Masuk“この仕事はね、本能的に「感じる」ことのできる人間にしか続けられない。ただエッチが好きなだけじゃダメ。相手によって感覚が鈍るような、ただの女には無理。「ビッチ」になるの。身も心も「ビッチ」になりなさい。長く続けたいならね”初日の講習で、そう言われたことを思い出す。ああ、やはり自分には、この仕事が向いていたのかもしれないという気持ちになる。「気持ちいい?」「ああ、はい、気持ちいい、です」「うそ。初めてなのに、わかる?」まだ少し戸惑うような表情の客を見ながら、キヨミはイジワルを言う。それも、講習で習ったテクニックの一つだ。「わか、わかると、思います」「ほんとうに? 変な感覚でしょ。自分と他人の体がつながっているなんて。そういうの、気持ち悪くないの?」「いや、そんな、気持ち悪く、なんかないですよ」「本当にそう思う?」くちゃくちゃと小刻みに腰を動かしながら、さらにイジワルな質問を重ねる。「気持ち悪くなんか、ぅ、あっ、ないですよ。う、うれしいです、こんな、アカリさんみたいな、きれいな人とつながれて、あっ」アカリ。それがキヨミの源氏名である。まだ耳馴染みのない、新しい名前。一瞬、誰の名前だろうかと戸惑いさえする。「嬉しい。ありがとう」「あっ、ああっ、好きです、アカリさん、あっ」「うれしい、テラダさん。んっ」唇を重ねる。上の方でも、深くつながる。「好きです」と言われ、「私もです」なんて言葉は使わない。相手を惚れさせるには手っ取り早い言葉だが、同時に自分が「惚れやすい女」だと安く見せる言葉でもある。ただの疑似恋愛でも、駆け引きは普通の恋愛同様に必要だ。否、普通の恋愛以上だろう。体を許す分、心まで許してしまってはいけない。肌が無防備な分、心には鎧を着なければならない。それから、腰を上下に動かす。動かし方には2パターンある。パン、パン、パン、パン。激しく上下にピストンし、男根を上から下まで幅広く擦るパターン。「はぁっ、はぁっ、あっ、あっ」もう一つ。ズブッ、ズブッ、ズブッ、ズブッ。やや斜めに浅く動かし、男根の先端を膣の奥にぐいぐいと導くよう短めに擦るパターン。「ひっ、ひっ、ふっ、ふっ」最初は前者で行い、徐々に後者に変えていく。早漏の相手ならこれを1分、遅い男でも5分かけると大概射精する、そう教わった。しかし、この日の客はなかなかそれに至らない。キヨミには、むしろだんだん男根が縮んでいるようにも感じた。「ごめん、ちょっと小さくなっちゃった?」キヨミはそう言って、一旦、客の一物を体から抜く。ゴムごしに手でソレをつかむと、やはり少し柔らかくなっている。ゴムを外し、直接、口でする。「ご、ごめんなさい。なんか、緊張しちゃって」「ううん、初めてだもん。よくあるから。気にしないで」ちゅぱっ、ちゅぱっ、と男根をしゃぶる。少しだけ大きさを取り戻したように感じられたが、もう少しか。「気持ちいい?」「あっ、はいっ。あっ、やば」キヨミはその言葉にドキリとしたが、もう遅かった。「あ、だめ、いかないで」「ごめんなさい、も、もう!」どくっ、どくっ、と男根の先から、白濁した液があふれ出る。キヨミの頬に少しだけかかる。多くは、男根を伝って落ちていきながら、客の股間の茂みへ染み込み、そこから溢れたものがシーツを汚す。客は、慌てて言う。「ご、ごめんなさい。スイッチが、へんなタイミングで入っちゃって」「ううん、気にしないで」事務的にティッシュを大量に取りながら、キヨミは溢れた精液を拭い取る。これもよくあることだから、というセリフを口にしかけて、言葉を飲み込む。これは男を傷つけてしまうワードだ。「気持ちよかった?」代わりにそう言って笑いかける。もちろん頬についた客の体液はそのままで。その笑顔が自然かどうかはわからない。一応、鏡ではもう何度も練習している表情ではある。「はい、ありがとうございました。