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ジギスムント廃嫡

Author: ふりっぷ
last update publish date: 2026-09-12 08:00:10
 サンドランド王宮の空気は、張り詰めていた。

 誰一人として声を荒げない。

 それなのに――沈黙そのものが怒鳴っているようだった。

 長机の上に広げられた地図。

 北部都市群。

 王都ブリュード。

 そして、赤く引かれた海路図。

 老いたサンドランド王サムールは、机に置かれた報告書を見下ろしていた。

 その目はまだ砂漠の王のものだった。

「……失敗したか」

 低い声。

 側近たちが息を呑む。

 北部都市群との独占契約交渉。

 ロンデル公子擁立工作。

 すべて――失敗。

 都市群はヒマリ女王を支持。

 油田の権益を明け渡し、海路は確保とあるが、

 本来の成果とは程遠い。

 さらに、ロンデル公子アレクシスがそのまま王都へ合流。

 すべてがジギスムントの報告と異なる。

「ジギスムントは?」

 側近が言い淀む。

「……戦争継続の構えです。

 すでに第一軍を従え、王都に進軍中」

 空気が重くなる。

 老王は静かに目を閉じた。

「止まれぬか」

 誰に向けた言葉でもなかった。

 王だからこそ分かる。

 一度、前に進むしかない王になった者は。

 止まれない。

 壊れるまで。

 その時だった、扉が乱暴に
ふりっぷ

ジギスムントはついに王位継承権を失い、 国家からも切り離されることとなりました。 それぞれが選んだ道は、やがて王都で交わることになります。

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  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   侵入した暗殺部隊

     城壁が、悲鳴を上げた。 夜の王都に、巨大な破砕音が響き渡る。 ガゴォォォォン――。 魔王城の砲塔から放たれた重射撃が、 王都西区画の結界を正面から打ち砕いた。 白い防壁が大きく揺らぎ、その直後。 積み上げられていた石造りの城壁が、耐えきれずに崩れ落ちた。 粉塵が夜空へ舞い上がる。 砕けた石が雨のように降り注ぎ、 城壁上にいた兵士たちが叫び声を上げる。「城壁が――!」「崩れるぞ! 退け! 退けぇ!!」 長い年月をかけて築かれた王都の防壁が、 わずか一撃で穴を開けられる。 ヒマリは、とっさに身を伏せた。 爆風が吹き抜ける。 耳鳴りが響き、粉塵で視界が白く染まった。 それでも、彼女はすぐに立ち上がった。「クルス……もっと射角をずらして。城壁への被害が大きすぎる」『無茶を言うな!  砲門がいくつあると思っている!?』 クルスの声にも焦りが混じっていた。『こちらの干渉を防ぐために、魔王城は一斉射撃へ切り替えている。 攻撃予測そのものを再演算する必要がある』「つまり……一度射角をずらしただけで 魔王城が対応しているってこと?」 ヒマリの表情が険しくなる。 ただ暴走しているだけではない。 こちらの行動に合わせて、変化している。「フェルマー!」「ああ、無事だ」 すぐに返事が返ってきた。「王都全体に広げたとはいえ、私の結界が一撃で破られるとは――」 ヒマリは周囲を確認する。 崩れた城壁からは煙が立ち上り、 その向こうには、ぽっかりと夜の闇が広がっていた。(城壁が……抜けた) 胸の奥が冷たくなる。 それは単なる防壁の破壊ではない。 王都へ続く道が、開いたということだった。     ◆ その穴を、影が抜けた。 十一人。 全員が黒い外套に身を包み、気配を極限まで消している。 城壁崩壊による混乱と、舞い上がる粉塵。 逃げ惑う兵士たち。 暗殺者たちにとって、侵入するにはこれ以上ない好機だった。「今だ」 先頭の男が、低く呟く。「ヒマリは城壁上にいる。混乱に乗じて接近する」 影たちは一斉に動いた。 無駄のない足運び。 互いの距離を完璧に保った連携。 彼らは訓練された暗殺者だった。 ジギスムントが最後に残した切り札。 北部都市群での失敗し、最後機会を狙っていた。 全員が理解していた。 

