登入平日は以前と変わらない仁さんだった。つまり、俺との関係に進展はなし。でも、週末の約束があるから気にしなかった。周りに関係がバレたら困ると思い、昼ご飯も誘ったりしなかった。お互い一人で済ませて、今まで通りの会話をした。
それでも時々不安になった。やっぱり仁さんが忘れているのではないかと。だが、LINEで何か送ると、ちゃんと返してくれた。
『今週末、楽しみですね。』 と送れば、 『どこの店に行くか決めたか?』 と返ってきて、仁さんの方でも色々調べてくれて二人で行く場所を決めたりした。そのやりとりの先頭には、例の『俺たち、恋人同士になろう』の文字がある。大丈夫だ。多分。土曜日の朝。待ち合わせ場所に現れた仁さんは、とてもシンプルな服装をしていた。白い長そでのシャツに紺色のジーンズ。だが、それが顔の良さを一層引き立てる気がした。俺は薄手のトレーナー(茶系色)に黒いダメージジーンズだった。けっこう頑張ったつもりだ。
俺が声を掛けると、おっ、という顔をした仁さん。 「スーツとずいぶん印象が違うな。」 と、言ったかと思うと、はた目にも分かるほど赤面した。そして目を反らす。手のひらを頬に当てる仁さん。そして咳払い。 「どうしました?」 「なんでもない。さ、行こう。」 二人は電車に乗って三崎口駅を目指した。車を持っていれば二人きりになれたのだが、残念ながら俺は車を持っていない。仁さんが持っているかどうか知らないのだが、自分がないのに「車ありますか?」などと聞けないので、電車で行く事になったのだ。お目当ての店に行き、まぐろをたっぷり注文した。そしてやっぱり、
「日本酒!」 と言う仁さん。そうか、車だったら酒が飲めなかったからいいのか。二人で2合だけ注文し、ゆっくり飲みながらまぐろを堪能した。 「あー美味かった。ありがとな、成海。」 店を出て歩き出した仁さんが、俺を振り返って言う。俺は嬉しくなって笑った。 「こちらこそ。ほんと美味かったですね。」 仁さんが少し前を歩き、俺が後ろから付いて行く。 「ねえ、俺海が見たい。」 突然仁さんが言った。しかし、ここは房総半島の真ん中。海は遠い。 「電車で一駅行けば近くまで行けるっしょ。」 仁さんが更に言う。なるほど。俺たちは再び京急線に乗り、隣の三浦海岸駅で降りた。海岸まで歩いて行くと、手ごろなベンチがあった。
「そこに座りますか?」 そう伺うと、 「おう。」 少し前を歩いていた仁さんが返事をした。仁さんがベンチの左側へ回ったので、俺は右側へと回った。ゆったり座れる二人掛けくらいのベンチだった。俺が右側に座ると、仁さんは思った以上にこちら側へ寄ってきて座った。つまり、俺にぴったりとくっついて座った。かなりドキッとした。喉がごくりと鳴る。 チラリと仁さんの方を伺うと、仁さんもちらりと俺の顔を見る。すごく近くで目が合って、更にドキリ。そうだった。俺たちは恋人同士だった。普通にゆったりと、人半分くらい開けて座るのは違う。こうやってくっついて座ってくれたということは、肩に手を回すとか、した方が……。 左腕をピクリと動かしたところで、後ろから人の声が聞こえた。当然人が後ろを通るのだ。やっぱり恥ずかしい。俺が腕を引っ込めたので、仁さんはこちらを見ずにクスクスと笑った。そうだ、後ろは人が通るけど、前は海。前から俺たちを見るのは海だけだ。 そう思った俺は、仁さんの手を握った。左手で、仁さんの右手をギュッと握った。それを横から見られないように、繋いだ手を二人の体の間に入れ込んだ。そうして黙って海を見ていた。暗くなるまでずっと。「そろそろ帰りますか。」
