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1-8.浄血!(3/3)

last update Last Updated: 2025-07-13 17:49:53
 あたしは十六夜とその子を残してゲーム部の部室を飛び出した。最初に思い浮かんだのは響先生だった。今の状況で保健の先生ということもあったが、この間のセッションの時の「最近あれが流行ってるから」という言葉が頭に残っていたからだ。

 医務室に行くと響先生は遊佐先生とお茶を飲んでいた。そこに血相を変えたあたしが飛び込んで来たものだから、遊佐先生は驚きすぎて手にした紙コップを放り投げてしまった。慌てて床をティッシュで拭きだした遊佐先生を尻目に響先生に状況説明をすると、遊佐先生は響先生を指さし、

「カリン、やっぱりあんた!」

「いいからセイラは救急車呼んで」

 そういうと響先生は救急箱をひっつかんで医務室を出た。

 響先生を連れてゲーム部に戻ると、十六夜はどこからか持ってきた糸鋸で三つ編みの子の手錠の鎖を切ろうとしているところだった。

 響先生は十六夜に変って三つ編みの子の前にしゃがんで容態を診る。

「前園さん、止血の処置ありがとう。意識はもうろうとしてるけど心拍は落ち着いてて大丈夫。救急車もすぐ来るから二人は教室に戻りなさい」

 響先生に言われて十六夜はあたしと一緒に部室の外に出た。廊下を歩いていると、教務棟から数人の先生が走って来てゲーム部の部室に入って行った。

「何があったんだろ」

 あたしがそう言うと、

「チブクロの奴らっぽい」

 十六夜の説明では、チブクロというのは伝説のゲームアイドル、夜野まひるのファン集団のこと。夜野まひるは20年以上前にライブツアー中に搭乗機が墜落して遭難死したけれど、その後、彼女の復活を信じるファンがカルト化したということだった。

「奴らは夜野まひるが復活するためには自分たちの穢れた血を浄化しなければならないと考えてる」

「ブラレで浄血? なんか変」

 汚い血を出しただけではダメなんじゃ? 綺麗な血と入れ替えないと。

「理屈は分からないけどね」

 それにしてもゲームとかやらない十六夜がなんでそんなこと知ってるんだろう。十六夜はあたしの思う事が分かったのかリング端末からホロ画面を表示させて、

「夏波が響先生呼びに行ってる間、チャットAIに『浄血!って何?』って聞いみた」

 とチャットのページを見せてくれた。そこには今しがた十六夜が言った内容が詳しく説明されていた。さらに丁寧にも、夜野まひるの復活というのはファ
夜野たけりゅぬ

読者の皆様、いつも本当にありがとうございます 明日(7/14)の更新は 3回(朝7時、昼12時、19時)です 夏波は調べ物をしに図書館の鞠野文庫へ 最新の更新情報については X(@yorunotakeryunu)もご参照ください よろしくお願いします(* ˊᵕˋㅅ)

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