LOGINジュハが再びこの家に戻ってきてから、三日が経った。
二人の間には、相変わらず気まずい沈黙が漂っていた。
以前なら、たとえ静かでも心地よい空白の時間だった。
けれど今は、どちらもあえて先に口を開こうとしない、居心地の悪い空気が流れていた。
ジュハがたまに口を開いても、そのほとんどは気まぐれな命令くらいだった。
以前のように冗談を交わすことも、まったくない。
そもそもそんな雰囲気ではなかったし、彼のほうにもそのつもりはないようだった。
いつもおしゃべりしていたジュハが、ひたすら課題ばかりやっているのだから、それも当然なのかもしれない。
せいぜい意地悪をして、彼を困らせるくらい。
もちろん、彼はそんな時間さえ好きだった。
意地悪でも、嫌がらせでも、気まぐれでも。
ジュハが自分に関心を向けてくれるその瞬間だけを待ちながらなら、一日中だって立っていられた。
「んー。日差しが眩しい」
「ブラインドを下ろしましょう
「切ったんですか?」ジュハは手を確認するより先に尋ねた。三人の身体が目に見えて震えた。嘘もまともにつけないくせに、どうしてそこまで必死に隠そうとするのか。「す、すみません。ち、血、血はついてませんから」「誰がそんなこと心配してるんですか」ジュハは眉間にぐっと皺を寄せた。近づくなり腕をぐいっと引き寄せ、その手を確認する。かなり長く切ったらしく、傷口からは血がだらだらと流れていた。「なんで隠すんですか」「いや、その、ええと……」迷惑をかけてしまったとでもいうように、おろおろしている男たちを見て、ジュハはため息をついた。彼女としては、あくまで手を借りるつもりで呼んだだけだった。それなのに彼らは、とんでもなく重大な命令でも受けたかのような雰囲気だ。自分の説明が足りなかったのだと気づいた。「これはただの大学の課題です。手伝ってもらおうと思ってお願いしただけです。それに、そうじゃなかったとしても、人が怪我したらそっちが最優先でしょう。普通は」きっぱりとした声。さも当然のことを言っているだけの口調だった。けれど彼らには、なぜかそれがひどく温かく聞こえた。「とりあえず止血してください。救急箱があるなら持ってきて」ジュハに言われ、別の部下が慌てて救急箱を探して持ってきた。しかし、それをジュハに差し出す段になると、少しためらうような素振りを見せた。『ジュハが直々に手当てをした』その事実をボスが知ったとき、あとでどうなるのかが恐ろしかったのだ。「そ、その、俺たちでやりますから……」ジュハは何も言わず、男を見つめた。その視線を受けた男は、大人しく救急箱を置いた。なるほど。指一本動かさずに組織のボスを動かす人間らしい眼差しだった。ジュハは慣れた手つきで消毒薬を塗り、絆創膏を貼
ジュハが再びこの家に戻ってきてから、三日が経った。二人の間には、相変わらず気まずい沈黙が漂っていた。以前なら、たとえ静かでも心地よい空白の時間だった。けれど今は、どちらもあえて先に口を開こうとしない、居心地の悪い空気が流れていた。ジュハがたまに口を開いても、そのほとんどは気まぐれな命令くらいだった。以前のように冗談を交わすことも、まったくない。そもそもそんな雰囲気ではなかったし、彼のほうにもそのつもりはないようだった。いつもおしゃべりしていたジュハが、ひたすら課題ばかりやっているのだから、それも当然なのかもしれない。せいぜい意地悪をして、彼を困らせるくらい。もちろん、彼はそんな時間さえ好きだった。意地悪でも、嫌がらせでも、気まぐれでも。ジュハが自分に関心を向けてくれるその瞬間だけを待ちながらなら、一日中だって立っていられた。「んー。日差しが眩しい」「ブラインドを下ろしましょうか?」「いや。ここ来て、ちょっと立ってて」日除け代わりに使うと言われているのに、まるで気にした様子もなく、指差された場所に立つ。そんな姿を見ていると、また胸の奥が込み上げるような気分になった。なぜ彼が自分の命令に従えば従うほど、気持ちが沈んでいくのか。ジュハにはもう、はっきりとわかっていた。時間が経つほど、その答えは鮮明になっていくようだった。好きでもない相手の命令を、ここまで何でも聞いている理由。「一歩後ろ」「はい」「違う。もうちょっと左」「はい」ジュハは彼を見ることすらせず、まるでロボットでも操作するように命令した。もちろん、彼はその言葉に忠実に従った。窓の外からその様子を目にした部下二人は、少し気の毒そうな顔をしていたが、そんなことはジュハも彼も知らなかった。「……」いつの間にか日差しのことなど忘れ、