もっと二人で座っていたいが、流石に少し寒くなってきたのでそう切り出した。 「そうだな。」 仁さんもそう言って、繋いでいた手を放して立ち上がった。そして伸びをする。何時間もじっと座っていたので、お互い体が固まっていたようだ。俺も伸びをして、二人で顔を見合わせて笑った。 「家まで送りますよ。」 俺が言うと、 「そうか?」 仁さんは上目遣いで俺を見てそう言った。可愛いにも程がある。送って欲しいのだと全身で表している。 電車で仁さんの家まで一緒に行った。肩を並べ、肩をくっつけ合って歩いた。幸せを絵に描いたような今の俺。いつまでも到着しなければいいとさえ思っていたところ、仁さんが立ち止まった。 「着いちまった。ありがとな、送ってくれて。」 仁さんがそう言った。つまり、ここが家? 仁さんの家はなんと大きな一軒家だった。つまり、実家暮らしだった。そういう話をしなかったので、知らなかった。 「それじゃあ、また会社で。」 仁さんが言う。これで今日はお別れか。いや、別に期待してなんかいなかったけど、ちょっと上がっていくか?なんて言われるなんて思ってなかったけど……けどちょっとだけ、さよならの……ハグとかできたらなーとか、思っていなかったわけでもない。 「では、おやすみなさい。」 俺は笑顔を作り、数歩後ずさったのち、前を向いて歩き出した。次は俺の家に……と密かに考えを巡らす俺であった。近くのスーパーで食材を買った。仁さんとスーパーを回りながらあれこれカゴに入れる行為は、なんだか新婚さんみたいでくすぐったくて、すごく恥ずかしかった。でも嬉しい。 家に帰ってきて、買ったものをダイニングテーブルの上に置くと、俺は仁さんを後ろから抱きしめた。実はこうするタイミングを見計らっていた。前を向いているとしにくいので、後ろから狙えるタイミングを待っていたのだ。「な、成海?」「はい。」返事をしても、仁さんは何も言わなかった。その代わり、ちょっと体を動かしてくるりとこちらを向いた。そして両腕を俺の首に絡ませた。見つめ合うと、仁さんが俺の顎に手を掛けた。そして自然に……ごく自然に二人は唇を合わせた。 心臓が大きな音を立てた。唇が離れると、俺は仁さんをギュッと抱きしめた。仁さんも腕を背中に回してぎゅっとしてくれた。念願のハグ。ドキドキが止まらないけれど、とっても心地よい。一生このままでいたい。 だが、立ちっぱなしは疲れる。「あ、座りますか?」俺が体を放して聞くと、仁さんはくすっと笑った。「成海がそういう人で良かった。」仁さんが言った。「え?どういう……」「何でもない。」意味が分からなかったが、それ以上答えてもらえなかった。肉などの食材を冷蔵庫に入れ、短めのドラマを観ることにした。「なあ、BLドラマって見た事あるか?」仁さんが言った。「え、ないです。」俺が首を振ると、「検索してみようぜ。」仁さんがいたずらっぽく笑った。そして見つけたタイのBLドラマを数話分観た。何だか自分たちを見せられているみたいで、平常心では観られなかった。けど、ラブラブなシーンがあると、仁さんが画面を見ながら腕を組んできて、ギュッとするのが嬉しくてたまらなかった。 いい時間になったので、料理を始めた。俺は仁さんの指示の元、ジャガイモの皮を剥いたり、肉を冷蔵庫から出したり、水の分量を測ったりした。それだけ。そして、後は仁さんが切ったり炒めたり煮たりしてくれて、めでたくカレーが出来上がった。美味しそうな香りが漂う。「いっただきまーす!」カレーはものすごく美味くて、熱くて、辛くて、甘かった。「成海、落ち着いて食え。」仁さんが笑いながらそう言った。「ふぁい。はほはほ。すごい、美味いっす!」「良かった、気に入ってくれて。」仁さんはニッコリして、やっと自分
『今度の週末もどっか行く?それとも家で映画とか観るか?』水曜日の退社後、仁さんからメッセージが届いた。俺はそれを見て、電車の中であろうとも、思いっきりにやけた。『うちでアマプラの映画でも観ますか?ネトフリでもいいですよ。仁さんの為なら何だって契約します!』そう返したら、仁さんが大笑いのスタンプを送ってきた。『じゃあ、成海んちで映画って事で!』俺は木曜と金曜の夜、家の大掃除をしたのだった。 土曜日の昼、うちの最寄り駅で仁さんを待った。東急線の小さな駅。駅前には数える程しか店がない。東京都から神奈川県に入ると、急に駅前が寂れるのは何故だろう。 