LOGIN「ルエル?」
理性が止まれと訴える。
「ルエルと言ったか?」
理性が戻れと警鐘を鳴らす。
「それはこの国の宰相の……」
しかし感情が、本能が、止まることを許してくれなくて。
「ルエル・レオ・ナヴィスタスの事か?」
目の前が真っ赤に染まったと錯覚する程に、憎悪の炎がレイを突き動かしていた。
「なんだぁ?このガキ。ルエル様だろうが。何呼び捨てにしてやがんだ」
そんなレイにベルリは吐き捨てる様に言う。「ですがこの女、結構上玉ですぜベルリ様!捕らえて売ればいい金になりそうじゃないですか?」
「よく考えろザギ。こんな所に1人な訳ねぇだろ。どっかに仲間が隠れてるに違ぇねぇ」 「ならよダル?その仲間も一緒に売っぱらっちまえば更に儲けもんじゃねぇか?」ザギとダル、そう呼び合っていた取り巻き2人が話しているが、レイの耳には届かない。
「答えろ。ルエルとは10年前エレナート王国を滅ぼした男か?」その問に少し考えた後、ようやく思い出したという風にベルリが声を上げた。
「お前、もしかしてエレナートの生き残りか?確かに噂では姫は2人居るって話だったが……捕らえた王妃も姫の片割れも、そんな奴は居ないの一点張りで有耶無耶になったんだっけ?やっぱり居たのかよ」その言葉にやはりあの時一緒に居た男だと確信し、剣に手を伸ばすレイ。
そんな様子に気付かずベルリは続ける。 「しかしあの時のルエル様は凄かったよなぁ!?俺は傍に付いてるだけで何もせずに終わっちまったのが残念だったが、たったお1人で国を滅ぼしちまった!改めてあの人の強さに感服したってもんよ!」もうコイツの言葉を聞き続けるのも我慢の限界だった。
しかし最後に聞いておかなければならない事がある。 さっき捕らえたと言っていた2人、その2人は…… 「お母様と妹はどこにいる?」そう問われ、ベルリは下卑た笑みを浮かべ、こう答えた。
「ウチらの軍の慰み者にしてやったよ。んで壊れたから捨てた。壊れた玩具は要らねぇからな?」その答えに、レイの理性は、完全に。
消えた。「貴様ァァァァァァァ!」
剣を引き抜き、ただがむしゃらにベルリへと突っ込むレイ。それに焦ることも無くベルリは反応する。
「ザギ!ダル!」 「へい!」 「了解!」その声に、2人は即座に魔法を展開し始める。
レイはそんな2人を見向きもせずにまっすぐベルリを見据えて、そして剣を突き刺した。 しかし。「残念ハズレ〜」
確実に心臓を突き刺したと思われた剣は、ベルリの体をすり抜けていた。 完全に無防備なレイ。 その状態を見逃す筈も無く、ベルリはレイの腹に鋭い蹴りを入れる。「がはっ!」
モロに食らってしまい、受け身も取れず数メートル吹き飛ばされるレイ。 激痛と嘔吐感に耐えながら立ち上がろうとするレイに、ダルの魔法が襲いかかる。 「俺達を無視してもらっちゃあ困るぜ!」絶え間なく襲い来る炎の塊を避けながら、合間を縫ってベルリに接近するレイ。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
今度こそ切り裂いたと思われた剣は、またしてもベルリの体をすり抜ける。 「まだだ!」 何度も煌めく剣閃。 常人なら反応すら出来無いであろうその剣はしかし、ベルリをすり抜けるだけで一度も手応えを返してくれない。「
その声は自分の後ろから響いてきた。
驚き、咄嗟に後ろを振り向いた時、目の前には炎弾が迫っていた。「ああああああああ!」
衝撃にまたしても吹き飛ばされるレイ。
咄嗟に顔面をガードしたが、全身焼けるように痛く、実際多数の火傷を負っていた。「殺す!殺してやる!」
それでも尚立ち上がろうとするレイを見て、ベルリはその言葉に、レイはフラフラになりながら立ち上がり答える。
