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ピロトーク:運命の出逢い3

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-07-02 21:29:26

 好きな奴の顔を見に来たのに、なんでこんな沈んだ気分になるんだ。  

「どうだ、進んでるか?」  

 小田桐の家に上がるのは、今日で何度目になるだろうか。初めて来たときは、ぶっちゃけ衝撃だった。部屋の荒れっぷりが、小田桐の整った顔と真逆すぎて。

 いろんな作家の家を見てきたけど、荒んだ環境じゃいい作品は生まれない。それは俺の個人的な持論だが。  

「お前、このゴミ屋敷で、あの原稿を書いてたのかよ……」

  

 小田桐が使ってるデスクの周りだけが、なぜか綺麗なオアシス状態。背後のゴミの山さえ見なけりゃ、気にならねえってことか?  

「小田桐命令だ、そのノートPCを持って、近くの公園に行ってこい。二時間は戻るな」  

「え? なんで?」  

「こんな汚ねえとこじゃ、お前を抱く気にもなれねえからだ。つべこべ言わずに、とっとと行け!」  

「だ、抱く!?」  

 小田桐がノートPCを胸にぎゅっと抱きしめ、恐怖で凍りついた目で俺を見る。その場で固まる姿に、しまったと思わずにはいられない。  

(……やべ、つい本音がポロッと出ちまった! )

「いや、あー……言葉のアヤだ。気にすんな」  

 小田桐の過去を知ってから、こういう話題は慎重に避けてきた。イラついていたとはいえ、迂闊な発言だった。  

「は、はい……じゃあ僕、外に出てますね」 

 

 体を小さくして、おどおどしながら玄関に向かう背中を横目で見送り、扉が閉まる音を聞いてから、足元のゴミを壁に向かって思い切り蹴飛ばした。  

「くそ! 怯えさせちまったじゃねえか」  

 病院でのキス以来、手は出してない。好きだから大事にしたいって気持ちと、好きだからこそ全部欲しいって欲が、俺の中でぐるぐる渦巻いてる。  

(押し倒すなんて簡単だ。けど、それじゃダメなんだ。小田桐の傷を、俺が抉るわけにはいかねえ) 

「好きなのに手が出せねえなんて……俺、中坊かよ?」 

 

 苦笑いしながら、床のゴミをせっせと拾い始めた。  部屋の片付けは順調に進むのに、俺の心の整理はまるで進まない。どうすりゃいいんだ、こんな気持ち――。  

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