「さぁ皆様お待ちかね!遂にこの時がやって参りました!3年の時を経て本日開催されます序列大会!司会進行は私、いつもお馴染みバラン・ラーバンが務めさせて頂きます!」
数多の観客が詰め掛ける中、遂に始まったこの国最大の武闘大会。
司会が高らかに謳い、それに呼応する様に周りの客席から歓声が飛び交う。
「今回の会場も例年通り、騎士団の皆様が日々鍛錬に励まれている修練場をお借りしています!ですのでこの場を借りて、常に私達の安全を守ってくださっている騎士団の皆様と、そしてここにお越し下さっているセストリア王国の王、デューレル・ド・レブン・セストリア陛下に感謝の意をお伝えしましょう!ありがとうございます!」
その声に呼応し、客席の1番高い位置、そこに用意された玉座に座する老人が立ち上がり、他の観客に手を振る。
もう80歳を超えている身でありながら、軽やかに立ち上がり手を振るデューレル王に、更に会場は盛り上がりを見せた。
「では盛り上がって来た所で!早速選手達の入場と行きましょう!今回は凄いですよ!何と今回の参加人数は過去最高の500人越え!それだけの強者が集まり繰り広げられるバトルに、私も今から楽しみでなりません!では参りましょう!選手!入場!」
観客の大歓声を受けながら入場してくる選手達。
それぞれ思い思いに、観客に手を振る者も居れば、耳障りだと言わんかのように、怪訝な顔をしている者も居る。
そんな中現れた2人の男に観客中の視線が集まり、歓声が飛んだ。
「おぉっと!?ここで現れたのは前回大会優勝者のゴゾーラム選手、そしてその後ろ
「お姉様〜!」自分を呼ぶ声に振り返る。見れば自分より2歳年下の妹が駆け寄って来ていた。今日は待ちに待ったピクニックの日。忙しい父と母が、この日の為に予定を空けて連れて来てくれた、家族水入らずの時間。前日に神様にお願いしたお陰か、今日はとても天気が良く、気温も調度良い。正に絶好のお出掛け日和だった。「お姉様捕まえた〜!」「わっ!もう、びっくりした!全く、甘えん坊なんだから…」抱き着いてきた妹を抱き返し、優しく頭を撫でてやる。政務で忙しい父や母の代わりに、幼いながらも面倒を見ていたからであろうか、妹は自分にかなり懐いていた。もちろん、忙しさにかまけて自分達を蔑ろにする様な両親では無い。記念日はもちろんの事、こういった何気ない日にも、自分達の為に予定を空けてくれていた。そんな両親は、少し離れた所でこちらを見ている。自分は恵まれている、幼いながらもそう感じていた。両親から愛情を受けて育てられ、こんなに可愛い妹も居る。そんな妹と共に優れた才能にも恵まれ、それを伸ばせる環境も有る。臣下は自分達に忠義を持って仕えてくれているし、臣民達も家族の様に接してくれている。隣国との関係も良好で、正に平和そのもの。
「ハーッハッハッハッハ!見ろ!てめぇのよく分からん魔法も俺の魔法の前には無力!このまま無限の闇に引きずり込んでやるよぉ!」レイの魔法、『電磁加速魔弾レールガン』がブラックホールに飲み込まれたのを見た時、ルエルは自身の傷の痛みも忘れて笑いが込み上げ、勝利を確信するに至った。それはそうだろう、今も重力に引き摺られ、レイが暗黒に飲まれそうになるのを、剣を地面に突き立て必死に堪えている。しかしブラックホールに飲み込まれるのも時間の問題だろう。この魔法は維持させるのに常に魔力を消費する。魔力を注ぐのを止めればこの魔法は解除されるが、逆に言えば注ぐ魔力を増やせばその分引き寄せる重力が増すのだ。(このまま限界まで魔力を注いで、アイツがどれだけ耐えられるのか見届けてやるぜ)実際のところ、ルエルの方も魔力はほとんど残っておらず、この魔法を維持するだけで精一杯だった。しかし最早レイに打つ手は無し、そう判断し残りの魔力のほとんどをこの魔法に充てる事を決める。しかしルエルは知らなかったのだ。最後まで油断や慢心を捨て切る事が出来なかったその傲慢さ、ソレこそがこの戦いの命運を分けたのだと。(来た!)周囲を視ながら好機だと悟るレイ。ルエルは完全に油断し、障壁以外の魔法を用意していない。残りの魔力量を視るに、どうやら完