「お前相手、私1人で十分だ!私の復讐は私だけの物!誰にも渡すものか!」 「ハッ!言う事だけは立派だが、てめぇはただの雑魚だ!俺様には到底敵わねぇ!無駄な復讐人生だったな!」無駄なものか。
この心には、散っていった王国の者達の想いが込められている。 その想いを、私の復讐を、これまでの人生を。 「笑うなぁぁぁぁ!」あまりにも無謀な突撃をしようとするレイの脳内に、ニイルの声が響いた。
(レイ。聞こえますか) その声にハッとし、動きを止めるレイ。 ベルリ達はその様子に訝しみ、動き出す事が出来ない。(レイ、私の予想通り危険な状況にある様ですね)
(何これ?幻聴?) (幻聴ではありません。魔法で脳内に直接語りかけているのです。詳しくは後で話しますが、とりあえず今は落ち着きなさい。こちらにまで殺意の感情が流れて来てうるさいんですよ)そんな事を言われても、と一瞬思ったレイにニイルは更に追い打ちをかける。
(そんな事じゃありません。冷静じゃ無いからそんな脳内ダダ漏れ状態なんですよ。良いから落ち着きなさい馬鹿弟子。それでは勝てる相手にも勝てませんよ) そんな相変わらず厳しい言葉を投げかけられ、次第に冷静になっていくレイ。(良いですか?冷静になって戦えば、あなたは強いのです。誰が教えたと思っているんです?私の顔に泥を塗らないでいただきたい)
少し反省しつつも、そこまで言わなくてもと思うレイ。 (やかましい。これ以上師匠に恥をかかせる戦いはしないでください。大丈夫、貴女はこのバケモノの弟子なんですから)その言葉を最後に、ニイルの声は聞こえなくなった。
全く、あそこまで言われるなんて恥ずかしいにも程がある。 完全に冷静になったレイは一旦目を瞑り、深く深く、深呼吸した。 全身が痛い、息をするのさえ辛い、でも生きている。 ならば。「悪いわね、冷静さを欠いていたわ。では始めましょう、本当の戦いを」
その言葉に様子を伺っていたベルリ達は、一瞬惚けた後笑いだした。
「何言ってんだお前?勝敗は明白だろうが!ケダモノみてぇに突っ込むしか能のないガキが!そんなボロボロの状態で何が出来る!?」確かに、さっきまではケダモノだったのだろう。
正しく本能に従うだけのケダモノ。 人間に狩られて当然の存在。 でも、今は違う。 一喝されて目が覚めた。 真っ赤に染まっていた視界も、今はとても鮮明に見える。 そう、今の私は。 「バケモノの弟子よ」そう言い、脳内に一瞬で治癒魔法の魔法陣を作り上げる。
途端、体の傷が癒え痛みも無くなっていく。「略式!?」
「ベルリ様!アイツ高等魔法師ですよ!?しかも治癒魔法の略式なんてかなりハイレベルの!」その様子に狼狽える3人を尻目に、レイは更に脳内で魔法を構築する。
「強化魔法『通常身体強化に重ね掛けは出来ない。
しかし魔法陣について深く理解していれば、この様に効果の書き換えが可能となる。 つまり今のレイは先程よりも…… 「これで3倍よ」一瞬で距離を詰めたレイ。
流石に先程迄と段違いのスピードで接近されては、ベルリ達も反応が出来なかった。 一刀の元に、ベルリではなくダルを切り捨てるレイ。「まずはさっきの傷のお返し。これで邪魔な横槍も残り1人ね」
剣に付いた血糊を振り落とし、真っ直ぐにベルリを見据えるレイ。「さ、さっき迄と速さが段違いだ……なんなんすかあの魔法!」
「舐めんじゃねぇ!速くたって当たらなきゃ意味ねぇんだ!狼狽えんな!」 明らかに同様しているザギを一喝し、腰の剣を抜くベルリ。 「幻影騎士と謳われた俺にはどんな攻撃も防御も通じねぇ!それにてめぇの速さは見切ったぜ!もう俺に通じねぇよ!強化魔法!」そう言って今度はベルリが自信に強化魔法を施し、襲い掛かって来る。