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   ジギスムント廃嫡

     サンドランド王宮の空気は、張り詰めていた。 誰一人として声を荒げない。 それなのに――沈黙そのものが怒鳴っているようだった。 長机の上に広げられた地図。 北部都市群。 王都ブリュード。 そして、赤く引かれた海路図。 老いたサンドランド王サムールは、机に置かれた報告書を見下ろしていた。 その目はまだ砂漠の王のものだった。「……失敗したか」 低い声。 側近たちが息を呑む。 北部都市群との独占契約交渉。 ロンデル公子擁立工作。 すべて――失敗。 都市群はヒマリ女王を支持。 油田の権益を明け渡し、海路は確保とあるが、 本来の成果とは程遠い。 さらに、ロンデル公子アレクシスがそのまま王都へ合流。 すべてがジギスムントの報告と異なる。「ジギスムントは?」 側近が言い淀む。「……戦争継続の構えです。 すでに第一軍を従え、王都に進軍中」 空気が重くなる。 老王は静かに目を閉じた。「止まれぬか」 誰に向けた言葉でもなかった。 王だからこそ分かる。 一度、前に進むしかない王になった者は。 止まれない。 壊れるまで。 その時だった、扉が乱暴に開く。 伝令が飛び込んできた。「陛下!!」 顔色が悪い。 息も荒い。「申し上げます!!」 伝令は、震える声で告げた。「北部都市でのヒマリ女王暗殺――失敗!!」「……何だと?」老王の声が初めて揺れた。「そんな命は出しておらん」 場が凍った。 誰も言葉を発しなかった。 老王だけが、静かに立ち上がる。「……呼び戻せ」「陛下?」「進軍中のジギスムントを呼び戻すのだ!」 声は低い。 だが、怒りが滲んでいた。「今すぐ行け」「は、はい!」 側近たちが慌ただしく動き出す。 だが。 その時。 別の伝令が飛び込んできた。「陛下!! 北部都市群ネリィ副主席より抗議通達が!!」 巻物を差し出す。 老王が目を通す。 一行。 二行。 その顔から、感情が消えた。 静かに巻物を閉じる。「女王暗殺未遂の証拠を握られ、 飛行魔物による船団焼き討ちまで匂わせてきている…… 白々しく、開かれた貿易などと」 誰かが、ごくりと息を呑む。「陛下……?」 老王はゆっくりと言った。「サンドランドは、本日をもって政治中立を宣言する」 ざわめき。「へ、陛下!?

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   王都封鎖

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     王都ブリュード 黄昏時。 王都ブリュードの上空へ、ドラムの影がゆっくりと差しかかった。 戦場の危機を救って以来、  飛行魔物は民衆の味方だと認知されつつあった。 城門の兵士たちが驚いたように夕闇に染まる空を見上げる。「ヒマリ様だ!」「お戻りになられた!」 歓声が広がる。 ドラムは王城の中庭へ静かに降り立った。 翼をたたむと、ヒマリたちはゆっくりと地面へ降りる。 そのまま王城の執務室へ向かった。 ◆ 侍女が扉を軽く叩く。「どうぞ」 フェルマーの落ち着いた声が返ってくる。 扉が開かれると、  机へ向かっていたフェルマーが、ゆっくり顔を上げる。 ヒマリ。 ノリス。 そして、アレクシス。 三人の姿を見た瞬間、その表情がわずかに和らいだ。「……無事で何よりだ」 静かな一言だった。 だが、その言葉には本心からの安堵が込められていた。「ただいま」 ヒマリが笑う。「それから――」 胸に抱えていた黒い木箱を差し出した。「早速だけど、これ。  アレクシスの義眼と義手、作れる?」 フェルマーは両手で受け取ると、すぐには蓋を開けなかった。 重さを確かめるように静かに持ち上げ、魔力の流れへ意識を向ける。 やがて、小さく頷いた。「……保存処理は完璧だな」 木箱へ優しく手を添える。「これなら魔術的な再接合も十分可能でしょう」 ヒマリの表情がぱっと明るくなる。「本当?」「ええ」 フェルマーは穏やかに微笑んだ。「アレクシス公子ほどの魔力量があれば、  義眼も義手も限りなく本来の身体に近づけられます」 アレクシスは思わず息をのむ。 失ったものを取り戻せるかもしれない。 その希望だけで胸が熱くなった。「……よろしくお願いします」 深々と頭を下げた。  するとフェルマーの眼差しが静かに鋭さを帯びた。「礼は女王陛下に言いなさい」 一拍置いて続ける。「私は、あなたのことを亡国の公子としか思っていません。  ジギスムントに捕らわれたままであったら、  廃嫡して別の王を立てる道もあった」 その口調は厳しかったが  アレクシスが無事に戻ったからこそ出て来る言葉でもあった。「ヒマリ女王には、言葉では言い尽くせない感謝があります」 そして真っ直ぐフェルマーを見つめる。「その恩に報いるため

