Mag-log in「ルエル?」
理性が止まれと訴える。
「ルエルと言ったか?」
理性が戻れと警鐘を鳴らす。
「それはこの国の宰相の……」
しかし感情が、本能が、止まることを許してくれなくて。
「ルエル・レオ・ナヴィスタスの事か?」
目の前が真っ赤に染まったと錯覚する程に、憎悪の炎がレイを突き動かしていた。
「なんだぁ?このガキ。ルエル様だろうが。何呼び捨てにしてやがんだ」
そんなレイにベルリは吐き捨てる様に言う。「ですがこの女、結構上玉ですぜベルリ様!捕らえて売ればいい金になりそうじゃないですか?」
「よく考えろザギ。こんな所に1人な訳ねぇだろ。どっかに仲間が隠れてるに違ぇねぇ」 「ならよダル?その仲間も一緒に売っぱらっちまえば更に儲けもんじゃねぇか?」ザギとダル、そう呼び合っていた取り巻き2人が話しているが、レイの耳には届かない。
「答えろ。ルエルとは10年前エレナート王国を滅ぼした男か?」その問に少し考えた後、ようやく思い出したという風にベルリが声を上げた。
「お前、もしかしてエレナートの生き残りか?確かに噂では姫は2人居るって話だったが……捕らえた王妃も姫の片割れも、そんな奴は居ないの一点張りで有耶無耶になったんだっけ?やっぱり居たのかよ」その言葉にやはりあの時一緒に居た男だと確信し、剣に手を伸ばすレイ。
そんな様子に気付かずベルリは続ける。 「しかしあの時のルエル様は凄かったよなぁ!?俺は傍に付いてるだけで何もせずに終わっちまったのが残念だったが、たったお1人で国を滅ぼしちまった!改めてあの人の強さに感服したってもんよ!」もうコイツの言葉を聞き続けるのも我慢の限界だった。
しかし最後に聞いておかなければならない事がある。 さっき捕らえたと言っていた2人、その2人は…… 「お母様と妹はどこにいる?」そう問われ、ベルリは下卑た笑みを浮かべ、こう答えた。
「ウチらの軍の慰み者にしてやったよ。んで壊れたから捨てた。壊れた玩具は要らねぇからな?」その答えに、レイの理性は、完全に。
消えた。「貴様ァァァァァァァ!」
剣を引き抜き、ただがむしゃらにベルリへと突っ込むレイ。それに焦ることも無くベルリは反応する。
「ザギ!ダル!」 「へい!」 「了解!」その声に、2人は即座に魔法を展開し始める。
レイはそんな2人を見向きもせずにまっすぐベルリを見据えて、そして剣を突き刺した。 しかし。「残念ハズレ〜」
確実に心臓を突き刺したと思われた剣は、ベルリの体をすり抜けていた。 完全に無防備なレイ。 その状態を見逃す筈も無く、ベルリはレイの腹に鋭い蹴りを入れる。「がはっ!」
モロに食らってしまい、受け身も取れず数メートル吹き飛ばされるレイ。 激痛と嘔吐感に耐えながら立ち上がろうとするレイに、ダルの魔法が襲いかかる。 「俺達を無視してもらっちゃあ困るぜ!」絶え間なく襲い来る炎の塊を避けながら、合間を縫ってベルリに接近するレイ。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
今度こそ切り裂いたと思われた剣は、またしてもベルリの体をすり抜ける。 「まだだ!」 何度も煌めく剣閃。 常人なら反応すら出来無いであろうその剣はしかし、ベルリをすり抜けるだけで一度も手応えを返してくれない。「
その声は自分の後ろから響いてきた。
驚き、咄嗟に後ろを振り向いた時、目の前には炎弾が迫っていた。「ああああああああ!」
衝撃にまたしても吹き飛ばされるレイ。
咄嗟に顔面をガードしたが、全身焼けるように痛く、実際多数の火傷を負っていた。「殺す!殺してやる!」
それでも尚立ち上がろうとするレイを見て、ベルリはその言葉に、レイはフラフラになりながら立ち上がり答える。
「お前相手、私1人で十分だ!私の復讐は私だけの物!誰にも渡すものか!」 「ハッ!言う事だけは立派だが、てめぇはただの雑魚だ!俺様には到底敵わねぇ!無駄な復讐人生だったな!」無駄なものか。
この心には、散っていった王国の者達の想いが込められている。 その想いを、私の復讐を、これまでの人生を。 「笑うなぁぁぁぁ!」あまりにも無謀な突撃をしようとするレイの脳内に、ニイルの声が響いた。