電車が駅に着いたようで、人がまばらに改札から出てきた。目を凝らして仁さんを探すと、まばゆい程の美貌で仁さんが現れた。俺を見るとニヤッとして、軽く片手を挙げた。「おはよ。」「おはようございます。」何だかお互いに照れながら挨拶をした。毎日会社で同じ言葉を発しているのに、会社ではない場所で、ラフな服装で交わす挨拶は、なんだかとても特別な感じがした。「ご飯食べます?」「うん。」つぼ八に入って軽く食事をし、俺の家に向かった。うちに人が来る事自体がとても珍しいのに、この憧れの人が家の中に入るかと思うと、何だか急に緊張してきた。「あ、俺手土産も持って来てないや。何かおやつでも買って行くか。」仁さんが思い出したように言って、途中のコンビニに寄った。仁さんがお菓子を買い、俺はペットボトルのジンジャーエールとお茶を買った。 「お邪魔します。」仁さんがそう言って、家に上がった。「狭い所ですみません。」まだ緊張している俺。「成海、独り暮らしだったんだ。実家はどこなの?」仁さんにソファーを勧めると、キョロキョロしながら座った。「群馬の山奥ですよ。」「へえ。じゃあ冬には雪がたくさん降るのか?」「はい。そりゃあもう。」「スキーとか上手い?」「まあ、ちゃんと習った事はないですが、滑れますね。」そんな話をしながら、俺はグラスを2つ出してきた。「どっちがいいですか?」「じゃあ、ジンジャーエールで。」ジンジャーエールを二人分注いでテーブルに置いた。仁さんがスナック菓子と箱に入ったチョコレート菓子を開けて、やはりテーブルに置いた。「それじゃあ、何か観ましょうか。」テレビをつけ、アマゾンプライムビデオの画
平日は以前と変わらない仁さんだった。つまり、俺との関係に進展はなし。でも、週末の約束があるから気にしなかった。周りに関係がバレたら困ると思い、昼ご飯も誘ったりしなかった。お互い一人で済ませて、今まで通りの会話をした。 それでも時々不安になった。やっぱり仁さんが忘れているのではないかと。だが、LINEで何か送ると、ちゃんと返してくれた。『今週末、楽しみですね。』と送れば、『どこの店に行くか決めたか?』と返ってきて、仁さんの方でも色々調べてくれて二人で行く場所を決めたりした。そのやりとりの先頭には、例の『俺たち、恋人同士になろう』の文字がある。大丈夫だ。多分。 土曜日の朝。待ち合わせ場所に現れた仁さんは、とてもシンプルな服装をしていた。白い長そでのシャツに紺色のジーンズ。だが、それが顔の良さを一層引き立てる気がした。俺は薄手のトレーナー(茶系色)に黒いダメージジーンズだった。けっこう頑張ったつもりだ。 俺が声を掛けると、おっ、という顔をした仁さん。「スーツとずいぶん印象が違うな。」と、言ったかと思うと、はた目にも分かるほど赤面した。そして目を反らす。手のひらを頬に当てる仁さん。そして咳払い。「どうしました?」「なんでもない。さ、行こう。」二人は電車に乗って三崎口駅を目指した。車を持っていれば二人きりになれたのだが、残念ながら俺は車を持っていない。仁さんが持っているかどうか知らないのだが、自分がないのに「車ありますか?」などと聞けないので、電車で行く事になったのだ。 お目当ての店に行き、まぐろをたっぷり注文した。そしてやっぱり、「日本酒!」と言う仁さん。そうか、車だったら酒が飲めなかったからいいのか。二人で2合だけ注文し、ゆっくり飲みながらまぐろを堪能した。「あー美味かった。ありがとな、成海。」店を出て歩き出した仁さんが、俺を振り返って言う。俺は嬉しくなって笑った。「こちらこそ。ほんと美味かったですね。」仁さんが少し前を歩き、俺が後ろから付いて行く。「ねえ、俺海が見たい。」突然仁さんが言った。しかし、ここは房総半島の真ん中。海は遠い。「電車で一駅行けば近くまで行けるっしょ。」仁さんが更に言う。なるほど。俺たちは再び京急線に乗り、隣の三浦海岸駅で降りた。 海岸まで歩いて行くと、手ごろなベンチがあった。「そこに座りますか?