いくら強化した身体能力だろうと、ランシュの動きには到底及ばない。
ランシュとの模擬戦の中で慣れたレイはベルリの剣筋を見抜く。 それを剣で防ごうとした時、ベルリの剣が自身の剣をすり抜けた。「……ッ!」
咄嗟に、強化した身体能力で強引に回避するが、左肩を浅く斬られてしまう。「これが幻影騎士と呼ばれる所以だ!てめぇはこのまま何も出来ず死んでいくのさ!」
そんな挑発に耳を傾けず、冷静に状況を見ながら攻撃に転ずるレイ。 しかし、レイの剣は先程迄と同じ様にベルリをすり抜けるばかりで、一向に傷を与える事が出来ない。 更に向こうの攻撃は防御をすり抜け、レイに傷を増やしていく。このままではジリ貧になると考え、レイは後ろに大きく飛び、距離を置いた。
「どうしたどうした!?逃げ回るばかりじゃねぇか!さっきの威勢の良さはどこ行った!?」
明らかにこちらが有利だと確信しているベルリが、挑発を口にする。そんな様子すらも観察し、この状況を打破すべくレイは魔法を構築した。
生み出された雷撃はしかし、ベルリにも隣のザジにも当たること無くすり抜けていく。 その様子を見てレイは呟いた。 「幻影騎士、ね……意外とチャチな手品だわ。じゃあこれならどう?装填魔法!」瞬間ベルリの隣に居たはずのザジが消え、その後落雷の様な音が鳴る。
それと同時にベルリの後ろで何かがぶつかる衝撃音が響いた。後ろを振り向いてみると、全身蒼白く輝くレイが刺突の構えを取っており、その奥では胸に穴の空いたザジが壁に叩きつけられていた。
「『
レイの奥義、装填魔法『雷装』である。
以前説明した通り、『雷装』は負荷に耐えられるよう改良し、30%の出力でなら実戦でも使用可能となった。 しかし、一瞬だけなら100%で使用しても、先程迄の幻影はザジが行使していた物だと見抜いたレイは、幻影を纏っていても避けられないスピードで貫くという戦法に出た。
所詮は幻、実体は見えないだけでちゃんと在る。 ならば対処は簡単。 「避けられない程速ければ問題無いわね。今の私は最初の時よりざっと5倍速いわよ。これでもう勝ち目は無いわ」剣を突きつけ勝利宣言をするレイ。
これで心が折れてくれれば良いのだが。「舐めるなぁぁぁぁ!」
レイの希望を裏切り、ベルリは向かってきた。 しかも幻影は未だ健在ときている。 「魔力を節約していただけで、俺の方が遥かに上手く幻影を見せれるんだよ!」 「チッ!」強化魔法を解除し、『雷装』の出力を30%に迄下げて対応するがしかし、実の所レイはかなり追い込まれていた。
何故なら先程ベルリが言った通り、幻影の質が格段に上がっているから。 今は何とか『雷装』で対応出来ているが、強化魔法だけでは対応し切れない。 しかし、『雷装』を維持し続ける事は常に多大な魔力を消費するという事。 最初の治癒魔法と強化魔法、更に100%の雷装で魔力が少ない今、雷装を維持出来るのは、もって2分が限界だった。「一気に片を付ける!」
ベルリはレイの攻撃にほとんど対応出来ない。 対してレイはギリギリではあるが回避する事が出来る。 徐々に傷が増し、動きが鈍くなるベルリ。 遂に、レイはベルリの脇腹を深く切り裂く事に成功した。 幻影によって、すんでのところで致命傷は回避したが傷は浅くない。同じく追い詰められたベルリは、幻影で一気に距離を離し吼えた。
「ここまで追い詰められたのは久しぶりだぜ!お前を強者と認め、全身全霊で殺してやる!」その様子に、奥の手を隠していたであろう事を察し、一気に仕留めにかかるレイ。
しかし一足遅く。「『
絶望への扉が。
「『
開かれてしまった。