(レイ。聞こえますか) その声にハッとし、動きを止めるレイ。 ベルリ達はその様子に訝しみ、動き出す事が出来ない。(レイ、私の予想通り危険な状況にある様ですね)
(何これ?幻聴?) (幻聴ではありません。魔法で脳内に直接語りかけているのです。詳しくは後で話しますが、とりあえず今は落ち着きなさい。こちらにまで殺意の感情が流れて来てうるさいんですよ)そんな事を言われても、と一瞬思ったレイにニイルは更に追い打ちをかける。
(そんな事じゃありません。冷静じゃ無いからそんな脳内ダダ漏れ状態なんですよ。良いから落ち着きなさい馬鹿弟子。それでは勝てる相手にも勝てませんよ) そんな相変わらず厳しい言葉を投げかけられ、次第に冷静になっていくレイ。(良いですか?冷静になって戦えば、あなたは強いのです。誰が教えたと思っているんです?私の顔に泥を塗らないでいただきたい)
少し反省しつつも、そこまで言わなくてもと思うレイ。 (やかましい。これ以上師匠に恥をかかせる戦いはしないでください。大丈夫、貴女はこのバケモノの弟子なんですから)その言葉を最後に、ニイルの声は聞こえなくなった。
全く、あそこまで言われるなんて恥ずかしいにも程がある。 完全に冷静になったレイは一旦目を瞑り、深く深く、深呼吸した。 全身が痛い、息をするのさえ辛い、でも生きている。 ならば。「悪いわね、冷静さを欠いていたわ。では始めましょう、本当の戦いを」
その言葉に様子を伺っていたベルリ達は、一瞬惚けた後笑いだした。
「何言ってんだお前?勝敗は明白だろうが!ケダモノみてぇに突っ込むしか能のないガキが!そんなボロボロの状態で何が出来る!?」確かに、さっきまではケダモノだったのだろう。
正しく本能に従うだけのケダモノ。 人間に狩られて当然の存在。 でも、今は違う。 一喝されて目が覚めた。 真っ赤に染まっていた視界も、今はとても鮮明に見える。 そう、今の私は。 「バケモノの弟子よ」そう言い、脳内に一瞬で治癒魔法の魔法陣を作り上げる。
途端、体の傷が癒え痛みも無くなっていく。「略式!?」
「ベルリ様!アイツ高等魔法師ですよ!?しかも治癒魔法の略式なんてかなりハイレベルの!」その様子に狼狽える3人を尻目に、レイは更に脳内で魔法を構築する。
「強化魔法『通常身体強化に重ね掛けは出来ない。
しかし魔法陣について深く理解していれば、この様に効果の書き換えが可能となる。 つまり今のレイは先程よりも…… 「これで3倍よ」一瞬で距離を詰めたレイ。
流石に先程迄と段違いのスピードで接近されては、ベルリ達も反応が出来なかった。 一刀の元に、ベルリではなくダルを切り捨てるレイ。「まずはさっきの傷のお返し。これで邪魔な横槍も残り1人ね」
剣に付いた血糊を振り落とし、真っ直ぐにベルリを見据えるレイ。「さ、さっき迄と速さが段違いだ……なんなんすかあの魔法!」
「舐めんじゃねぇ!速くたって当たらなきゃ意味ねぇんだ!狼狽えんな!」 明らかに同様しているザギを一喝し、腰の剣を抜くベルリ。 「幻影騎士と謳われた俺にはどんな攻撃も防御も通じねぇ!それにてめぇの速さは見切ったぜ!もう俺に通じねぇよ!強化魔法!」そう言って今度はベルリが自信に強化魔法を施し、襲い掛かって来る。
いくら強化した身体能力だろうと、ランシュの動きには到底及ばない。
ランシュとの模擬戦の中で慣れたレイはベルリの剣筋を見抜く。 それを剣で防ごうとした時、ベルリの剣が自身の剣をすり抜けた。「……ッ!」
咄嗟に、強化した身体能力で強引に回避するが、左肩を浅く斬られてしまう。「これが幻影騎士と呼ばれる所以だ!てめぇはこのまま何も出来ず死んでいくのさ!」
そんな挑発に耳を傾けず、冷静に状況を見ながら攻撃に転ずるレイ。 しかし、レイの剣は先程迄と同じ様にベルリをすり抜けるばかりで、一向に傷を与える事が出来ない。 更に向こうの攻撃は防御をすり抜け、レイに傷を増やしていく。このままではジリ貧になると考え、レイは後ろに大きく飛び、距離を置いた。
