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貴族と思わしき人々の中でも、一番に目立ついかつい身体をしている壮年の男が真っ赤な顔で「おい、この不埒者が!」とこちらへと詰め寄ろうとしてきた。
ひっ! と情けない声をあげてしまう。しかし、そんな自分といかつい貴族の男の間に割って入ってくれる人物がいた。
その人物は女性だった。真っ白な身体をこれまた真っ白なローブで包んでいる。金髪碧眼縦ロール。彼女がニッコリとほほ笑む。
その笑顔だけで怒り顔の貴族の顔が破顔してしまった。何をしたのかと疑ってしまうレベルだった。
「皆さんが困惑するのは致し方ありませんわ。でも、こんな形でも立派な勇者候補ですわよ!」
「にわかに信じられぬが……女神アテナ様がそうおっしゃるのならば」壮年の貴族が元の位置へと戻っていく。ホッと安堵するしかなかった。
(助かった……しかし、キレイな人だな)
"ふふ。キレイって思ってくれてありがとうね?"
(直接、脳内に語り掛けてきたーーー!?)
ビクッ! と身体を跳ね上がらせてしまうしかなかった。女神と呼ばれた女性がこちらへとウインクしてきた。
それだけで心臓がドキドキする。それに連動するように愚息がピクピクと反応したので、急いで両手で覆い隠す。
女神がこちらの様子を見て、意味ありげに「うふふ♪」と嬉しそうにしてくれる。そんな風にされては、こちらはますます過剰に愚息が反応してしまいそうになった。
女神がこちらから視線を外した。彼女はゆっくりと皆の顔を見る。見られている側はどうしたものかと思案に暮れる顔をしていた。
こちらはごくり……と息を飲むしかない。今、置かれている状況をまったくもって判断できなかった。
それを説明してくれるかのように女神が口を開く。
「この者はこの世に蔓延る悪の元凶、邪龍、邪神、魔王を討つ(予定)の勇者候補です。まあ……モノは粗末ですけど」
「粗末言うな!」 「じゃあ、稚魚?」 「もっとひどいわ!」こちらの様子を伺っている貴族っぽい男女たちがひそひそと耳打ちし合っていた。「本当に勇者なのか?」なら、まだマシなほうで、ひどい者になると「うちの今年で10歳になる息子の愚息のほうがよっぽど大きいですわ」だ。
自分がいったい何をしたのかと言いたくなってしまう。こちらも好きで下半身丸出しになっているわけではないのだ。
そうであるというのに女神がどんどん話を勝手に進めていく。女神の言うことが本当なのであれば、自分は何か禍々しい存在と戦うべく、こちらの世界に召喚されたらしい。
さらに邪龍の贄となろうとしていた聖女を助ける存在だとも言っている。こちらは渋面になるしかなかった。
「アルト・キサラギ。今から聖女とその仲間をこの場に招くわね? 心の準備はいい? とびきりの美少女よ!」
「……え? 俺、今、下半身丸出しなんですけどぉ!?」 「聖女のおなーりー!」 「待ってー! こっちの話を聞いてーーー!」女神アテナはこちらの言うことにまったく関心がないかのように振舞っている。彼女は右手に持つ錫杖を振り上げる。
それに合わせて、ホールの入り口と思わしき場所から3人の女性が歩いてやってくる。彼女たちは確かに美少女、美女、美魔女と文句のつけようのない女性たちであった。
聖女:ヴィオレッタ・フリューリンク。18歳。ストレートロングの銀髪。
聖女らしい清らかな服装をしているというのに、その美少女が台無しだと思えるほどのしかめっ面だ。彼女の表情をそうさせているのは下半身丸出しの自分である。
「あの……女神様。この人が勇者様なのですか?」
背筋が凍りそうなほどに冷たい声をしていた。しかし、それでも女神はニッコリと彼女に微笑んでいる。心臓に毛でもびっしり生えてんのか! とツッコミを入れたくて仕方がない。
「本当の本当よ! わたくしの用意したエントリーシートにばっちり記入してくれたもの!」
「……え。あれ、こっちの世界に来るための物だったんです?」 「うん! 他の人はうさんくさいって感じでこちらのSNSアカウントを即ブロックしてきたわっ!」 「なんで、俺、URLを踏んだだけじゃなくて、真面目にキャラクターシートに記入してたんだよぉ!?」あの時の自分をぶん殴ってやりたかった。こちらの世界にやってきたのは、自分があのキャラクターシートに記入してしまったのが原因だった。
しかも、そうした後、呑気に日課のオナニーをたっぷり堪能して寝てしまった。つくづくあの時の自分が愚かで仕方がなかった。