初めてがアカリさんで、幸せでした」泣きそうになりながら、客は言う。いや、もう声は震えて、少し涙が混じっている。キヨミはその客のぼさぼさの頭を、よしよし、と撫でてあげる。ただキヨミは、そこまで手をかけてやりながら、ああ失敗だったなとも考えている。初体験で運悪く外で果ててしまった客は、それがトラウマになってもう店に来なくなってしまう場合が多いと聞く。しっかり中での射精に導いてあげられた客は、リピーターになってくれる。初めての客はデリケートなのだ。気を遣いすぎてもいけないし、とにかく扱いには重々注意しなければいけない。頭ではわかっていても、実際にやると、このようにうまくいかないものだ。ただ、最終的には仕方ない話だ。相性だってある。せめて最後に書いてもらうアンケートだけは好評価をもらえないと割に合わない。そう思いながら、「私も気持ちよかったよ。次は中で出してね」と甘い声をかけながらキスをする。客の細い指で、小さな胸を触らせながら。その直後に部屋の電話が鳴り響き、終了の5分前を告げる。
テラダマコトはキヨミの前に立ち、緊張で肩を強張らせていた。白い肌が、間接照明の下でわずかに汗ばんでいる。彼は震える指でキヨミのジャケットに手をかけ、ゆっくりと肩から滑り落とした。 「マコト、もっと大胆にしていいよ」 キヨミが囁くと、テラダはごくりと唾を飲み込んだ。次に彼はキヨミのブラウスに手をかけたが、ボタンを外す指先が何度ももつれる。ようやく全てのボタンを外し終えると、下に着ていた白いブラが露わになった。 ハァ、ハァ……テラダの息が上がる。キヨミも少しだけ自分の顔が紅潮していることに気づいた。キスしたい、舌を絡ませ合いたい。そう思うが、ぐっと堪える。今はテラダにリードさせると決めたのだ。 テラダは、しかしそこで固まった。次に何をすればいいのか、ブラを外すべきか、スカートを脱がすべきか、迷っている様子がはっきりとわかった。 キヨミは優しく微笑み、彼の手を取った。少しだけならフォローしてあげてもいいだろう。ほんの少しだけ。 「マコト、まず触ってよ。私のおっぱい」 テラダの瞳が大きく見開かれた。彼は唾を飲み込みながら、震える手でキヨミの胸に触れた。ブラ越しに、柔らかな膨らみをそっと包み込むように。 「あ……柔らかい……」 彼の声は掠れていた。キヨミは彼の手を自分の胸に押しつけ、さらに導く。 「もっと強くてもいいよ。感じて、私の体を」 テラダは勇気を出したように、ブラの上から親指で乳首の位置を探り、優しく円を描くように刺激した。キヨミの体がびくりと震える。 「ん……っ、そう、上手っ」 その言葉に励まされたのか、テラダは徐々に大胆になっていった。彼はキヨミの背中に回り、ブラのホックを外した。露わになった胸を両手で包み、優しく揉みしだく。時折、乳首を指で摘まみ、軽く引っ張る。 「あっ……マコト……」 キヨミの声も甘く掠れる。テラダは興奮を抑えきれず、キヨミの首筋に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。 前戯はたどたどしかったが、キヨミの優しい導きによって徐々に熱を帯びていった。テラダはキヨミのスカートを下ろし、ショーツに指をかけ、ゆっくりと脱がせた。キヨミも彼のベルトを外し、ズボンと下着を一緒に下ろす。 やがてテラダが上半身に身に付けていたシャツを脱げば、ついに二人は裸になった。 テラダの白い体が照明の下で淡く輝いている。彼
