聖暦1592年
この日、セストリアのほとんどでお祭りが催されていた。
首都のセストはもちろんの事、その他の地域でも大半が大なり小なり今日という日を祝い、そして大いに盛り上がっている。
そう、今日この日はセストリア王国の、建国300年の記念すべき日なのであった。
300年というと、全国的に見ても比較的浅い歴史を持つ国に位置する。
そして当初は大国の反乱から生まれた小国と言われており、最近までは数ある小国の内の1つとしか認識されていなかった。
それが今ではズィーア大陸最大の国として領土、国力共に最大の国にまで発展したのには理由がある。
それは約15年前、ルエルという男がこの国にやってきた事から始まる。
彼は様々な功績を残し、瞬く間にこの国の宰相へと成り上がった。
個人の戦闘力もさる事ながら、知略にも長け、その手腕を持って隣国を取り込み、この短い期間で、現在の国力を持つに至ったのだ。
驚愕すべきはその短期間での国力拡張にも関わらず、暴動や反乱の数が極端に少ないという事である。
戦争で侵略した国も少なくないが、敗戦国にも手厚い保護を施し、瞬く間に国を平定したのである。
そんな経緯が有るからこそ、彼の支持層は多く、王族でも無いのに次期国王に、との声も上がる程だ。
しかし、そんな彼でも全てを平定出来る訳も無く、多少のいざこざは現在も続いている。
それでもこの短期間で国力を拡大し、それを多少のいざこざで済ませてい
聖暦1592年この日、セストリアのほとんどでお祭りが催されていた。首都のセストはもちろんの事、その他の地域でも大半が大なり小なり今日という日を祝い、そして大いに盛り上がっている。そう、今日この日はセストリア王国の、建国300年の記念すべき日なのであった。300年というと、全国的に見ても比較的浅い歴史を持つ国に位置する。そして当初は大国の反乱から生まれた小国と言われており、最近までは数ある小国の内の1つとしか認識されていなかった。それが今ではズィーア大陸最大の国として領土、国力共に最大の国にまで発展したのには理由がある。それは約15年前、ルエルという男がこの国にやってきた事から始まる。彼は様々な功績を残し、瞬く間にこの国の宰相へと成り上がった。個人の戦闘力もさる事ながら、知略にも長け、その手腕を持って隣国を取り込み、この短い期間で、現在の国力を持つに至ったのだ。驚愕すべきはその短期間での国力拡張にも関わらず、暴動や反乱の数が極端に少ないという事である。戦争で侵略した国も少なくないが、敗戦国にも手厚い保護を施し、瞬く間に国を平定したのである。そんな経緯が有るからこそ、彼の支持層は多く、王族でも無いのに次期国王に、との声も上がる程だ。しかし、そんな彼でも全てを平定出来る訳も無く、多少のいざこざは現在も続いている。それでもこの短期間で国力を拡大し、それを多少のいざこざで済ませてい
聖暦1590年「ではこれにて失礼致します、陛下。」ここはセストリア王国の首都セスト、その中心にそびえ立つ王城。その奥、厳重な警備が敷かれた執務室からこの部屋の、というより、この王城の主に挨拶をして出ていく金髪の男の姿があった。何故謁見室では無く、こんな私的な部屋に呼ばれているかといえば、国の細かい作業の殆どを、この国の王はこの男に一任しているから、というのが理由である。大人数の前では、あたかも優れた支持者として振舞っては居るが、実際はもう国のほぼ全ての決定権を握っているのは、この男なのである。故に、第三者の目が届かない場所での会議は、常に執務室ここと数年前から相場が決まっていた。10年前のあの日、男が連合軍を率いてかの悪逆非道の国を滅ぼしてから徐々に信頼と実績を重ね、こうして現在この地位にまで上り詰めた。今では王は思考するのを止め、男の言いなりとなっている。有り体に言ってしまえば…「傀儡だな」と、吐き捨てるように男は呟いた。いくら男が望んだ事とはいえ、流石にここまで来ると苦労が絶えない。
