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会合②

作者: 緋村燐
last update 最終更新日: 2025-05-31 19:12:21

「そう言えば、お前家には連絡してんの?」

「え?」

 食事を終えてレストランから出ると、そう聞かれた。

 自然と指を絡め繋がれた手を引かれながら、私は答える。

「あ、今日は朝のうちに叔母さんのところに泊まりに行くって言っておいたから――あっ」

 言い終えた途端余計なことを口にしたと気づいた。

 紅夜の顔がとても楽し気に笑みを作る。

「そうか……“朝のうち”に言ってあったのか」

「あ、その、えっと……」

 動揺しすぎて目が泳ぐ。

 今日は朝家を出る前から、紅夜に会いに来て夜は帰らないと決めていたってことになる。

 実際その通りなんだけれど、それを紅夜に知られるのは死ぬほど恥ずかしい。

「本気で、俺に食われる気満々だったってことか」

「い、言わないで……」

 言葉にされると本気で恥ずかしい。

 もう瀕死だ。

「なんで? 俺は嬉しいけど?」

「ううぅ……」

 そう言われてしまうと心のどこかでそれならいいか、と思ってしまう自分がいる。

 良くない……良くないけれど……。

「恥ずかしがってる美桜可愛すぎ。……でも――」

 と、少しかがんだ紅夜は私の耳元で続きを囁く。

「可愛すぎてここで襲いたくなるから、ほどほどにな?」

「っ!?」

 ここで襲われるのは困る!

 一気に羞恥心より恐怖心が勝った。

「さ、早く行こう。会合ってどこでやるの?」

 シャキッと背筋を伸ばして妖しくなりそうな雰囲気を壊す。

 そんな私の思惑も、分かってるとばかりにクスリと笑った紅夜は「こっちだ」と手を引いて私を連れて行った。

 ともに歩きながら紅夜が「ああ、そうだ」と思い出したように前を見たまま話す。

「美玲のところには俺が連絡しておいたから」

「……え?」

 美玲って、叔母さん?

 やっぱり紅夜と叔母さんは知り合いなの?

 わずかだった疑問が一瞬で膨れ上がる。

 どうしたって気になってしまう。

「ねえ紅夜。紅夜と叔母さんって、どんな関係?」

 聞くと、振り向いた紅夜は静かな瞳で私を探るように見た。

「知り合い、ではあるんだよね?」

 何かを見透かそうとしている眼差しに少し怯みながらも聞くと、フッと彼の口元がゆるんだ。

「ま、そうだな。……でも詳しいことは明日美玲に聞けばいい。一度連れて来いって言われたからな」

 そう言うと、彼はまた前を向いて
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