「……」再び沈黙が流れた。ノートパソコンの上で指は忙しなく動いていたが、ジュハの頭の中はまったく別のことでいっぱいだった。この家に戻ってきたのは、あんな惨めな話を聞かされても、まだ彼のことが好きだったからだ。惚れたほうが負け、なんてよく言うし。もちろん、その決断には彼女なりの計算もあった。彼が自分を本気で好きなわけではないとしても、少なくとも自分の『身体』を欲しがっている。それを武器にして、どうにか彼をこの手で握って振り回してやろう。そう決意して戻ってきたのだ。けれど、いつにも増して小さくなり、従順に言うことを聞く彼を見ていると、どうしても妙な気分になった。ふと、奇妙な考えが頭をよぎったからだ。もしかすると、彼が心の底から求めているのは『ジュハ』という人間そのものではなく、自分に命令を下してくれる絶対的な存在なのではないか。しばらく考え込んだ末、ジュハは再び口を開いた。「なんかおやつ」「あ、じゃあ……少しだけ席を外してもいいですか?」そんなことまでいちいち許可を取るのかと思った。だが、運動するとき以外は自分についてこいと言ったのはジュハ自身だ。何も言わず、素直に頷いた。「うん」「あ、はい……!」断られたときよりもずっとほっとした顔で、彼は勢いよく立ち上がると、慌ただしく姿を消した。何をあんなに嬉しそうにしているのか、ジュハにはわからなかった。彼はただ、彼女が自分を呼んでくれたことに安堵していた。少なくとも、そばにいるだけの背景のようには扱われていない。どこかしらに、自分にも使い道があるということのように思えた。彼女の役に立てるのなら、どれほど些細なことだって構わなかった。そのまま食堂まで駆けるように向かうと、すぐさまスタッフたちを急かした。「普段好きだっ
いつの間にか、二人はドヒョクの部屋へと移っていた。部屋に入るなり、再び跪いて座ったドヒョクを見ながら、ジュハはしばし考え込んだ。ちゃんと眠っていたのか、きちんと食事はしていたのか。彼の様子を細かく確認することも忘れなかった。ドヒョクはわずかに目を伏せたまま、ただ黙っていた。目の下にはかなり濃い隈ができていて、目そのものもひどく窪んで見えた。これまでギチャンから聞かされていた報告が、どれも嘘ではなかったのだとわかる。「もともと、一日に何時間くらい運動してたの?」「え……? あ……二時間くらいです……」唐突な質問にも、ドヒョクは真面目に答えた。ジュハがなぜそんなことを聞くのか、彼にはわからなかった。それでも彼女が聞いているのだから、理由などどうでもよかった。彼は自分にできる限り、ひたすら低姿勢でいようとしていた。大きな身体を縮こまらせ、少しでも小さく見せることも忘れない。そんなことをしたところで、その巨体がどこかへ消えるわけでもないのに。「毎日二時間、運動して。それ以外は絶対に私についてきて。後ろから」「はい。あ、ありがとうございます。ついていきます……!」ついてくるなと言われたとしても、ありがたく受け入れて、隠れるように大人しく過ごすつもりだった。それなのに、ついてこいという命令など簡単すぎるうえに、嬉しいだけだった。ドヒョクは思わず頭を下げていた。ジュハは心の中でため息を飲み込んだ。本当は彼女自身にもわからなかった。これからどうすればいいのか。二人がこれからどうなるのか。ただ一か月。それくらいの猶予を、自分に与えてみることにしただけだった。気持ちを断ち切るにしても。そうでないにしても。「課題やりに行くけど、運動してくる?」
「ご、ご主人様……!」「誰が勝手にそう呼んでいいって言ったの?」ジュハは冷たい声で言いながら、庭へと足を踏み入れた。本邸で暮らしている人間は、ドヒョクとジュハを含めて全部で五十五人。ギチャンを除いた五十四人が全員集まっていた。けれど、口を開いているのはドヒョクとジュハだけだった。他の者たちは、まるでそこにいないかのように静かに立っていたからだ。ジュハもドヒョクも、他の者たちのことなど気にしてはいなかった。ドヒョクは、彼女がまた自分にタメ口で話してくれているという事実だけで胸がいっぱいになった。あの日、あまりにも冷たく丁寧な言葉を向けられたことを覚えていたから。いや、そもそも彼女がもう一度この場所に足を踏み入れてくれた。それだけで十分だった。今の彼にとって、それ以上に大切なことなどなかった。ジュハの視線がちらりと下へ向かうと、ドヒョクの視線も自然とそれを追った。少し前、庭に靴を置いて出て行ってしまったせいか、ジュハの足にはどこで手に入れたのかわからない、くたびれたサンダルが引っかかっていた。自分のくだらないプライドのせいで、ジュハをこんな格好で歩き回らせてしまった。その罪悪感が、胸を鋭く刺した。「す、みません……悪かったです……俺が……」ジュハは謝るドヒョクを、そこでようやく見た。ギチャンが言っていた通り、ドヒョクはまともに食事もしていなかったような顔をしていた。数週間のうちにかなり痩せ、もともとシャープだった顎のラインがさらに鋭くなっている。だからといってみすぼらしくなったわけではなく、どこか訳ありの男のように見えた。妙に痛々しく見えるのは、いつも飄々としていた顔から笑みが完全に消えているせいかもしれなかった。「少しは反省した?」ジュハは、自分の声がどれほど平然として聞こえるのかを確かめるように尋ねた。ド