「まずはせっかくレストランに来たんだから、食事を楽しみましょう」 キヨミは穏やかに微笑んで言った。テラダマコトは一瞬、ぽかんとした表情を浮かべたが、「あ、そ、そうだよね……」とやや苦笑しながらメニューを手に取る。 危ういところだった。いきなり事件の話やらプロポーズの話やらを切り出せば、テラダはきっとパニックを起こしていただろう。彼はそういう男だ。純粋で、真面目で、でも極端に緊張しやすい。 それで料理の味が台無しになるのは避けたかった。食べているときくらいは心穏やかでいたいものだ。 二人が注文したのはこの店の定番メニューだ。運ばれてきたのは、薄く焼かれた卵がチキンライスをふんわり包むオムライス。王道のスタイルであり、ノスタルジックな昭和タイプとも言える。 スプーンを入れると、薄い卵の中から熱々のチキンライスがこぼれ落ちる。チキンライスの味付けは薄口ながらもコクがあり、タマネギと鶏肉の甘みがじんわりと染み出していた。そこにケチャップで軽く味にメリハリがついて、懐かしい味わいに仕上げられている。 「美味しい」 一口ごとにほっとするような味わいが広がり、キヨミは思わず小さく呟いた。テラダも頷きながら、一口ずつ丁寧に味わっている。 ただ彼はスプーンを動かす手つきもぎこちなく、時折キヨミの顔を盗み見る。白い頰がわずかに紅潮しているのが照明の下でよくわかった。 「……実はこのお店、小さい頃、母親によく連れてこられたんだ」 不意にテラダが昔話をする。 「へぇ、テラダさんのお母さんって何歳くらい?」 「もう……亡くなったよ」 キヨミは一瞬、ピタリとスプーンを持つ手を止める。 「そう、ごめんなさい」 「謝らないで。もうずいぶん昔……僕が小2ぐらいの頃だったかな。くも膜下出血で突然倒れて、そのまま。お酒とかよく飲む人だったみたいだから」 初めて聞く話だった。そもそも彼が家族のことを話すこと自体、これが初めてかもしれない。 「うちは父親と、祖父と、男ばかり3人で暮らしてる。祖母も僕が生まれる前からもういなかったみたいで。男ばっかりさ。だから学校でも、女子とどう接していいのかわからなかった。高校は男子校だったし、今アルバイトしてる先も、あえて女性がいないところを選んだんだ」 「もしかして女性が怖かったの?」 テラダはぎこちなく微笑む。 「そうかも……
【2019年10月】東京都・新宿区 事件から5日目の夕方、キヨミは四谷図書館にいた。 外はすでに薄暗くなり始め、図書館の窓から見える新宿御苑の木々が、街灯の光にぼんやりと浮かび上がっている。キヨミは閲覧室の奥の席に座り、目の前の机に積まれた本の山をじっと見つめていた。 タカナシカツヤの作品だ。 彼のデビュー作は貸し出し中だったが、2冊目、3冊目、そして4冊目を見つけることができた。どれも文庫化されており、手に取るのに抵抗はなかった。表紙のデザインはどれもシンプルで、文学賞を受賞した作家らしい品の良さがあった。 とりあえず借りるだけ借りればよいとは思っていたが、いざ手に取ると、その場ですぐに目を通したくなった。 キヨミは中学生の頃、図書室にある小説や詩、戯曲、歴史書、地理書、医学書、そして辞書など、あらゆる本を手当たり次第に読むほどの熱心な読書家だった。恐らく1時間もあれば、小説3冊、ざっくり概要を理解することくらいはできるだろう。 キヨミはまず2冊目、『うしなう』を開いた。 物語は、ある男性が年下の恋人と別れた後の後悔を描いたものだった。男性は売れっ子作家で、女性はまだ学生。互いに惹かれ合いながらも、立場や年齢の差、将来への不安からすれ違い、別れを選ぶ。男性は後になって、女性の存在がどれほど自分を支えていたかに気づき、失った喪失感に苛まれる。 読み進めるうち、キヨミの胸に奇妙なざわめきが広がった。ここで描かれている女性は、アズサだろうか? 年下の女性——純粋で、才能を認められながらも自信がなく、男性にすがるような描写は、高校時代のアズサとはまるで印象が違った。しかし、それはあくまでキヨミから見た印象だ。カツヤの前でアズサは、こんな風に自信のない、まるで幼い少女のような姿だったのかもしれない。 特に別れのシーンで女性が言う「私はあなたに独占してほしかった」という台詞が胸に刺さる。当時のアズサの口からその言葉が出てきたことを想像しても、違和感はなかった。 キヨミは本を閉じ、深く息を吐いた。もちろん偶然の一致ということもありえる。だが読んでいる間、ずっとアズサの顔が浮かんで離れなかった。 次に3冊目、『転生』を開いた。 これはある女性が整形手術を受け、風俗嬢として生きる道を選ぶ物語だった。女性は元々、名門大学に通う優等生。ある夜、街で暴漢に襲わ
