようだった。 体温と点滴のチェックを終えた後、僕と先輩は自販機で飲み物を買って、少しの休憩をとっていた。 口を飲み物から離した後に、先輩は僕に尋ねる。「お前、ゲームはする方?」 唐突に尋ねられたその言葉に、僕は少しだけ考えながら、返答した。「えぇ

  • アンビリカルワールド   砂城の言葉、新堂の選択

    「......しかし僕は、思うんだ。この国の人間は本当に、人としての本懐を、遂げているのだろうかと......」 そう言いながら、俺から視線を逸らして、辺りを見回す。 新人の身体を借りながら砂城は、まるで何かを探す様にしながら、しかしその泳いでいた視線は、少し経てば俺の所に、戻ってくる。 その彼の姿を見て、俺は砂城に言う。「そんな風に話を明後日の方向に持って行って、お前は一体、何がしたいんだ?」 その俺の問い掛けに、砂城は答える。「べつに......ただ単にこういう話を君と楽しみたい。それだけだよ......」 言いながら砂城は、俺を見る。 口元に余裕を添えて、俺を見る。 そんな砂城に、俺はまた、言葉を紡ぐ。「雑談がしたいなら、もっと他の方法があった筈だ......わざわざ他人の身体に潜り込んで、意識をすり替えて、やりたいことがただの雑談なら、それは馬鹿げている......異常だ......」 そう俺が言うと、砂城は視線を下げて、小さく笑う。「フフッ......」「なんだよ......?」「いいや、こんな姿になっても君は、僕のことをそうやって、正常な誰かに当てはめようとしてくれるんだね......こんなことをしている時点で、こんなことになっている時点で、もう既に、僕は異常だよ......」「......そんなこと、とっくに知っている......」「......」「だが、わからないこともある......」「何がだい?」「どうしてわざわざ、潜り込む対象のバイタルデータを消すような、そんな危険な行為をした?」「......」「今お前がしている様に、そんなことをしなくてもお前は、その対象者の意識に潜り込めるんだろ?」「それは、この子のバイタルデータは消えていないと、そう断言出来てから出る言葉だよ......そんなのはまだ、わからないんじゃないのかい......?」「いや......わかるんだよ。だってそいつは、昨日の店主の様な、ただのアウトローな国民とは違う。正真正銘、行政府の人間。管理している側の人間だ。そんな奴のバイタルデータが消えたら、俺等の端末には間違いなく、それらについての連絡が来るはずだ......だが今は、それはない......」 そう言いながら、核心的なことをそのまま、俺は砂城に言うつもりでいた。 しかし砂

  • アンビリカルワールド   砂城の理想、現実の世界

     店の中は、こうだった......  言葉を一つ残して、男は立ち去った。 誰もいない、死体だけが一つ転がる店に、俺は置き去りにされたのだ。 店には誰も居なかった。 もともとあの男しか、この店には居なかった。 しかしカクテルを飲んでから、意識を飛ばした後、気がつくと一人増えていた。 ヒトが一人、増えていた。 その女は、今日行方を追っていたヒトだった。 三枝箕郷という、若い女だ。 しかしその女は、喋りながら正常に狂い始めて、その果てに意識をすり替えられて、最後は自殺した。 女は死体になった。 狂った女は、死体になった。 しかしその後に、今度は初めから店に居た男が、狂い始めた。 狂った男は、異常な酒の飲み方をしながら、ゆっくり俺と会話をした。 会話をしながら、次第に熱を帯びる男の思想は、俺を睨みつけた。 睨みつけられた俺は、その男に銃口を向けていた。 銃口を向けながら、俺と男はまた、会話を続けた。 男が考えていることの詳細を......いや、もしかしたら概要を、俺は彼から告げられた。 告げられた俺は、それらを理解出来なかった。 しかし理解できない俺に対して、男はさらに、思想を語った。 頭に銃口を突き付けられている筈の男は、その銃口に額を着けて、思想を語った。 一頻り話した後に、最後に言い残していた言葉を言い切って、男は俺の前から、姿を消したのだ。 そして今、やはり俺はこの店に、一人で置き去りにされている。 しばらくその場に立ち尽くして、さっきまでの出来事を粗方、思い出す。 そしてその後に、他の誰でもない自分に言い聞かせる様にして、俺は自分の足をゆっくりと、扉の方へ進ませる。「あぁ......帰らない......とな......」 誰もいない、死体だけが転がる店を、俺は出て行った。 そこから先の記憶は、正直なところ、朧気だった。 意識を失ったわけではなく、ちゃんと自分の足で歩いて、その店から立ち去ったが、歩いている最中も、頭の中には、最後に砂城に言われた台詞が貼り着いて、離れない。 傲慢という、そういう言葉を使いながら、俺達の居る世界を一括りに否定した彼の台詞が、どうしても...... どうしても離れては、くれない。 その足取りのまま、俺は自宅への帰路についた。 上司への報告は、明日でいいだろう。 なんて

