LOGINだが、本当の地獄はここからだった。牢屋を抜けだしたはいいが、城のそこら中に警備兵が巡回していた。
彼らに見つかれば、また牢屋に戻される。ここで光ったのが自分の透視能力だった。城のどこに警備兵がいるのか壁越しでわかる。
皆の先頭を自分が率先して歩く。網目のように張りめぐらされた警戒網をゆっくりと進んでいく。
皆が緊張感に包まれていた。そして、緊張感がMaxに届いた時、事件が起きた。誰かがプゥ~~~とオナラをしたのである。
「なんだ今の音!?」
警備兵たちが一斉にこちらへと振り向いてきた。急いでリリーを抱き寄せる。次の瞬間には透明化を行い、自分とリリーの姿を相手から見えなくさせた。
「おっとぉ? お客さんたち。どこへ行く気かな?」
警備兵たちから見えるのはゲイルとヴィオレッタ、そしてミカの3人だ。自分とリリーは透明化で姿を消している。
こちらの3人に向かって、警備兵がゆっくりと近づいてくる。自分はリリーの口に手を当てて、声を出させないようにした。
女神に無理矢理送り込まれたピンクルームは地獄の一丁目だった。裸の女性100人による筆おろし祭り。 女神に童貞を守れと言われたが、入室してから5分後には童貞を奪われた。本来なら、そこで修行は失敗となり、この部屋から強制退出を喰らうはずだったのだろう。 だが、そんなことは起きない。女性たちが次々と自分の腰へと馬乗りになってきやがった。金玉からっぽにされてもそれは続いた。 まさにイキ地獄だった。女性たちから解放されたのは三日後の夕方になった頃だった。足腰が立たない。芋虫のようにうごめきながら、ピンクルームに現れた金色の扉を潜り抜けた。「5分ももたないってどういうこと?」 「そんなこと言われても、100人組手とかやらすんじゃねえよ!?」 「その割には嬉しそうにあひんあひん言ってたわよね?」 「記憶にございません」 どちらにしろ、修行は失敗した。童貞を守れなかった以上、女神から新たなエスパー能力を与えられることはない。悔しくて涙が出そうになった。「はい、ここで質問です。もし、やり直したいと思えるのなら修行をやり直す?」 「やり直していいのか!? でも、俺はもう童貞じゃない!」 「時間を巻き戻せばいいの。簡単でしょ?」 「え? 言っている意味がわからないんだけど」 「時間を停止できるということは、アルト、あなたは時間操作のエスパー能力に優れているってこと」 「まさか、そんな……俺はできるのか!?」 半信半疑であった。やり直せるのならば、いちからやり直したいと思えてくる。聖女たちと出会うあの場面までと。 念じる。あの場面を思い出しながら。そして、胃の辺りに気持ち悪さを感じた。時間が巻き戻る。「はあはあ。どうだ!? どれくらい巻き戻った!?」 「6秒ってところかしら」 「……6秒!?」 「やるじゃない」 「褒められた!? いや、そうじゃなくて、この3カ月間まるまるを巻き戻したかったんだけど!?」 「そんなの神様でも無理だわ。でも、6秒だけでも巻き戻せるってすごいことよ? ついにチート能力を手にいれたわねっ
聖女ヴィオレッタがこの空間に現れるなり、空間が鳴動した。何事だと皆で慌てふためくことになる。 地響きが起きて、次に立っていられないほどの振動が地面の底からやってくる。皆で無様に尻餅をつくことになった。 動けないなりにも聖女を守ろうと動く。四つん這いになりながら、聖女に対して、自分の身体で覆いつくす。次の瞬間だった。岩が天井から落ちてきた。 その岩がこちらの腰を痛打する。「ぐへぇ!」と間抜けな声を上げながら、ぐったりと聖女に身体を預ける格好となってしまった。 2分ほど続いた地震がようやく収まった。とんでもない横揺れで酔いそうになってしまった。腰をさすりながら、その場から立ち上がろうとした。 しかし、グキリッと嫌な音が鳴り、痛みがマッハでやってくる。悶絶して、地面をゴロゴロと転げ回った。「んもう。私が可愛いからって、無茶しすぎ」 「岩の直撃を甘くみてた。