ログイン「蒼波」
掛け布団の中から呼ぶと、蒼波は「なあに?」と間延びした返事をよこした。燿はそのまま話を続けることにする。 「お前が捨てた宝物」 「あれはもういいんだ。さっき燿ちゃんがくれたので充分だよ」 「そうじゃない。全部俺の部屋にあるから」 がばりと掛け布団がめくられたかと思うと、燿の目の前に蒼波の顔が迫ってきた。 「どうして」 「俺が捨てさせると思うのか、お前は」 蒼波は下を向いてしまったが、寝転んでいる燿にはその表情がよく見える。唇を真一文字に引き結び、泣くのをこらえているようだった。燿は手を伸ばして蒼波の唇に触れる。 「泣いてもいいぞ。カッコいいだろ?」 宝物を捨てさせてしまったのは燿だったけれど、あえてそれには触れずにおいた。 「本当にカッコいいね」 蒼波が手の甲で目元をこするので、腫れてしまうと思った燿はその手をつかむ。ついさっき散々蒼波に翻弄されたことを思い出し、泣き出した蒼波の頬に自分からくちづけた。驚いて目を見開いていた蒼波が、燿の後頭部をがっちりとつかんで唇を合わせてくる。 「燿ちゃん、好き」 「もう解ったって」 ともすれば深くなっていきそうなキスを自制するように蒼波は燿に気持ちを伝えてきた。そう何度も言われてしまうと燿はどうしてよいのか解らなくなる。理解しているということだけ答えた。同じ言葉を返すのはまだ恥ずかしい。 「明日、宝物元に戻すからな」 「手伝ってくれるの?」 「当たり前だろ」 布団にくるまった状態で蒼波に頭をなでられていた燿は、とろりとした眠気に襲われ始めた。一日中走り回った挙句、さらに体力を消耗する行為に及んだので仕方のないことだと言える。そんな燿に蒼波が優しくささやいた。 「眠っていいよ」 「ん……」 蒼波がまた知らない間に宝物を捨てたりしないようにと、燿はぎゅっと蒼波の右腕をつかむ。燿の気持ちが伝わったのか、その手が振りほどかれることはなかった。 「おやすみ、燿ちゃん。ありがとう」「気持ち、いいか?」「俺の台詞、取らないで」 蒼波は汗で額に貼りついている燿の黒髪を優しく払ってから、ゆっくりと動き始める。喘ぎの合間から燿が小さな声で呟くのが聞こえた。「俺だって、不安なんだよ」「燿ちゃん?」「俺で、お前が、気持ちいいのか、とか」「気持ちいいって、言ってるのに」 最初のときも蒼波は気持ちよくて止まることができなかったのに、なにを不安に思うことがあるのだろうか。今だって燿にちゃんと話させてやりたいと思っているのに、どん欲な自分は腰を動かすことをやめられずにいる。奥深くまで来てもよいと許可された喜びで爆発しそうだ。「奥までするの、どんな感じ?」 尋ねながら蒼波はこれ以上奥はないというところまで自身を捻じ込んだ。きれいにしなる燿の背中をしっかりと抱いて、何度も最奥を貫く。「あ、あっ。ん、あおばっ」「やめる?」 燿が首を横に振ったのを見て、蒼波は微笑みを浮かべた。負けず嫌いの燿のことだから、多少無理はしているのだろうけれど、本当にいやがっている様子はない。「じゃあ、今日は奥で気持ちよくなって?」 角度を変えて前立腺をかすめるように突き入れて、奥の奥まで抉るように動く蒼波に、燿がしがみついてきた。それだけではやり過ごせなかったのか、蒼波の肩に噛みついてくる。声を抑えたかったのかもしれない。噛みつくたびに後孔がぎゅっと締まるので、蒼波はそれだけで持っていかれそうになった。「燿ちゃん、燿ちゃん」「ん、んんっ」 蒼波は夢中になって燿の中心へと手を伸ばし、一緒に達するために刺激を与えようとする。しかし、自分の動きが激しくていつものように燿をうながすことができなかった。「あ! あおばっ。ちょっと、あ、ああっ」 今の動きでまた角度が変わってしまったのか、燿がひときわ大きな声を出す。とっさに燿の口を手でふさいだ蒼波は、そのまま抽挿を繰り返した。「んっ。んー! んうっ」「燿ちゃん、イキそう?」 全身を震わせている燿の姿を見て蒼波が問いかけると、燿は何度もうなずいて蒼波の腕や肩に爪を立てる。燿が耐えがたい快楽の
