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万物研究会④

Penulis: 彩珠那由正
last update Tanggal publikasi: 2026-06-13 17:00:32

 万物研究会の室内は、シンプルな作りをしていた。部屋の広さは十四帖ほどで、中央には決して大きくはない、楕円形のテーブルが設置してある。その傍には、今まで使われていたと思われるパイプ椅子が二脚置いてあった。

 扉から見た部屋の右側にはプロジェクターや何冊かの本、紙コップが入った袋、給湯器、電動のコーヒーミル、その他にも色々なものが乱雑に置かれた備品棚がある。

 左側には教室でも使われている机と椅子が二つずつ並べられており、その上にはノートパソコンが一台ずつ置かれていた。

「珈琲を淹れよう。私はブラックなのだが、君たちはどうする?」

 白衣の女性からの質問に、俺は室内に巡らせていた視線を彼女へと向けてから答える。

「俺もブラックで良いです」

「私は砂糖ミルクいっぱい」

「いっぱいって、いくつだよ」

「いっぱいは、いっぱい。沢山」

 俺と神崎のやり取りを聞き、クスクスと笑みを零しながら白衣の女性は「砂糖とミルクはあるだけ出そう」と言って、右側の棚にあった用具類を用いて珈琲を淹れはじめた。

「そこのパイプ椅子に掛けて待っていてくれ」

 言われた通り、俺と神崎は中央に設置してあった椅子に腰かける。

 珈琲の良い香りが室内に漂い始めてからしばらくして、紙コップに入った珈琲が三つ白衣の女性によってテーブルの上に並べられた。

 神崎の前には、スティックタイプの砂糖とポーションミルクがいくつか盛ってある小さなバスケットも置かれた。

「珈琲の飲み方で判断するのは間違っているのかもしれないが、ブラックを楽しめる君とは気が合いそうだ」

 椅子を更にもう一脚用意した白衣の女性が、そこに腰かけると同時にそんなことを言ってきた。

「妃那美ともたまに話すのだが……ああ、妃那美というのは先ほど騒がしくバタバタと去っていた彼女のことなのだが、珈琲というのは香りを楽しむための嗜好品だろう? 砂糖やミルクの投入によって、その香りをぼやけさせてしまうというのが、私には理解が……」

「甘くて美味い」

 白衣の女性が話していた言葉の途中にも、珈琲にミルクや砂糖をドボドボと投入していた神崎が、それを一口啜った後に言った。

「君は妃那美と気が合いそうだ」

 どこか楽しそうな笑みを浮かべながら、白衣の女性はブラックの珈琲が入ったカップに口を付ける。そして、更に言葉を続けていく。

「さて、メッセージでは何度かやり取りしていたが、こうやって直接話をするのは学校説明会のとき以来だね。怜菜がこの高校に入学してくれて、かつこんなにも早くここに顔を出してくれるとは思っていなかったのでね、嬉しい限りだよ」

 ある程度、予想はしていた。

 やはりこの白衣の女性が、神崎の言っていた研究会の会長であるようだ。

「香月先輩の話、とても面白かったから。それに……」

 神崎の目が俺へと向けられる。

 その後、両手で包み込むように今や甘い汁と化した飲み物が入った紙コップを持った神崎の口から、続きの言葉が発せられることはなかった。

 それに……なんだというのだ。

 そこまで言ったのなら、最後まで言えよと文句を口に出そうとした。

 しかし、それは香月と呼ばれた先輩によって遮られた。

「君とは初対面になる訳だし、先ずは自己紹介をさせてほしい。私は香月小夜子《こうづきさよこ》。この高校に在籍する二年生で、この万物研究会の会長を務めている。ちなみに先ほどバタバタと去っていったのが、朝山妃那美《あさやまひなみ》。私の同級生で、この研究会のメンバーだ」

 そこで言葉を止めて、香月先輩は珈琲を口にしながらもこちらに視線を送り続ける。

 その目が、次は君の番だよと言っていた。

 彼女の言った通り、初対面同士であるのだから自己紹介はすべきだろう。

 そう思い、俺は口を開いた。

「岩倉優雨です。今年入学した一年で……ここには神崎の付き添いできました」

「やはり、そうか。君が岩倉君なのだね。初対面だと言っておきながらなんだが、実は私は君の事を知っていた」

 まるでネタばらしするように悪戯な笑みを浮かべて言った香月先輩の言葉に、俺の頭は疑問符で一杯になった。

「それは、なぜですか?」

「君のことは、怜菜から既に聞いていたからね」

 香月先輩の言葉に対し、神崎はカップに口を付けたまま無言でコクコクと頷いている。

 理由は本当に単純明快なものだったが、そういうことですかと納得することは出来なかった。

「なんで二人の会話に、俺が登場するんですか?」

「怜菜とは色々な話をしたからね。会話の流れで、というやつさ」

 その会話の流れというものを知りたいのだ。

 しかし、そこを詳しく教えてくれるつもりはないらしい。

 香月先輩は言葉を続ける。

「話を聞いて、是非とも君には一度会ってみたいと思っていたのだが、ここに岩倉くんを連れてきてくれたのは、そういった私の意を汲んでくれたというわけかな?」

 会話の矛先が、俺ではなく神崎へと向いた。

 神崎は手に持っていた紙コップを机に置いてから、香月先輩の質問に短く答える。

「それもある」

「それはまた、嬉しい限りだね。ちなみに今はどうなんだい?」

 その質問の意味が、俺には全く分からなかった。

 今はどうとは、何がどうなんだ?

 だが神崎には意味が通じたらしい、無言で静かに頷いていた。

「ほう……興味深いね、本当に」

「さっきから一体、何の話をしているんですか?」

「私と怜菜にとって、君はとても興味深い人間だという話さ」

「興味深いって、俺には特に二人の興味を引くような事なんて何もないと思うんですが。俺は至って普通の……」

 一瞬だけ、言葉に詰まる。

「普通の……どこにでもいる男子学生だと思います」

「そうかな? もしかしたら、そう思っているのは君だけかもしれない」

 そう言って不敵な笑みを浮かべる香月先輩に、俺は眉根を寄せることしか出来なかった。

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