てか、何でヴィオさんが可愛いことと関係するんだ?」 「へっ? 何か間違えた?」 どうやら天然で言っているようだった。他の女子が聞いていたら、ムカッとイラついてもさもありなんと言える。だが、聖騎士シャインと大魔導士ミカは平然と聞き流していた。(女子って恐ろしいな) そんなことを思いながら、聖女ヴィオレッタに回復魔法をかけてもらっている自分だった。聖女ヴィオレッタは「いたいのいたいのとんでけー♪」とちょっと楽しげにしている。 それに反応するかのようにビシッとこの空間の空気が凍りついたような気がした。恐る恐る聖騎士シャインの方を見る。彼女はまるで下衆を見るかのような視線をこちらに向けてきていた。(女子って恐ろしいな) 二度目となる感想だった。聖騎士シャインから視線を逸らしながら、空間に目を向ける。地震が起きたことで、囚われている空間に変化が起きていた。 天井の一部が崩落し、空いた穴から光が差し込んできていた。その光がとあるものを浮かび上がらせていた。「あれって、祭壇なのか?」 「どうしてそう思うの?」 「暗黒騎士がここは祭壇だと言っていたからだよ」
シャインがここで負けるのは予想外というよりも論外だった。シャインが苦しそうに呻いているが、彼女を罵倒してしまいたくなってしまう。 そんなシャインに向かって、暗黒騎士が手をかざしていた。ゾゾ……と怖気が走る。シャインから生命力を吸っているように見えたからだ。「シャインに何してやがる!」 「勝者の特権だ。吸わせてもらっているのだよ。文字通り、精気をなっ!」 「させるかっ!」 身体が自然と動いた。いくら間抜けな負け方をしたといえども、シャインは自分の仲間である。彼女に代わって、自分が暗黒騎士の前に立つ。 その瞬間、一気に身体から力が抜けた。動揺して、膝がガクガクと震えてしまう。「なんて吸引力だ! シャインが負けたのも頷ける!?」 「ご名答。ワタシは切り結んだのではない。精の吸収を行ったのだよ」 「はぁはぁ……なるほどな? シャインは斬り合いで負けたわけじゃなかったのか。この卑怯者め!」 「なんとでも言うが良い。勝てば官軍なのだ!」 「その言葉、俺も好きだぜ? なあ、シャイン!」 「ああ、そうだな!」 「なん……だと!?」 暗黒騎士が目を白黒させていた。暗黒騎士から見れば、聖騎士シャインは動けないはずだった。だが、自分は暗黒騎士と聖騎士シャインの間に割って入った後、時間停止を行っていた。 その間、6秒。マジックバックから特性栄養ドリンクを取り出し、無理矢理、シャインに飲ませてやった。 時間稼ぎは十分だった。体力が回復したシャインが動く。両手で持っていた死神の大鎌を横薙ぎに振るう。 暗黒騎士の首が宙を舞う。それを目にしながら、こちらは膝をつく。「ナイス、シャイン」 「ああ。良い連携だった」 「へへ……俺たち、意外と相性いいのかもな?」 「そうだといいのだがな? 拙者はこう見えてもマゾなんだ」 「そりゃ初耳だ。褒めるんじゃなくて、罵声を浴びせりゃよかったな?」 視界が暗転していく。暗黒騎士のドレインタッチは強力の一言だった。とんでもない難敵だった。
暗黒騎士がこちらに向かって何かを投げてきた。ズサっという音と共に、こちらは震え上がることになった。「ゲイル! 生きてるのか!?」 「すみませぬ。たいした時間稼ぎも出来ませんでした」 「そんなことは良い! それよりも動かないでくれ」 血だるまと化したゲイルが苦しそうに呻いていた。ギリッと歯軋りする。暗黒騎士を睨みつけてやった。 暗黒騎士は「おっと……」とおどけてみせる。そして、口を開くなり、驚くべきことを言ってきた。「ここはチェンジしないと出られない部屋なのだ。だから、そこの初老の男を痛めつけた」 「なん……だと!?」 「察しが悪いようだ。外で待っている他の仲間とチェンジさせろ。これでわかっただろう?」 「ぐぬぬ! それで聖女とゲイルをチェンジさせろってのか!」 「そういうことだ! あーははっ!」 暗黒騎士の企みはわかった。