「『幻想神種』?」 聞き慣れない言葉に思わず聞き返すレイ。 それはどうやら『幻想種』を知っていたディードも同じの様で、疑問符を浮かべニイルに視線を送る。 その2人の問に応える様に、ニイルは語り出した。「以前説明した通り、『幻想種』とは神の力を得た魔獣ですが、ごく稀に『幻想種』以上の力を得た者や、神から産み出された魔獣が存在します。それらは『幻想種』とは一線を画す程の力を持っている為『幻想種』の上位存在、『幻想神種』へと成ります」『原初の海獣』へと厳しい視線を送りながら、ニイルは尚も続ける。「特に目の前のケートスは空の『龍』、地の『巨人』と並び称される程で、神に代わり海を支配する為に産み落とされた存在です」 その言葉に息を飲む2人。 ただの死骸でさえ圧倒的な存在感を放っていた『幻想種』、それの上位存在が居るという事実に驚きを隠せない。 しかし続く言葉に更に驚愕する事になる。「その力は絶大で、相性にもよるでしょうが『神性保持者』が複数人で相手取り、ようやく互角に持ち越せるレベルでしょう」「嘘!?」 ニイルの言葉に思わずケートスを見るレイ。 未だにレイは、全力の『神性保持者』達と戦った事が無い。 それにも関わらず、自分よりも格上だと分かる程の圧倒的な力を持っていた。 そんな存在相手に、複数人でようやく互角という事実に恐怖すら覚えそうになる。 しかし、ディードはその言葉に何故か納得したかの様に言う。「なるほどな。確かにアレの放つ重圧は尋常じゃねぇ。……アイツと同じでな」 最後の呟きが気にはなったレイだったが、それを意識する余裕は無い。 ディードの言う様にケートスから放たれる威圧感に、下手をすれば意識を持っていかれそうになるのを必死に堪えている為。 そして1番の理由が、どんな時も余裕の態度を崩さないニイルが、かなりの緊張感
ニイルの声に反応出来た者がどれだけ居ただろうか。 レイやディード、その他数人の獣人族は反応し海に飛び込むが大半の者達、特に先程の戦いで怪我を負い治療中だった者達などが取り残されしまった。 彼らを巻き込み沈み行く船。 無事だった者達も何が起こったか理解出来ず、思考停止に陥りそうになった時、2人の叫び声が意識を現実へと引き戻す。「魚人族!沈んだヤツらの救助!残りのヤツらはそれを援護しこの場を離脱しろ!」「レイ!全力戦闘!」 ディードとニイルの叫びにいち早く反応し、全ての力を解放するレイ。 それに1拍遅れ、亜人達がそれぞれ行動を始める。 鳥人族以外の全員が海へと落ち、レイも水中行動が出来る様に魔法を展開しながら周囲を見回……「レイ!下です!」「くっ!?」 ……そうとしてニイルの警告に咄嗟に障壁を展開。 その瞬間障壁が破壊され、衝撃で水上へと弾き出される。「レイ!クソ!」 それを心配する余裕すら与えず、ニイルにも下から巨大な水刃が襲い掛かる。 その大きさはニイルの身長を優に超え、更に速度は魔鮫の比では無い程に速い。 故にその破壊力は凄まじいものがあり、レイはそれに耐えられず弾かれてしまったのだろう。 ニイルも間一髪避ける事に成功するが、更に次々と水刃が迫る。 連射速度も魔鮫とは比べるべくもない。 そんな斬撃の雨が下から襲い掛かって来ていた。「舐め、るなぁ!」 その全てを『神威賦与』にて解析、ニイルに当たる直前で全て吹き飛ばす。 そのまま水刃が迫って来た方向へ向けて、大量の氷魔法を撃ち込んだ。 更にその隙にニイルは他の者が巻き込まれない様、船から移動する。「んだこりゃ!一体何が起きてる!?」 大量に魔法を撃ち込んだお陰か。 一時的に攻撃が止み、
