遺跡調査の現場で板床とかタイルとかじゃない土の上の雨水をスポンジで拭き取る作業を皆さんと一緒にした。
最初のうちは爆心地の至る所に水溜まりがあるからこれが永遠に続くかと思ったけれど、案外すぐに片づいた。
深か掘った遺構の中に溜まった水をポンプで抜く作業とスポンジでは無理な穴の排水が残った。
ポンプはブクロ親方の指示の元、ユンボくん改め豆蔵くんと小ユンボくん改め定吉くんが担当した。
豆蔵くんは泥水の中に浸かってポンプが詰らないように素手で纏わり付いた泥を拭っている。
定吉くんは底に溜まったヘドロをエンピで掬い上げて遺構の外に出しているけれどそれはいくらやっても終わりそうになかった。
もともと日本庭園で池水があったということは水はけが悪い場所な上、雨水だけでなくどこからともなく水が湧き出すため、なかなか減っていかないようだった。
その間、冬凪とあたしは小ぶりの遺構の水を排水する作業に当たった。
スポンジで掻き出すには水量が多すぎるけれどポンプを使うほどでも無いものだ。そこから
真夏の太陽が照りつけ流れる水がギラギラ輝いてやたら眩しい。
最初のうちはうまくいっていたけれど、方々から水が低所に集まっていっぱいになり流れなくなってしまった。
気温も上昇して汗が噴き出し体力が奪われていく。
全体の水はけ状態を見ていた赤さんが江本さんに、
「ティリ姉、あそこをカマバにしようか」
とあたしたちの遺構の、さらに下流あたりを指して言った。
「カマバ?」
冬凪に聞くと、
「深めに掘って水を流し込む場所のこと」
「釜場」と書くのだそう。
冬凪とあたしも一旦排水の作業を止めて江本さんのお手伝いをすることにした。
江本さんは水浸しになって釜場を掘りながら、
「ナギちゃんやナミちゃんはBLとかって好き?」
江本さんいきなりなんですか? 読んだことはあるけど腐女子って言えるほどではないので、
「「よくは知らない
冬凪とあたしは待機時間を使ってまゆまゆさんに会いに行くことにした。辻川ひまわりの行動についてまゆまゆさんたちが何か知っているかもと思ったからだった。呼ばれもしないのに行っていいのかと冬凪に聞くと、「別にいいんだよ。あたしもフィールドワークのためだけに何度かジャンプをお願いしたことあるし」爆心地を出て竹林の小道を歩いていると後ろから誰かが付いてくる足音がした。振り返ると豆蔵くんと定吉くんだった。冬凪が、「どうしたの?」と聞くと、「ううう」と豆蔵くんは唸って手にしたカバンの中から真っ赤な入れ物を取りだして見せた。それに会わせて定吉くんも袈裟懸けバッグから同じものを出した。血液袋のようだった。「そうなんだ。ありがとう」冬凪の通訳によると、前回一回の浄血で貧血になってしまい惑星スイングバイについて行かれなかったから事前にこうして用意してきてくれたのだそう。鬼子である冬凪もあたしも浄血に耐性があったけれど、生身の人間? である豆蔵くんと定吉くんには連続ジャンプは無理だったのだ。「でも、これから飛ぶわけじゃないから付いてこなくていいよ」と言っても豆蔵くんも定吉くんも聞かなかった。その先に何が待ち構えているか分からないのに、向こう見ずというか従順というか。夕霧物語でアラビア人の3人と別れ話をした時の伊左衛門もこんな気持ちだったのかもしれないと思った。白漆喰の土蔵の扉の前に立ったらすでに少し開いていた。中に入ると異常が起きたことがすぐに分かった。いつも正面奥に鎮座している白市松人形の姿が無かったから。豆蔵くんと定吉くんがシャムシールの鞘を払って冬凪とあたしの前に出る。豆蔵くんの背中に力が入りビシッと音をたてた。さらに奥に進むと白市松人形はあったにはあったけれど上半身が破壊されて、中の空間がむき出しになっていたのだった。「「まゆまゆさん!」」冬凪とあたしは大声で二人を呼んだ。でも返事