明らかに先程までと様子が違う。ルエルが初めに抱いた感想はそれだった。(アイツの放つ圧力プレッシャーが今までのそれと比では無い。もはや俺・達・レベルかもしれねぇ)しかし理解が及ばない。直前にレイが放った言葉、それはルエルが先程も聞いた物と全く同じだったから。(『ギ・フ・ト・』、アイツは確かにそう言っていた。だが何だ?明らかにあれは『神性付与ギフト』の範疇に収まらない力だ。『神性付与ギフト』にそんな力が秘められているなんて事は聞いた事が無ぇ)かつて部下に『神性付与ギフト』を授け、自分も似た力を使う。更にそんなバケモノ共がゴロゴロ居る所で日々渡り合っているのだ。裏社会の秘密と言われているこの力すら、他の人間より詳しいと自負している。しかしそんなルエルですら今の状況は聞いた事がない。(まさかあ・の・力・を神性付与ギフトと勘違いしてんのか?それならそれで問題だが…)
自分の体からミシミシと音を立て、骨が軋んでいくのを感じるレイ。何とか現状から逃れようとするが、上からの重力が動く事を許さない。「ぐう…ううううううう!」降り注ぐ重力に抗い、空いている左手をルエルへと伸ばす。しかし重力に逆らえず、すぐ地面を掴むことになってしまった。そんな様子を見下ろすルエル。先程までの慇懃無礼な所作とは打って変わって、粗野な態度で口を開く。「これ程の傷を負うのは久しぶりだ。てめぇみてぇな小娘がよくもやってくれたな?」その瞳は怒りの炎を湛え、ギラギラとした雰囲気を醸し出している。口調すらも先程とは全くの別物であり、まるで別人の様だとレイは感じた。「…それが…本性って訳?…随分猫を被って…いるのね?」レイが挑発する様に口を開くも、それには答えず代わりに重力が増し、更に地面へと押し潰されていく。「あう!」「口の利き方には気ぃつけろガキ。今がどんな状況かよく考えてから喋るんだな。てめぇの命は俺が握ってんだからよ?」もはや怒りの感情を隠しもしないルエルに内心焦りと、そして未だに計画通りに事が進んでいる事に、笑みを浮かべそうになるレイ。何故ならまだ自分は生きているから。
一瞬の隙を突き、ルエルに深手を負わせる事に成功したレイ。その後呪いを付与させる事も出来、恐ろしい程に順調に計画は進んでいる。ニイルの言う通りルエルの慢心を突いた作戦だったが、ここまで見事にハマるとはレイも内心では驚きを隠せないでいた。しかし予想以上に深刻な事態も同時に起こっている。それはレイへのダメージが大きい事だ。『神性付与ギフト』を発動するまでの間に受けたダメージが、治癒魔法で少しは回復出来たもののかなり尾を引いている。何より現状マズイのが、『神性付与ギフト』の弊害が、現在進行形で続いている事だ。ニイルより授かったこの『神性付与ギフト』だが、能力はニイル曰く、色々な物が良く視える、との事だった。実際に使ってみると、視力が良くなるという事では無く、見・え・な・か・っ・た・物・や見・て・も・分・か・ら・な・か・っ・
「なんだと!?」聞き慣れた、しかし有り得ざる言葉を聞き、動揺を隠せないルエル。彼の聞き間違いで無ければ目の前のレイはこう言ったのだ。『神性付与ギフト発動オープン』と。それは裏社会ですら、まことしやかに囁かれる都市伝説。しかしその中でも上位の権力者や実力者は存在を知り、その存在になるべく関与しないという暗黙の了解が出来ている程の禁忌アンタッチャブルである。そしてルエルもその存在を知り得る人物の1人であり、その部下であるベルリが実際に使っていた事から、普通の人間より身近な存在だった。しかし先に述べた通り『神性付与ギフト』、及び『神性付与保持者セルヴィ』にはなるべく関与しない、というか各組織がその存在を徹底的に隠蔽している為、誰が『神性付与保持者セルヴィ』でどんな能力を持っているか、詳細を知り得てはいなかった。(先程のスノウという女、奴も私の情報網には引っ掛かっていなかったが故に、その存在に気付かなかった。しかしあの能力からどこの所属かは大体検討がついてはいた。だがこの女は…)自分の記憶をよく思い返しても、かつて自分が滅ぼしたあ・の・国・の人間に『神性付与保持者セルヴィ』が居たと