Se connecter「ねえ、恭弥さん、弥生は? え? なにが起こってるの?」
問いかける私に、恭弥さんは苦笑しつつ口を開く。「悪い、また母さんが暴走したんだろ?」 さすが長年確執があったとはいえ、実の母を理解しているようで、運転席でハンドルを握る恭弥さんは小さく息を吐いた。「私、別になにも言ってないと思うけど……」 確かに告白できずにいることで、ため息はついたかもしれない。「わかってるよ」 穏やかに答えた恭弥さんが向かった先は、ベリが丘タウンの中のでも一部の会員しか入れないオーベルジュ。宿泊付きだとは聞いていたが、小さい子供は入れない大人の隠れ家だ。「たまにはいいだろ?」そういいつつ、自動で開いたゲートをくぐると、まるで森にきたような錯覚に陥りそうな道を車は進んでいく。
そして、一気に視界が開けたと思うと、目の前には低階層のグレーのおしゃれな建物があった。 エントラン「もう、どこまで私を喜ばせたら気が済むんですか?」 泣き笑いになってしまったが、そう伝えると「永遠に」そう笑う恭弥さん。「いつか咲良が俺を好きになるまでずっと」「もう好きです」「え?」 かなり驚いた様子の彼に、私はゆっくりと恭弥さんを見上げた。「知ってますよね? ずっと好きだったこと」 元樹から話を聞いて、私の過去の気持ちは知っているはず。だから、こんなに驚くなど思っていなかった。「いや、それはただの憧れとかそういうのだと」「それだけで抱かれるような女じゃないです」 少し怒ったように言うと、恭弥さんは小さく息を吐いた。「そんなに自意識過剰になんてなれない」「恭弥さんでも?」 自信に満ち溢れていていつもひっぱってくれる彼が、そんなことを思うなど信じられない。「咲良のことになると俺はいつだって不安だよ」」 初めて彼の心の内を聞いて私は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。「確かにあの夜は憧れが大きかったと思います。でも、再会して一緒に生活をして……。今は愛してます」 ようやく自分の言葉で伝えることができて、私は安堵から息を吐いた。「ふつつかものですが、どうぞよろしく……キャ」 まだ話している途中にも関わらず、恭弥さんは私を抱き上げる。 初めて彼を見下ろすような格好になる。「咲良、大好きだよ」 もう遠慮することがないとばかりに、私は彼の頬を手で挟みキスをする。「私のほうが好きです。きっと」 どちらが好きかと言いあいつつ、その合間にキスをして、笑いあう。 そして目があった。「ずっと抱きたいの我慢してた。いい?」 最後は少し窺うように問う彼に、私はキュッと唇を噛んだ後、小さく頷いた。 恭弥さ
名前を呼ばれただけなのに、緊張してしまってつい早口で関係のないことを口にする。「弥生、どうしてますかね。お利口にしてますかね」 弥生のことを考えれば少し冷静になれる気がしたのだが、恭弥さんはまっすぐに私を見つめる。「あっ、ちゃんと寝れたか……」「今日は俺に、咲良を独占させて」 言葉の途中だった私の言葉を遮り、恭弥さんは一歩ずつ私のほうへと歩いてくる。 触れられていないのに、すべてを見られているような視線に私は言葉を飲んだ。 伝えるなら今しかない。「あの、恭弥さん」 そのタイミングで、ドアのベルが鳴る。「少し待ってて」 私に声をかけると、恭弥さんはリビングを出て行ってしまった。 またタイミングを逃してしまって、私は大きなため息をついた。 誰だろう、こんな時間に。 まだかと恭弥さんを待っていると、戻ってきた彼はワゴンを押していた。 そこには、真っ赤な薔薇の花束とシャンパンが。どうしたのだろう。そう思っていると、 恭弥さんは花束を手にして私のほうへと歩いてくる。「咲良、もう一度やり直したい」「え?」 言われた言葉の意味を考えていた私だったが、そのまま私の前で跪いた。 それはまさに弥生にいつも読み聞かせている物語の王子様のように。「結婚を了承してくれてありがとう。まだ俺のことを信じられないかもしれない。それでも、絶対に咲良と弥生も守る」 そこで一呼吸置くと、まっすぐに私を見つめた。「二年前からずっと愛してる。俺と結婚してください」 〝やり直したい”それがこのプロポーズのことだったとわかる。結婚を申し込まれ、了承をして終わりだと思っていた。 こんな夢のようなプロポーズをされることなどないと思っていた。