時間を巻き戻せるのならば、巻き戻してやりたくなってしまう。だが、今の自分は時間逆行のスキルを持っていないことは明白だ。
あのシート通りであれば、自分が持っているスキルは透視、透明化、時間停止の3つのみである。
今の窮地を脱するための方法を何一つ持っていない……。
続いて、聖騎士:シャイン・ゾンマーが紹介された。24歳。茶髪のポニーテール。固い意志を感じさせる茶色の目。引き締まっているであろう体つき。そうでありながら胸のサイズが凶器。所謂、スレンダー巨乳といったやつだ。
そんな身体を重装甲の鎧で覆いつくしている。こちらは彼女の体つきを透視能力でばっちり確認できている。
「……なにかいやらしい視線を感じるんだが?」
「いえ!? 立派な騎士様だなって!」 「……もし、いやらしい視線で拙者を見ているのであれば、その粗チン、この大剣で切り落としやるっ!」 「ひぃ! 女神様、助けて!」 「んもう! シャイン、そんな汚物を見るような目で睨んじゃダメ!」女神アテナが間に立ってくれた。ホッと安堵しつつ、女神の身体のラインを透視能力で確認しようとした。
しかし、さすがは女神だ。白いローブの向こう側が透けることはない。女神がこちらに振り向いてきて、「めっ!」と叱ってきた。
こちらはコリコリとこめかみを指で掻くしかない。
最後に大魔導士:ミカ・ヘルブストが紹介された。21歳(自称)。赤髪のおかっぱ。ワインレッドの瞳。聖騎士がスレンダー巨乳なら、こちらはマドンナ体型だ。黒いローブに身体を包み隠していても、そのプロポーションの素晴らしさに目を奪われてしまう。
その大魔導士にこちらは視線を合わせる。すると、頬をほんのりと紅潮させていた……。正直に言うと怖気が走った。
あちらは捕食する側。こちらは捕食される側だと雰囲気だけで察することができた……。
「おぬし……童貞かえ?」
「いひぃ! 食べないでください!」 「ふひひっ! 初物かっ! ど~~~れ。お姉様にそなたのモノを見せておくれやす」 「いやーーー! お嫁にいけなくなっちゃう!」 「んもう……ミカ。童貞ボーイをからかうのはそこまで♪」女神に助けてもらった。ホッと安堵するしかない。優しくお姉様に筆おろしされたい願望は持っていても、蹂躙される癖までは持ち合わせていないのだ、こちらは。
聖女パーティはヴィオレッタ・フリューリンク、シャイン・ゾンマー、ミカ・ヘルブストの3人だった。
その女性だけのパーティに自分が加入することになっているそうだ。
しかし、ヴィオレッタは顔をしかめっ面から元の端正な顔に戻そうとはしてくれない。
「あの……女神様。そろそろ履く物をもらえませんか?」
「ん? あっ! 忘れてた!」 「忘れてたじゃないでしょぉぉぉ!」 「粗末なそれ、隠すほどのものじゃないかなーって☆彡」 「粗末言うな! これから成長するんだよ!」女神がこちらをおちょくるのを止めようとはしなかった。ぐっ! と悔しそうに唸るしかない。
女神が満足したのか、ようやくパンツとズボンを召喚してくれた。元の世界で履いていた制服のズボンだった。ご丁寧に制服のジャケットも手渡してくれる。
その場で急いでパンツとズボンを履く。白いシャツの上から紺色のジャケットを羽織る。ようやく、これでいつも学校に通っている時の恰好となった。
それに合わせて、聖騎士シャインが「ほう……」と意味ありげに声を漏らしている。
「小僧。お前はどこぞの良いところのボンボンなのか?」
「いや……学校に普通に着ていく制服だけど?」 「機能美を備えつつ、それでいて気品も漂わせる格好だ。あまり失礼な態度をとってはいけない身分に感じてしまうな」向こうが勝手に勘違いしてくれている。ならば、こちらはあちらの考えに合わせておけば良さそうだ。
この制服姿の自分を見たウチの婆ちゃんからは馬子にも衣装と呼ばれた。失礼な婆ちゃんだが、聖騎士シャインから見ても、それなりの身分の者に見えるのだろう。
肝心なのはそこだ。彼女たちからすれば、自分は異邦人である。初対面で怪しまれはしたが、学校の制服のおかげでなんとか面子を保てている。
しかし……こちらがフルチンだったことをぶり返す人物がこの場にいやがった。聖女ヴィオレッタがひそひそと隣に立つ大魔導士ミカに耳打ちしている。
「えっと……殿方のおちん……ちんを初めて見たんですけど、あれくらいが普通サイズなんです?」
(聖女様。聞こえています。やめてください)
「カカカ! アレが普通とか言ったら、世の中の90%の男が怒りくるうわい!」
(大魔導士様。俺のってそんなに小さいんです!?)