「どうしたどうした!?逃げ回るばかりじゃねぇか!さっきの威勢の良さはどこ行った!?」
明らかにこちらが有利だと確信しているベルリが、挑発を口にする。そんな様子すらも観察し、この状況を打破すべくレイは魔法を構築した。
生み出された雷撃はしかし、ベルリにも隣のザジにも当たること無くすり抜けていく。 その様子を見てレイは呟いた。 「幻影騎士、ね……意外とチャチな手品だわ。じゃあこれならどう?装填魔法!」瞬間ベルリの隣に居たはずのザジが消え、その後落雷の様な音が鳴る。
それと同時にベルリの後ろで何かがぶつかる衝撃音が響いた。後ろを振り向いてみると、全身蒼白く輝くレイが刺突の構えを取っており、その奥では胸に穴の空いたザジが壁に叩きつけられていた。
「『
レイの奥義、装填魔法『雷装』である。
以前説明した通り、『雷装』は負荷に耐えられるよう改良し、30%の出力でなら実戦でも使用可能となった。 しかし、一瞬だけなら100%で使用しても、先程迄の幻影はザジが行使していた物だと見抜いたレイは、幻影を纏っていても避けられないスピードで貫くという戦法に出た。
所詮は幻、実体は見えないだけでちゃんと在る。 ならば対処は簡単。 「避けられない程速ければ問題無いわね。今の私は最初の時よりざっと5倍速いわよ。これでもう勝ち目は無いわ」剣を突きつけ勝利宣言をするレイ。
これで心が折れてくれれば良いのだが。「舐めるなぁぁぁぁ!」
レイの希望を裏切り、ベルリは向かってきた。 しかも幻影は未だ健在ときている。 「魔力を節約していただけで、俺の方が遥かに上手く幻影を見せれるんだよ!」 「チッ!」強化魔法を解除し、『雷装』の出力を30%に迄下げて対応するがしかし、実の所レイはかなり追い込まれていた。
何故なら先程ベルリが言った通り、幻影の質が格段に上がっているから。 今は何とか『雷装』で対応出来ているが、強化魔法だけでは対応し切れない。 しかし、『雷装』を維持し続ける事は常に多大な魔力を消費するという事。 最初の治癒魔法と強化魔法、更に100%の雷装で魔力が少ない今、雷装を維持出来るのは、もって2分が限界だった。「一気に片を付ける!」
ベルリはレイの攻撃にほとんど対応出来ない。 対してレイはギリギリではあるが回避する事が出来る。 徐々に傷が増し、動きが鈍くなるベルリ。 遂に、レイはベルリの脇腹を深く切り裂く事に成功した。 幻影によって、すんでのところで致命傷は回避したが傷は浅くない。同じく追い詰められたベルリは、幻影で一気に距離を離し吼えた。
「ここまで追い詰められたのは久しぶりだぜ!お前を強者と認め、全身全霊で殺してやる!」その様子に、奥の手を隠していたであろう事を察し、一気に仕留めにかかるレイ。
しかし一足遅く。「『
絶望への扉が。
「『
開かれてしまった。
突然の、耳を疑う提案。 誰もが反応出来ないでいる中、フェンリルは意に介さず続けた。【もちろん、存在そのものが『神喰の巨狼』になる訳じゃない。あくまで比喩的な表現さ。正確に言うなら僕の『神性』を受け継がないか、という提案だね】 本当に神になる訳じゃないから安心して、と続けるが、それでも理解が及ばない一同。 特に言われた本人であるランシュは、今までレイが見た事のない表情で固まっている。【あれ?ここは笑いどころだと思ったんだけどな?そんな簡単に神になれるかって】「お前はもう少しジョークセンスを磨いた方が良いな……どこも笑う要素が無かったぞ……」【そうなの?おかしいな……】 ニイルの指摘を受けて笑うフェンリルに、ようやく緊張が解れたのか、空気が弛緩するのを感じる一同。 そのタイミングで、代表してニイルが疑問を投げ掛けた。「まず、何故彼女なんだ?候補なら他にも居るだろう?ここは亜人の国なんだから、獣人族ならいくらでも居る筈だ」 その問いに、逆に今度はフェンリルが首を傾げる。【ん?なんでそんな事を聞くんだい?君の『眼』なら何だって視える筈じゃなかった?】 それにバツが悪そうな表情で、ニイルが答える。「今はお前と同じでほとんど『力』を使えないんだ。だからかつて程色々と視る事が出来ないんだよ」【なるほど。道理で君の力の反応が薄い訳だ。ならちゃんと説明しなきゃね。初めて聞く子達も居るし】 得心いった風に頷きながら、全員に語る様にフェンリルは続ける。【亜人達の成り立ちはニイル、君も知っているだろう?】 その問いに頷きを返すニイル。 それを確認してフェンリルは続けた。【なのでここでその事を詳しく話すつもりは無い。言わなくても良い事だしね。