「ねえ、恭弥さん、弥生は? え? なにが起こってるの?」 問いかける私に、恭弥さんは苦笑しつつ口を開く。「悪い、また母さんが暴走したんだろ?」 さすが長年確執があったとはいえ、実の母を理解しているようで、運転席でハンドルを握る恭弥さんは小さく息を吐いた。「私、別になにも言ってないと思うけど……」 確かに告白できずにいることで、ため息はついたかもしれない。「わかってるよ」 穏やかに答えた恭弥さんが向かった先は、ベリが丘タウンの中のでも一部の会員しか入れないオーベルジュ。宿泊付きだとは聞いていたが、小さい子供は入れない大人の隠れ家だ。「たまにはいいだろ?」そういいつつ、自動で開いたゲートをくぐると、まるで森にきたような錯覚に陥りそうな道を車は進んでいく。 そして、一気に視界が開けたと思うと、目の前には低階層のグレーのおしゃれな建物があった。 エントランスに車を止めると、すぐに扉があけられる。「お待ちしておりました。松前様、そして奥様」 奥様、その響きがくすぐったいが、私は小さく会釈をすると車を降りた。 美しい美術品が飾られ、シックの中にもモダンなロビーに目を奪われている間に肩に手を回される。 案内された部屋は、BCホテルのスイートルームより広く、一階ということで、広い庭が広がっていた。 温室のプールもついていて、まるで南国のリゾートのようだ。「お食事は、こちらのテラスにご用意いたします」「よろしくお願いします」慣れた様子で恭弥さんが対応をするのを、私は頼もしく見ていた。こんな人が私の旦那様……。 そう思ったとたん、急に告白をするというミッションを思い出して、バクバクと心臓の音がうるさくなる。 でも、今日こそきちんと伝える。気持ちを伝えることは単なる自己満足かもし
その夜、家に帰って着替えて私は大きく息を吐いた。 本当に今日はいろいろなことがあった。 「咲良、弥生寝かせてきたよ」 夕飯を軽く済ませて、帰る途中、弥生は車の中で寝てしまったのだ。 そして帰ってからは、私を気遣ってすべてをやってくれた恭弥さん。 「ありがとうございます。元樹たち無事二次会できたでしょうか」 「大丈夫だろ。それよりーー」 恭弥さんはそういうと、ソファに座っていた私をいきなり抱きしめた。 「咲良、本当にごめん。俺のせいでまた……」 「それはもう何度も聞きました」 自分のせいで怖い思いをさせたことを、本当に悔いているのだろう。 「でも、俺がさやかとのことをきちんとしていればこんなことにはならなかった」 確かにそれはそうだが、あのことを蒸し返す必要もないと思っていたのは私も同じだ。 さやかさんの言葉に振り回されてしまったのは、だれのせいでもなく私のせいだ。「恭弥さん」 意を決して彼を呼ぶと、私はまっすぐに瞳を見つめる。 「結婚、お受けします。私はずっと恭弥さんと、弥生と一緒にいたいです。誰に何をいわれても、この気持ちは変わりません」 「咲良――」 恭弥さんはまさか、このタイミングで私がこの答えを言うとは思っていなかったようで、驚いて目を見開いた。 「私たちの関係が曖昧だから、お互い信じられないんですよね」 私が少し苦笑しつつ伝えると、恭弥さんはまたギュッと私を抱きしめた。 「ありがとう。絶対に幸せにする。愛してる」 初めてストレートなその言葉を聞いて、私は信じられない思いで目を見開く。 私も、そう伝えなければそう思ったのだが、優しく唇をふさがれてしまった。 それからの恭弥さんの行動はとても早かった。 あの後すぐに、婚姻届けをして、結婚式をすることになった。 会社内でもいろいろ言われていると聞いていたが、すべてを全社ネットで伝えたそうだ。 それは、もはやのろけのようで、聞いている社員が赤面したとか、そんな話をお義母様から聞いた。 結婚式の準備を始めてから、こうして時間を見て私は弥生を連れ、恭弥さんのご実家にお邪魔している。 同じノースエリアにあるのだが、昔、元樹を訪ねて行った記憶より大きな豪邸だが、弥生もすぐに慣れて
ここはどこだろう。 さやかさんが来て……。 そこまで思ったが、目の前が暗い。夜ではなく目をふさがれていることに気づく。そして、手も拘束されていて、それをとることができない。 そこで一気に恐怖が襲ってきた。視界を奪われたことで、何がつぎに起こるのかわからない。「いや、だれか」 そう声をだしたが、掠れて音にならない。 怖い、弥生、恭弥さん!!「咲良!!!」 その声と同時に力強く抱きしめられる。慣れてしまった香り、温かい腕。 見えなくてもわかる彼に、ボロボロと涙がこぼれる。それが目隠しをされていた布にしみこんでいく。 すぐにそれは外され、私の顔を泣きそうな恭弥さんがのぞき込む。「大丈夫か?」 何度か頷いて見せると、恭弥さんはまた私を抱きしめた。「俺のせいで本当にごめん。俺が、俺が不甲斐ないばかりに」 さやかさんの恋愛感情を知らずにいたのなら、急に現れた私の存在が気に入らなかったのは仕方がない。 それでも、恭弥さんが気にしてしまうのは仕方がないのかもしれない。「大丈夫です。恭弥さんがきてくれたから」 泣き笑いでそう伝えると、恭弥さんは初めて安堵したように息を吐いた。 その後、元樹の計らいで、先ほどはさやかさんのドラマかなにかの撮影ということで、なんとか場は収まったらしい。 そして、助け出された後、場所を変えたホテルの一室で、私は弥生を抱きしめたまま、さやかさんの謝罪を聞いていた。 恭弥さんは、私が嫌ならば聞かなくてもいい、そう言ってくれたが、私は彼女と会うことに決めた。 そこには事の重大さを知って、恭弥さんの両親もいた。「ごめんなさい。薄々あなたが、恭弥をだますような人じゃないとは気づいていたのに」 その言葉を私は何とも言えない気持ちで聞いていた。確かに元樹と親しくしていて、そういう印象