釜場を掘り終わり、冬凪とあたしが担当した水溜まりの水が捌けて最初の休憩になった。冬凪とハウスに戻りながら、「なんか疲れた」「あたしも」 江本さんとの作業は別の意味でエネルギーを吸い取られるので倍疲れるのだった。エネルギーヴァンパイアとはこういう人のことをいうのだろう。冬凪とあたしはハウスの日陰に座って排水作業があらかた終わった爆心地を眺めていた。すると赤さん初め調査員の人たちがワタワタと白い防護シートの外に出て行くのが見えた。なんだろうと見ていると、「お客さんが来たみたいね」江本さんがそちらを眺めながら教えてくれた。それからすぐ、赤さんに誘導されてマットブラックのゲレンデが爆心地に浸入してきた。ゲレンデがハウスの前まで来ると停車して、中から黒い日傘を差した黒服サングラスの一団が出てきた。その中に守られている赤い服の女性は、「帰ってきた」辻川町長だ。黒服サングラスのSPたちは辻女の時より人数が二人多かった。この真夏の太陽の下、日光を避けるのは相当大変だろうと思われた。「辻川町長が何の用かな」「ここの元請けは辻沢町だから町長が来てもおかしくはないけれど、今までこんなことはなかった」辻川町長を中心に置いた黒い亀甲陣形は、赤さんと少しやりとりすると一緒ににユンボが置いてある土山の所へ向った。そして何か指示を出しているらしく赤さんはしきりに頭を下げていた。亀甲陣形は再びゲレンデに戻ってくると、そのまま中に収まって爆心地を出て行ったのだった。赤さんが不機嫌そうな顔をしてハウスの所に戻ってくると、「皆さん。午後まで待機してください。土山をどかして地面を晒すことになりましたので」赤さんは調査員の佐々木さんと曽根さんに土山をどかす先を指示してハウスの中に閉じこもってしまったのだった。「辻川町長は人柱をブッコ抜くつもりだ」冬凪に言うと、「きっとそうだね」
遺跡調査の現場で板床とかタイルとかじゃない土の上の雨水をスポンジで拭き取る作業を皆さんと一緒にした。最初のうちは爆心地の至る所に水溜まりがあるからこれが永遠に続くかと思ったけれど、案外すぐに片づいた。深か掘った遺構の中に溜まった水をポンプで抜く作業とスポンジでは無理な穴の排水が残った。ポンプはブクロ親方の指示の元、ユンボくん改め豆蔵くんと小ユンボくん改め定吉くんが担当した。豆蔵くんは泥水の中に浸かってポンプが詰らないように素手で纏わり付いた泥を拭っている。定吉くんは底に溜まったヘドロをエンピで掬い上げて遺構の外に出しているけれどそれはいくらやっても終わりそうになかった。もともと日本庭園で池水があったということは水はけが悪い場所な上、雨水だけでなくどこからともなく水が湧き出すため、なかなか減っていかないようだった。その間、冬凪とあたしは小ぶりの遺構の水を排水する作業に当たった。スポンジで掻き出すには水量が多すぎるけれどポンプを使うほどでも無いものだ。そこから水道と言って即席の側溝を作り低所に流し排水する。真夏の太陽が照りつけ流れる水がギラギラ輝いてやたら眩しい。最初のうちはうまくいっていたけれど、方々から水が低所に集まっていっぱいになり流れなくなってしまった。気温も上昇して汗が噴き出し体力が奪われていく。全体の水はけ状態を見ていた赤さんが江本さんに、「ティリ姉、あそこをカマバにしようか」とあたしたちの遺構の、さらに下流あたりを指して言った。「カマバ?」冬凪に聞くと、「深めに掘って水を流し込む場所のこと」「釜場」と書くのだそう。冬凪とあたしも一旦排水の作業を止めて江本さんのお手伝いをすることにした。 江本さんは水浸しになって釜場を掘りながら、「ナギちゃんやナミちゃんはBLとかって好き?」江本さんいきなりなんですか? 読んだことはあるけど腐女子って言えるほどではないので、「「よくは知らない
朝。ピーカンだった。雨止んでるよ。ワンちゃんバイトなしかと思ったけれど、そんなに甘くなかった。 朝ご飯を食べてる時、冬凪に十六夜の妊娠について話してみた。クロエちゃんは時差ボケらしくまだ起きていないよう。「何か感じてた?」「全然。むしろ良くなってると思ってた」 やっぱりそうだ。十六夜にエニシの赤い糸が繋がった冬凪も同じだった。とんでもない事が起こっているはずなのに、冬凪もあたしも焦る気分にならないのだった。十六夜が幸せならそれでいい。仲の良い友だちが出産するってこんな気持ちなのかも。 六道辻に着いて竹垣の道を歩いていると、行く手に小さな体で大きなリュックを担いでせっせと歩く人がいた。江本さんだった。すぐに追いついて、「「おはようございます」」 と挨拶すると、いつもより少し沈んだ声で、「ナギちゃんにナミちゃん。おはよう。今日の現場は大変よ」 冬凪に同意を求めるように言った。「雨で足場が悪いし、土が重くなってますもんね」「水が出ると始末が悪いよ。ホント、今日は休みたかった」 それから朝礼までずっと江本さんは「帰りたい」とか「来なきゃ良かった」と小声で言い続けていた。 9時になって朝礼が始まった。赤さんが、「今日は水が出てますので、まずそれを綺麗にしてから、精査。その後掘削に入ります。午前中はそれでいっぱいいっぱいでしょう。足下ゆるいですから、滑らないように気をつけてください。それでは、今日も一日、ご安全に」「「「「「「「「「「ご安全に」」」」」」」」」」 皆さん道具置き場に集まって最初に手にしたのはスポンジが入ったバケツとひしゃくだった。「あれで何するの?」冬凪に聞くと、「溜まった水全部、排水して綺麗にするんだよ。大きいところはポンプ使うけれど、水たまりレベルは全部、皆んなでひしゃくとスポンジ使って掻い出すの」 マジか?「あの水全部スポンジで吸い取るってこと?」