「あっ……そうなんですね。ホッとしたような」
(聖女様。ホッとしないでください! これはまだ本気状態じゃありません!)
「衆目の前じゃて。縮こまっている可能性も否定できん」
(ナイスフォローです! 大魔導士様!)
「へっ!? じゃあ、もっと大きくもなるんです!?」
「試しにわっちが魔法で大きくしてやろうかえ?」 「大きくさせなくていいですぅ! おまわりさんを呼ばれちゃいます!」たまらず大魔導士を止める。聖女パーティとの初対面は最悪の一言だった……。
自分たちは襲撃に会いながらも、どうにか城門にまでやってくる。城門を守る衛兵がこちらに槍の穂先を向けてきた。「何の用でこの城にやってきた」 どこまでも冷たい声だった。こちらを邪魔者としか感じていない。そんな雰囲気を発していやがった。 ムカッとしたのでその怒りをそのまま声に乗せそうになった。だが、口から言葉が飛び出す前にリリーがこちらの手を引っ張ってきた。「ダメですぅ。喧嘩を売りにきましたけど、買いにきたわけじゃないのですぅ」 「ハハッ。リリーは上手いことを言いやがる。そうだった。俺たちはカチコミにやってきたんだったな」 さすがはリリーである。こちらの手綱をしっかりと握ってくれている。心が軽くなった。衛兵とのやり取りをトラブルメーカーの聖女ヴィオレッタに任せることにした。「この城のどこかに私の従者が囚われているってのは知っているの。白状しなさいっ」 「おいっ。何をおかしなことを言ってやがる。そもそも、お前は誰なんだ」 「私? 私は聖女ヴィオレッタ様よっ!」 「そんな……バカな!?」 衛兵がおおいに戸惑っている。彼はただの衛兵だ。情報を処理しきれなくなっていた。こちらはニヤニヤと悪い顔になっていた。 衛兵の事情など、お構いなしにずけずけと用件を伝えてこいと命じる聖女であった。衛兵は「グヌヌ……」と唸っている。 衛兵は門を守る仕事を忠実にこなすか、それとも伝令役になるかの二択を迫られていた。しばらく聖女とやりとりをしていたかと思えば、急にあちらが折れることになった。「わかったわかった。上に伝えてくる。だが……その結果がどうなろうが俺の知ったことじゃない」 「気にしなくてもいいわ。モブはさっさと引っ込んでね。話が進まないもの」 「ぐぬー――! 言わせておけばっ!」 さすがはトラブルメーカーの聖女である。ついに堪忍袋の緒が切れたのか、衛兵は聖女に向かって槍の穂先を突き付けてきた。 だが、その槍の中ほどを手で掴んで止めた男が出てきた。その男はもちろん、頼もしい我らがゲイルである。「淑女に失礼だぞ。
盗賊に襲撃されてから三時間後、王都の入り口の門が夕日に照らされて見えてきた。自分たちはようやく王都の門の前に立つことになる。 一気に王城まで行きたいところだったが、夕暮れに差し掛かっている。「どうする?」 大魔導士ミカの方に顔を向けて、そう聞いてみた。大魔導士はコクリと頷き、こちらに返答してくる。「今から王都で宿屋を探すくらいなら、王城で寝泊まりさせてもらいましょうぞ」 「あくまでもイケイケでいいわけだな? 後悔はないんだな?」 「時間をかければかけるほど、聖騎士シャインの立場が危うくなりますゆえ」 「わかった。皆、このまま王城へかちこみだ!」 大魔導士の指示に従い、王都内を馬車で突っ切る。さすがは王都だ。どこに行っても、人だらけである。人の波が途切れることが無い。 リリーがこちらの腕に手を回してきた。彼女は心細さを感じているのかもしれない。回された手にこちらも手を添える。「リリーは必ず俺が守るから」 「はいっ。期待しているのですぅ」 「あらあら、お熱いこと! アルト、私たちも守ってね!」 「ヴィオさん? からかうところじゃないと思いますよ」 「超真面目に言ってるんだけどにゃぁ?」 