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会合①

Author: 緋村燐
last update Huling Na-update: 2025-05-31 18:55:14

 紅夜が予約したレストランはいわゆる高級レストランだった。

 ドレスコードが必要になるような……。

 はじめは緊張してしまったけれど、注文する前にコース料理が運ばれてきた。

 紅夜を見習いつつ食事をしているうちに料理の美味しさもあって緊張がほぐれていく。

「紅夜はこういう店によく来るの?」

 会話をする余裕も出てきた。

「いや、あまり来ないな」

「え? じゃあどうして?」

 慣れているし、服装も雰囲気も似合っているから、いつもというわけじゃ無いだろうけどそれなりに来ているんだと思った。

 だからどうして今日ここを予約までして選んだのか聞くと。

「……どうしてだと思う?」

 優しげな微笑みと挑発的な眼差しが返ってくる。

「紅夜はいつもそうやって私に答えさせようとするけれど、分からないことは答えられないよ」

 少しムッとしてそう返す。

 いつもいつも思い通りにいくと思わないで欲しい。

 そんな、ささやかな反発。

 私の反発を紅夜は逆にからかってくるだろうか?

 そう思って身構えたけれど、返ってきたのは思いがけず素直な言葉だった。

「……カッコつけてみたかったんだよ」

「え?」

「何だかんだ初めての“彼女”だし。……ガラにもなく浮かれてるみたいだ」

 少し皮肉が混じった笑み。

 でも、純粋な喜びが前面に出ていた。

 不覚にも胸がキュッと締めつけられる。

「あ、私が初めてなの?」

「ああ。部屋に連れ込んだのも初めてだし、何よりそのリボンを渡したのも初めてだ」

 と、私の髪を彩る赤を指差す。

 紅夜の女である印。

 “彼女”が初めてだとしても、女性経験まで初めてってわけじゃないだろう。

 でも、それでも……。

 あ、マズイ……すごく嬉しい……。

 少しうつ向いて、にやけてくる口元を隠す。

 でも隠し切れていなかったみたい。

「……何? 嬉しい?」

「うっ……嬉しい、よ?」

 図星を指されて一瞬誤魔化そうとしたけれど、誤魔化せるわけないと踏んで素直に答えた。

「じゃあこれは答えて。美桜は? お前は俺が初めての“彼氏”?」

 そう聞く表情は優し気だけれど、瞳の奥はヒンヤリしている。

 さっきヘアクリップを誰に貰ったのかを質問してきたときと同じだった。

 初めてじゃないと言ったらどうなるんだろうと思いながら、私は正直に答える。

「初めてだよ。
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