自らの右腕を犠牲に放った一撃。 必殺とはいかずとも、確実に戦闘不能に陥らせると確信していたソレを凌がれ、更に今までの傷が瞬く間に回復していく。 流石のレイも、脳内に敗北の2文字が浮かび上がった。(やっぱり手加減してもらっていた訳ね。悔しいけれど受け入れるしかない、か……) 唇を強く噛み締めながら、折れそうになる心を叱責する。 ディードの怒気も合わさり、心身共に震え上がりそうになるが、剣を構え直し真っ直ぐに前を見つめる。(私が負けるだけなら良い。でもこの戦いには私の家族も巻き込んでしまっているのよ。なら、せめて刺し違えてでも彼を倒す。でなければ合わす顔が無いわ) 決闘だから死にはしない。 そんな甘えた考えを捨て、ここで生命の全てを燃やし尽くす事を覚悟した時、突然目の前に巨大な銀狼が現れた。 その幻想的な迫力に、戦闘中であるにも関わらず。 思わずレイは見入ってしまうのだった。【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎?】『原初の海獣』と同じく脳内に声が響く。 しかし、それはとても柔らかな声色だとレイは感じた。「⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……」【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎?】 急いで森人族達が膝をつき、代表して長老が口を開くが、その表情には多分に焦りが含まれている。 見ればディードですら恭しく頭を下げている状況。 誰もが動けないでいる中、ただ1人だけ、ニイルだけがその銀狼に近付いていく。(泣いてる?) その表情を見たレイがそんな風に思う程に、ニイルは今までに見た事が無い表情をしていた。【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛
遅れてやってきたニイル達一同が目にした光景、それは正しく死闘と呼ぶに相応しいモノだった。 レイとディード、両者共に満身創痍であり、最初の頃の高速戦闘では無くなっている。 しかし一瞬一瞬の鋭さ、瞬間的な速度は寧ろ増しており、少しの判断ミスが敗北に繋がる、そんな様相を呈していた。(まるで『前剣聖』を彷彿とさせるな。流石弟子だっただけある) その光景に、かつて出会った老人を思い出すニイル。 全盛をとうに過ぎた身体であった筈なのに、彼の振るう剣筋はニイルですら見切るのが困難だった程。 刹那に込められた速度は、人間の出せるソレでは無かった。 レイも今、その域に達したのだと一目見て理解する。(魔法を使っているとはいえ、『剣聖』を超えた訳だが……) そんなレイの成長に、思わず笑みを浮かべそうになるニイル。 しかしそれ以上に、今まで感じていた違和感が大きくなっている事にも気付く。 その違和感を確かめるべくニイルが『神威賦与』を『発動した』時、戦況が大きく動き出した。「そうと決まりゃあ!」 ディードが叫んだ瞬間、更に攻撃の鋭さが増す。 それだけでは無い。 攻撃のタイミングで絶妙に緩急を付け、そこにフェイントも織り交ぜていく。「くっ……!」(今まで直線的な行動が多かったから対処しやすかったのだけれど、いきなり戦い辛い戦法になったわね!) その急な戦い方の変化に表情を歪ませるレイ。 現在、レイは移動直前のディードを視て、次の攻撃を予想して対応している。 それは『神性』による身体能力の変動が、レイの『眼』に映らないからであった。 移動や攻撃の軌道は読めても、タイミングまでは完全に把握する事は出来ず、経験と勘、そして『雷装』で無理矢理埋め合わせていた。 そんな状況でタイミングを狂わされれば、如何にゾーン状態と言えど苦しいものが有る。 何せ綱渡りの状