ぷいっと聖女ヴィオレッタから視線を外す。そうした瞬間、嫌な予感がした。自分が動く前にギルド長のゲイルが動いた。彼は腰に佩いた剣を素早く抜刀する。 カキーンカキーンという甲高い音が聞こえた。さすがのゲイルである。四方八方から飛んできた矢を剣で叩き落してくれた。馬車の幌がゲイルの剣裁きによって四散する。「サンキュ。ゲイル」 「アルト殿も気づいておられたご様子。お節介でしたかな?」 「いいや。何かが来るとは感じたけど、迎撃体勢にまでは移れなかった。さすがはゲイルだよ」 「ふっ。これはご謙遜を」 ゲイルはこちらの実力を過大評価しすぎている。今の襲撃に対応できたのはゲイルがいてくれたおかげである。これは嘘偽りのない自分の評価だった。 だが、ゲイルはこちらと視線を合わす前に次の行動へと出た。馬車の荷台の後
国王側にこちらの動きは筒抜けのようであった。やれやれ……と肩をすくめるしかない。冒険者ギルドの内部をキレイに掃除したつもりであった、しかし急激な改革は反対者を生む。これは身から出た錆でもあった。裏切者を炙り出すのは後にして、まずはじっくりと捕らえた盗賊から情報を引き出した。盗賊たちは協力的で、聞いてないこともべらべらと喋ってくれる。なんとも可愛げのある連中だ。「じゃあ、縛ってその辺に転がしておけ」 「こんなところに放置されたら熊に襲われちまうよー!」 「じゃあ、やっぱり撫で斬りにしてやろうか?」 「ひぃーーー! 繩だけでお願いしまーす!」繩でがんじがらめにした盗賊たちをその場に残して、自分たちは馬車に乗り込む。リリーが何か言わんとしていたが、こちらは先んじて、リリーのご機嫌を取る行動に出た。「別に殺すつもりでやってるわけじゃないから」 「むぅ……襲ってきたあちらが悪いのわかるんですけどぉ」 「リリーは優しいなあ。でも、その優しさを俺以外に向けると、俺が焼きもちを焼いちゃいそうになる」 「んもう。アルトさんったら」リリーが頬を赤らめて、俯いてしまう。周りはニヤニヤとしぱなしであった。リリーのご機嫌も取れたということで、馬車が出発する。向かうは王都だ。あと3時間程度で着く予定である。その3時間を使って、こちらも王都に乗り込んだ際にどう動くかを話し合う。先に口を開いたのは大魔導士ミカだった。彼女は軍師らしく、自分たちがどう動くべきなのかを示してくれた。「王都内ではなるべく固まって動きますように。こちらが人質作戦を取ることもバレていると考えた方がいいかと」 「俺たち5人でしか、話してない内容だぜ!? それはおかしくない?」 「壁に耳あり、ジョージにメアリーという言葉があります。ギルド長室といえども安全とは限らないかと」 「なるほどなぁ~。俺、もしかして冒険者ギルドの職員に甘く見られてるぅ?」 「甘くは見られていないじゃろうて。むしろ毛嫌いされているかもしれぬのう」 「そっちのほうが悲しくなっちゃう。俺、キレイな冒険者ギ
聖騎士シャインを取り戻すための策は決まった。ならば、次にするべきことは王都に行くことである。 王都は今滞在している街から西に馬車で三日ほど行ったところにある。善は急げとばかりに皆が動き出す。 駅馬車に向かい、そこで王都行きの乗合馬車に乗り込んだ。荷台に8人が乗り込めるほどのビッグサイズである。「8人乗りの乗合馬車を貸し切りって、ほんとアルトはお金持ちね」 聖女から軽く嫌味を言われた。しかしながら、気にもしない体で言い返す。「そりゃ腐っても冒険者ギルドのオーナーだからね」 「そんなにお金が余ってるなら、私に無条件でお金を貸してくれればよかったのに」 「そりゃ御免被る。俺は聖女様に追放されたことを未だに恨んでいるからね」 「器の小さい男で困るわ」 嫌味には嫌味で返す。醜い争いが馬車の上で展開されていた。隣に座るギルド長のゲイルがヤレヤレ……と肩をすくめていた。 