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万物研究会②

last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-11 06:37:14

 入学式が終わり、配属された一年三組の教室。

 五十音順に割り振られた座席に座り、HRの時間が始まった。

 俺の苗字は岩倉なので、不幸な事に廊下側最前列の席となってしまった。

 どうやらこのクラスに(あ)から始まる生徒はいないらしい。

 そして、どうしても意識してしまう背後からの存在感。

 このクラスの名簿は、最初に(い)から始まり、次は(か)が続くようだった。

 担任の先生から今後のスケジュールについて記載されたプリントが手渡され、俺はそこから自分用のプリントを一枚だけ引き抜く。

 それから背後を向き、手元に残ったプリントを後ろにいる生徒……神崎怜菜へと渡した。

 プリントを受け取った神崎と目が合う。

 お前はいつまでその異質な虹彩を俺に向けているのかと、つい言いたくなってしまったが、そこは堪えてすぐに俺は前に向き直った。

 中学の間、神崎とは一度も同じクラスになったことがなかった。

 俺としては同じクラスに神崎がいると気が休まらない気持ちになるので、別のクラスで良かったとさえ思っていたのだ。

 それが高校入学を果たし、遂に同じクラスに配属されてしまった。

 変なちょっかいを掛けられなければ良いなと願うばかりだった。

 そんな俺の心配を他所に、入学式後のHRは滞りなく進んでいった。

 自己紹介をしたり、先生の話を聞いたり、配られた提出物や配布物などに目を通している内に、特に大きな問題が起きることもなく本日の学校での活動は終了となった。

 俺にとっての問題が起きたとすれば、後はもう家に帰るだけだと当てがわれた机の前で帰宅の準備を進めている最中でのことだった。

「岩倉君」

 後ろから、名前を呼ばれた。

 それが神崎の声であることは、すぐに分かった。

 振り返ると既に帰り支度を済ませたらしい、学生鞄を肩に掛けた状態でこちらを見つめる神崎の姿があった。

「何か用か?」

「このあと、何か予定ある?」

 神崎とこうやって、まともに会話すること自体が珍しい出来事だった。

 俺は少々面喰いながらも答える。

「特に用はないけど」

「用がないなら、付いてきてほしいところがある」

「付いてきてほしいところ? どこだよ」

「向かう途中に説明する」

 すぐに目的地を教えて欲しい所だったが、神崎はHRが終わり騒々しさを増した教室内でそれを話すつもりは無いようだ。

 神崎がそうしているように学生鞄を肩に掛けてから、廊下に視線を移す。

 それを合図としたように神崎は一度頷いた後、廊下の方へと歩いていく。

 俺は彼女の後に付いて教室を後にし、どこだか分からない目的地へと足を向けた。

 一度校舎から外に出た後、俺と神崎は校舎とは別に屋外施設として建造されている部室棟の中へと入っていった。

 そこまでの道中、神崎は簡単に今から向かう場所の説明をしてくれた。

 その説明を要約すると、神崎には在校生の中に会いたい人がいるらしい。

 その人がこの高校で会長を務めている、とある研究会に顔を出してみたいとのことだった。

 そもそも神崎がこの高校への入学を決意したのは、学校説明会でその会長に出会い、話をした事が起因となっているらしい。

 そんなの、一人で行けよ。

 なんで俺が、それに付き合わなくちゃいけないんだ。

 そんな風にして、突っぱねる事も出来たのだろう。

 しかし、神崎からこのようなお願いをされるなんてことは、今まで一度もなかったのだ。

 その珍しさもあり、俺はこうやって素直に神崎の後を付いて歩いていた。

 部室棟一階の廊下を、奥へ奥へと進んでいく。

 その廊下は昼間でもどこか薄暗く、奥へと進むほどに静寂が深まっていくような気がした。

 窓から差し込む光が床にまだら模様を作っていたが、廊下の奥へ進むにつれて、それも次第に細く頼りなくなっていく。

 壁際には古びた掲示板があり、もう誰も読まないであろう紙が黄ばんだまま貼り付けられている。

 俺と神崎の足音が響く度に、空気に沈んでいた埃がわずかに舞い上がるのが分かった。

「私がこの高校に入学した理由は、それだけじゃないんだけど」

 唐突に、こちらを振り向くこともなく、神崎が歩みを止めずに言った。

「他にも何か理由があるのか?」

「うん……一番の理由は貴方」

「……」

 その言葉の意味を、深読みしても良いのだろうか。

 いや、やめておいた方が良いだろう。

 同じクラスになったのだ。

 何を考えているかもよく分からない神崎の言動に一々振り回されていては、この先やっていけない。

「……で、その研究会というのは何の研究をしている会なんだ?」

 何でそう思ったのかは分からないが、この話題を続けるのはよくないと判断して、話を逸らした。

「私がその時に聞いた話だと、研究対象は何でも良いと言っていた」

「ん? 特に決まってないってことか?」

「全員で何か一つの事に対して研究をするのではなくて、各々が選択したテーマを自由に研究する会だって」

 それを聞いて俺の脳裏に浮かんだのは、小学生の時に行った夏休みの自由研究だった。

 俺は人の目の構造に興味があったので、それについて本で調べたりしたことをよく覚えている。

「夏休みの自由研究みたいな事をしてるのか?」

「うん。まあ、そんな感じだと思う。会長の研究テーマについてはその時に少し話を聞いたんだけど……面白かった。それに興味も沸いた」

「へえ。それはどんな」

 研究テーマなのかと聞こうとした所で、神崎が廊下の最奥にあった扉の前で足を止めた。

 俺はその横に並び、扉に貼ってある用紙の文字に目を走らせる。

 そこには、こう書かれていた。

【万物研究会】

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