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第6話

Auteur: イチゴエッグタルト
その日、理翔は陽葵の意志を無視し、無理やり彼女を連れ出した。

海岸に着くと、理翔は自らクルーザーの舵を握った。広々とした甲板には、彼ら三人の姿しかなかった。

乗船した時から、陽葵は終始冷徹な表情を崩さず、一言も発しなかった。そんな彼女に、柚乃が歩み寄る。

「陽葵さん、あの日は助けてくれてありがとう。陽葵さんがいなかったら、ひどい怪我をしてたのは私だったかもしれないね」

陽葵は冷ややかな一瞥をくれただけで、何も答えなかった。

柚乃の顔に、すぐさま被害者を装うような、しおらしい色が浮かぶ。「陽葵さん、まだ怒ってるの?」

そこへ理翔がやってきた。柚乃の弱々しい声を聞いた途端、彼は不快そうに眉根を寄せた。「陽葵、せっかく遊びに来たんだ。そんな反吐が出るような不機嫌な面を見せるな」

陽葵は依然として口を閉ざしたままだ。

理翔の顔色が沈み、柚乃の手を引いた。「柚乃、放っておけ。おいで、クルーザーの操縦を教えてやるよ」

二人は肩を並べて操縦室へと向かった。理翔は後ろから柚乃の腰を抱き、手取り足取り舵輪の扱いを教える。触れ合う指先、囁き合う笑い声――そこには隠そうともしない睦まじさがあふれていた。

やがてコツを掴んだ柚乃が、自分一人でやりたいと言い張った。彼女が思うままに舵輪を回すせいで、クルーザーは海面をのたうつように暴走し、あちこちへ横滑りを始めた。

だが、理翔はそれを止めるどころか、傍らで愛おしそうに彼女を見つめ、甘やかすような笑みさえ浮かべていた。

船首が前方の暗礁に激突しそうになった瞬間、陽葵の顔色がさっと変わった。彼女は迷わず操縦室へ駆け込んだ。

「柚乃!今すぐやめて!」

中の二人が一斉に振り返る。理翔は不快そうに顔を歪めた。「陽葵、今度は何の真似だ?また気が狂ったのか?」

陽葵が言い返す暇もなかった。船体は凄まじい轟音とともに暗礁に乗り上げ、ドォンという爆音が響き渡った。

クルーザーが激しくのたうち、理翔は反射的に柚乃を抱き寄せると、自分の体を盾にして彼女を死守した。飛んでくる雑物や衝撃を、すべてその背中で受け止める。

「柚乃、怪我はないか!」

彼は、柚乃が少しでも傷ついていないかと必死に確認する。

一方、無防備だった陽葵は猛烈な勢いで甲板へと無残に叩きつけられた。まだ癒えていない体にはあまりに過酷な一撃。全身の骨が砕け散るような激痛が彼女を貫いた。

柚乃は理翔の腕の中に縮こまり、大粒の涙を次から次へと溢れさせた。「理翔、暗礁にぶつかったの?クルーザー、沈んじゃうのかな……私、まだ死にたくないよ……」

理翔は彼女の背を優しくさすり、なだめるように囁いた。「怖がるな。俺が様子を見てくる」

そう言うと、彼は状況を確認するために背を向けた。その間、陽葵に一瞥をくれることさえなかった。

船の激しい揺れによって、背中の傷口が引き裂かれるように疼く。陽葵は立ち尽くしたまま、声も出せない。

そこへ、いつの間にか柚乃が歩み寄ってきた。「ねえ、陽葵さん。もし本当にこのクルーザーが沈んだら、彼はどっちを先に助けると思う?」

言い終わるが早いか、クルーザーに再び猛烈な衝撃が走り、船体がゆっくりと傾き始めた。甲高い警報音が鳴り響く。

操縦室から理翔が飛び出してきた。「船底が破れた!早く救命胴衣を!」

理翔が自分を助けるはずがない――そう悟っていた陽葵は、迷わず一番近くにある救命胴衣に手を伸ばした。

だが、指先が触れようとしたその瞬間、理翔が突進してきた。彼は陽葵の手からそれを強引に引ったくると、淀みない手つきで柚乃の身体に着せ始めた。

「理翔、何をしてるの?」

陽葵は怒りで瞳を血走らせ、最後の一着を掴もうと必死に手を伸ばした。

だがその時、柚乃の泣きじゃくる声が響く。「理翔、私、泳げないよ……置いていかないで。離れたくないっ」

その声を聞いた理翔の表情は、一瞬でとろけるような慈愛に染まった。彼は彼女の額にそっと唇を寄せ、なだめるように囁いた。「安心して。君を置いていったりしないよ」

そして、彼は迷うことなく、陽葵が手にしていた最後の救命胴衣をも力任せに奪い取った。

陽葵の瞳には、血の涙が滲まんばかりの絶望が宿る。「理翔!それは私が先に掴んだのよ!」

理翔は彼女を見向きもせず、自分の身に救命胴衣を着けながら言い放った。

「近藤家の令嬢教育には、自己救助の訓練も含まれていたはずだ。お前はここで持ちこたえろ。俺は先に柚乃を連れて戻り、すぐに救助を向かわせる」

言い捨てるなり、二人の姿は海面へと消えていった。

ほぼ同時に、船内で爆発音が響いた。火光が走る刹那、陽葵の体は衝撃波で宙に舞った。

ドォン!激しく床に叩きつけられ、喉の奥からせり上がる熱い塊を堪えきれず、彼女は鮮血をぶちまけた。

浸水はもはや止める術もなく、足元は激しく揺れて立っていることさえままならない。陽葵は意識を失いそうな激痛を気力だけで振り払い、必死に這い上がると、船縁から暗い海へと身を投げた。

刺すような氷の水が全身を包み込み、心臓が凍りつきそうになる。それでも彼女は止まらなかった。生きるためではない。ただ、逃れるために、必死に腕を動かし続けた。

どれほど泳いだだろうか。ついに体力の限界が訪れ、視界が白く霞んでいく。指先一つ動かす力も残っていない。

陽葵はそっと目を閉じた。そのまま、深い海の底へと沈んでいく自分の身を、彼女はただ運命に委ねた。

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