その夜、仁さんが日本酒のお店に連れて行ってくれた。「仁さんは日本酒がお好きなんですね。」俺がテーブル席に腰かけながら言うと、「まあ、日本酒が好きというより、日本酒に合うつまみが好きなんだよ。」と、仁さんがやはり座りながら言った。「そうなんですか?焼き魚とか、おでんとか?」「そうそう。お刺身とか、和食全般だな。」仁さんがメニューを見ながら言った。そして、刺身の盛り合わせやら煮込み料理やら焼き鳥やらを注文した。 お猪口に酒を互いに注ぎ合い、乾杯をした。“最初から日本酒”というのはほとんど経験がなかったが、空きっ腹で飲む日本酒は、甘くて辛くてカーッと体に熱を伝えた。今日は対面で座っているので、仁さんの顔が見えて幸せだ。ずっと見ていられる顔というのはこれだ。まさにこれだ。「仁さんって、どんな人が好みなんですか?……あ、これはセクハラじゃないですよね?」この会が何だったのかを俄かに思い出した。セクハラごめんねの会だった。「あはは、今は仕事じゃないからいいんじゃないか?えーと、好みのタイプ?そうだな。仕事が出来て、図体でかいけど、からかうと真っ赤になる人、かな。」仁さんは横を向いてそんな風に言った。ん?仕事はともかく、でかくて、からかうと真っ赤になる……って、俺じゃないか?「あ、仁さん、からかわないでくださいよー。」俺が苦情を申し立てると、仁さんは声を立てて笑った。「じゃあ、成海の好みのタイプは?」逆に聞かれた。「えーと、かっこよくて、明るくて……」俺が考えながら言うと、まだ言い終わらない内に仁さんが、「俺たち、付き合う?」と言った。ハッとして仁さんの顔を見る。仁さんはじっとこちらを見っている。「またですか?」思わず言うと、「え?前にも言った?」仁さんは驚いた顔をした。そうだった、言った事を仁さんは忘れていたのだった。「あ、はい。言いました。前に飲みに行ってカラオケに行った帰りに。」「あちゃー、ごめん。覚えてないや。」「また忘れちゃうんですよね?」これも思わず言ってしまった。「まだ酔ってないから忘れないよ。そうだ、証拠を残しておこう。」仁さんはそう言うと、スマホを取り出した。何やら打ち込んでいる。すると、俺のスマホがブブっと震えた。仁さんが俺の顔を見る。俺に送ったのか? スマホを見ると、仁さんからLINEが来てい
ミュージアムグッズの企画を担当する俺たちは、社内プレゼンを行う事になった。会議室でプロジェクターを用い、部長や課長などを前に俺はプレゼンを行っていた。要所、要所で座っている仁さんの方を見ると、満足気に頷いてくれた。俺は安心して次々と提案していった。 一通りプレゼンが終わり、質問に答えたり、部長の要求を聞いたりして、お開きになった時の事だ。片づけようとした俺はプロジェクターにぶつかり、なんとプロジェクターが台から落ちてガシャンと大きな音を立てた。「あ!すみません!」と言って機材の方に手を伸ばそうとしたら、なぜか持っていたレーザーポインターがボキリと折れた。「何やってるんだお前は!」部長の大きな声が飛んできた。「どんだけ力が有り余ってるんだ。彼女はいないのか?」部長がそう言うと、周りにいた人たちが笑った。「部長、それはセクハラですよ。」仁さんが言った。その場がシーンとなる。課長がオロオロと、「金子、お前何を……」と言いかけたが、それに被せるようにして、「セクハラ?こいつは男だから別にいいだろう。」と、部長が俺の方を指さして言った。しかし仁さんは引き下がらない。「男女は関係ありません。成海が部長を好きになる可能性はゼロではありませんから。」仁さんがそう言うと、部長は嫌そうな顔をして俺の方を見た。すると仁さんは、「僕が、部長を好きになる可能性もゼロではありませんよ。」と付け加えた。部長は仁さんの方を見た。仁さんはじっと部長を見ている。部長は口をパクパクさせた。心なしか顔が赤い。「成海、庶務課に連絡!」急に仁さんは俺に言った。部長に視線を合わせたままで。「は、はい!」俺は慌てて返事をした。すると仁さんはこちらを振り返り、「そのポインタを持って説明しにいけ。」と、優しく言った。「さ、みんな片づけ、片づけ。」そして、第二係の面々にそう言った。部長は、課長や他のお偉方になだめられながら、その部屋を出ようとしていた。俺はそれを待たず、先にぴゅーっと部屋を出て庶務課へと向かった。 庶務課から戻ると、第二係のみんなはもう各々の仕事に戻っていた。俺は仁さんのデスクの前に行った。「あの、先ほどはありがとうございました。」俺が頭を下げると、仁さんは顔を上げ、「みんなの為だよ。ああいうのはその場で指摘しないとね。」と言ってウインク
