INICIAR SESIÓN第29話 「いやああああああ!!!」 私は、孝一さんの自宅で 怪奇現象に見舞われて... この闇の中に引きずり込まれた。 闇は、底がなかった。 落ちているのか、 沈んでいるのかすら、分からない。 ただ―― “どこかへ運ばれている”。 そんな感覚だけが、あった。 「……っ……はぁ……っ……」 気づけば、私は“地面”に膝をついていた。 冷たい。 いや――違う。 これは、土じゃない。 黒い。 脈打つように、わずかに揺れている。 「ここ……どこ……?」 空を見上げる。 空は、なかった。 ただ広がる、果てのない闇。 なのに―― 遠くから、“水音”が聞こえてくる。 ぽたり... ぽたり... まるで。 何かが、絶えず“落ち続けている”ような音。 「……こっちよ。」 その声は、 直接、頭の中に響いた。 「……っ!?」 振り向く... 闇の奥に、 かすかな“灯り”が見えた。 揺れている。 まるで、誰かが―― そこに“いる”みたいに 足が、勝手に動いた。 行きたくない。 怖い。 でも―― 行かなければならない。 そんな“強制”が、身体の奥に流れ込んでくる。 一歩。 また一歩。 近づくほどに、 空気が、重くなる。 息が、苦しい。 胸が、押し潰される。 そして―― 辿り着いた。 そこには。 “檻”があった。 黒い柱が絡み合うように組まれた、 まるで生き物みたいに脈打つ牢。 その中に... 「……っ……!」 ――いた。 長い髪。 痩せ細った身体。 それでも。 確かに、分かった。 「……いろは……さん?」 ゆっくりと、 彼女の瞼が開く。 その瞳は―― 驚くほど、澄んでいた。 「……あなた……澪……?」 声は、かすれている。 でも。 確かに、“生きている”。 「どうして……ここに……」 その問いに、 私は答えられなかった。 ただ。 胸の奥に、ひとつの確信があった。 ここは―― “戻ってはいけない場所”だと。 「……逃げて」 いろはが、囁く。 「ここは……“常夜”……」 その言葉と同時に。 空間が、わずかに歪んだ。 「ヒルコが……すべてを、喰らう場所……」 「ヒルコ……?」 その名を口にした瞬間。 ぞわり、と。 空気が、
「……俺は……」 喉が、焼けるように痛い。 ...息ができない。 いや、違う。 これは、息じゃない。 もっと深いところにある、 “心臓の奥”が、潰れている。 逃げたい。 全部を、なかったことにしたい。 違うと言いたい。 あれは仕方なかったと。 必要だったと。 俺は間違っていないと。 だが―― 全部、知っている... 自分が行ってきたことだ。 「……っ……」 歯を、食いしばる。 目を閉じる。 だが、消えない。 あの手も... あの声も... あの顔も... 沈めた瞬間の、あの残酷な静けさも... 全部―― 意識の中に、残っている。 「……終わらせるって……言ったよな……」 かすれた声が、漏れる。 誰に向けたものかも分からない。 だが―― 少女は、冷たく答える... 「....早く決めなよ。」 「でも」 「終わらないよ。ずっと続けるの...」 その言葉が。 静かに、心臓を貫いた。 「……ああ……」 分かっている。 分かっていた。 最初から。 終わってなんか、いない。 終わるはずが、ない。 あれだけの命を。 あれだけの“苦しみ”を。 踏み台にして。 終われるわけがない。 「……だったら……」 ゆっくりと、目を開く。 濁った水の中。 無数の手。 怨嗟の声。 そして―― 少女。 「……終わらせるしか、ないだろ」 その言葉に。 一瞬だけ。 すべてが、静止した。 「……」 少女が、じっとこちらを見る。 ヒルコもまた、笑みを深めた。 「ほう……?」 興味を持ったように、首を傾げる。 「では……どうやって?」 その問いに... 俺は―― 一瞬だけ。 心臓が、拒絶した。 それでも.... 答えた。 「……俺が、終わりにするよ。」 沈黙... 完全な静寂... 水の中だということすら、忘れるほどの。 「……」 少女の瞳が、わずかに揺れる。 「……それって」 「そういうことだよね?」 確認するように。 だが、もう―― 迷いはなかった。 「ああ」 はっきりと、頷く。