レイ達の目の前に現れた巨大な死骸。 その有り得ない大きさに誰もが目を疑うが、しかしその物体から放たれる強烈な腐臭が、これが現実だという事を示してくる。「この強烈な臭い……これが原因か」「確かに、この大きさなら納得ね」 流石にこの距離では『柒翼』といえど辛いものが有るのだろう。 表情を歪めながら呟くディードに同意を示すレイ。 しかし半ば上の空で同意しただけで、目の前の現実を受け入れられた訳では無い。 何せ目の前の存在が、今乗っている船とほぼ同じか下手をすればそれ以上の大きさなのだ。 レイ達が乗っている船は決して小さくは無い。 寧ろ30人以上が乗船して尚余裕が有り、この国の頭首が乗るに相応しい物だった。 それと同等の大きさの生物など、レイは見た事も無かった。 そう、現実では。「本当に、御伽噺に出て来る怪物の様な大きさね」 思わずそう呟くレイ。 それは他の乗員も同じ様で、2人を除いてほとんどの者が強烈な腐臭も忘れ、目の前の存在を呆然と眺めていた。「多種多様な生物が存在すると言っても、これ程の大きさを誇る生物は『幻想種』以外存在しないでしょう。もちろん全ての『幻想種』が大きい訳ではありませんが、これでもまだ『幻想種』の中では普通のサイズです」「これで普通か……俺の知ってる『幻想種』はこれ程デカくは無ぇが、だが存在感は確かに共通するところが有るな」 その例外であるニイルとディードがそう語る。 確かにディードの言う通り、体が大きいだけでは説明がつかない何かを、レイは感じていた。 確かに異様では有るのだが、それだけでは無いモノを感じる。(これは……そう。『神性付与保持者』に出会った時の様な……) そう思い立ち、『神威賦与』で解析を試みる
「ぐっ……!」 全開で発動した力が、目の前の事象全ての情報を映し出す。 そのあまりにも膨大な情報量に激しい頭痛を覚え、思わず声が漏れてしまうレイ。 それはどうやらニイルも同じの様で、微かに響いた苦悶の声がレイの耳へと届いた。 まずは自身の周囲に展開している魔法、その後すぐに視界全てに広がる海水、その性質、構成、海水が海水たる情報の全てが瞬時に脳へと送られてくる。(余計な情報は切り捨てる!必要なモノだけを視て、それ以外は受け流せ!) その全てを受け止めていては、どんなに優れた人間であろうと脳がパンクし死に至る。 それを回避する為、必要な情報だけを抜き出す様意識するレイ。 例えるなら視界全体を見回しながら、1つの物を注視しないで見付けだす様なもの。 そんなある意味矛盾した荒業で、情報の海を突き進んで行く。(まぁだからって、それが出来るなら苦労しないわよね!) しかしそんな付け焼き刃が通用する筈も無く。 人間、してはいけないと意識すればする程、それを強く意識してしまうのは必然。 結果、大量の情報を処理し切れず頭痛は激しさを増し、鼻や目から血が流れて来るのを感じる。「あ……れ……?」 その余りの痛みから意識が飛び掛けた寸前、多少ではあるが確実に、脳の負担が減ったのを感じるレイ。 混濁しそうな意識に喝を入れ集中してみれば、レイが受けていた余分な情報をニイルが少し肩代わりしているのに気付いた。 レイよりも脳の処理能力が高く、何よりこの『神威賦与』の使い方を熟知している分、レイよりも負担が少ないのだろう。 今までもそうして肩代わりをしてもらっていた事は有るが、今回はその比では無いらしく歯を食いしばる音すら聞こえてくる。(私は何をやっているの!彼の力になる、その為に覚悟を決めたんじゃない!いつまでも足手まといのままで良い筈無いでしょう……)「がああああああああああ!!!」 そんなニイ