ベルリとの戦いから4日が経過した。現在レイ達4人は、かつてザジとレイが住んでいた家に居る。ザジが死んでから誰も手入れをしていなかったのだろう。家具等は埃を被り、傷んでいる所も多数。周囲も雑草が生い茂り、荒れ果てていた。1日かけて4人で手分けをし、人が住める様になったのが昨日の事である。そして今日、今まで居た宿から荷物を全て持ち出し、当分の拠点として一先ずの完成を見たのであった。「さて、それでは今後の事について話をしましょう」一段落し、ランシュが入れてくれたお茶を飲みながら、ニイルが切り出した。それを受け、レイは何故ここに居るのか、その原因であるここ数日の事を思い返していた。あの戦闘の直後、レイは魔力枯渇で意識を失い、いつもの宿屋に運ばれた。治癒魔法にて体の怪我は治ったが、魔力の方は完全に戻らず、翌日も安静を余儀なくされたのだった。その夜、合流したニイルがレイにこんな事を言ってきた。曰く…「この国、と言いますかルエルですね。彼が私達を探している」と。「あの時、あの周辺には私達しか居ませんでした。更にダンジョン外から中に干渉できる魔法は存在しません。盗聴や監視も出来ない状況で考えられる可能性は1つ、恐らくあの戦闘の生き残りでしょう。そいつが戻り、ルエルに報告したと思われます」
ベルリが声のした方へ顔を向けると、そこには若い男が立っていた。白混じりの黒髪という珍しい髪色をした男で、全身黒の軽装をしている。(どう見ても戦闘職に見えない、魔法師か?)更に奥を見るとフードを被った2人組が控えている。こちらは完全に顔も性別も分からない。(不気味だな)警戒しながらベルリはその3人に話しかける。「なんだあんたら?今ちょっと忙しいんだ。すぐ終わらせるから用があるならちょっと待っててくれねぇか?」その言葉に中央のニイルが答える。「いえ、私達が用があるのはそちらの娘でしてね?返してもらいに来たのですよ」そう言いながら青年が指を鳴らした直後、ベルリの足元に居たはずのレイが消え、後ろのフードの1人に抱き抱えられていた。「は?」「はい、ありがとうランシュ。さて、どうやら無事の様ですね?如何でしたか?強敵との戦いは」惚けるベルリを置き去りに、これまた惚けているレイに質問をするニイル。「ニイル、なんでここに?」質問に質問を返してきたレイに、ニイルは呆れながら答えた。「言ったでしょう?そちらに向かうと。我を忘れるから師匠の言葉も忘れるのです、この馬鹿弟子。」その言葉にうっ…と唸りながら縮こまるレイ
「神性付与ギフト?」聞いた事のない単語に訝しむレイ、だがハッタリで無い事だけは確かだ。何せ先程までと明らかに重圧プレッシャーが違う。「裏の界隈じゃ有名だぜ?神に選ばれた方々から賜る特別な加護、それが神性付与ギフトだ。俺は偉大なるルエル様より賜ったのさ!」確かにレイは、裏社会に精通している訳では無い。しかし仮にも、今まで生き抜く為に裏も利用してきた、いわゆる善良な一般市民とは違う。その自分すらも知らないという事は、余程重要な意味合いを持つのであろうという事は容易に想像が出来た。「これを使うのも随分と久しぶりだ!それこそ人間相手に使わねぇからな!以前使ったのは同じ神性付与保持者セルヴィと小競り合いした時以来か!」こんな力を振るう人間が、他にも居るというのか。目の前に居るだけでも鳥肌が止まらない。しかしこちらも時間が無い、相手の能力が分からない以上危険ではあるが、対応するより速く決着をつける。そう結論付け、一気に間合いを詰めたレイだが…「ぐっ…!」ベルリに近付いた
「ルエル?」理性が止まれと訴える。「ルエルと言ったか?」理性が戻れと警鐘を鳴らす。「それはこの国の宰相の…」しかし感情が、本能が、止まることを許してくれなくて。「ルエル・レオ・ナヴィスタスの事か?」目の前が真っ赤に染まったと錯覚する程に、憎悪の炎がレイを突き動かしていた。「なんだぁ?このガキ。ルエル様だろうが。何呼び捨てにしてやがんだ」そんなレイにベルリは吐き捨てる様に言った。「ですがこの女、結構上玉ですぜベルリ様!捕らえて売ればいい金になりそうじゃないですか?」「よく考えろザギ。こんな所に1人な訳ねぇだろ。どっかに仲間が隠れてるに違ぇねぇ」「ならよダル?その仲間も一緒に売っぱらっちまえば更に儲けもんじゃねぇか?」ザギとダル、そう呼び合っていた取り巻き2人が話しているが、レイの耳には届かない。「答えろ。ルエルとは10年前エレナート王国を滅ぼした男か?」その問に少し考えた後、ようやく思い出したという風にベルリが声を上げた。