  • アンビリカルワールド   被害者の行方、関係者達の心証

     やりたくない仕事を、しなくてはならない日というのは、呆気なく来てしまうモノである。 今日がその一日目。 一人目の国民は、若い女性だった。 国民番号:三千四十八番 三枝 箕郷(さえぐさ みさと) 二十歳 昼間は大学に通いながら、夜はアルバイトとして飲食店で働いている。 それ以外には、コレと言った特徴があるわけでもない。 いたって普通の学生である彼女のことを、在籍している大学の事務に尋ねてみたりもしたが、二ヶ月程前から、講義に出席していないという情報以外、手掛かりらしいそれらは、残念ながら得ることは出来なかった。 だから俺は、彼女がアルバイトとして在籍している飲食店へ、足を運ぶことにした。 時刻は二十時を少し回った辺り。 店の住所を見て、少しばかり覚悟はしていた。 煌びやかな灯りが彩る表の通りを、少しばかり外れて、しかしそこから深く路地裏の方へと続く道を、しばらく歩いて数十分。「ココか......」 目の前に現れたその店は、飲食店というよりも、廃墟の様な風貌だった。 周りの景色も相まってか、少しばかり空気が重い。 一見すると、その建物が店をやっているのかわからなくなるような、そういう佇まいだ。 ほんとうに、ココであってるのだろうか...... そう思いながら、やはりすぐには尋ねる気になれなくて、その建物の前で少しばかり、立ち往生してしまう。 そして、しばらく経ったくらいだろうか......「あんた、入らないのかい?」「えっ......」 振り返ると、そこには背の高くて線の細い男が立っていた。 いつからそこに居たのかは、わからないけれど...... 男は俺の方を見て、溜め息混じりに言い放つ。「客じゃないなら、悪いけれど帰ってくれないか?いつも大して客が居るわけでもないが、今日は特に酷いんだ......」 そう言いながら、男は俺から視線を逸らして、店の中に入ろうと、すぐ近くを歩く。 けれどそんな男に向かって、俺はさらに尋ねる。「失礼ですが、アナタは......?」「俺はココの店主だよ。そういうアンタこそ一体何者なんだい?いつもこんな所に来る様な人には見えないけれど?もしかして......行政の人間かい?」 言い当てられて、俺は些か、動揺してしまう。 そしてその動揺を隠せないまま、俺は返答する。「......はい

  • アンビリカルワールド   死角の住人、鈍色の思想

    「失礼します」と言いながら足を踏み入れた会議室には、普通なら絶対に、御目に掛かることが出来ないであろう偉いさん方達が、会議室の席の約八割を占めていた。 そして残った二割は、俺と上司の二人が座るために空席となっていて、そんな普段の会議では有り得ない様な異質の情景が、息苦しさに似た空気感を作り上げていた。 そしてそんな空気の中、俺達が座り、会議が始まるや否や、向かいに座る一人の偉いさんが、コチラ側に尋ねるべきことを、淡々と口にした。「さて、早速本題に入るが......突如としてバイタルデータが消去されるなど、前代未聞のこの状況を、君達はどう対処するつもりかね......?」 言いながら、コチラ側をジッと見つめるその人の視線は、気持ちの良いモノではなかった。 そして、そんな視線に耐えかねたのか、それとも単に、その言葉に対しての答えを、予め持ち合わせていたのだろうか......もしくは、その両方か...... 俺の隣に座る上司は、前に座るその人に対して、言葉を返す。「はい、その件につきましては、担当者である彼に直接、そのバイタルデータの持ち主の所に行ってもらい、現地調査してもらいます」 そう言いながら上司は、一度コチラの方にチラリと視線を向け、さらにその勢いのまま、言葉を続ける。「またそれと並行して、今回起きた事象についての原因究明を、私自ら主導して、行います」 その続けた言葉に対して、もう一人のお偉いさんが口を挟む。「ほぅ......具体的には、一体どうするつもりかね......?」「まずは一度、一週間分のCORDの全ログを洗い出します。この作業自体は、そこまで時間が掛からないでしょう。二、三日程度で行えます。その後は、必要であるなら、システム管理課と共同で、CORDの再調整を行いたいと考えております」 そう上司が言い切ったところで、数人の偉いさん方は、一瞬だけ動揺した。 そしてその動揺した偉いさんの一人が、上司に対して言う。「再調整を行うということは、君は一時的なCORDの運用停止をも視野に入れていると、そういうことかね......?」「はい、そのつもりです」 その肯定の上司の返答に、また会議室内は、先程と同様か、それ以上に重苦しい空気に飲み込まれた。 そしてその空気の中、先程上司に質問を投げ掛けたお偉いさんが、ため息交じり吐き出す