20年前の辻沢で作左衛門さんは言っていた。(まあ、二人とも苦労が多いよ。辻川はDV野郎でひまわりの体は痣だらけだったって聞いたし、千福はエロじじーで毎晩風呂場を覗きにくるっていうしね。こう言っちゃあ何だが、まゆまゆたちだって誰の子かわかたもんじゃない。鶴亀鶴亀)「そうです」 高倉さんは何を肯定したのか。そろそろあたしも分かって来たのだけれど高倉さんはあたしの心の中を覗いて話をしている。だから率直に、「誰の子なんですか?」 十六夜を妊娠させたのはいったい誰だ。そんな悲惨なことは考えるのも嫌だけれど、十六夜のこの状態ならこの屋敷に出入りする全ての男が容疑者になる。けれど高倉さんは全く違う説明をした。そもそもこの部屋に入れるのは医者と高倉さんだけで、十六夜がVRブースに拘束されてからずっとこの部屋は監視されていて、そのような事は起きた記録はない。それ以前に交渉があったかといえば、最初の検査の段階で見つかっていないのだからそれもない。実は、このような状態になったのは昨日の昼すぎ突然だったのだそう。それで改めて検査したところ、「胎児の姿が」 高倉さんが正面の大型モニターを指した。するとそこにエコー画像が表示されて赤ちゃんの姿が映し出されのだけれど、すでに人と分かる姿をしていた。でも、その赤ちゃんは変だった。首の周りに何かが巻き付いていたのだ。保健で響先生が妊娠出産のことを教えてくれたけれど、その時雑談でしたへその緒が首に巻き付いて出てきた赤ちゃんの話を思いだした。でも、それはへその緒とは違って形がハッキリとしていた。それは荒縄だった。胎児の首に荒縄が巻き付いていた。「これって、もしかして」「そうです。十六夜様は神の子を授かりました」 ―――十六夜は志野婦を身ごもっていたのだった。〈♪ゴリゴリーン〉 耳元でアラームが鳴った。しばらく状況が呑み込め
冬凪との作戦会議の後、自分の部屋に戻ってVRギアに火を入れた。リング端末をかざしてまゆまゆさんのバッキバキのスマフォからダウンロードした六道園の動画を取り込んむ。ゼンアミさんにも見て貰うので、ホロ動画変換ツールの「ゴリゴリ鳥」(デファクトの「ホロホロ鳥」をYSSがパクった)を使って向こうで撮った複数の動画から立体ホロ動画を生成する。このツールは2D動画から焦点深度を計算して自動3D化した上でホロ動画を生成する優れものだ(パクりだけども)。より多くの動画を合成することで精度もあがる。出来上がるのに少々時間が掛かるので、その間にVRギアのメッセージをチェックする。それほど多くないメッセージをスライドしていると気になる差出人のものがあった。十六夜からだった。最初は連絡が出来るまで回復したのかと沸いたけれど、すぐにそんなはずはないと思い返した。あたしがここを留守にしていたのはたったの一日なのだ。20年前の辻沢では一月近く経過したようだけれど、こちらの時間で言えば昨日の朝に出て夕方帰ってきただけだった。その後、クロエちゃんと山の中の鬼子神社に泊まり、次の朝に四ツ辻まで山道を歩き紫子さん宅でお世話になって、夕方ブクロ親方のポルシェで藤野家に帰ってきたのだった。 メッセージを開けて待っていると真っ白い空間に和装の人が現れた。相変わらず真下を覗き込むような姿勢でいるのは高倉さんだ。「こんばんは。高倉さん、胸を張って正面を見てください」 高倉さんは言われたとおりにして、「あ、藤野夏波様。こんばんは。今日は見ていただきたいことがあってご連絡差し上げました」 きっと十六夜の容態のことだと思ったけれどそれほど不安には思わなかった。なぜなら、赤いエニシから伝わってくる十六夜の気持ちは平常だったから。「十六夜のことですね。見せてください」「では、ご一緒にどうぞ」 すると真っ白い空間が大きなベッドがある十六夜の部屋に変わった。高倉さんが立っているのは、VRル