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ピロトークを聞きながら
ピロトークを聞きながら
ผู้แต่ง: 相沢蒼依

ピロトーク:運命の出逢い

ผู้เขียน: 相沢蒼依
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-30 21:14:03

 その日、俺はいつものように印刷所からの帰り道、会社に戻る途中で昼飯を済ませようとしていた。

 スクランブル交差点を渡り切る瞬間、雑踏の中から細身の影がふらりと俺にぶつかってきた。 信号は点滅し、赤に変わる寸前。なのにそいつは、周りを押しのけるように突っ込んでくる。足元がふらつき、まるで今にも倒れそうな様子に、咄嗟に声を上げた。 

 

「おい、危ねえぞ!」  

 腕を掴むと、そいつはぐらりと俺に倒れ込んでくる。

  

「っ……なんだ!?」  

 驚きつつもそいつの体をしっかりと抱きとめ、慌てて交差点を渡り切った。抱えた腕から伝わる異常な熱。これはただ事じゃねえ。  

「大丈夫か? めっちゃ熱があるぞ」  

 人混みをうまく避け、路地裏の静かな場所まで連れていき、そいつをそっとしゃがませた。 

 

「大丈夫……です。締め切りが……もうすぐで、行かなきゃ」  

 掠れた声で呟いた瞬間、そいつは力尽きたように俺にもたれかかり、荒い息を繰り返す。その声は、どこか中性的に耳に聞こえた。  

「女かと思ったら男か。締め切りって郵便局か?」  

 支えながら視線を落とすと、そいつの手に握られた茶封筒。そこにはライバル出版社「緑泉社」のライトノベルコンテスト応募先の文字。出版社勤めとしては、複雑な気分に陥った。 

 

 とりあえずそいつを背負い、知り合いの医者が経営する病院へ向かった。  

「ももちん、昼休みなのに! 大人の急患連れ込むのやめてよ~!」  

 高校の同級生で、アレルギー専門の小児科医、周防武(すおう・たけし)が不満げに迎えた。  

「いい加減、ももちんって呼ぶのやめろ。コイツ、めっちゃ熱あるんだ。診てくれ」  

 周防の文句を無視して診察室に踏み込み、そいつをベッドにそっと下ろした。  

「うわ、これは……」  

「な? かなりヤバそうだろ」  

「ドストライクだね」  

  聴診器も当てず、腕を組んでそいつをしげしげと眺める周防。  

「流行りの病気か?」  

「いやいや、ももちんのタイプでしょ? 清楚で綺麗な美青年って感じ♪」  

 そう言って、なぜか俺の頬をつんつん突いてくる。長年の付き合いで、俺の好みを熟知してるこいつ。確かに、そいつの顔は悪くねえ。  

「ドストライクってほどじゃねえよ」  

 そっぽを向くと、周防はニヤリと笑い、ようやく聴診器を手に取った。  

「でもさ、似てるよね。高校んとき、ももちんが好きだった中学生に」  

「あ? そうだったか?」  

「似てる似てる! あっちはもっと気品漂う、私立中の制服だったけどね」  

 楽しげに言いながら、体温計をそいつの脇に差し込む。  

「ちなみにどこで拾ったの? 相変わらず面倒見いいな~」  

「スクランブル交差点でぶつかってきたんだ。ふらふらしてたから、病気だろって連れてきただけ」  

 肩を竦めたタイミングで体温計がピピッと鳴り、周防が眉をひそめた。  

「病気もドストライクだよ。インフルエンザ。子どもらの間で流行ってるからね」  

「マジかよ……」

  

 予防接種はしてるが、感染しない保証はねえ。やべえな。  

「点滴と解熱剤の座薬、すぐ用意するよ」  

 周防が手際よく準備を始めるのを見ながら、俺は手を差し出した。  

「なに? 手伝うの?」  

「当たり前だろ。周防の昼休みを潰しちまったんだ。座薬くらいなら俺でもできる」  

 俺としては真剣に言ったのに、周防のやつはなぜか顔を赤らめる。  

「もしかして、ももちんのナニを座薬と一緒に」  

「アホか! インフル患者を襲うわけねえだろ!」  

 そいつのジーンズと下着を膝まで下ろし、ゴム手袋を手早くはめて、ワセリンを塗った座薬をさっと挿入してやった。  

「ん……っ、ぁ――」  

 つらそうな表情のまま、掠れた声が漏れる。  

「薬入れたからな。もうちょっと頑張れ」  

 ジーンズを履かせ直し、布団をかけてやる。その間に周防は点滴を準備し、細い腕に針を刺して液を調整。普段はなよっとした話し方だが、医者としての手際はさすがだ。思わず見惚れる。  

「よし、できた。……って、ももちん、じっと見すぎ! どうしたの?」  

「白衣ってだけで、カッコよさが2割増しだよな」  

「ふふ、でしょ? ももちんが白衣を着たら、ママさんたちが子どもを無理やり病気にして連れてきそう」  

 笑いながら肘でつついてくる周防。 

 

「隣の点滴室に移すから、ベッドを押してくれる?」  

「了解」  

 キャスターのロックを外し、ゆっくりベッドを移動させる。隣の部屋で椅子を引き寄せ、そいつのそばに腰掛けた。  

「ももちん、仕事はどうすんの?」  

「病人と接触しちまったし、今日はこのまま休む」

  

 うんざり気味に言うと、周防はなぜかニヤニヤした。

「じゃあ、なにかあったらナースコール押してね。襲っちゃダメだぞ~」  

 意味不明な忠告を残し、周防は病室を出て行った。  

「だから、病人襲わねえって!」  

 聞こえねえだろうけど、ついデカい声で叫んだ。

(……っと、病人がいるんだった )