「燿ちゃん」「な、に?」「挿れてほしい?」 問い直した蒼波を唖然と見つめてくる燿が、少しおかしかった。それでも蒼波はどうしても答えてもらいたくて、燿の中心をひとなでする。のけぞる首筋に噛みつくようにキスをして、もう一度訊く。「ねぇ、挿れてほしい?」「もう言っただろ」「挿れてもいいと挿れてほしいは違う」 燿が息を詰めたのが伝わってきた。蒼波には本当は燿がどんな状態なのかも、なにを望んでいるのかだって解っている。けれど言葉にしてほしかった。「この……っ。バカ蒼波! とっとと挿れてイかせろ!」 言いざま燿は両足を使って蒼波の腰を自分の方へと寄せる。慌てたのは蒼波の方だ。「燿ちゃん、待って。ゴムしてない」「そのままで、いい」 ぐいぐいと腰を引き寄せる燿を一度落ち着かせて、蒼波はなんとかコンドームを装着した。そのままでもよいと言われても、燿が体調を崩したりするのはいやだ。「あおば」「うん」「はやく」 こんな風に急かされたら、それがはっきりとした言葉でなくてももう充分だ。蒼波は燿の足を開かせてゆっくりと先端を挿入した。浅く挿れては腰を引き、それを何度も繰り返しながら徐々に深くまで挿れていく。「ふ、あっ。んう」「燿ちゃん、つらくない?」「だい、じょぶ」 蒼波は燿の呼吸が少し落ち着くまで動かずにいた。「なあ、蒼波」「うん? 痛い?」「全部挿れろよ」 その言葉に蒼波は紅茶色の目を見開く。身長の高い蒼波のものは平均よりも大きめなので燿の負担が大きい。そう考えてこれまで蒼波はすべて挿れることをしてこなかった。燿には気づかれていないと思っていたのだが、ちゃんと解っていたらしい。「全部、ほしい」「燿ちゃんはずるい……!」 いつだって燿は蒼波の願い以上に、大きなものを返してくれる。蒼波が燿に抱いた恋慕の情に対しても、見つからなかったシーグラスについても、今の言葉にも、全部蒼波が思い描いたものよりもずっとよいものをこ
「お前、最初からその気だったのかよ」 「だって一緒の部屋にいて、我慢なんてできないし」 「だったら、なんでそんなに悩んでんだよ。好きにすりゃいいのに」 「それとこれは別。口でする? 手がいい?」 ついでのように次の愛撫をどうするか尋ねた蒼波に、燿はとうとう両手で顔を覆ってしまった。 「言わないとしないよ。ここ、このままだとつらいよね」 中心にそっと触れたとたんに燿の背中がしなる。「あ」と漏れる声に蒼波の腰も重たくなった。 「――……で」 「え? 聞こえない」 「手でいいから!」 蒼波が指を絡ませて緩く手を動かすと、燿は声をこらえようと唇を噛みしめる。本当なら好きなだけ喘がせてやりたいところだ。しかし隣の部屋が気になるのも確かなのでそのままにしておいた。 張り詰めている中心をしごきながら、後ろを優しくなでてみる。 「は、あっ。んん」 「一回イク? このまま後ろしていい?」 燿には蒼波の声が届いていない様子だった。頭を左右に振るだけで、まともな応えは返ってこない。蒼波はそんな燿の中に早く挿入りたくなって、ローションのキャップを乱暴な手つきで開けた。両手にぶちまけるように出したローションを温めるのももどかしくて、そのまま燿の後孔へ指を這わせる。 「冷てぇ、んっ。うあ」 「ここ、してもいい?」 蒼波の我慢も限界に来ていたが、今日は全部言ってもらうと決めていたため、なんとか耐えようとしていた。燿がこくこくとうなずくのを見て、ローションをまとわせた指を一本、ゆっくりと沈ませる。 「あ、あっ」 「静かに」 「んんっ。ん!」 燿がまた自分で自分の口をふさいだことによって、部屋には燿の荒い息遣いと後孔に施されるぐちぐちというはしたない愛撫の音だけが響いた。指を増やすたびにそこからは淫猥な音が響くようになり、燿の中心も腹につきそうなくらいに反り返っていく。 「燿ちゃん、挿れてもいい? ダメ?」 後ろへ三本目をくわえさせた蒼波は、ふーふーと息を吐いている燿に尋ねた。流石にこの質問には答えづらいら
***「ん、ん……っ」 甘さを含んだ燿の声が合わせた唇の隙間からこぼれ落ちる。吐息混じりのそれは簡単に蒼波に火をつけた。唇をついばむようにしたり、こじ開けて舌を差し入れたりしながら、蒼波はキスを続ける。 最初にキスをしたときから、燿は上あごの辺りを舌先でくすぐられるのにとても弱いと解っていた。今夜はわざと上あごには触れずに舌を絡ませて遊ぶ。それが気に入らなかったのか、燿が蒼波の胸をどんっとたたいて口を離した。 「どうしたの?」 「するならちゃんとしろ」 「ちゃんとって、どこをどうする?」 蒼波の言葉を受けて、燿がぽかんと口を開ける。蒼波は燿のしてほしいことだけをしたいと考えた末に、全部言ってもらうことにした。だが、それが一歩間違うとプレイの一環になってしまうことには気づかないままだ。燿は瞬間湯沸かし器にでもなったかのように怒鳴った。 「そういうことは、いちいち言わなくていいだろ!」 「言ってくれなきゃ、いやなことしちゃうかもしれない」 「大丈夫だから、好きなようにしろよ!」 「絶対やだ。言って」 燿の反論ごと食べるようにくちづける。すると、燿は器用に蒼波の舌を自分の口へ招き入れて、上あごの辺りに押しつけるようにした。