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・Chapter(41) トモダチ②

last update Last Updated: 2025-07-24 21:33:17

「和田マネージャー。

さっきの話で、今度結婚する人はお互い学生時代から知っている、って言ってたじゃないですか」

「うん」

「という事は、『昔からの知り合い』って事ですよね」

「うん、そう」

「あの、もしかしてなんですけど……」

瑞穂は上目遣いで、うかがうように和田マネージャーに対して切り出した。

「その人って、もしかして私の知っている人ですか?」

「どうだろうね……」

和田マネージャーは視線を上にやり、考え込んだ後、首をひねった。

「今年の夏の始めにバーベキューをやって、そこに高畑さん達が来てくれたでしょ。

そのバーベキューに、その子も呼んだんだ。

その時は俺、その子と付き合う気は無かったんだけど、もし高畑さんがバーベキューの参加者を覚えているのなら『知っている』と言えるかもしれない。

確か、高畑さんがその子と話しているのを俺、見た記憶があるしね」

──やはり。

和田マネージャーの言葉を聞き終えた瑞穂は、抱いた疑惑がほぼ確信へと変わった。

同時に、憤りの炎が瞬時に全身にまで燃え広がったが、瑞穂は歯噛みする事でその憤りを抑え込む。

「高畑さん、大丈夫……?」

表情に現れてしまったのか、ただならぬ瑞穂の雰囲気に和田マネージャーは恐る恐るといった感じで尋ねてくる。

「大丈夫です」

瑞穂はカップの持ち手を力強く握り、込み上げてくる怒りを懸命に押し殺す。

そして、ラッシュアワーのように口内に押し寄せてきた言葉を、瑞穂は唾棄するように和田マネージャーに対してぶつけた。

「あの、和田マネージャー。

もしかしてなんですけど、その結婚する人って、杉浦マイさんですか?」

「えっ?」

瑞穂がその名前を知り得ている事が予想外だったようで、和田マネージャーは表情を強ばらせると「う、うん。そう」と、小声で返答した。

「金曜日の用事をキャンセルして自分と会ってくれた、って和田マネージャーは言ってましたけど、その金曜日の用事が何なのかを、マイさんからは一切聞いてないんですか?」

瑞穂は射抜くように和田マネージャーを見据えると、言葉という名のナイフで、目の前の和田マネージャーをなます斬りにしていく。

「いや、それは……」

瑞穂の剣幕におののいた和田マネージャーは、音を立てて固唾を呑み込んだ後、たどたどしく言葉を続けた。

「俺は、友達とご飯を食べに行く約束を断った、としか、彼女から聞いてないんだ。

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