「本当の“地獄”へ」 世界が、引き裂かれる。 そして―― 次に見えたのは。 湖の底だった。 ――そこには。 「――っ……!」 足首に、何かが絡みつく。 反射的に振り払おうとする。 だが―― 動かない。 「……な……」 視線を落とした。 そこにあったのは―― 手。 白く、膨れ上がった指。 爪は剥がれ、皮膚は爛れている。 明らかに、“生きていない”それが。 俺の足を、掴んでいた。 「……ッ!!」 引き剥がそうとする。 だが―― もう一本。 さらに、もう一本。 次々と... 無数の手が、伸びてくる。 「やめろ……!」 掴まれる。 引かれる。 沈められる。 「――逃がさないよ。」 声が、響く。 一つじゃない。 重なる。 濁った水の中で、何重にも。 「返せ...」 「痛い...」 「寒い...」 「苦しい...」 「どうして...」 耳を塞ごうとする。 だが、意味はなく... 声は―― 頭の中に、直接流れ込んでくる。 「違う……!違う......!」 叫ぶ。 「俺は……!」 言葉が、続かない。 何を言えばいいのか、分からない... 言い訳が、浮かばない... 「――何が違うの?...」 その声に 身体が、止まる。 ゆっくりと、前を見る。 そこに―― 一人の少女が、立っていた。 水の中なのに。 沈まず... ただ、そこに“在る”。 「……おまえ……」 喉が、震える。 忘れるはずがない。 あの夜。 あの場所で。 自分の命令で―― 沈められた少女。 「……どうして……?」 少女が、問いかける。 静かな声。 だが、その奥にあるものは。 底のない闇。 「どうして、私だったの?」 言葉が、刺さる。 逃げられない。 「……違う……」 かすれた声が、漏れる。 「違わないよ」 即座に、否定される。 「あなたが、決めたんだ」 一歩、近づいてくる。 水は揺れない。 ただ、距離だけが縮まる。 「村のため、って言ったよね」 「神様のため、って」 「みんなを守るため、って」 「……違うの?」 答えられない。 口を開いても、音にならない。 「……痛かったよ .....苦しかった」 少女が、ぽつりと呟く。 その瞬間。 視界
「あなたが、何者なのかを」 ――“思い出させてあげますよ” その声が、頭の奥で反響した瞬間。 視界が、砕けた。 「――ッ!!」 地面が、消える。 身体の感覚が、引き剥がされる。 落ちる。 どこまでも、どこまでも。 暗闇の底へ―― 気がつけば。 そこは、夜だった。 「……ここは……」 息が、白く滲む。 見覚えがある。 忘れるはずがない。 久遠村。 静まり返った集落。 だが―― 違う。 「……また、だ……」 遠くから、音が聞こえる。 太鼓。 ざわめき。 人の声。 そして―― 泣き声。 「いやだ……いやだぁぁ……!」 胸の奥が、強く脈打つ。 知っている。 この声を。 この夜を。 「やめろ……」 思わず、呟く。 だが。 身体は動かない。 まるで―― “観ているだけ”のように。 足が、勝手に進む。 向かう先は――湖。 月明かりに照らされた水面は、 不気味なほどに静かで。 まるで、すべてを受け入れる口のようだった。 湖畔には、人が集まっている。 松明の火が、揺れている。 その中心に―― 縛られた、少女。 「……っ……」 喉が詰まる。 覚えている。 これは―― 「常夜流し……」 誰かが、そう言った。 違う。 誰かじゃない。 ――俺だ。 「始めよ」 低い声が、響く。 その声に、全員が頭を下げる。 視線が、ゆっくりと動く。 そして―― 見た。 そこに立っていたのは。 「……俺……?」 間違えるはずがない。 自分自身。 だが―― 違う。 目が。 感情が。 何も、宿っていない。 「供物を、湖へ」 淡々とした声。 命を扱う声ではない。 ただの“作業”のように。 「やめろ……!」 叫ぶ。 だが、届かない。 少女が、泣き叫ぶ。 「お母さん……!お母さん……!」 人々は、目を逸らす。 誰も、止めない。 止められない。 それが―― “決まり”だから。 「やめろ……やめろ……!」 足掻く。 だが、身体は動かない。 その間にも―― 少女は、湖へと引きずられていく。 水際。 必死に抵抗する手。 爪が、地面を掻く。 血が滲む。 それでも―― 無駄だ。 「――沈めろ」 その一言で。 全てが、終わる。 水音。