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     翌週の正午。 北部都市群の中央医療院へ戻ったペトラは、  そのまま執務室へ向かった。 部屋には、すでにヒマリとノリスが待っていた。 窓の外では港が活気づき、荷役の掛け声が潮風に乗って響いている。 ペトラは二人の前まで歩くと、何も言わず黒塗りの木箱を机へ置いた。 鈍い音が室内に響く。「……これは」「約束の品だ」 ペトラは短く答えた。「ジギスムントは交渉に応じた」 ヒマリは静かに木箱へ手を添える。 重い。 その重さが、この箱に収められたものの意味を物語っていた。(これが……) アレクシス公子の右腕と右目。 ジギスムントが最後まで切り札として握り続けていたもの。 ヒマリは蓋へ手をかけかけて、そっと手を離した。 ここで確かめるものではない。  フェルマーへ託すべきものだ。「私が行っても、ジギスムントは会ってくれなかったでしょう。  ……ありがとう」 自然と頭が下がる。 だがペトラは苦笑して首を振った。「礼を言われることじゃない」 一拍置いて続ける。「北部都市群の信用を守っただけだ」 その言葉に、ヒマリは小さく笑った。 商人らしい答えだった。 ペトラは椅子へ腰を下ろし、改めてヒマリを見る。「一つ聞く」「うん」「海路開放。本当に実行するつもりか」 真剣な問いだった。「もちろん」 ヒマリは迷わず頷く。「短期的には損をする」「分かってる」「空路の利用料も減り、サンドランドは再び力をつけるだろう」「それも分かってる」 それでも表情は変わらない。 窓の外では、船が港を埋め、人々が忙しく荷を運んでいる。「でもね」 静かな声で続けた。「富は独占するより循環した方が、最後はもっと大きくなると思う」 ペトラは黙って耳を傾ける。「一つの港だけが栄えるより、町と町が繋がった方がいい。  物流が増えれば、人も技術も文化も動く」「その結果、誰か一人じゃなく、みんなが豊かになれる」 ネリィなら数字で証明してくれるだろう。 ヒマリは、その未来の景色を信じていた。「戦争で奪うより、交易で増やした方がいい」 その一言に、ペトラは静かに息を吐く。「……商人としては反論できん。――儲かる話だからな」 苦笑が漏れる。 ヒマリも笑った。「これから王都に戻って、正式な交渉団を派遣するわ。  一度に送れる飛

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   王と商人の決着

     朝の陽光が、砂岩で築かれた離宮の間を黄金色に染めていた。 静まり返った広間の中央には、  北部都市群主席ペトラがただ一人立っている。 護衛も親書も持っていない、この場に必要なのは武力でも書面でもなく、  交わされる言葉だけだからだ。 仮の玉座の上では、ジギスムントが静かにペトラを見下ろしている。「……北部都市群の主席が、わざわざ一人で来るとはな」 感情を押し殺した声だった。 ペトラは肩をすくめる。「伝言で済む話なら、ここへは来ていない」 臣下としてでも、商人としてでもない。  国家を代表する交渉人として、この場では対等に立つ。 暗殺者を送り込まれた抗議も込め、ペトラは一礼すらしなかった。 ジギスムントは小さく頷く。「聞こう」 その一言を待っていたように、ペトラは単刀直入に切り出した。「ヒマリ女王は、海路を開放する」 言葉が消えると、玉座の間には重苦しい沈黙だけが残った。「……独占を手放すということか」「違う」 ペトラは即座に否定する。「手放すのではない。開放するのだ」 一歩だけ前へ進む。「サンドランドも、北部都市群も、王都も。  誰もが利用できる海路を築く」 ジギスムントは答えない。 ただ、その瞳だけが静かに細められる。 頭の中では、輸送量、関税、収益予測、利益配分  ――あらゆる数字が瞬く間に組み上がり、  新たな交易圏の姿を描き始めていた。 ペトラは急かさない。 この男は考える時間を与えた方が、より正確な答えへ辿り着く。 やがて、ジギスムントが静かに口を開く。「……条件は」「アレクシス公子の失われた目と腕を返してもらう」 再び空気が止まる。 ジギスムントの表情は変わらなかった。 だが、その瞳だけがわずかに揺れる。「……知っていたか」「刺客からな」 一拍置き、ペトラは静かに続けた。「北部都市群にも、  表には出せない仕事があると理解していただけるだろう」 その一言で十分だった。 ジギスムントは小さく息を吐く。「……海路の開放と引き換えに、それを返せと」「そうだ」 再び長い沈黙が流れる。 やがてジギスムントは低く呟いた。「それでは、私は敗北を認めることになる」 周囲の温度が下がった気がした。 王として積み上げてきた誇りが、静かにその声へ滲んでいた。 しかし、ペト