言葉にはしてもらえなかったが、その辺りを舐めろということだとは蒼波にも解る。舌先で軽くつついたり、なぞったりすると、燿がしがみついてきた。 「んん、んっ」 「燿ちゃん、次は?」 「お前、最悪」 ナイトウエアの胸元のボタンに片手を、もう片方の手を裾の方へと持っていった蒼波に、燿が毒づく。 「最悪じゃないよ。最高にするから、どっち?」 「お前の好きな方」 燿の答えはまた明確のものではなかった。蒼波は仕方なくいつも通りの手順でボタンを外す作業に取りかかろうとしたが、ふと思いとどまる。いつも通りではない方がよいのかもしれないと考え、ナイトウエアの裾に手を突っ込んだ。 「う、わっ。あ!」 「声大きいよ、燿ちゃん」 ビジネスホテルの壁はそれほど厚くはない。大騒ぎしてしまうとなにをして
「今のはびっくりしただけだぞ?」 「でも燿ちゃん、俺が触るのいやがるし」 「それは」 「えっちのときだって『いや』とか『だめ』ばっかりで、俺……」 もう少し順序立てて話すつもりだったのに、結局蒼波は思いつくままを言葉にしてしまった。燿が大きくため息を吐き出して起き上がる。それすら蒼波は怖かった。 「あのなあ、蒼波」 「うん?」 燿の手が伸びてきて、蒼波のまだ湿った色の濃い茶色の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。 「幼馴染みとそんな簡単に、さらっとエロいことできるわけねーだろ!?」 「え? それでなんでいやがるの?」 蒼波の言葉を聞いた燿ががっくりとうなだれた。 「燿ちゃん?」 「前も言ったけど! 恥ずかしいんだよ!」 「それだと『いや』とか『だめ』になるの?」 「あーもう! それは気持ちよすぎるから……って、なに言わせんだ!」 白状した燿の姿を見て、蒼波は安堵のあまり脱力してしまう。体中の力が抜けたついでに涙腺も緩んでしまったようだ。視界がぼやけていくのを止められなかった。 「え、ちょっ、なに泣いてんだよ」 「だって、燿ちゃん本当にいやなのかと思ってたから」 「本当にいやだったら最後までするか、バカ」 「よかった」 慌てふためいてなだめようとしてくる燿を、ぎゅっと抱きしめる。燿が伸び上がるようにして蒼波の頭をなでてくれるのが心地よかった。 「今日は今までで一番気持ちよくするね」 「は? お前、まさか」 泣きながら笑う蒼波を見た燿が距離を取ろうとじたばたともがき始める。そんな燿をしっかりと抱いたまま、蒼波はベッドへ転がった。
「……燿ちゃん、無防備すぎ」 このホテルのナイトウエアは男女兼用のワンピースタイプだ。つまり一般的なパジャマとは異なりズボンがついていない。蒼波は頭を抱える思いだった。それでもそもそも蒼波はその気ではいるため、自分のベッドの枕の下にローションとコンドームを忍ばせてしまう。 いやがられているのは解っていても、こんなシチュエーションでは我慢などできない。ただ、今夜はちゃんとなにがそんなにいやなのかを燿に訊こうとは思っていた。 しばらくするとシャワーを浴び終えた燿が戻ってくる。濡れた黒髪をタオルで拭きながら蒼波にも入るようにとバスルームを指差した。 「泳いでなくても潮風のせいでベタベタだったぜ」 「ずっと海にいたから仕方ないよね」 ワンピースタイプのナイトウエアを着た燿はとてもかわいらしい。蒼波は身長の関係で恐らくサイズが合わないだろうと思ってスウェットを持ってきていたので、それを持ってバスルームに向かった。 今日は念願の海に来られただけでなく、燿と一緒に一泊することができて蒼波は満足している。シーグラスは見つからなかったけれど、その代わり燿からきれいな石をプレゼントしてもらえた。あとは蒼波の疑問が解消さえすれば言うことはない。 髪と体を洗って、少しの間気持ちを落ち着かせようとシャワーに打たれる。 「よし。ちゃんと燿ちゃんに訊こう」 両の頬をぱしんと叩き気合を入れて、蒼波はバスルームから燿のいる部屋へ行った。 そこにはベッドにうつ伏せて足をぱたぱたとさせながらテレビを見ている燿がいる。ナイトウエアの裾が膝の上までめくれていて、蒼波はたまらずうなった。 「おー、遅かったな」 「燿ちゃん、わざと?」 「なにが?」 「こういうの、わざとしてるんでしょ?」 燿のそばまで行った蒼波はベッドに腰かけると、むき出しになっている燿のふくらはぎをなでる。とたんに「うひゃあ」と色気のない声を上げて、燿が逃げようとした。蒼波はとっさに燿の足首をつかんで阻止する。 「は、放せ」 「いや? 燿ちゃんがいやならしない」 「……蒼波?」 う