そして、同時にこの部屋の仕掛けも判明する。ゲイルは大怪我を負っている。このまま放置しておいていいわけがない。 ゲイルと誰をチェンジさせようか悩んでいた。まごまごしていると、先に聖騎士シャインが動いてしまった。「ゲイルと大魔導士ミカをチェンジだー!」 「おまえっ! 仲間を売る気なのか!?」 「ヴィオは拙者の主だ。主は売れぬ。だが、大魔導士ミカは別だ」 「それ、ミカ本人に聞かれたら、殴られちゃうよ!?」 自分の場合、誰を選んでもあとでこっぴどく怒られる気がして、それで動けなかった。しかし、やはりというべきなのか、動けぬ自分に代わってシャインがしゃしゃり出てきやがった。 行動力ある無能はなんとやらという言葉がある。シャインがそうでないことを願うしかなかった。 ゲイルが音もなく、スゥーとこの場から消えていく。代わりに黒い扉を開けて、この場に大魔導士ミカがやってきた。ミカが扉を通り終わると同時に、扉はバーン! と音を立てて閉まることになる。「おお、シャイン。生きておったか。てか、なんて格好をしておる」 「拙者が聞きたいくらいだっ。気づけばスッポンポン。それ
ゲイルが威圧感を放つと同時に剣風をまき散らす。暗黒騎士は鞘から剣を抜き出すと、その剣風のことごとくを剣で打ち落とした。 達人同士の戦いだった。ごくり……と息を飲む。二人の戦いに下手に手を出せば、自分は細切れにされてしまうイメージが湧いた。 その場で一歩も動けなくなってしまう。ゲイルが逃げろと言ってくれたのに、どうしても足が動かない。 そんな自分を肩で担いでくれる人物がいた。「シャイン!? ゲイルは戦ってるんだぞ!」 「時間を稼いでくれているのだろう! ならば拙者たちが逃げなくてどうするっ」 「いつも正論ばっかりいいやがって!」 「アルトはなんでそんなに拙者に当たりが強いんだ」 「そういう正論ばっかり言うところが気にくわない」 「はっ。面白い。はっきり言ってくれるではないか。でも、降ろさないからな?」 聖騎士シャインに担がれたまま、この場を移動する。なんとも脳筋な彼女であった。右肩でこちらを担ぎ、左手には死神の大鎌を持っている。体力お化けすぎた。 もし、自分が女子だったら、シャインに惚れてしまっていたかもしれない。残念なことに自分は男だ。情けなくて涙が出そうになっている。 薄暗い空間をシャインと共に逃げた。しかし、どこまで行っても空間が広がっており、壁にまで辿りつける雰囲気もなかった。 シャインが一旦、ここで足を止める。担いでいたこちらを床に下ろす。彼女はぼりぼりと頭を掻きながら、きょろきょろと辺りを見回している。「アルト。出口の場所はわからないのか?」 「俺にそれを聞くか?」 「エスパーなのだろう?」 「そんなに便利な能力じゃないぜ?」 邪龍の神殿では透視能力を使って、シャインの居場所を探り当てた。だが、この空間は外から閉じられているのか、何も見えてこない。 ただただ空間が広がっている。特定の出口など存在しないような気がしてしまう。死神が言っていた言葉を思い出す。 ここは『祭壇』なのだと。誰のためかと言えば邪龍のためのものだ。生贄を収納しておく空間なのだろう。 自分たちは聖女
死神を撃退できた。十字架で磔にされているゲイルを助け出す。「まったく加勢できずに申し訳なかった」 「その分、シャインさんが働いてくれたから」 「おっと。目のやり場に困りますなぁ!?」 「ふん。この非常時に恰好など気にしていられるか」 聖騎士シャインはほぼ全裸だった。無事だったのはショーツだけである。破廉恥な聖騎士にこちらが困ってしまう。 シャインは男勝りな部分がある。さらに基本、男だらけの騎士生活のせいで、羞恥心がねじ曲がっている可能性が高い。「ほら。マントの替えがあるから、これで身体を隠してくれ」 マジックバックからもう1枚マントを取り出した。それをシャインに手渡す。シャインはバサッとマントを広げて、その身に装着してしまう。なんとも豪快な女だった。 