ゲイルの気持ちはわからないでもない。聖騎士シャインを助けにいく仲間だというのに仲違いしてどうすると言いたげな仕草を取っている。 ゲイルはさすが大人であった。水筒を取り出し、キャップを外す。そのキャップを湯呑みにして、中身を注ぐ。それを聖女の方へと手渡すのであった。「あーーー。うちのオーナーがお子ちゃまで済まない。仲直りの印として、この杯を受け取ってくれないかな」 「くんくん。なんかアルコールっぽい匂い」 「身体を温める用に常備している酒だ」 「もらってもいいの?」 「もちろん」 今の季節は陽気な春だ。だとしても、吹く風はどこか肌寒さを感じる。そこで酒を取り出したゲイルであった。聖女は聖女らしい微笑みを顔に浮かべつつ、コクコクと湯呑み代わりのキャップに注がれた液体を飲み干すのであった。 ほんのりと聖女の頬が赤くなっている。どきりと鼓動が跳ね上がる。いかんいかんと思いながら、頭を軽く振る。(ったく、さすが聖女様だ。いちいち画になりやがる。うっかりしてると、惚れそうになっちまう。リリーに申し訳が立たなくなるわ) お酒が入って上機嫌になった
ゲイルが魅力的な話をしているが、却下しておく。現国王がどうであれ、自分には関係ないと思いたい。 第一優先は囚われの身となっている聖騎士シャインを助け出すこと。国王の件は二の次だ。ここで軍師役の大魔導士ミカに意見を聞く。 ミカはくせ毛をいじりながら、さも面倒くさそうにこちらと受け答えしていた。ムムム……と唸るしかなかった。「そんなに俺が国王排除を却下したのが気に入らねえのか!」 「あちきはまず最善策を示しましたのじゃ。それを却下しておいて、一粒で二度美味しい策を出せと言われましても?」 「でも、大魔導士と呼ばれるほどのミカなら、策は出せるんだよね?」 「はい、出せます。出したくないだけなので」 「グヌヌ……見返りに欲しいものなんだ?」 「ブランド物のバッグですなぁ」 「もってけ泥棒!」 大魔導士ミカのやる気を削いだのは他でもない自分だった。本来なら、カノジョ以外の女性にプレゼントを贈りたくない。だが、背に腹は替えられない。 さすが大魔導士。ポンコツで粗忽な聖女とは違う。しっかりと念書を書かされた。念書を懐にしまった大魔導士ミカは「こほん……」と小さく咳払いをする。「では策を示そうぞ。国王様は末っ子の第3王子に激アマじゃ。だから、それでいいのかと叱り飛ばす」 「それ、俺たちが斬首されませんかね」 「凡といっても愚ではない。丁寧に言葉を重ねれば、きっと聞き入れてくれるであろう。ただし、この策にはひとつ欠陥がある」 「どんな欠陥が?」 「第3王子は愚だということじゃ」 「なるほど? 国王様はまだまともだけど、第3王子が暴れたら、策が通じないってことね」 「さすがアルト殿。理解が早くて助かる」 「じゃあ、その策、却下で」 「なんじゃとーーー!?」 大魔導士が狼狽していた。こちらとしてはもっと良い策をひねりだしてほしい。ブランド物のバッグに見合うだけの策が欲しいのだ。 今度は大魔導士ミカのほうが「グヌヌ……」と唸り始めた。親指の爪を噛みつつ、なんとか策をひねり出そうとしていることが伺い知れた。
§ 聖女パーティと和解してから、1週間が過ぎようとしていた。資金難から回復した聖女たちは意気揚々と邪龍退治のための準備を進めてくれている。 冒険者ギルドのオーナーとなっている自分は邪龍の生態調査を冒険者にクエストとして発布した。 全てが正しく回ろうとしていた。そんな矢先に聖女パーティがトラブルを抱えて、こちらに泣きついてきやがった。「……えっと、今度はどんな事件ですかね?」 「そんな冷たい目しなくていいじゃない! 今回は私が発端じゃなくてよ!?」 一応、トラブルメーカーという自覚はありそうだ。