――負けたくない。 次第に音が聞こえてこなくなってきている事に気付かず、レイは願う。 何故負けたくないのか。 これは決闘であり、負けても死にはしないのに。 ――私の目的を達する為に、ディードは越えなければならない壁なの。 目的とは何か。 ――全てを奪った『ルエル』に復讐する事よ。 家族は出来た筈。 ならばもう忘れて良いのでは? ――他の誰が忘れようと、これは私の願望で、絶対に果たさなきゃならない渇望なの。(だから私は……) レイの視界から色が消えていく。 最早限界なのだろうか、そんな折れそうになる心を叱責する様に叫ぶ。「ここで彼に勝ちたい!」 その答えに満足する様に。【ならどうすれば良いかは、もう視えているでしょう?】 そんな誰かの声が聞こえた気がした…… 気付けばレイの視界に映る全てのモノが、スローになっていた。 実際にそうなっている訳では無い。『雷装』によって強化された知覚能力が、ゾーンに入った事により極限にまで引き上げられた事による現象だった。 海で入ったゾーンよりも、更に深い集中状態。 故にレイには全てが視えた。 彼我の距離。 相手の視線。 微かな筋肉の動きから、呼吸のタイミング。 それだけでは無い。 地面の状態や、戦闘に利用出来そうな周囲の状況。 身体の構造が分かるのなら、相手の疲労度も理解出来て当然。 つまり、次にディードが行うであろう動きが、手に取るように分かってしまって。 そして未来が視えても、その動きに現状はついてこれないと言うのも解ってしまった。 なのでそれに対応出来る様に身体が、脳が、意識する前に行動を開始する。 今まで不可能だった、『雷装』の瞬時出力変更。
攻略法が有る。 その言葉を聞き不快に感じるでも無く、寧ろディードは歓喜に震えながら言う。「ほぉ?攻略法……ねぇ?ま!そうじゃなきゃ面白くねぇわなぁ?」 だがディードは内心、レイの言葉はハッタリだと考えていた。(何せさっき良いのが入ったからなぁ?手加減しねぇでぶち込んだあの拳。常人なら穴が空くレベルのアレを、モロに喰らってもピンピンしてんのは想定内だが……大分堪えた筈だろ) ただでさえ魔力の消費も通常より多いのだ。 心身共に限界が近く、それ故に油断を誘っているのだろうと。 それに何より……「テメェの剣を手放しちまって、何が出来るってぇ!?」 そう叫ぶと同時に『神性』を解放。 目にも止まらぬ疾さでレイへと飛び込むディード。(獲った!) 魔法を発動する暇も与えず、ディードの動きに対応出来ないレイはこの攻撃を回避出来ない。 ――そう考えていた。「っ!?」 拳を繰り出す寸前、ディードの生存本能が最大級の警告を鳴らす。 それに従い咄嗟に防御体勢に移った瞬間、強烈な衝撃が襲い掛かる。「ぐうおぉぉぉぉぉ!」 その威力は凄まじく、木々を巻き込みながらディードを遥か後方へ吹き飛ばし、更にはニイルの張った障壁すら破壊してようやく収まった。「な、なんだ!?何が起こった!?」「あのバカ娘が!それは想定外だぞ!」 初めて見る光景に慄き、狼狽える森人族達。 反してニイルは呆れと怒りを込めて叫び、結界の再構築を開始する。 まさか魔法が効かない相手に、自身の奥の手たる魔法を使うとは思っていなかったのだ。 失敗すれば一気に魔力枯渇で倒れるか、吸収した魔力で瞬殺されてしまうだろう。 博打に出た弟子を見ながら、結界の強度を上げる事を決意する。 そんな爆発の中心地に居たディードは、土煙でその姿を確認出来ない。 しかしレイの|切《