どこかホテルの一室だろうか。目隠しをして、寝かされている咲良の姿。「さやか! いい加減にしろ! いくらお前でも許せることと許せないことがあるぞ」 ホテルの廊下という人通りが多い場所でこんな会話をするべきではないことは、百も承知だが、俺はさやかの胸ぐらをつかんでいた。 さっきまで笑っていた咲良がどうして。俺は冷静さを失っていく。「兄貴! 落ち着け」 元樹が制止しなければ、さやかだろうが手が出ていたかもしれない。「ねえ、恭弥。目撃者もたくさんるわ。いいの? こんなことして」 確かにさやかが何をしているかわからない以上、芸能人である彼女に、暴力をしようとしているという風にしか見えないだろう。「社長の座もなくなるわよ。私の言う通りにしないと」その意味はすぐに理解した。「恭弥、お前何をしているんだ」 低く不愉快と言わんばかりの声。両親まで呼んだのか。「さやか、こんなことをしてただで済むともうのか?」 睨みつけて尋ねると、さやかは冷たい視線を俺に向けた。「彼女が他の男に乱暴をされてもいいというならいいんじゃない?」 まさかさやかがここまでするとは。俺がここまで追い込んだのか? 「どうしてだ、さやか」 うなだれる様に問いかけると、さやかは苦痛に満ちた表情を浮かべた。「私だって、ずっと恭弥を、恭弥しかみていなかったのに」 その気持ちに気づかず、俺が彼女を傷つけた。それは事実だ。 しかし。 そんな思いでいると、父が俺の前に立ちはだかる。「恭弥、いい加減にしろ、これ以上、恥をさらすならお前を社長の座から下ろす」「好きにしろよ」 地を這うような声が自分から出たことに驚いた。「俺は咲良と弥生の為ならば、なにもいらない。社長の座なんて、あのふたりと比べるまでもない。勘当でもなんでもしてくれ」 ずっと、会社を継ぐため、
「咲良?」 不思議そうに私を呼ぶ彼に、慌てて速足で追いついた。 弥生が興味深そうに足を止める水槽を、私たちも見つめる。「咲良は何が見たいんだ?」「私はいいです。弥生の行きたいところで」 ずっと弥生が産まれてから、自分のことなど関係なく生きてきた。それが当たり前で不満に思ったことなどない。「今日は俺がいるんだ。弥生のことは見ていられる。だから咲良も自分の時間を大切にして欲しい」「恭弥さん……」 まさかそんなことを思ってくれているとは想像もしていなくて、
こんなに可愛い娘を授かったのだから、自分のことよりも娘の母親として過ごせばいい。彼との関係も弥生を通しての関係。だから、別に人から何を思われても気にしないでおかなければ。 そんなことを思っていることなど全く知らないはずの恭弥さんが、不意に口を開く。「今日の服装、俺たちお揃いだな」「え?」 言われた意味が解らず、聞き返したあと少ししてようやくその言葉の意味が分かった。 上下の色が同じなのだ。私も服装を見ていたはずなのに、まったく気づかなかった自分がいやになってしまう。そして、なんとなくおそろい
「恭弥さん、それ……」 食事を作る手を止めてその場に行き、私もそのかわいらしいおもちゃたちを手にする。「かわいくないか? ふたりが来るって決まってから俺が選んだんだけど」 柔らかな笑みを浮かべて飛び跳ねる弥生の姿に目を細めている彼。「とってもかわいいです。弥生ずっと、これ欲しがってたから」 今年のクリスマスプレゼントに、少し高価だが買ってあげたいと思っていたものだっただけに、驚きが隠せない。「それならよかった」「弥生、パパに何か作ってくれる? 遊んでるから、悪いけど夕食を頼む。俺、本物の料理はまったくできないから」 申し訳なさそうに言う彼に、「ありがとうございます」とお礼を伝
そして、約束の日曜日の夕方。店の駐車場に一台の車が停まったのを落ち着かない気持ちで私は見ていた。父の仕事が終わる時間にしてもらったこともあり、こんな時間だ。 裏口はわかりづらいため、私はすぐに外へ出る。そうすれば、恭弥さんは落ち着いたネイビーのスーツにネクタイ姿だった。「マーマー」 しばらく何と言っていいかわからず、彼を見つめていた私だったが、家の中から弥生の声が聞こえてきて、驚いて玄関の方向に視線を向けた。「あの子ったら階段ひとりで降りちゃったのかな」 確かにひとりで階段を降りることはもうできるが、まだまだ危なっかしい。そして私が慌てていて、階段の子供用の柵を開けっ放しにしていた