付き合うってどうするのだろう。何をするのだろう。連休の間中、悶々と考えた。あのかっこよくて美しくて可愛らしい仁さんが、俺のこ、恋人になるなんて……。控えめに言って奇跡だ。 とりあえずプライベートな連絡先を聞かなくては。会社から支給されているスマホでもメールや電話は出来るが、それをプライベートな連絡(こ、恋人との会話)に使うわけにはいくまい。 翌営業日の火曜日、どんな顔で仁さんに会えばいいのかとソワソワしながら出社した。仁さんは相変わらず美しく、明るく元気だったが、いつもと同じだった。 俺の方に特に目線を送るでもなく、至って普段通り。まあ、仕事中だから当たり前かもしれないが……。とにかく昼休みにはちゃんと話したい。 午前の仕事が終わり、昼のチャイムが鳴るや否や、俺は仁さんのデスクへと向かった。「仁さん、一緒にご飯、いいですか?」すると仁さんは面食らったような顔をして、「お、おう。いいぞ。」と、ちょっと体を引き気味に答えた。俺の鼻息が荒かったからかもしれない。 社食でプライベートな話はできないし、どこかの食堂だとしても、知人に話を聞かれてしまうかもしれない。俺たちはキッチンカーに並んで弁当を買い、近くの公園のベンチへと向かった。ここならば、真後ろに会社の人がいる可能性はない。「いい天気だな。暖かい。」仁さんがそう言ってベンチに座った。「そうですね。」俺も座る。弁当を開けながら、「それで?何か話があるのか?」と、仁さんが言う。話って……付き合っていたら一緒にお昼を食べてもいいのでは。「えっと、その……」とはいえ、そうはっきりとは言えない俺。「そうだ、あの、プライベートな連絡先、教えてもらえませんか?」俺がそう言うと、「何で?」意外な反応が返って来た。快く、当然のように教えてくれるものとばかり思っていたのに。「ダメ、ですか?」俺が急に自信を無くしてそう言うと、「いや、いいよ。また飲みに行く時に必要だしな。」そう言って、仁さんがスマホを出した。俺も出してLINEの交換をした。 そして、黙々と弁当を食べる二人。どうもおかしい。連絡先の交換に、また飲みに行く時に必要だなどと名目が必要か?付き合っているならば当然ではないのか?つまり……俺たちは付き合ってはいない?!「あの、仁さん、金曜日の事、覚えてます?」俺は恐る恐る聞い
会社近くの居酒屋に入った。「お疲れ~。」「お疲れさまっす。」カチンと杯を合わせた俺と仁さん。仁さんはお猪口で、俺はジョッキだが。俺たちはカウンター席の端に並んで座った。仁さんはひたすら日本酒を飲んだ。俺は最初生ビールを飲んだのだが、その後はお猪口をもう1つもらって仁さんと同じ日本酒を飲んだ。「いやー、飲み屋に来るのも久しぶりだな。」仁さんが言う。「そうなんすか?」「昔は金曜日と言ったら必ず飲み会だったけどな。あの感染爆発の後はパッタリで。」仁さんは手酌で日本酒を自分のお猪口に注ぎ、まだ少し酒が入っている俺のお猪口にも注いだ。「あ、すんません。」「感染が落ち着いてきたらさ
「成海、ちょっと。」顔を上げて声のする方に顔を巡らすと、仁さんがこちらを見て手招きをしていた。「はい。」係長の席へと向かう。心臓がドキドキする。叱られるかもしれない、などという理由ではない。麗しい仁さんに呼ばれたから。あの人の近くに行けるから。「なんでしょうか。」「これ、この間の資料。」仁さんは、俺がお願いしていた会社の資料が入っていると思われる、USBメモリを差し出した。「ありがとうございます。」小さなそれを、恭しく受け取った。もう用事は済んでしまった。後ろ髪を引かれながらも、俺は自分の席へと戻った。 うちはミュージアムグッズを作る会社だ。ここは企画部発案課。仁さんは入