「向こうの思惑が分からない以上、早期決着をさせた方が良いかもしれません」 そう語り終えたニイル。 確かに今回の目的は原因の排除、つまりは『幻想種』の討伐である以上、ここでの疲弊を避けるのは道理である。 しかし、それが出来ない故の現状なのであって……「言いてぇ事は分かるが、それが出来たら苦労しねぇよ。現にさっきのとんでもねぇ魔法でだって、雑魚は減らせたが大物は殺れなかったじゃねぇか」 それを理解しているからこそ、ディードも難色を示す。 レイもディードと同じ感想を抱いていた。 先程のレイの魔法、魔力を節約したとはいえレイの持つ全てを用いた本気の攻撃だった。 それで約半数は減らせたが、高ランクの魔獣は未だ健在。 同じ手法を繰り返したとしても殲滅出来るかどうかは怪しいところではあった。 もちろん現状は『雷装』等は使用しておらず、全力で戦っているとは言い難い。 しかし仮にそれを使用した所で、現状をすぐにでも打開出来るとは到底思えなかった。「俺の『神性』だってそうだ。アレは確かに強力だが殲滅力は対してねぇ。1体1ならまだしも、1体多の状況じゃ速攻で終わらせる事は出来ねぇぞ?」 どうやらディードの方もレイと似た状況らしく、同じ様な所感を述べている。 未だにその能力の詳細は不明なままだが、この状況を打開する様なモノでは無いのだろう。 つまりはこのまま現状を維持し、地道に敵を減らすしかない、と2人は思っていたのだが。「使いたくありませんでしたが奥の手を使います。これが決まれば一瞬で片がつくでしょう」 どうやらニイルには切り札が有る様であった。 レイすら知らない事実に驚きの声を上げる2人。「んだそりゃ!?そんなの有るんならさっさと使えよ!」「言ったでしょう?奥の手だと。これを使うには色々と制限が有るんですよ」 この戦闘で少なくない亜人達が重軽傷を負っている。 それを思えば、声を荒らげてしまうディードの気持ちも分かりはするのだが。 それでも
自身に身体強化、剣に魔法装填を施し魔鮫を一瞬で切り伏せるレイ。 その様子を見ていた周りの亜人達から歓声が上がった。「いいねぇ!テメェらも遅れんじゃねぇぞ!」 それに気を良くしたのか、ディードがそう叫び部下達を鼓舞する。 そうして亜人達も雄叫びを上げながら善戦し、何とか拮抗状態を維持していた。 いくら精鋭達が揃い、水中では魚人族が、空中では鳥人族が、その両方で獣人族が活躍しようと、未だ500以上居る魔獣達相手ではいつその拮抗状態が崩れるか分からない。 これを維持出来ているのは偏に、ディードの活躍に他ならなかった。 亜人達も優れた身のこなしで魔獣と退治しているが、ディードはたった1人で複数の魔獣を相手取り、そして圧倒していく。 その動きは他の亜人達よりも圧倒的に疾く、そして一撃で敵を屠る威力を誇っていた。(確かに身体能力は圧倒的ね。あのスピードに追い付くには『身体強化+10』でも厳しそう) それを魔法を使わず行っているのだから驚愕には値する……が。 (でも彼の力がこれだけだとしたら『柒翼』と呼ばれるかしら?この程度ならあの『剣聖』、ブレイズにだって対応出来る……と思う) そこまで考え、先程のニイルの言葉を思い出すレイ。 (そういえば魔法使用中は彼に近付くなって言っていたわよね。つまり彼は魔法に対して強いアドバンテージを持っているのかしら?それが彼の『神性』……) 魔鮫が放った水刃を弾き、別の魔獣にぶつけながらディードを観察するレイ。 エレナートにてスコルフィオから聞いた話によると、『柒翼』とは『聖神教会』が定めた人類の七つの大罪、それを象徴とする悪魔の名前が付いた神性を持っているのだという。 その能力の詳細は分からないそうだが、スコルフィオの強さから鑑みて、かなり強力な力を有していると考えて良いだろう。 魔法が使えないという欠点を補って余りあるモノだとするなら、到底油断出来る相手では無い。(ニイルは視れば分かるって言っていたけれど、今の私じゃ彼が能力を使用していないと詳細は視えないのよね) 故に先程から『神威賦与』