シャインが隠すべきところを隠してくれたので、本題に移ることにした。死神を退治したが、この空間から抜け出せたわけではない。「どうやったら、元の場所へと戻れると思う?」 「う~~~む。もう1度、あの大きな手に捕まえられるとか?」 「いい線行ってる気がするけど、そもそもあの手はなんなんだ?」 「あれはマジックハンドだ」 「知ってるのか!? シャイン」 「ダンジョンから異物を強制的に排除するのが目的で生まれた魔法生物だ」 シャインはやけに詳しい。過去にもマジックハンドに囚われた経験がありそうだった。「大魔導士ミカは引き籠りだった。そして、彼女をパーティに誘うためにとあるダンジョンに潜ったのだが。そこで、マジックハンドに散々苦労させられたのだよ」 「ミカさん……何やってんの!?」 思わぬところで大魔導士ミカの真実がひとつ明らかになった。何かの時に役に立ちそうなネタなのでしっかりメモしておく。 シャインは次にマジックハンドの習性について説明してくれた。ある地点から、ある地点へと物体を運ぶ役割を担っている。そして、何かを運ぶとき、その運ぶものから魔力をいくらか吸い取っている。 マジックハンドが何かを捕まえるのは捕食の意味があった。だから、その習性を
とりあえず合わせて2万ゴリアテを手に入れた。女神が言うには日本円に換算して20万円だそうだ。身分がしがない高校生である自分にとっては大金に感じてしまう。「俺……20万円もリボ払いで返すって、人生詰んだんじゃないですかぁ!?」「安心して? たったの20万円だからっ。月々5000円+手数料で約40回払い。スマホ本体を48回払いするよりも簡単に返せちゃう!」「ははっ……俺、腹が減って思考能力が落ちてるせいか、20万円を天文学的数字に思っちまった。てか、スマホの48回払いって今更にとんでもないな!?」 スマホの話はさておき、女神から手に入れたお金で何か食べたい。こちらの気持ちを汲んでくれた
「さてと……そろそろ真面目な話をするわよ?」 女神がピシャリと場を整えてくれた。その身から威厳と神々しい光を溢れさせる。いよいよかと思われる瞬間がやってきた。 周りにいる貴族たちが姿勢を正す。聖女パーティの3人も女神に向かってひざまずく。自分はどうしたものかと考えていると、女神がこちらの両肩に両手を乗せてきた。「勇者アルト・キサラギが聖女の旅を助けてくれます。彼はハズレ職業のエスパーですが、それでもきっとたぶん聖女のためにその命を捧げてくれるでしょう!」 「……えっと、女神様」 「はい? なんでしょうか、勇者アルト・キサラギ」 「キャラクターシートでエスパーをお勧めしてくれてまし
如月有人は今の状況にうろたえるしかなかった。下半身丸出しで居て良い場所ではないことは一目瞭然だ。 貴族と思わしき人々の中でも、一番に目立ついかつい身体をしている壮年の男が真っ赤な顔で「おい、この不埒者が!」とこちらへと詰め寄ろうとしてきた。 ひっ! と情けない声をあげてしまう。しかし、そんな自分といかつい貴族の男の間に割って入ってくれる人物がいた。 その人物は女性だった。真っ白な身体をこれまた真っ白なローブで包んでいる。金髪碧眼縦ロール。彼女がニッコリとほほ笑む。 その笑顔だけで怒り顔の貴族の顔が破顔してしまった。何をしたのかと疑ってしまうレベルだった。「皆
「ボストンバッグ発見! 第1調査隊の如月有人、突貫します!」 高校1年生の如月有人は学校の帰り道、河川敷にポツンと置かれていた黒革のボストンバッグを発見した! 彼はお宝の匂いに敏感だ。きょろきょろと辺りを見回す。犬と一緒に散歩しているお爺ちゃん。運動不足を解消するために走っているジャージ姿の青年。 彼らはまったくこちらに気付く様子もない。しめしめと思いながら、ボストンバックのチャックを開く。「うひょぉ~♪ 俺が睨んだ通り、お宝の山だ! この湿り気具合。捨てたのは昨夜……っぽいな?」 有人はボストンバックの中身を吟味する。ざっと見た感じでは30冊はある。どれもこ