第25話「そして...再会を」 「これで、邪魔者は消えたわね」 その声は、どこか冷たかった。 ――その時だった。 畳の下から。 かすかな音。 そして。 「……おとうさん……」 小さな声。 それは、確かに――呼んでいた。 その瞬間。 頭の奥に、何かが流れ込んできた。 記憶。 断片だったはずのものが、 無理やり繋ぎ合わされるように。 湖。 夜。 沈む身体。 伸ばした手。 届かなかった想い。 「――っ……!」 息が詰まる。 視界が、揺れる。 そして。 “思い出す”。 「……いろは……」 ゆっくりと、顔を上げる。 目の前に立っていたのは―― あの時と変わらぬ姿のいろは。 「いろは……ようやく、会えたな」 その言葉に。 いろはの瞳が、大きく揺れる。 次の瞬間。 花が咲いたように、笑った。 「孝之助さん……!」 駆け寄る。 そのまま、強く抱きしめてくる。 「戻ってきたのね……!」 震える声。 「会いたかった……ずっと……ずっと……」 腕に、力がこもる。 離すまいとするように。 「……ああ」 俺は、ゆっくりと腕を回す。 その身体は、確かに温かい。 あの頃と、同じ。 「……久しぶりだな」 耳元で、囁く。 いろはが、小さく息を呑む。 そのまま―― 「――ヒルコ」 一瞬で。 空気が、変わった。 「……え?」 いろはが、顔を上げる。 その表情は―― “何も知らない顔”。 「……何を言っているの?」 首を傾げる。 いつも通りの、柔らかな声で。 「いろはだよ。私は」 俺は、静かにその顔を見つめる。 違和感は、消えない。 あの声。 あの感覚。 そして―― あの“呼び声”。 「……俺との子は、どうした」 空気が、凍る。 いろはの瞳が、わずかに揺れた。 「……子……?」 「何のこと……?」 困ったように笑う。 だが。 その奥が、わずかに濁る。 「とぼけるな」 低く、吐き捨てる。 「俺がいろはを沈めた時――」 一歩、近づく。 「お前の腹には、子がいたはずだ」 いろはの呼吸が、止まる。 「……っ……」 「俺の子を、どうした」 沈黙。 逃げ場は、ない。 「――返せ」 声が、落ちる。 「俺の子を返せよ……ヒルコ」 その名を、もう一
...朝だった。 あれほど長く、終わらないように思えた夜は、 何事もなかったかのように明けていた。 空は、どこまでも澄んでいる。 鳥の声が響き、風が草を揺らす。 ――変わらない世界。 「……」 孝之助は、立っていた。 あの場所に 何もかもが終わった場所に。 だが... そこにはもう、何も残っていない。 黒も... 闇も... 御影も... 澪も... ツクヨも... そして―― いろはも... 「……はは……」 乾いた笑いが、漏れる。 夢だったのではないかと、思った。 あれほどの出来事が、 まるで最初から存在しなかったかのように。 「……そんなわけ、あるかよ……」 ぽつりと、呟く。 足を動かす。 ふらつくように、歩き出す。 気づけば、湖へと向かっていた。 理由など、ない。 ただ―― そこに、いる気がした。 水面は、静かだった。 あの日と同じように。 いや... それ以上に、何もない。 「……いろは」 名を呼ぶ。 返事は、ない。 分かっていたことだ。 それでも。 呼ばずにはいられなかった。 「……いろは……」 もう一度。 風が、水面を撫でる。 それだけだった。 膝が、崩れる。 その場に、座り込む。 「……なんでだよ……」 声が、震える。 怒りでも、悲しみでもない。 ただの、空白。 胸の奥に、ぽっかりと穴が空いたような。 何も、感じない。 何も、掴めない。 「……っ……」 拳を握る。 強く、強く。 爪が食い込むほどに。 だが―― 痛みすら、遠い。 「……くそ……」 吐き出す。 それでも。 何も変わらない。 世界は、動いている。 風は吹く。 鳥は鳴く。 人は、生きる。 まるで―― 何も失われていないかのように。 「……ふざけるなよ……」 小さく、呟く。 その時だった。 ――ちゃぷん 水音。 ほんの、小さな。 反射的に、顔を上げる。 水面が、揺れていた。 それだけ。 それだけのはずなのに。 「……」 息を、止める。 目を、離せない。 何か