「首領殿がただの人間程度に負ける筈が無いと思っていたが……やはりバケモノの貴様が連れ歩いてるだけあるという事か?」 と、苦虫を噛み潰した様な表情で言う長老。 他の森人族達も驚愕に顔を歪ませながら、目の前の光景に見入っている。 そして言われた当人であるニイルは、長老を一瞥するだけで視線を戻し、無表情で返す。「そうやって他を見下してるから……人間にすら迫害される様になったんだと、お前達はいつになったら気付くのかね」 その言葉に、咄嗟に言い返そうと口を開く長老だったが、目の前の戦闘を目の当たりにし、言葉を紡ぐ事が出来ない。 いやそもそも、長老も他の森人族達も。 目で追う事すら出来てない時点で、目の当たりと言っても良いのかどうか怪しいところでは有るのだが。 それ程までにレイとディードの決闘は、常軌を逸していた。(高い魔法の素質に胡座をかき、停滞を続ける森人族達と。数も技術力も常に上がり続ける人間達。どちらがより優れている種族か、考えるまでも無いだろうが) 内心苛立ちながらニイルは思考する。 もちろん、全ての森人族がそうだとは思っていない。 しかし、この『森』に住まう者共は軽蔑に値すると、今も昔も変わらず考えていた。 このままでは近い未来、ここの住人は人間に搾取される側になるだろうとも。 その証拠を現在、レイが体現していた。 圧倒的速度でもって一撃離脱を行うレイ。 彼女の最も得意とする戦法であり、かつディードも先程の速度を出せないのか、防戦一方の状態に見える。 確かに見る者が見れば、レイが優勢だと考えるだろう。 だが、ディードの『神性』がその現実を否定する。 一撃当たる事にその傷は瞬時に回復し、その攻撃が次第にかすり傷しか負わせる事が出来なくなり、そして今では完全に防がれるか回避されている。(普段より魔力が減り続けるレイに対し、近付くだけで能力が向上して
「さぁ皆様お待ちかね!遂にこの時がやって参りました!3年の時を経て本日開催されます序列大会!司会進行は私、いつもお馴染みバラン・ラーバンが務めさせて頂きます!」 数多の観客が詰め掛ける中、遂に始まったこの国最大の武闘大会。 司会が高らかに謳い、それに呼応する様に周りの客席から歓声が飛び交う。「今回の会場も例年通り、騎士団の皆様が日々鍛錬に励まれている修練場をお借りしています!ですのでこの場を借りて、常に私達の安全を守ってくださっている騎士団の皆様と、そしてここにお越し下さっているセストリア王国の王、デューレル・ド・レブン・セストリア陛下に感謝の意をお伝えしましょう!ありがとうございます
レイとニイルの両名が無事勝ち残り、少しのインターバルの後、3回戦目が開始された。 控え室にて自分達の出場を待つ選手達に混じり、レイとニイルも通話魔法にて作戦会議に勤しむ。 今回の議題は次の試合、レイとスノウの試合について、である。 今までは特に対策せずとも勝ち上がれたが、流石に今回の相手には入念な準備が必要だとのニイルの判断であった。 レイは自分の得物の手入れをしながら、ニイルの言葉に意識を割く。(先程の会話ではほとんど何も得られませんでしたが、2回戦目を見るに速度重視の魔法も使える剣士、という印象でしたね) 貴女と同じ戦闘スタイルですね、と、続けるニイルに同意するレイ。
トーナメントが発表され、インターバルの後に第2回戦が始まった。 レイの対戦相手はこの街ではそこそこ有名な冒険者らしい男だったが、危なげなく勝利し次にコマを進める。 自分の試合が終わり控え室に戻る通路にて、次に出場するニイルを見つけるレイ。(お疲れ様でした。そこそこ強い相手だった筈ですが、今の貴女には相手になりませんでしたね) 労いの言葉を通話魔法にて投げ掛けてくるニイルに、他人のフリを貫きながらレイは言う。 (あの程度だとせいぜい準備運動位にしかならなかったわ。でも、今後も油断は出来ないわね) 少し見ただけだが、レイが敗北する相手は居ない様に思えた。 何人か苦戦しそうな相
時は少し遡り、序列大会の前日。 レイ達4人は序列大会に向けての最後のミーティングを行っていた。「さて、この2年間の間で完璧とは行かないまでも、出来うる限りの仕上がりには持ってこれました。よく諦めずにここまで来れましたね」 労いながら純粋に感心するニイルに、やる気に満ちた顔で答えるレイ。 「当然よ、今更諦める訳無いじゃない。言ったでしょう?強くなる為なら何だってするわ」 今、4人は潜伏場所として選んだザジの家に滞在している。 ここは他国どころか大陸すらも別なので、ニイルの予想通りここまで追っ手が迫る事は無く、修行に専念する事が出来た。「度々セストリアに潜入し調査しましたが、明