 とりあえず仕事を休むために、編集長に連絡しなきゃと思い直し、病室を出て三木編集長に電話をかける。インフル患者を病院に運んだ話をした途端に、

「危険人物! 今日の用はねえ! とっとと帰れ!」  

 危険人物扱いになったことがおかしくて、苦笑いしながら電話を切り、病室に戻ると、そいつがうんうん唸ってる姿が目に留まった。

 

「おい、どうした? 苦しいのか?」  

 慌てて抱き起こすと、うっすら目を開けたそいつが掠れた声で呟く。  

「水……喉が、苦しくて」  

「わかった。すぐ持ってくる。ちょっと待ってろ」  

 自販機で水を買い、病室に戻る。ペットボトルの蓋を開け、抱き起こして手渡すが、そいつの手は震えてうまく持てない。  

「すみません。体が、言うこときかなくて」  

「しょうがねえ。こんな熱じゃな。飲ませてやる」  

 ペットボトルを口元に持っていくが、飲み込むのも辛そうだった。ちびちびしか飲めねえ。肩で荒い息をする姿を見て、このまま起こしてるのは可哀想に思える。

  

(――編集長、悪い。忙しい時に休むかも……)

  

「ちまちま飲むと体力使うぞ。目をつぶれ」  

「はい?」  

「いいから、言うこと聞け。なにも考えるな」  

 怪訝な顔で大きな瞳を閉じるそいつ。俺はペットボトルの水を口に含み、形のいい唇にそっと重ねた。そしてゆっくり水を流し込む。  

「っ……ん」

  驚いた様子だが、冷たい水を受け入れてくれる。  

「悪い。こっちのが楽だろ?」  

 零れた水を手で拭ってやると、そいつは熱のせいか、顔を真っ赤にして俯いた。  

「す、すみませんでした……見ず知らずなのに、こんなに世話かけて」  

「いいって。俺、桃瀬郁也。お前は?」  

「小田桐涼一です。助けてくれて……ありがとうございます」  

 水のおかげか、声が少しハッキリした。  

「まだ飲むか?」  

 俺が顔を覗くと小田桐は視線を泳がせ、なぜか俺の唇を見つめた。  

「遠慮すんな。飲めるときに飲んどけ」  

「じゃ、じゃあお願いします!」  

 慌てて両手で口を押さえる小田桐。素直で可愛い反応に、つい笑っちまう。  

「はは、素直なヤツは嫌いじゃねえよ」  

 頭をぐしゃっと撫でると、小田桐はますます赤くさせた。

  

「じゃ、さっきと同じ。目をつぶって」  

 今度はわかってるだけに、ぎゅっと目を閉じる。肩に力が入ってるのが見て取れた。

  

「おい、力抜けよ。唇、ちょっと開けてくれ」

  

 笑いながらお願いすると、言うとおりに体の力を抜く。そっと肩を抱き寄せ、唇を重ねた。冷たい水が流れ込み、触れ合う唇の感触に、俺まで少しドキリとした。 

 

 水を飲み終えて唇が離れる瞬間、小田桐の瞳が揺れる。 

 

「ん……っ?」

  水が止まり、ただ唇が触れ合ってる状態に、小田桐が小さく声を漏らす。俺はつい、角度を変えて唇を重ね、そっと舌を絡めた。  

「っ、んん!」  

 驚く小田桐の口に、ミントタブレットを滑り込ませる。  

「どうだ? ミンティア。熱で口の中が熱いだろ。スーパークール味、サービスな」  

「これ、わざわざ口移ししなくても……手で渡せば」

  小田桐がぼそっと呟く。確かにその通りだが、つい意地悪したくなった。  

「これくらいのサービス、受けてくれてもいいだろ」

「何かいろいろ、ありがとうございます」

  少し警戒した目で俺を見る小田桐。でも行き倒れを助けた俺を、悪い奴だとは思ってねえよな?  

「あのさ」  

「は、はい?」  

 なぜかビクッと体を竦ませる。怯えなくてもいいのに。

 「お前が持ってた緑泉社の封筒。ライトノベルの原稿だろ?」  

「はい、明日が締め切りで……速達で出そうとしたら倒れちゃって」  

「それさ、ウチのコンテストに出さねえ?」  

 背広のポケットから名刺を差し出す。  

「桃瀬さんって、ジュエリーノベルの編集者?」

  小田桐の目が驚きで丸くなる。  

「俺、人を見た目で判断できる。お前の顔、面白いもん書けそうなツラだ」  

「 作品を読まずにそんなこと……」  

「だから、ウチに出せよ。緑泉社の締め切り、間に合わねえだろ?」  

「でも――」  

「俺に頼めば、緑泉社に間に合うよう出してやる。けど、俺としてはウチに欲しい。どうする?」

  封筒を揺らしながら、小田桐の顔をじっと見つめた。俺の視線を感じて、目の前でゴクリと喉を鳴らす。

  「桃瀬さんは審査員なんですか?」  

「いや、今回は編集長と他の奴らがやる」  

「じゃあ……今ここでその原稿を読んで、感想を教えてください。そしたら、どこに出すか決めます」  

(――なるほど。面白いことを言うじゃねえか )

「編集者を試すなんて、いい度胸だな」  

「偶然の出会いに、賭けてみたくなっただけです」  

 小説家志望の小田桐と編集者の俺。偶然か、運命か。胸がざわつく。  

「わかった。読んでやる。覚悟しろよ」  

 笑いながら封筒を開け、原稿を取り出し、眼鏡をかける。小田桐がじっと俺を見つめる視線を感じながら、ページをめくり始めた。  

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