「あの……」ギチャンはどう切り出せばいいのかわからず、しばらく口ごもった。ジュハが言っていた三日が経った。その間は前もって言うなと言われていたから、今日は伝えなければならなかった。けれど思うように口が開かなかった。単に戻ってくるという話ではなく、全員を集めろという話なのだから。「何だ」ドヒョクの目が険しく光った。ここ数週間、ギチャンは一度たりとも報告に来なかった。それはジュハに危険なことが何もなかったという意味だった。だから逆に、こうして報告に来たということは、彼女に何かあったということ。ドヒョクは今にも飛び出していきそうな勢いで、ギチャンに一歩詰め寄った。「いや、その、違います。えっと、ヌニムが、集合……! するようにと……その……全員……」生きていれば、まさか自分の口から『全員集合』を伝える日が来るとは。ギチャンはどもりながら、どうにか言い切った。ジュハからの伝言だとはいえ、内容が内容だった。平然と言えるはずもない。ドヒョクも、その言葉を理解するのに時間がかかったのか、しばらく動きを止めていた。「……何?」「今日、来られる……そうです……あとで、お迎えに行こうと思ってまして……俺が……」「何時に……いや、お前はもう行け」ギチャンが顔色を窺いながらようやく言うと、ドヒョクは手を振って追い払った。そして、今まで死にかけていた人間とは到底思えないほど素早い動きで、どこかへ向
「どう? 家族の借金は少しあるけど、学校の先生だ。 悪くないだろ?」 何が「どう」なのか。 ドヒョクはソンミンの手から酒瓶を取り上げ、自分でグラスへ酒を注いだ。 そして、一気に飲み干す。 少し酒が入れば、昨夜と同じ状態になるかもしれない。 そんな考えが頭をよぎる。「今までとはちょっと違うタイプを集めてみたんだけど?」 だが、ドヒョクの隣へ座った相手は、目を合わせることすらできず小さく震えていた。 別にここで誰かと関係を持つつもりで
ドヒョクは、その十一桁の電話番号をじっと見つめていた。 名前を登録しようにも、何と保存すればいいのか分からない。 昨夜は、酔い潰れるほど飲んだわけではない。 それでも朝になると、ようやく頭が冷えてきた気がした。 そもそも、なぜ番号を聞いたのか。 自分でもはっきり覚えていない。 あの女と、この先どうするつもりだったのか。 昨夜のことは、ちょっとしたハプニングとして終わらせればいい。 そう自分に言い聞かせながら、ベッドを降りた。 もしかすると、昨日
「もう、今にもイきそうですけど」「そんなわけない」 軽い挑発のつもりだった。 平然と言い返したつもりなのだろうが、その声は少しも格好よくなかった。 思った以上に震えていたからだ。 緊張しているようには見えなかった。 それでも、その声を聞いた途端、ジュハは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。「そうですか?」 その一言が、ひどく挑発的に聞こえた。 どこまで耐えられるか試してみる、とでも言いたげに。 ドヒョクは少し意地になった。 だが、酒の入った身体は意思とは裏腹に勝手な反応を始める。 ここ数年、まともな性行為から遠ざかっていたせいかもしれない。 ――いや。 そんなものは
ジュハは、新学期初日からかなり酒を飲んでいた。 五年制の建築学科も、いよいよ最後の後期。 卒業制作の展示会も終わり、あとは卒業論文を書くだけ。 長かった学生生活も、ようやく終わる。 そう思うと、なぜだか無性に酒が飲みたくなった。 大学生活四年半の間、ここまで飲んだことは一度もない。 建築学科は酒を飲む人が多いイメージだったが、ジュハ自身は酒を好まなかったため、そこまで飲む機会もなかったのだ。 だから、その日の彼女は珍しく酔っていた。 道で大柄な男とぶつかったとき、何も考えず軽く頭を下げて謝ったのも、そのせいだった。「謝り方にしては、ずいぶん適当だな?」 そう言われ、ジュ