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   闇の底で芽吹く光

     ゴブリンが突然動きを止めた。 その理由を、ヒマリはすぐに理解したわけではない。  ただ、闇の奥で何かが目を覚ました気配だけが、肌を刺した。 ガサリ。 複数の足音。  赤い光が、闇に点る。 一つ、二つ……十を超える。 腐った息。  低い唸り声。(……来ないで……) 後ずさった背中が瓦礫にぶつかり、逃げ場が消える。 闇から現れたのは、歪な影たちだった。  骨だけの骸骨。  粘液の塊。  腐臭を放つ死体のような魔物。 魔王城の最下層に巣食う、最底辺の存在。「来るなっ!」 反射的に手を突き出した瞬間――  白い光が、ふわりと指先から溢れた。 眩しくはない。  

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   捨てられた聖女は、まだ何も知らない

     眩しい光に包まれ、思わず腕で顔を覆った。(……え?) さっきまで、狭いワンルームのベッドにいたはずだ。  スマホを握ったまま寝落ちし、通知の来ない画面をぼんやり見つめていた。 それなのに、鼻を刺す空気の匂いが違う。 古い石の冷たさ。ざわめく人の気配。「成功だ……!」 誰かの興奮した声が響く。 恐る恐る目を開いた瞬間、心臓が止まりそうになった。 見知らぬ大広間だった。 高い天井。壁一面に刻まれた巨大な魔法陣。  床には淡い光が流れ、豪奢な衣装をまとった人々が並んでいる。 まるでゲームか映画の世界。 けれど――違和感があった。 誰も、私を見ていない。 視線の先は、少

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   分断の種は静かに撒かれる

     王都ブリュード、王城最上階。  重厚な扉の向こう、執務室には静かな緊張が満ちていた。 机いっぱいに広げられた地図。 その前に座る男は、  まるで大理石から削り出された彫像のようだった。 長い睫毛の影が白い頬に落ち、  整いすぎた輪郭は感情を拒む刃のように鋭い。 淡い銀の髪が光を受け、静かに揺れる。「……遅いな」 ぽつりと漏れた声には、苛立ちが滲んでいる。 本来なら、とっくに報告が届いているはずだった。  ゴミ捨て場――処分したはずの異世界人の痕跡について。「フェルマーめ……」 蒼い瞳がゆるやかに細まる。 あの男は有能だ。  天才で、合理的で、感情に左右されない。

  • ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う   自称天才、魔王城に降臨

     魔王城の玉座は、今も空いている。  かつて、この場所に座っていた者の名は  ――前魔王クルス。 中層から撤退したヒマリに魔物達の失望が広がる。 クルスの治世は冷酷で無慈悲だったが、  均衡は保たれ、争いは最小限に抑えられていた。「……あの方なら、こうはならなかった」 誰かの呟きが、静まり返った広間に溶ける。 その言葉は祈りであり、同時に今を否定する呪いでもあった。 だが、玉座の前に立つ少女  ――ヒマリは、その名に縛られない。「知らないよ。その魔王がどれだけ立派だったかなんて」 そう言って、ヒマリは小さく息を吸い、一歩だけ前へ出た。 玉座に落ちた影が、ゆっく

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