  • アンビリカルワールド   消えた国民、隠された事実

     事務室に入り、午後の業務のためにPCを起動する。 そして隣に座っている新人も、業務を行うために、同じ動きでPCの電源を入れて、さっきと同じ様な口調で、しかしさっきとはまるで別の話題を「あっ、そういえば新堂さん」という言葉を皮切りに、俺に促す。 そしてそこからは、本当にただの雑談だ。 休日に昔ながらのカフェやバーに行くことを趣味にしているこの新人は、そこで食べた料理や飲み物、その店の雰囲気や、そこで会った初対面の女性と過ごした一夜なんかも、よく話題にして俺に話す。 まったく...... 無駄に顔が良い新人のその話題は、後半の方は特に、危うい気もするのだが...... 休日は家に居ることが多い俺にとっては、週初めの月曜日に話されるその話題が、些か鬱陶しいと思う反面、自分だとそういう所には出向かないし、もちろん初対面の女性なんかとも、そういうことになることはない。 だから彼のそんな話は、聞いている分には、まるでチープな深夜ドラマでも見ている様な、そういう感覚になって、少しだけ面白かったりする。 だからまぁ飽きもせず、毎週そんな話を、俺は彼から聞いている。 矛盾していると、自分でも思いながら。「さぁ、そろそろ仕事をしよう」 そう言うと、新人は少しだけ、不満そうな表情をする。 どうせまた明日も、同じ話をする癖に。 そんな風に思いながら、PCの画面を確認して、そして午後の業務を行う。「......えっ?」「ん?どうしたんですか、新堂さん」 そう言いながら、新人は俺のPCの画面を覗き込む。 そしてその画面を見て、新人も俺と同じような、表情になる。「これ......どういう、状態ですか......?」「いや、俺もわからん......」 そう......そこに映されているのは、モニタリングされたデータと、そのデータの対象とされている国民の顔写真と名前が、細かく列記されていた。 ある数名を除いて......「こんなの、はじめて見ましたよ。モニタリングされたデータだけが、綺麗に空白にされているなんて......何かのバグ......ですかね......?」 そう言いながら、俺の方を見る新人に、言葉を返す。「どうなんだろうな......もしバグなら、お前の方でも、同じことが起きているんじゃないのか......?」「そ

  • アンビリカルワールド   プロローグ

    『人間が慣れることのできぬ環境というものはない』 by レフ・トルストイ 大昔の、それもロシアの小説家である彼が残したその言葉は、まるで今の日本に対して向けられた皮肉だと、そう友人は俺に言いながら、見るからに上等なソファーに腰掛けて、先ほど淹れた紅茶を口にする。 そして一口飲み終えると、ティーカップを静かに置いて、友人は微笑を浮かべながら、話を続ける。「最もそれは、この国の人間が、今よりもずっと昔から、奪われるという国からの行為に対して、あまりにも関心を持たずに、漫然と日々を過ごしていた結果なのだろうけどね......」 そう語りながら俺の目を見る友人の瞳は、酷く澄んでいた。 まる

فصول أخرى
استكشاف وقراءة روايات جيدة مجانية
الوصول المجاني إلى عدد كبير من الروايات الجيدة على تطبيق GoodNovel. تنزيل الكتب التي تحبها وقراءتها كلما وأينما أردت
اقرأ الكتب مجانا في التطبيق
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status