カツヤはシャツを脱ぎ、下着も脱ぐ。“中肉中背”と呼ぶよりはやや引き締まった男性的な裸体が露わになった。作家であると同時に売れっ子でいるためには体力も必要であることを彼は知っている。適度なジム通いは続けているようだった。アズサはその、あばら骨の浮き立つ辺りを撫でる。彼と初めて交わったときも、最初にそこを触ったのを覚えていた。無駄のない筋肉は美しく、丈夫な骨は頼もしく、素直に感動を覚えた。だが、当時は彼のことがあまりに完璧で、巨大に見えた。新人賞を取って作家の仲間入りできたと思ったのに、すぐその先にこんな高い壁が聳えていたのかと、憧れと共に畏怖の念を抱いた。そんな彼と交わうことで、アズサも彼に近づけるかもしれないと。そんなことあるわけがないのに、彼を求めてしまった。あの恋は歪だった。彼を一人の男性として、人間としては見ていなかった。到底近づけない神と交わる感覚。それで自分が聖母マリアになれるとでも思ったのだろうか。その関係を続けていきながらも、「高校生相手にこれ以上本気になれない」と遠ざけられたとき、“ヤリ捨てられた”と本気で絶望した。ただ、彼を訴えようとは思わなかった。自分だって純粋な気持ちから彼に抱かれたのではないと知っていたから。もっと広い世界に羽ばたきたかった。彼が連れて行ってくれるのではと信じた。単に彼を利用したかっただけなのだ。彼もそれがわかったから、それは愛ではないと気づいて遠ざけたのではないか。今の彼はどうだろう。ベルトを緩め、脱いだジーンズとパンツの下から現れた彼の男根は、力強く勃起している。アズサを求めているからだ。アズサはどうだ。今、女性器をぐちゅぐちゅに濡らして彼を受け入れようとしているのは、一人の女としての尊厳を取り戻すためなのか。好きでもない男から襲われた記憶を消したいから――また、カツヤを利用しようとしているだけか?違う。カツヤと離れてからずっと彼を渇望していた。また彼に抱かれたかった。小説、新人賞、高校生と売れっ子作家、自らの目標も立場の違いも何もかも忘れ、ただ一組の女と男として交わりたかった。「カツヤ……お願い。きて……」アズサは懇願する。カツヤの男根には、コンドームなど野暮なものは付いていない。初めてありのままの彼をアズサに挿入しようとしている。倫理観などはとうに消えた。彼も本
【2019年10月】東京・新宿区ユキの見舞いを終えたあと、キヨミはTOHOシネマズ新宿で映画『JOKER』を観た。人気ヒーローシリーズの『バットマン』の悪役の過去を描いた作品だが、原作を知らなくても楽しめるというので、どんなものか確かめておこうと思った。元々、映画などエンタメを取り入れることは好きだったとは言え、風俗嬢になってからより積極的に観るようになった気がする。やはり中流階級の客が大半を占めるソープランドでは、観た映画の話題などが客と合うと、話の弾み方が違う。みんなそれぞれ好きな映画がある。キヨミの中でイマイチだった映画でも、「あの映画のさ、あの俳優のあのセリフが最高なんだよ」など言われると、「わかります」と同調できることが多い。「え、あれも観たの!? 俺しか観てないと思ったのに」と言われたら、それだけで高得点だ。手軽に「映画通だね」の称号を獲得できる。