裸踊りの罰を与えそうになったが辞めておく。事情をまずは聞くべきだと感じたからだ。 みんなでギルド長室へと集まる。リリーがお茶を出してくれた。右手に聖女ヴィオレッタ、正面に大魔導士ミカ、左手にギルド長のゲイルが座る。四角いテーブルを挟んで、各々が情報交換を始めるのであった。「でね? 最初に言っておくけど、今回、私が悪いわけじゃないんだからねっ!」 「はいはい、わかりました。本題に移ってください」 「んもう。信じてないのね。私って本当に不幸」 「ですから、本題どうぞ」 「あーあー。これが白馬の王子様だったら、私のことをかばってくれるっていうのに」 「……裸踊りの刑」 「ひいいい! 話します、話しますから!」 前置きが長すぎて困ってしまう。給仕係となっているリリーが「あはは……」と苦笑いしている。彼女が置いてくれたお茶に手を付ける。ずずず……とお茶を飲んでいると聖女ヴィオレッタがとんでもないことを言いだした。 思わず、お茶を噴き出してしまうことになった。噴き出したお茶は正面の大魔導士ミカの方へ飛んでいく。だが、彼女は素早く魔法陣を展開し、マジックバリアを展開し、お茶を防いでしまう。「ばっちいわね!」 「うるせえ! ヴィオさんがとんでもないことを言ったからだろ!」 「そうよ! まさか王子様から求婚されるなんて思わなかったわよ!」 基本的に聖女は忙しい。邪龍討伐の準備のために各方面から支援をもらってこなければならない。あ
赤、ピンク、紫といったいかがわしいネオンが眩しいデカすぎる建物の前に自分は立っていた。さらにこの建物がカジノであることがこれまたデカすぎる看板で示されていた。 正直、怖気付いてしまいそうになる。女神に自分はダメンズではないことを証明しようとして、ひとりでカジノの前までやってきた。「当
この世界で一番手っ取り早く稼げる方法。それはどこの世界でも変わらないようだった。女神が妖艶な笑みを浮かべる。「カジノで荒稼ぎするのよ」 「犯罪じゃないですよね!?」 「バレなければね」 「女神ぃぃぃっ!?」 バレなければ犯罪じゃない。なんとも甘美な言葉だった。またしても女神はこちらを堕落させようとしてくる。(この女神様。ダメンズ製造機なのでは?) 目の前で踏ん反り返っている女神に対して、こちらはおどおどと情けない姿を晒してしまっている。 確かに金を稼ぐ方法を聞いたのは自分だ。今
とりあえず合わせて2万ゴリアテを手に入れた。女神が言うには日本円に換算して20万円だそうだ。身分がしがない高校生である自分にとっては大金に感じてしまう。「俺……20万円もリボ払いで返すって、人生詰んだんじゃないですかぁ!?」「安心して? たったの20万円だからっ。月々5000円+手数料で約40回払い。スマホ本体を48回払いするよりも簡単に返せちゃう!」「ははっ……俺、腹が減って思考能力が落ちてるせいか、20万円を天文学的数字に思っちまった。てか、スマホの48回払いって今更にとんでもないな!?」 スマホの話はさておき、女神から手に入れたお金で何か食べたい。こちらの気持ちを汲んでくれた
「さてと……そろそろ真面目な話をするわよ?」 女神がピシャリと場を整えてくれた。その身から威厳と神々しい光を溢れさせる。いよいよかと思われる瞬間がやってきた。 周りにいる貴族たちが姿勢を正す。聖女パーティの3人も女神に向かってひざまずく。自分はどうしたものかと考えていると、女神がこちらの両肩に両手を乗せてきた。「勇者アルト・キサラギが聖女の旅を助けてくれます。彼はハズレ職業のエスパーですが、それでもきっとたぶん聖女のためにその命を捧げてくれるでしょう!」 「……えっと、女神様」 「はい? なんでしょうか、勇者アルト・キサラギ」 「キャラクターシートでエスパーをお勧めしてくれてまし