そしてまた、客からおすすめを教えてもらったり、逆に客へ「これが面白いですよ」と勧めたり。「観たら感想聞かせてくださいね」と、また予約してもらう口実にもなる。ただ、『JOKER』を観たのは「仕事に役に立てるため」だけではなかった。平凡な男がいかにしてヒーロー映画の宿敵となっていくか、それを知ることは、ユキを襲ったタカナシカツヤという男を知る上での役に立つのではと思ったのだ。当然、タカナシとJOKERの境遇は全然違った。タカナシは売れっ子作家で、JOKERはコメディアンを目指す青年だったが泣かず飛ばずだった。夢を叶えた者と、叶えられなかった者。大きく隔たりがあるが、善良な一市民がいかにして悪に堕ちていくか、その過程は見ごたえがあった。映画を観終えた後、すっかり脳内で、タカナシとJOKERの印象が重なっていた。たまたまニュースで報道されたときに見たモジャモジャした髪型が近かったのもある。とは言え、やはり現実とフィクションは違う。決して彼らはイコールの存在ではない。(私は、タカナシについて何も知らなすぎる)せいぜい、デビュー作を読んだことがあるくらいだ。2作目以降は何も知らない。犯罪者の作品は、店に行っても置いていない可能性が高い。ならば図書館はどうか。スマホを見ると、とある待ち合わせの時間まではまだ余裕があった。少しだけ足を延ばし、新宿御苑近くの四谷図書館へ向かった。※【2011年6月】東京都
【2019年10月】東京都・新宿区 事件から5日目の午後も、ユキの意識は戻らなかった。 「いつもお見舞いに来ていただいて、ありがとうございます」 病院の廊下で、高身長の女医・タナベはそう言ってキヨミに頭を下げた。タナベともすっかり馴染んだ感じになってしまった。 「あの……私以外で、誰かお見舞いに来る人はいないんですか?」 そしてつい、疑問に思っていたことを口にする。 「いらっしゃいましたよ。お勤め先の男性の方が一度見られたのと。あとお母様が、患者様が当院に運ばれた翌日に一度、そして一昨日、ICUから一般病棟に移る際にもう一度お見えになりました。基本的にお一人ずつとの面会となっていますので、重ならないようにはしています」 と、タナベ。なるほど。まるでソープランドの予約と同じようなシステムだな……なんてキヨミは思ったが、もちろん口にはしなかった。 何となく、アズサは親に勘当されているのではと思い込んでいた。わざわざ地元を離れ、大学も辞めて、いつからかはわからないが、少なくともキヨミよりも長い間ソープランドで働いていた。高校生の頃は随分と羽振りもよく見え、一体何があったのかとは思っていたが。 「あと、テレビや雑誌の取材の方々は減りましたね」 タナベは付け加える。確かにそれも気になっていた。さすがに5日目となると、もう話題の鮮度も落ちてきたのだろうか。みんなアズサのことを忘れていく。 そもそも世間の人々は、アズサなんて会ったこともないただの他人だ。他人が暴行を受けて「かわいそう、酷い」なんて言っても、数日経てば忘れる。 世界はあらゆる情報に埋め尽くされている。明日はどこかで火事が起きるかもしれないし、バスや電車が大事故を起こすかもしれない。中東では戦争だって起きている。一人の風俗店勤務の女性が受けた暴行なんて、社会の大きな出来事に比べたら取るに足らない話題だ。 けれどキヨミにとっては、一生残り続けるかもしれない大きな事件になりつつある。ただ今は、一刻も早いアズサの目覚めを願うことしかできない。 ※ 【2011年6月】東京都・渋谷区 男にレイプされ、あられもない姿で立ち尽くすアズサの前にカツヤが現れた。アズサを襲った男の頭上に、彼はコンクリートのブロックを落とした。容赦ないが、要は助けてくれた形ではある。 頭からブロックを落とされた男は、ピ







